化学物質誘発性胆管がんのリスク評価基盤:胆管がん発症機構の解明と関連バイオマーカーの探索

文献情報

文献番号
201438077A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質誘発性胆管がんのリスク評価基盤:胆管がん発症機構の解明と関連バイオマーカーの探索
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
高田 龍平(東京大学 医学部附属病院 薬剤部)
研究分担者(所属機関)
  • 豊田 優(東京大学 医学部附属病院 薬剤部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 革新的がん医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 2012年、ジクロロプロパンやジクロロメタンを主成分とする有機洗浄剤を大量に扱う印刷工場の従業員が、高頻度で胆管がんを発症していることが報告された。疫学的観点から、ハロゲン化炭化水素への曝露が胆管がん発症の原因であると強く疑われているが、裏付けとなる詳細な科学的証拠は見出されていない。
 そこで我々は、胆管がんの発症・進展に関わる分子基盤の解明ならびに化学物質誘発性胆管がんのリスク評価基盤の構築を本研究の目的とし、1, 2-ジクロロプロパンをモデル化合物とした詳細な検討を進めることにした。先行研究として、1, 2-ジクロロプロパンを投与した実験動物の胆汁を用いた網羅的化合物分析、および、非投与群を対照とするメタボローム差異解析を行った結果、胆汁排泄される発がん性候補物質としてグルタチオン抱合ジクロロプロパンを見出すことに成功した。そこで、本研究計画の初年度にあたる平成26年度においては、この成果をさらに発展させることを狙い、発がん機構に重要であると考えられる発がん性候補物質の体内動態規定因子の同定、ヒトへの外挿を目的とした検討を行うとともに、将来的なバイオマーカー候補物質の同定を目的とした評価系の構築と実験動物における血中変動成分の探索を行った。
研究方法
 我々の先行研究によって得られた結果が、異なる種・系統でも再現されることを確認するために、FVB/NJclマウスおよびSDラットに1, 2-ジクロロプロパンを投与し、胆汁を回収後、非投与群を陰性対象とするメタボローム差異解析を行った。次いで、各種1, 2-ジクロロプロパン由来代謝物の胆汁排泄に関わる胆管側膜輸送体を見出すために、Abcg2/Bcrp KOマウスならびにEHBR(Abcc2/Mrp2機能欠損ラット)を用いた検討を行った。さらに、一連の研究によって見出された1, 2-ジクロロプロパン代謝物がヒトにおいても胆汁排泄されうることを検証するために、PXBマウス(ヒト化肝臓マウス)を用いた試験を行った。EHBRを用いた実験の結果、ABCC2依存的に胆汁排泄されることが示唆されたグルタチオン抱合ジクロロプロパン代謝物に着目し、それらがABCC2によって輸送されることをin vitro輸送実験系を用いて検討した。また、バイオマーカー候補となる物質を探索する目的で、血中成分を用いたメタボローム差異解析を行った。
結果と考察
 1, 2-ジクロロプロパンを投与した実験動物の胆汁を対象とするメタボローム差異解析の結果、Abcg2 KOマウスと野生型マウスとの間には、各ジクロロプロパン代謝物の胆汁排泄量に関する有意な違いが見出されなかった。一方、EHBRにおいては、野生型ラットと比較して、特にグルタチオン骨格を有すると推定された化合物の顕著な低下が認められた。さらに詳細な検討を行うために、1, 2-ジクロロプロパン投与EHBRと野生型ラットの肝臓中代謝物レベルを比較した。その結果、いくつかの代謝物について、EHBRの肝臓における有意な蓄積が認められた。ABCC2が種々のグルタチオン抱合体を輸送基質とすることと合わせて考えると、各代謝物がABCC2依存的に胆汁排泄されることが強く示唆された。このことを裏付けるために、我々は、グルタチオン抱合ジクロロプロパンがABCC2によって直接輸送されることも確認した。また、PXBマウスを用いた検討においても、各グルタチオン抱合ジクロロプロパン代謝物の胆汁排泄を確認することができた。このことは、我々が見出した現象がヒトにも該当しうることを示している。さらに、各ジクロロプロパン代謝物のうち、血中に移行するものがあることも見出すことができた。
結論
 本研究では、国民的関心を集めた職業性胆管がん問題の原因物質として強く疑われたハロゲン化炭化水素(1, 2-ジクロロプロパン)をモデル化合物に据え、胆管がん発症機構の解明と関連バイオマーカーの探索を目指した検討を行った。「肝臓での代謝、胆管側膜輸送体を介した胆汁排泄が当該発がん機構において重要である」との仮説の下、各種分泌液の網羅的成分分析ならびに遺伝子改変動物やヒト化肝臓マウスを用いた実験を行った。
 その結果、胆汁排泄される発がん性候補物質の主要な動態規定因子として、胆管側膜輸送体であるABCC2を見出すことに成功した。また、発がん性候補物質として着目してきたグルタチオン抱合体が、1, 2-ジクロロプロパンに曝露したヒトにおいても胆汁排泄される可能性を見出すことができた。これらの知見を基盤として、数理的薬物動態解析を応用することで、ヒトでの発がん性候補物質の胆汁排泄量を予測し、発がんリスクへの外挿が可能になるものと期待している。加えて、被験物質投与時に変動する血中成分(バイオマーカー候補物質)を複数同定することにも成功した。

公開日・更新日

公開日
2015-09-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201438077C

収支報告書

文献番号
201438077Z