培養細胞研究資源の高度化及び研究資源基盤整備に関する研究

文献情報

文献番号
199800426A
報告書区分
総括
研究課題名
培養細胞研究資源の高度化及び研究資源基盤整備に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
水沢 博(国立医薬品食品衛生研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 木村成道(財東京都老人総合研究所)
  • 安本茂(神奈川県立がんセンター臨床研究所)
  • 佐々木正夫(京都大学放射線生物研究センター)
  • 阿部武丸(株 三菱化学・医薬カンパニー中標津製造所)
  • 原沢亮(東京大学医学部附属動物実験施設)
  • 加治和彦(静岡県立大学生活科学科)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 ヒトゲノム・遺伝子治療研究事業
研究開始年度
平成8(1996)年度
研究終了予定年度
平成10(1998)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は,科学技術基本法(平成7年11月15日制定)第12条第2項及び第13条に基づいて我国における培養細胞研究資源基盤の整備を目的に実施するものである。厚生省細胞バンク(JCRB細胞バンク:Japanese Collection of Research Bioresources)事業は,医学・薬学系研究の支援を目的として設立され,かかる研究に不可欠である「ヒト」に由来する組織及び培養細胞研究資源を中心に広く収集し,品質の高度化を図ったうえで培養細胞研究資源の分譲体制の整備を図ることを責務としている。さらに,かかる事業が円滑かつ迅速に実施できるような最適化された運営システムの確立を図ることも本研究の主要な目的の一つである。
多くの研究機関で利用されている培養細胞研究材料から依然として様々な汚染微生物が確認される他,細胞相互の混入や誤謬が度々発見される。迅速な研究成果が求められるため,材料の「質」についての検討が不十分であるためと考えられるが,それを補完し正しい材料を安定的に供給する本バンク事業の責務は重大である。従って,当該細胞バンク事業では,最新の研究技術を速やかに導入して培養細胞研究資源についてより高精度な確認作業を実施し,分譲体制の整備を目標に運営している。本研究は以上の理念に基づいて次の各項目についての研究を継続的に実施するものである。また,新たに開発された手法を現場に適応できるよう簡便化ならびに簡略化するための研究も同時に必要となる。
1 ヒトに由来する培養細胞研究資源ならびにヒト組織の収集を通じて,研究資源の確保を図る(資源収集)。
2 収集した研究資源を有効に利用できるよう,品質の高度化を図ることを目的として様々な品質管理手法の開発研究を実施し,開発した手法を細胞バンク運営に取り込み総合的な調査研究を実施した。特にここ2-3年の中心的な課題として,ヒト細胞に混入するウイルスの迅速な検出手法の開発を目指し,BVDVを検出するRT-PCR法を開発した。これを利用してウシ血清中のBVDVの検出ならびに細胞からのBVDVの検出を試みた。
3 収集した培養細胞の学術情報ならびに品質管理実験の結果得られた様々な情報を迅速に研究者に伝達することを目的に,インターネットを利用した情報サーバの整備を図る。さらに,構築した情報サーバの価値を高めるために培養細胞研究資源を効率良く利用するための附加情報の整備を目的とした。
研究方法
本研究は,培養細胞研究資源を利用するための基盤整備を目的としている総合的な研究班である。そのため,上記「目的」の項に紹介したように多岐に渡る研究課題について複数の研究者と共に分担して取り組んでいる。研究課題は,主に①ヒト細胞の培養を共通実験技法として細胞学,遺伝学,生化学等の実験方法を取り入れた研究,②汚染微生物としてマイコプラズマならびにBVDV(ウシウイルス性下痢症ウイルス)の検出のためのPCR実験を中心にした研究方法,及びPCR産物の分析,③情報提供のためのコンピュータ処理技術の3つの方法が本研究班における主要な研究方法である。方法の詳細については各分担研究報告を参照されたい。
結果と考察
1 ヒト細胞ならびに組織の研究資源化とマイコプラズマ汚染の排除
本研究では主に分担研究者によってヒト細胞の基礎的研究と資源化を推進し,新規細胞を樹立した。これらを含めて当該年度において,JCRB細胞バンクで登録の依頼を受けた細胞は37種類にのぼった。これらについて動物種の確認およびマイコプラズマ汚染の検査を実施した。マイコプラズマ汚染は広く見出され,除染処理(MC210,1継代処理)を実施した後JCRB株として登録した。1年間で登録できた細胞は全37株の寄託のうち,19株にとどまった。高頻度にマイコプラズマ汚染が認められたため,除去に時間を要したことが遅れの原因である。今後他の研究室などへの応援の要請等を検討する必要がある。
2 BVDVウイルスによる汚染の広がりとその対処について
細胞バンクにおける品質管理のうちウイルスによる汚染については欧米先進諸国に比べて著しく遅れている。しかし,1990年代になってPCR法が確立され,品質管理の手法として有効であることが明らかになってきた。そこで,3年ほど前からBVDVを迅速・高感度に検出する手法を分担研究者の原沢が中心となって開発してきた。これを利用して,本年度は培養に不可欠な市販のウシ血清を対象にBVDVによる汚染状況を調査した。その結果,市販のウシ血清から高頻度にBVDVが検出されている結果を得た。細胞株についても高頻度に汚染されている結果を得た。そこで,BVDVフリー血清を入手して汚染の状況を詳しく調査すると共に,希釈除去できるものについてはその可能性を追求し,一部成功した。
3 細胞バンク情報管理システムの改良に関する研究について
現在利用している「培養細胞保存管理データベースシステム」は,当バンクが設立された1985年に作成したもので,10年以上を経過して古いシステムとなった。現在ではパーソナルコンピュータの環境はWindowsに代表されるGUI(Graphic User Interface)へと変化したため Windowsシステムに移植することとした。
プログラムの作成については専門業者に委託することにしたが,細胞バンクの基本的な業務の流れは,現場の担当者が確実に把握し整合性のとれた管理システムとすることを目指した。新システムの開発にはコンパイラ言語であるDelphi (インプライズ社,旧ボーランド社)を採用した。
World Wide Webへのデータ変換についてはこれまでどおりdBASEに蓄積した細胞株情報と別途管理している文献情報ならびに画像情報を結合してHTMLファイル化することを踏襲した。但し,外部の研究資源情報機関との連携がスムーズに出来るようにする必要から,これまでのFolio Views(Folio Co。)の利用を取りやめ,標準的なHTMLファイルシステムへの移行の検討を開始した。いずれもWWWサーバ構築のための記述原理は同等で,タグの表記法が異なるだけなので,移行は可能で,移行期間中両者を併用することも可能である。今年度は,移行のための手続を確立したので,次年度に本格的な作業を開始する。
結論
1 ヒト由来正常上皮系細胞を複数樹立した。それらを,細胞バンクに登録した他一般研究者からの寄託依頼も多数受け付け分譲体制の整備を図った。しかし,マイコプラズマ汚染の頻度が高いため,登録作業が必ずしも迅速に進行しないことが明らかになった。
2 BVDV汚染が予想以上に広範囲に及んでいることが明らかになった。バンクの意義を考慮し,BVDVフリー血清の確保を試み。可能なものについてはBVDVの洗浄除去を実施した。これらの作業は全ての細胞を対象に実施している。
3 細胞バンク管理データベースマネージメントシステムについて,新しいコンピュータシステムに適合するよう改良作業を開始した。旧来のシステムと整合性を取りながら新システムを導入することを最重要課題とした。WWWサーバも継続して整備している。

公開日・更新日

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