血中PD-1リガンド検出エライザー法によるPD-1抗体がん治療法の有効性診断薬開発

文献情報

文献番号
201433003A
報告書区分
総括
研究課題名
血中PD-1リガンド検出エライザー法によるPD-1抗体がん治療法の有効性診断薬開発
課題番号
-
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
本庶 佑(京都大学大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 湊 長博 (京都大学医学研究科 )
  • 小西 郁生(京都大学医学研究科 )
  • 小川 修(京都大学医学研究科 )
  • 伊達 洋至(京都大学医学研究科 )
  • 竹馬 俊介(京都大学医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【委託費】 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
46,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
PD-1抗体は、様々ながん腫の前臨床試験において、術後再発例や、化学療法抵抗性の末期患者に奏功率20~30%という画期的な成果をもたらしている。2014年には悪性黒色腫の治療薬として初めて承認された日本発の免疫システムを介した抗がん剤である。我々はこれまでの研究で、腫瘍由来PD-L1の発現量の多寡が、がん患者の予後と相関し、またマウスモデルではPD-1抗体治療の効果と相関する可能性を示してきた。すなわち、臨床においても腫瘍由来PD-L1の発現がPD-1抗体の治療効果を判断する有望なバイオマーカーになる可能性が高い。しかし、従来行われている腫瘍組織の免疫染色法では腫瘍由来PD-L1の総量を定量化することは難しい。そこで本研究では、腫瘍から放出される可溶性PD-L1をがん患者の血中で検出するべく、超高感度エライザー法を開発し、治療前の有効性診断薬となるか否か検討する。最終的にはPD-1抗体治療患者の有効例と無効例との間で血中PD-L1検出の有無との相関を検定する臨床研究を行い、コンパニオン診断薬開発を進める。
研究方法
第1年度(2014年)は、1、PD-L1抗体ならびにPD-L2抗体(いずれもヒト)に対する抗体の選定を行い、サンドイッチエライザー法によって超微量のPD-L1およびPD-L2抗体検出エライザーセットを確立する。2、次いでこれらのエライザーキットを自動計測装置に組み込む。3、これら抗体で検出されたリガンドが目的のものかどうかを検討するため、抗体による免疫沈降物の質量分析等による化学的検定を行う。また組織染色における抗体の特異性を検討する。4、培養細胞における細胞表面リガンド発現と培養液中への放出の量の相関を検討すると共に非発現細胞と比較してバックグランドレベルの確定を行う。
結果と考察
湊研究室提供および市販の10種類以上抗体を用い、サンドイッチエライザーに用いる抗PD-L1抗体の組み合わせに関して検討した。結果、E抗体を固相化し、3種(F,I,J抗体)を検出用抗体として用いた際に、検出が最適化することを確認した。E抗体―F抗体のペアで、可溶性PD-L1の検出感度を測定した。少なくとも100~100000 pg/ml までは良好な検出を行うことができ、臨床サンプルの測定に問題ない感度であると判断した。上記、E抗体―F抗体のペアで、可溶性PD-L1および、PD-L1が属するその他のB7ファミリータンパク(6種)に対する特異性検討を行ったところ、高い特異性を持ってPD-L1のみが検出された。また、E抗体を用いた組織染色では、市販の肺がん組織を良く染色し、この染色は、組み換えPD-L1を加え、競合させることにより阻害されたことから、高い特異性を持つことが示された。PD-L2に関しては、検討中である。ヒトがん細胞株8種を用いて、細胞表面PD-L1の発現量と培養上製中のPD-L1の放出量を測定したところ、この二つは大変高い相関を示した(相関係数=0.8810)。よって、がん細胞は、そのPD-L1発現量と相関して、培地中に可溶性リガンドを放出すると考えられた。 
PD-L1量を測定する際、がん種の組織学的な解析のみでは、PD-L1発現の総量を測定することは困難である。その点で、検査血清よりPD-L1値を定量化できる測定法を整備出来た本年度の成果は重要である。PD-Lには、PD-L1およびPD-L2の2種のリガンドが存在するが、PD-L2に関しては予備検討や文献から、がん免疫に直接関係しないという見解が得られている。今後はPD-L1を主に測定することに重点を置く方針である。
結論
PD-1抗体が、一部の患者には効かない原因として、腫瘍が免疫回避のため発現するPD-L1の多寡が影響すると考えている。そのため、PD-L1を測定することは重要であるが、腫瘍の組織学的な解析のみでは、PD-L1発現の総量を測定することは困難である。この問題を克服するため、今年度は、血液中に存在するPD-L1を測定する高感度エライザーを開発した。また次年度より、多数のがん患者、および健常ボランティアからサンプリングするための協力体制も確立した。2年目からは実際に開発した高感度エライザーをも用いて臨床検体の血液サンプル中のPD-L1値を測定していく予定である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201433003C

成果

専門的・学術的観点からの成果
当開発グループで作製したヒトPD-L1抗体、もしくは市販のヒトPD-L1抗体の中から選定を行い、サンドイッチエライザー法によって極微量のPD-L1検出を可能とするエライザーセットを確立した。このエライザー法は臨床検体の測定に十分な感度であることが確認できた。エライザーで用いた抗体のペアを用いて、可溶性PD-L1および、PD-L1が属するその他のB7ファミリータンパク (6種類) に対する特異性検討を行ったところ、高い特異性を持ってPD-L1のみが検出された。
臨床的観点からの成果
PD-1抗体が一部のがん患者には効かない原因の一つとして、腫瘍の免疫回避を担うPD-L1の発現量の多寡が影響していることが考えられる。そのため、PD-L1量を測定することは重要である。しかし、がん種の組織学的な解析のみでは、腫瘍組織の不均一性、抗体による検出感度の違いのため、PD-L1発現の総量を測定することは困難である。検査血清よりPD-L1値を得る本測定法は、簡便にPD-L1発現量を定量できるため、臨床的観点からも重要である。
ガイドライン等の開発
呼吸器外科学、泌尿器科学、産科婦人科学の臨床3科と定期的に会合を行った。その結果、手術由来組織検体、および血液検体の収集体制の整備が出来た。また、検体収集に関し、あらたに京大病院病理部(手術組織)、および京大癌バイオバンク(血液サンプル)から、収集の助けを得ることができる事となった。これにより、臨床3科から集まる検体の効率的、かつ、手技などに左右されない均一なサンプリングが可能となった。今後この協力体制でガイドラインを作製していく予定である。
その他行政的観点からの成果
PD-1抗体によるがん治療法は日本のアカデミアでシーズ発見からマウスモデルでの証明まで行った成果である。これのコンパニオン診断薬の開発により、その有効性の治療前診断を可能にすることは、日本における新規医薬品の開発モデルとなり国際競争力の面でも多大な波及効果がある。また、投与前に有効性を想定できる患者にのみ投与することにより高額の抗体医薬品の無駄な使用を防ぎ、今日、国家的課題となっている巨額な医療費の削減効果が期待できる。本研究で確立した手法をベースに現在ニボルマブ治療を行った患者の血漿をもちいて、これらのマーカーが予想バイオマーカーになるか検討するため、近畿大学と治験をおこなっている。
その他のインパクト
有効性が保障された副作用の少ないがん治療法を明示することでがん患者の時間的負担と無駄な苦痛を省くと同時に精神的不安を軽減する。少量の血液採取によって有効性の診断が可能になり、バイオプシーなどに比べて患者の負担が少ない検査法が確立する。すなわち、患者QOLの全面的改善に大きく寄与する。またPD-1のリガンドの血中検出によりがん腫そのものの早期診断法に応用できる可能性もある。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
3件
学会発表(国際学会等)
8件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
免疫状態の活性化した被検者由来の液体試料の判別方法及びその利用
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2015-256605
発明者名: 本庶佑、茶本健司、後藤恵、宇賀仁
権利者名: 国立大学法人京都大学、シスメックス株式会社
出願年月日: 20151228
国内外の別: 国内
特許の名称
PD-1シグナル阻害剤の併用療法
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2015-238511
発明者名: 本庶 佑、茶本 健司
権利者名: 国立大学法人京都大学
出願年月日: 20151207

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Chamoto K, Chowdhury PS, Kumar A et al.
Mitochondrial activation chemicals synergize with surface receptor PD-1 blockade for T cell-dependent antitumor activity
Proc Natl Acad Sci U S A , 114 , E761-E770  (2017)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
2019-06-28

収支報告書

文献番号
201433003Z