救急使用-安全な長期使用が可能な世界最小・最軽量・最高性能の次世代型心肺補助システムの開発・臨床応用と製品化・世界展開

文献情報

文献番号
201436005A
報告書区分
総括
研究課題名
救急使用-安全な長期使用が可能な世界最小・最軽量・最高性能の次世代型心肺補助システムの開発・臨床応用と製品化・世界展開
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
巽 英介(独立行政法人国立循環器病研究センター 人工臓器部)
研究分担者(所属機関)
  • 妙中義之(独立行政法人国立循環器病研究センター 研究所)
  • 市川 肇(独立行政法人国立循環器病研究センター 小児心臓血管外科)
  • 武輪能明(独立行政法人国立循環器病研究センター 人工臓器部)
  • 築谷朋典(独立行政法人国立循環器病研究センター 人工臓器部)
  • 水野敏秀(独立行政法人国立循環器病研究センター 人工臓器部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【委託費】 医療技術実用化総合研究(早期探索・国際水準研究)
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
52,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 従来治療では救命困難な重症呼吸循環不全の治療において、迅速に心肺補助を行って生命維持しつつ集中治療に繋ぐことができれば治療成績を大きく向上させ得る。人工肺と遠心ポンプを用いたECMO(PCPSも広義のECMOに含む)は唯一の機械的心肺補助手段で、近年は循環器領域のみならず救命救急領域や集中治療領域を中心に広がりを見せ、有用性が高まりつつある。しかしながら、従来システムは緊急対応性に乏しく、抗凝固剤であるヘパリンの持続投与を必要とし、使用期間も数日程度に限られている。本研究では、これら現行ECMOの問題点を解決した超小型の次世代型高機能ECMOシステムの開発・実用化を行う。
研究方法
 ディスポーザブルユニットとドライブユニットが一体化した超小型ECMOシステムを構築する。急速充填ユニットで2分以内のセットアップを可能とする。サイズは20×30×40cm以下、重量は7kg以下(酸素ボンベ込で9kg以下)を目指してパッケージ化を進め、救急車やヘリコプターでの搬送や往診先・救助現場などでの適用が可能な優れた移動性・携帯性を達成する。
 性能評価に関しては、駆出性能・ガス交換性能について模擬循環回路および急性動物実験による評価を進める。また、平成27年度以降は30日間の耐久性試験を実施する。また、慢性動物実験による長期in vivo評価の準備を進める。
結果と考察
 BioCube-NCVC人工肺、BioFloat-NCVC遠心ポンプ、T-NCVCヘパリンコーティングを主要要素とするコンパクトにオールインワン化されたECMO回路は、駆動装置にカセット化ディスポユニットとして組み込まれる。また、急速充填ユニットで2分以内のセットアップが可能であり、実証実験でそれを確認した。一方、長期使用に際して血栓形成の好発部位、あるいはディスコネクトのリスクが問題となるコネクタ(従来のECMOではプラスティック製のコネクタとタイバンドを用いている)に関しては、コネクト部分の段差を極力なくし、かつディスコネクトが起こらない特殊構造の金属コネクタを開発し、本ECMO回路に組み込んだ。
 ドライブユニットについては、ポンプ駆動モータやセンサ等の関連機器を統合し、筐体へのセンサ埋め込みやインターフェースの効率的な配置、状態のモニターや管理サポートに有用なタッチパネルディスプレイの搭載、これら要素機器の制御機構のリンクや電力供給源の共有化を図ることで、コンパクトに一体化されたドライブユニットとして設計・試作した。その結果、最終試作は酸素ボンベアタッチメントを外した状態で、サイズが29×20×26cm、重量が6.6kg、酸素ボンベアタッチメントを付けた状態で内蔵バッテリで60分間の完全なスタンドアロン状態でのECMOを行うことが可能である。液晶ディスプレイは4.3型カラーのタッチパネルディスプレイ、センサ類は圧センサ×4、温度センサ×3、流量計×2、バブルディテクタ×1、酸素飽和度モニタ×2で、ドライブユニット内に専用にカスタマイズして組込んでいる。このように、ディスポーザブルユニットとドライブユニットおよびガスボンベユニットをコンパクトに一体化することにより、ポータブル使用が可能なサイズ・重量で、かつ優れた長期耐久性と抗血栓性,高い安全性と操作性も兼ね備える、院内外の救命救急から慢性時の長期連続使用も可能な臨床的有用性が極めて高い超小型心肺補助システムとすることができた。
 ドライブユニット完成前の検討として、BioCube-NCVC人工肺、BioFloat-NCVC遠心ポンプ、T-NCVCヘパリンコーティングを主要要素とするECMO回路に対して、模擬循環回路試験及び急性動物実験による基本性能評価を行った。その結果、成人用ECMOシステムとして十分な駆出性能およびガス交換性能を有していることを確認した。長期耐久性に関しては、耐久試験装置LabHeart-NCVCを用いて30日間の耐久性試験を行うための条件設定等の準備を進めた。また、慢性動物実験のための準備も平行して進めている。最終試作ドライブユニットが完成後、可及的早期に耐久性試験・慢性動物実験を開始する予定である。
 
結論
 開発目標機器の最終試作を完成させることができた。今後研究開発のさらなる加速に務めることで、平成27年度当初予定の前半中の非臨床試験の完了、および後半の臨床試験開始を達成することが可能であると考えている。

公開日・更新日

公開日
2015-04-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2018-05-31
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201436005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究では、安全な緊急~長期間の呼吸循環補助を可能とする超小型の次世代型高機能ECMOシステムを開発・実用化する。迅速セットアップと長期連続使用が可能で、抗凝固療法も最少化される世界最小・最軽量のシステムで、移動性・携帯性に優れる。救命救急・集中治療室も含めた広い領域で使用可能で、中長期間の呼吸循環補助にも適用可能として、治療成績の大幅な向上が期待される。最終試作システムを用いた長期動物実験を完了し、PMDA相談下に医師主導臨床治験の準備に着手した。
臨床的観点からの成果
急性重症例への迅速適用、出血合併例へのヘパリンフリー使用、院外装着・搬送使用、慢性呼吸不全増悪期の中長期使用、肺/心肺移植へのブリッジ等への適応拡大に加えて、人工呼吸を行わずにECMOで呼吸維持し、lung restを保って回復を促進する新たな治療法への進展の可能性など、臨床的意義は大きい。また、重症ARDSを合併する高致死率ウィルス感染症(SARS、MERS、H7N9等)のパンデミック到来に対して、強力な最終治療手段を提供することが可能となりつつある。
ガイドライン等の開発
早期探索的臨床試験拠点整備事業にて構築中のISO13485体制下に最終試作を完成し、実用化に向けたPMDAとの相談に入った。平成30年には非臨床試験最終段階の長期動物実験評価を完了し、平成31年度に医師主導臨床治験の準備に入った。また「革新的医薬品医療機器再生医療製品実用化促進事業」でのPMDAとの人材交流・意見交換うぃお通して、同事業で策定したガイドライン「中長期間呼吸/循環補助(ECMO/PCPS)システムの評価指標案」の実証例として取り上げることで、効率的な開発・製品化を進めつつある。
その他行政的観点からの成果
本事業は、省庁連携施策の「オールジャパンでの医療機器開発」に基づく「日本発、国際競争力の高い機器開発」および「臨床拠点を核とした機器創出」の好例となり、「国産医療機器創出促進基盤整備等事業」による企業との人材交流・研修の実践の場ともなった。 現在PMDA相談を開始すると共に医師主導治験の準備を非臨床試験と共に進めており、国立高度医療専門センターのin-house研究成果であるクラス4機器を施設内医師主導治験に結びつければ、大きな行政的インパクトを持つことになる。
その他のインパクト
「医療クラスター形成」「スーパー特区事業」等で培った強固な産学連携体制の元での革新的医療機器創出の成功例とすることで「新たな成長戦略」にも貢献する。 報道:1) 2017/1/9 日本経済新聞「持ち運べる人工肺 国循センターが開発]」 2) 2017/10/27 読売新聞「人工臓器の開発 命救う 5年、10年先求められるもの形に 巽英介 国立循環器病研究センター人工臓器部長」 3) 2018/12/07に記者発表し、以後「世界最小の心肺補助装置を開発(共同通信)」など数十件の報道がなされる。

発表件数

原著論文(和文)
6件
原著論文(英文等)
17件
その他論文(和文)
5件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
70件
学会発表(国際学会等)
46件
その他成果(特許の出願)
1件
その他成果(特許の取得)
2件
意匠登録
その他成果(施策への反映)
3件
早期探索的臨床試験拠点整備事業活用開発例。革新的医薬品医療機器再生医療製品実用化促進事業ガイドライン「中長期間呼吸/循環補助システムの評価指標案」実証例。「国産医療機器創出促進基盤整備等事業」実践例。
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
人工心肺装置
詳細情報
分類:
特許番号: 意匠登録第1544998号
発明者名: 片桐伸将, 巽 英介, 妙中義之, 柳園宜紀, 内村智彦, 小原大輔
権利者名: 国立研究開発法人国立循環器病研究センター総長, ニプロ株式会社
取得年月日: 20160205
国内外の別: 国内
特許の名称
酸素ボンベ収納用ケース付人工心肺装置
詳細情報
分類:
特許番号: 意匠登録第1544999号
発明者名: 片桐伸将, 巽 英介, 妙中義之, 柳園宜紀, 内村智彦, 小原大輔
権利者名: 国立研究開発法人国立循環器病研究センター総長, ニプロ株式会社
取得年月日: 20160205
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Togo K, Takewa Y, Katagiri N, et al.
Impact of bypass flow rate and catheter position in veno-venous extracorporeal membrane oxygenation on gas exchange in vivo
J Artif Organs , 18 , 128-135  (2015)
10.1007/s10047-014-0810-0
原著論文2
Kusajima K, Hoashi T, Kagisaki K, et al.
Clinical experience of more than 2 months usage of extracorporeal membrane oxygenation (Endumo((R))4000) without circuit exchange
J Artif Organs , 17 , 99-102  (2014)
原著論文3
Fujii Y, Shirai M, Inamori S, wt al.
A novel small animal extracorporeal circulation model for studying pathophysiology of cardiopulmonary bypass
J Artif Organs , 18 , 35-39  (2015)
原著論文4
Fujii Y, Shirai M, Takewa Y, et al.
Cardiopulmonary bypass with low-versus high-priming volume: comparison of inflammatory responses in a rat model
ASAIO J , 62 , 286-290  (2016)
原著論文5
Fujii Y, Shirai M, J. T. Pearson, et al.
Changes in inflammatory response during and after cardiopulmonary bypass using a rat extracorporeal circulation model.
IEEE Eng Med Biol Soc , 957-960  (2015)
原著論文6
Fujii Y, Tanabe T, Yamashiro T, et al.
Effect of hydroxyethyl starch priming on the systemic inflammatory response and lung edema after cardiopulmonary bypass in a rat model.
ASAIO J , 63 , 618-623  (2017)

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
2019-05-21

収支報告書

文献番号
201436005Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
68,250,000円
(2)補助金確定額
68,250,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 51,378,236円
人件費・謝金 1,017,164円
旅費 33,180円
その他 71,496円
間接経費 15,750,000円
合計 68,250,076円

備考

備考
支出額合計が補助金確定額よりも76円オーバーしたため、これを自己充当額として収支決算を行った。

公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
-