新規バイオマーカーPRDM14による難治性乳がん・すい臓がんの診断法の開発

文献情報

文献番号
201438074A
報告書区分
総括
研究課題名
新規バイオマーカーPRDM14による難治性乳がん・すい臓がんの診断法の開発
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
今井 浩三(東京大学医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 宮城 洋平(神奈川県立がんセンター)
  • 前佛 均(国立がん研究センター・研究所)
  • 谷口 博昭(東京大学医科学研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【委託費】 革新的がん医療実用化研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
31,600,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
標的分子PRDM14は、がん部特異的に発現亢進するため診断バイオマーカーとして最適である。我々は本分子の乳がんに関する診断に関する基本特許を成立、さらに、乳がん、膵臓がんの臨床検体を使用して、本分子の過剰発現と病理組織学的因子との関連性に関する特許を申請中である。以上から、有効な治療法が未開発、早期発見が困難なため難治性となっているトリプルネガティブ乳がん (TNBC) や膵がんで発現亢進する同分子は、難治性がんを対象とした診断バイオマーカーとして最適な候補と言える。これら臨床的課題の克服を目的に、本分子をTNBCや膵臓がんを診断するバイオマーカーとして開発を行う。
研究方法
①組織・血清の入手 臨床情報を伴う乳がん、膵がん組織、血清を入手(含、倫理審査)。②組織診断 評価済の抗体を使用して免疫組織学的評価を行う。特に、乳がん組織に関してはトリプルマーカーを同様に免疫組織学的に評価し、病理組織学的因子との相関性を評価。③分子生物学的評価 乳がん、膵がんの細胞株を使用して、cDNA発現アレイ、ChIP-seqを行い、分泌タンパク質に該当するものを絞り込む。また、PRDM14遺伝子導入、ノックダウン株において、in vitro / in vivoで検討。④臨床検体における発現アレイによるマーカー候補の絞り込みとELISA法による検証 臨床検体を使用したcDNA発現アレイのデータにより、同遺伝子発現と相関する分泌タンパク遺伝子をスクリーニングする。その候補遺伝子に関して、対応する患者血清を用いて、ELISA法により検証。⑤統合的オミックス解析 患者血清に関してサスペンションアレイ(サイトカイン、ケモカイン、マトリクスプロテアーゼ、がんパネル)にサンプルを供し、同遺伝子産物の発現と相関性のある血清中蛋白質を絞り込む。⑥末梢血循環腫瘍細胞の解析 同遺伝子が腫瘍の転移にも強く関与することから、CTC分取目的に開発を進めている特異性の高いPRDM14抗体を使用し、流血中の腫瘍細胞 (CTC) の分取を行う計画である。
上記研究に関して、倫理面へ配慮し、各種法令を順守するとともに、各所属機関委員会の審議を実施している。
結果と考察
我々は、PRDM14が乳癌において癌部特異的に発現亢進しており、腫瘍の悪性形質に関連することを証明し、乳がんの診断に関する特許(特許2012 - 253108号)が成立、さらに、乳がん、膵臓がんの臨床検体を使用してPRDM14の過剰発現と悪性腫瘍の関連性を解析し特許申請している(特許2014 - 141278号)。
①発現解析により早期ステージからの発現亢進、TNBCを含む乳がんでの発現亢進を認めた。②膵がん臨床検体において同分子の発現亢進を認めた。③同分子は抗がん剤耐性・転移に関与する。④病理組織学的因子との関連では、トリプルマーカーと強い相関は認められなかった。⑤病理組織とそれに対応する患者血清を倫理審査を経て必要数確保。さらに、マイクロアレイによる発現相関遺伝子の検証を継続。⑥細胞株を使用し、発現マイクロアレイ、ChIP-seqによるスクリーニングを行った。PRDM14と発現相関をもつ分泌タンパク遺伝子を候補遺伝子として同定。⑦マイクロアレイデータにおいて、同遺伝子の発現量と相関係数0.95以上、回帰直線の傾きが0.5~2.0、データベース上分泌タンパクである候補をELISA法にて検証。⑧サスペンションアレイにより、PRDM14の発現と高い相関性を有する血清診断バイオマーカー候補のスクリーニングを行った。
TNBCは若年者に多く、悪性度が高いとされているが、分子標的治療法が確立していない。化学療法のみが適用であるが、抗がん剤高感受性を判別するバイオマーカーは現存せず、これまでにない独創的な診断法が切望されている。膵がんは罹患数・死亡数が非常に多いにもかかわらず、早期膵癌の検出に有用なマーカーは皆無である。また、ジェムザール、TS-1の効果に乏しい患者群の治療継続が困難である。申請者らは、TNBC、膵がんやそれらの抗癌剤耐性に関与する新規標的分子PRDM14の発見に恵まれた。その知財を基本に、同分子を診断バイオマーカーとして開発する価値が高いと判断する有望なデータを得た。これらの候補は同時に、抗がん剤耐性やがん転移のマーカーとなる可能性が高い。本シーズは抗癌剤感受性が低いTNBC、並びに、膵臓がんの患者の診断に有効性が高いことが想定され、国民のニーズを十分に満たす。
橋渡し研究、企業へのライセンスアウトを出口とする非臨床試験へと進むことにより、その成果は、患者QOLの向上、死亡数の減少へ至る。
結論
PRDM14の発現と高い相関性を有する分泌タンパク遺伝子候補が得られており、さらに実臨床を視野に入れて開発研究を展開する。

公開日・更新日

公開日
2015-09-14
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-09-14
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201438074C

成果

専門的・学術的観点からの成果
PRDM14分子の病理診断バイオマーカーとしての評価を行った。結果、乳がんに関しては、早期ステージからの発現亢進を確認し、膵臓がんに関して同分子の発現亢進を確認した。さらに、同分子は核内転写因子であり組織診が必要となるため、血清診断バイオマーカーの同定が不可欠である。そこで、網羅的遺伝子発現マイクロアレイ解析を実施、本分子の発現と強い相関性を有する分泌タンパク質候補を絞りこみつつある。同時に患者血清を使用してマルチプレックスサスペンションアレイにより診断バイオマーカーの候補分子を同定した。
臨床的観点からの成果
本分子が乳がんやすい臓がんにおいて比較的早期より発現亢進する特性を有し、さらに抗がん剤感受性に関与する特性を有することが解明された。従って、本分子を診断バイオマーカーとして確立できれば、標準治療に使用されている薬剤の感受性を未然に判定でき、必要な治療を過不足なく患者へ提供できる。また、すい臓がんにおいては、早期検出可能なバイオマーカーの欠如が難治性の一因でありその解決に繋がり得る。これら臨床的問題点の克服に繋がる診断バイオマーカーとして、流血中腫瘍細胞(CTC)が検出された。
ガイドライン等の開発
該当するものは無し。
その他行政的観点からの成果
該当するものは無し。
その他のインパクト
本件は2014年12月30日の日本経済新聞朝刊に「乳がん細胞へ カプセルで薬」として取り上げられた。また、2014年10月16日の文部科学省・次世代がんシーズ戦略的育成プログラム公開シンポジウムにおいて、「乳がんを対象としたヒストンメチル基転移酵素を標的とする新規核酸製剤の開発」として講演を行っている。さらに、同年に「がん幹細胞分子マーカー」(出願番号特願2014-141278)を特許申請している。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
36件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
3件
学会発表(国内学会)
28件
学会発表(国際学会等)
4件
その他成果(特許の出願)
3件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
転写因子PRDM14のがん幹細胞診断マーカーへの応用とがん幹細胞を標的とした治療法の開発
詳細情報
分類:
特許番号: 2014-141278
発明者名: 谷口博昭、今井浩三、片岡一則、西山伸宏、宮田完二郎、前田芳周
権利者名: 谷口博昭、今井浩三、片岡一則、西山伸宏、宮田完二郎、前田芳周
出願年月日: 20140709
国内外の別: 国内
特許の名称
膜型ムチン様タンパク質の認識とその医療応用
詳細情報
分類:
特許番号: 2016-25689
発明者名: 辻祥太郎、今井浩三、ほか
権利者名: 辻祥太郎、今井浩三、ほか
出願年月日: 20160215
国内外の別: 国内
特許の名称
PRDM14発現を確認する方法
詳細情報
分類:
特許番号: 2017-185200
発明者名: 今井浩三、前佛均、谷口博昭、斎藤杏里、宮城洋平
権利者名: 東京大学
出願年月日: 20170926
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nasuno M, Arimura Y, Imai K, et al.
Mesenchymal stem cells cancel azoxymethane-induced tumor initiation.
Stem Cells , 32 (4) , 913-925  (2014)
10.1002/stem.1594.
原著論文2
Adachi Y, Ohashi H, Imai K, et al.
The effect of IGF-I receptor blockade for human esophageal squamous cell carcinoma and adenocarcinoma.
Tumor Biol , 35 (2) , 973-985  (2014)
10.1007/s13277-013-1131-2.
原著論文3
Nakagaki S, Arimura Y, Imai K, et al.
Contextual niche signals towards colorectal tumor progression by mesenchymal stem cell in the mouse xenograft model.
J Gastroenterol , 50 (9) , 962-974  (2015)
10.1007/s00535-015-1049-0.
原著論文4
Taniguchi H, Moriya C, Imai K, et al.
Cancer Stem Cells in Human Gastrointestinal Cancer.
Cancer Sci. , 107 (11) , 1556-1562  (2016)
10.1111/cas.13069.
原著論文5
Taniguchi H, Hoshino D, Imai K, et al.
Silencing PRDM14 expression by an innovative RNAi therapy inhibits stemness, tumorigenicity, and metastasis of breast cancer.
Oncotarget , 8 (29) , 46856-46874  (2017)
10.18632/oncotarget.16776.
原著論文6
Matsunaga Y, Adachi Y, Imai K, et al.
The effect of forced expression of mutated K-RAS gene on gastrointestinal cancer cell lines and the IGF-1R targeting therapy.
Mol Carcinogen , 56 (2) , 515-526  (2017)
10.1002/mc.22513.

公開日・更新日

公開日
2015-09-14
更新日
2018-06-05

収支報告書

文献番号
201438074Z