難治性乳癌のER非依存性病態の解明に基づく新規治療法の開発基盤研究

文献情報

文献番号
201438081A
報告書区分
総括
研究課題名
難治性乳癌のER非依存性病態の解明に基づく新規治療法の開発基盤研究
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
三木 義男(東京医科歯科大学 難治疾患研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 片桐 豊雅(徳島大学 疾患プロテオゲノム研究センター)
  • 太田 智彦(聖マリアンナ医科大学 大学院医学研究科)
  • 中田慎一郎(大阪大学 大学院 医学系研究科)
  • 林 慎一(東北大学 大学院 医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 革新的がん医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 エストロゲン非依存性の難治性乳がんである「Triple Negative(TN)乳がん」と「ホルモン療法耐性乳がん」を対象に、エストロゲン非依存性増殖を解明し、それに基づく新規治療法開発を目指す。具体的には、(1) 分子プロファイル情報を応用した新規分子標的の同定、(2)DNA損傷修復機能に基づく新規合成致死療法の開発、(3) ホルモン療法耐性の分子機序解明とTN乳がんへの応用を柱に、難治病態の解明に基づく新規治療法の基盤開発に取り組む。。
研究方法
(1) 分子プロファイル情報を応用した新規分子標的の同定
 「Triple Negative(TN)乳癌」を対象に、分子プロファイル情報を応用した新規治療分子標的の同定を通じて、ER 非依存性が引き起こす難治病態の解明とそれに基づく新規治療法の基盤開発に取り組む。
(2) DNA損傷修復機能に基づく新規合成致死療法の開発
 ヒストン修復阻害剤によるDNA損傷応答阻害に関する基礎的解析を目的に、ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤およびヒストン脱アセチル化阻害剤がヒストンH3のメチル化(H3K9me2)に与える影響、それによる、BRCA1/BARD1のDSB局所への誘導等に与える影響を解析する。
さらに、相同組換え抑制を利用した新規治療法開発のための研究を目的に、相同組換え修復の制御に関わることを示してきたユビキチン関連分子が相同組換え修復を制御する分子機構を詳細に解析する。
(3) ホルモン療法耐性の分子機序解明とTN乳がんへの応用
 これまでに樹立したホルモン療法耐性細胞の細胞内シグナル伝達系路の詳細を解析し、耐性と生存に決定的な因子を同定する。6種の耐性細胞について、PI3K-Akt経路や、MAPK系路、IGFR-JNK系路など主要な系路に絞った各種分子生物学的解析を行い、上記目的を達成する。
(4) プロジェクトの総合推進
結果と考察
(1) 分子プロファイル情報を応用した新規分子標的の同定
乳癌関連遺伝子群BCMG1、BCMG2は、 TN乳がん化に加えてluminal タイプの乳がんにおいても関与する可能性あることがわかった。また、癌特異的糖転移酵素B3GALNT2は、その糖鎖修飾によって分泌機能が制御されており、この糖鎖修飾の制御が治療薬の開発に繋がる可能性が示唆された。またプロテアソーム関連因子PAG1は、TN乳癌の癌化、進展に関与し、特に核に存在する場合には、より増殖促進に寄与することがわかり、この核PAG1を標的とすることで、効率のよい、副作用の少ない治療薬開発につながるものことが示唆された。
(2) DNA損傷修復機能に基づく新規合成致死療法の開発
ヒストン脱メチル化酵素阻害剤であるMS-275とFK228によって、相同組換え修復に必須なBRCA1と非相同末端再結合に必須な53BP1のDNA損傷局所への集積が、いずれも阻害されることが判明した。また、BRCA1非依存的な相同組換えを制御するRING型E3ユビキチンリガーゼRINGE3-65に注目し、RINGE3-65が難治性乳がん治療における分子標的となる可能性について検討するため、BRCA1・53BP1ダブルノックアウト細胞およびBRCA1・53BP1・RINGE3-65トリプルノックアウト細胞を樹立した。
(3) ホルモン療法耐性の分子機序解明とTN乳がんへの応用
ER発現が陰転化した細胞株に注目した結果、TN乳がんで報告されているsubtype(LAR-type)と同様の特徴を有するものも見出された。さらにこれらER陰性耐性株に対して、最も有効な治療戦略について検討した(結果。耐性機序ごとにそれぞれの薬剤に対する感受性は異なり、耐性機序の識別が重要であることが改めて示された。
(4) プロジェクトの総合推進
結論
 エクソーム・遺伝子発現解析により、得られた結果は、TN乳癌の癌化、進展の分子機構の解明およびこれら癌特異的分子を標的とすることで副作用の少ない治療薬開発につながるものである。また、HDAC阻害剤はH3K9acとH4acを介してそれぞれBRCA1/BARD1と53BP1/RIF1の集積を阻害し、相同組換え修復と非相同末端再結合を阻害することを明らかにした。さらに、RINGE3-65がBRCA1陰性難治性乳がん治療における分子標的となるかを検証するために必要な細胞株の樹立に成功した。6種類(Type 1~Type 6)の機序の異なるホルモン療法耐性(アロマターゼ阻害剤耐性)細胞株を樹立し、ER発現が陰転化したものとTN乳がんとの関連性について検討し、TN乳がんのsubtypeと共通の性質を示すものを見出した。

公開日・更新日

公開日
2015-09-14
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-05-13
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201438081C

成果

専門的・学術的観点からの成果
日本人TN乳がんに関する分子として、BCMG1、BCMG2、B3GALNT2、PAG1を同定した。また、HDAC阻害剤がBRCA1と53BP1の集積を阻害し相同組換え修復と非相同末端再結合を阻害する機序、及び、BRCA1陰性難治性乳がん細胞におけるRINGE3-65の抑制が相同組換え修復を抑制する可能性を明らかにした。また、ER発現が陰転化した細胞株に着目し、LAR-typeと呼ばれるTN乳癌のsubtypeと共通の性質が観察された。これらに対し分子標的治療薬の効果を検討、違いを明らかにした。
臨床的観点からの成果
B3GALNT2の糖鎖修飾の制御が治療薬の開発に繋がる可能性、核PAG1を標的とした新規治療薬開発が示唆された。また、PARP阻害剤は相同組換え修復不全と合成致死性をきたすことから、放射線療法など、直接二本鎖切断を生じさせる治療法との併用に効果が期待される。RINGE3-65の機能抑制の結果は、BRCA1陰性難治性乳がんを抗腫瘍薬に感受性に変換できる可能性を示すものである。さらに、細胞株に対する分子標的治療薬の効果の知見はTN乳がんの新規治療を考える上での有用な情報である。
ガイドライン等の開発
該当するものなし
その他行政的観点からの成果
これらの成果は、画期的な治療法開発に繋がることが期待され、厚生労働行政において喫緊の課題である「がん難民」の救済に大きく貢献するとともに無駄な医療の回避、医療費の軽減にも繋がり、国民の保健医療に関する行政施策にも活用され得るものである。
その他のインパクト
該当するものなし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
23件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
61件
学会発表(国際学会等)
9件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
アンドロゲンレセプター依存性乳癌細胞の作成方法、当該細胞株を用いたスクリーニング方法、並びに乳癌患者におけるアンドロゲンレセプター依存性獲得の判定方法、キット及びマーカー
詳細情報
分類:
特許番号: 2013-108774
発明者名: 林慎一、藤井里圭
権利者名: 東北大学
出願年月日: 20130523
国内外の別: 国際出願中

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Fujiki N, Konno H, Kaneko Y, et al.
Estrogen response element-GFP (ERE-GFP) introduced MCF-7 cells demonstrated the coexistence of multiple estrogen-deprivation resistant mechanisms.
J. Steriod Biochem. Mol. Biol. , 139 , 61-72  (2014)
10.1016/j.jsbmb.2013.08.012
原著論文2
Hanamura T, Niwa T, Gohno T, et al.
Possible role of the aromatase- independent steroid metabolism pathways in hormone responsive primary breast cancers.
Breast Cancer Res Treat. , 143 , 69-80  (2014)
10.1007/s10549-013-2788-3.
原著論文3
Fujii R, Hanamura T, Suzuki T, et al.
Increased androgen receptor activity and cell proliferation in aromatase inhibitor-resistant breast carcinoma.
J Steroid Biochem Mol Biol. , 144 , 513-522  (2014)
10.1016/j.jsbmb.2014.08.019.
原著論文4
Ito T, Sato N, Yamaguchi Y, et al.
Diffrences in stemness properties associated with the heterogeneity of luminal-type breast cancer.
Clin Breast Cancer. , e93-103  (2014)
10.1016/j.clbc.2014.11.002.

公開日・更新日

公開日
2015-09-14
更新日
2017-06-23

収支報告書

文献番号
201438081Z