がん細胞が生成する尿中蛋白質断片の検出を応用した肺腺癌早期診断システム樹立に関する研究

文献情報

文献番号
201438098A
報告書区分
総括
研究課題名
がん細胞が生成する尿中蛋白質断片の検出を応用した肺腺癌早期診断システム樹立に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
中里 雅光(宮崎大学 医学部 内科学講座 神経呼吸内分泌代謝学分野)
研究分担者(所属機関)
  • 高尾 敏文(大阪大学 蛋白質研究所 機能・発現プロテオミクス)
  • 清水 英治(鳥取大学 医学部 統合内科医学講座 分子制御内科学分野)
  • 西岡 安彦(徳島大学 大学院 ヘルスバイオサイエンス研究部呼吸器・膠原病内科学分野)
  • 青景 圭樹(国立がん研究センター東病院 呼吸器外科)
  • 柳 重久(国立病院機構 宮崎東病院  呼吸器内科)
  • 有村 保次(宮崎大学 医学部 内科学講 座神経呼吸内分泌代謝学分野)
  • 坪内 拡伸(宮崎大学 医学部 内科学講 座神経呼吸内分泌代謝学分野)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 革新的がん医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
30,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、研究代表者らが発見した2種類の新規尿中マーカーについて、肺腺癌早期診断における有効性を前向きに検証し、検診への導入を目指した高精度の非侵襲的肺腺癌早期診断技術を確立することである。肺癌は悪性腫瘍死亡数の第一位である。鋭敏かつ非侵襲的な早期診断マーカーがないことが根治可能な肺癌の発見を遅らせている。癌細胞から特異的に産生されるプロテアーゼは、受容体や接着分子を切断し癌進展を統制する。通常のプロテオミクス技術では基質の切断部位を特定できない。研究代表者らは、独自のN末端ペプチド選択的単離法(特願2008-028091)と安定同位体標識法を駆使し、尿中に排出される蛋白質断片を高感度で網羅的に構造解析できる手法を確立している。上述の手法を用い、従来の肺腺癌マーカーと比較して高精度である2種類の新規尿中マーカーを発見している。これらのマーカーは感度89%、特異度93%と感度86%、特異度88%であり、血清CEA(感度47%、特異度89%)と比べ飛躍的に高精度であった。本研究は生体内酵素的切断反応検出システムという独自の手法で癌生物学に迫るもので、科学・技術的な波及効果が高い。尿は最も簡便に得られる生体試料で侵襲がない。本研究の遂行により、肺癌に対し簡便で幅広く実施できる早期診断法の開発が期待できる。
研究方法
研究計画(1) 新規尿中マーカーの肺腺癌における診断精度の検証:肺腺癌症例、非悪性呼吸器疾患症例、他癌腫症例、重喫煙者、健常人の尿検体を収集する。肺腺癌症例と各群の新規尿中マーカー値と血清腫瘍マーカー値を測定する。2種の尿中マーカーの感度、特異度、陽性・陰性尤度比を検証する。研究計画(2) 肺腺癌罹患ハイリスク群を対象とした新規尿中マーカーの早期診断ツールとしての有効性に関する縦断研究:重喫煙者と特発性肺線維症症例を対象とし、参加時と4ヶ月毎に採尿、血清採取を行い、12ヶ月毎に胸部CTを施行する。肺腺癌診断前および診断時での尿中マーカーと血清腫瘍マーカーの陽性率を比較する。観察期間は2年とする。研究計画(3) 小型スリガラス病変に対するサロゲートマーカーとしての新規尿中バイオマーカーの有効性に関する縦断研究:胸部画像上のスリガラス病変症例を対象とし参加時と3ヶ月毎に採尿、血清採取を、参加時と3、6、12、24ヶ月後に胸部CTを施行する。肺腺癌診断前および診断時での尿中マーカーと血清腫瘍マーカーの陽性率を比較する。観察期間は2年とする。研究計画(4) 患者予後とバイオマーカーとしての有効性の検証:肺腺癌症例を対象とし診断時に新規尿中マーカーを測定する。観察期間を2年とし予後調査を行う。中央値を基準に尿中マーカー高値群と低値群に群別化し、生存曲線と2年生存率を比較する。肺腺癌手術例の新規尿中マーカーと術後再発率との相関を検証する。研究計画(5)予後・治療効果予測マーカーの発現との連関の検証:肺腺癌手術対象症例の術前術後の新規尿中マーカーを測定する。手術検体を用い、既知の予後予測マーカーと治療効果予測マーカーとの関連を検討する。並行して、新規尿中マーカーに対する迅速診断法の開発のため、抗体を作成し特異度と感度を検証する。
結果と考察
平成26年9月6日に研究班会議を開催し、研究計画全てのプロトコルを確定した。研究代表施設と4つの研究分担施設で全ての研究計画の審査が終了し、倫理審査委員会の承認を得た。残り1つの研究分担施設は2つの研究計画について倫理委員会の承認を得、残り1つの研究計画は審査中である。平成26年10月28日より患者登録を開始した。184名の文書で同意を得た研究対象者に本研究を実施した。184名の臨床情報と血清と尿検体収集と、7名のI期肺腺癌症例の肺癌組織試料収集を終了した。全ての臨床研究で有害事象はなかった。蛋白質断片に対して作成した抗体の内、6種について特異的に反応することを確認した。尿蛋白分析プロトコルを改良しスループットを上げた。分析に要する時間をこれまでの7検体/12日・1人から14検体/5日・2人と大幅にスピードアップした。本年度は28検体について分析を終了した。
結論
本研究計画の全ての研究プロトコルを確定し、倫理委員会での承認を得て、184名の臨床情報と血清と尿検体収集と、7名のI期肺腺癌症例の肺癌組織試料収集を終了した。26年度の目標症例数を満たす進行度で臨床研究を進捗している。飛躍的に高精度な肺癌早期診断技術の確立は、根治可能な患者数の増加と肺癌死亡数の大幅な減少に貢献することが期待でき、医療成果としての社会貢献は極めて大きい。安全で簡単に採取できる尿検体による検診は、受診率の大幅な向上が期待できる。新規尿中マーカー解析の事業化について企業への導出を進め、新規マーカーの特許について知財戦略支援関連部局と協議している。

公開日・更新日

公開日
2015-09-15
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-09-15
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201438098C

収支報告書

文献番号
201438098Z