文献情報
文献番号
201428013A
報告書区分
総括
研究課題名
ナノマテリアルのヒト健康影響の評価手法に関する総合研究-全身暴露吸入による毒性評価研究-
課題番号
H26-化学-一般-003
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
今井田 克己(国立大学法人香川大学 医学部医学科病理病態・生体防御医学講座腫瘍病理学)
研究分担者(所属機関)
- 相磯 成敏(中央労働災害防止協会・日本バイオアッセイ研究センター・病理検査部・病理検査室)
- 石丸 直澄(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部・医療創生科学部門・分子口腔医学講座口腔分子病態学)
- 高橋 祐次(国立医薬品食品衛生研究所・安全性生物試験研究センター・毒性部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
14,938,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究は、ナノマテリアル(NM)の毒性評価をヒトの暴露経路である全身暴露吸入を用いて実施することと、吸入の病変の詳細分析により評価基準を策定することにある。悪性中皮腫を発生する多層カーボンナノチューブ(MWCNT)を事例対象として、凝集体/凝固体を除去し単繊維成分のみを高度に分散した乾燥検体を得る方法(Taquann法)及び、それを空気中に一定濃度で浮遊させるカートリッジ直噴式ダスト発生装置(直噴システム)により、マウスの肺に単線維が肺胞内にまで到達し、細気管支から肺胞レベルの病変を誘発すること、および凝集体はほとんど認められないことを確認した。本研究は、この新システムによる吸入試験を用いて、ヒト健康影響の評価手法に関して総合的な研究を行う。
研究方法
H26年度は、Taquann法で高度に分散したMWCNTなどを、直噴システムを用いて、野生型マウスを用いたMWCNTの吸入試験、ラットを用いたMWCNTの吸入試験、MWCNTを吸入させた野生型マウスの免疫系の影響評価、そして、先行研究[H23-化学一般-005]でMWCNTを吸入させたp53+/-マウスの肺の病理組織評価、及び⑤p53+/-マウスの肺組織負荷量の測定を実施した。
結果と考察
MWCNTの吸入実験では、目標濃度に対して、実際の暴露濃度が1.5倍程度高い値を示した。酸化チタンの吸入実験では、比較的容易にTaquann法を適応することが可能であった。MWCNTの肺負荷量測定において、暴露の終了直後では4.2 µg/動物、吸入後52週では約1 µg/動物が残存していた。この値を漸近線として計算すると、半減期が約13週であった。肺に沈着した繊維長の分布は吸入直後から52週後まで変化が見られなかったことから、肺からの除去に際してMWCNTの長さによる選択が認められないという結果となった。 本研究で開発したTaquann法及び直噴吸入システムは、吸入試験に必要な検体量が少ないことから、量産化に至る前の新規ナノマテリアルについての吸入試験の実施が可能である。
また、13週および26週の全身暴露投与実験による肺組織評価の検討では、13週および26週のいずれも、肺組織内の多数のT-CNTをについて、通常の光学顕微鏡で観察が可能であった。さらに偏光顕微鏡を併用することでより詳細な観察が可能となることが明らかになった。T-CNT全身暴露後13週では肺に腫瘍性変化は見られなかったが、終末気管支もしくは終末気管支近傍の気管支細胞にT-CNTが刺入していることが観察された。免疫染色による評価では、CD68抗体陽性のマクロファージがT-CNTを貪食している像が認められた。終末気管支近傍の気管支上皮ではCC-10抗体陽性を示すクララ細胞に相当する細胞がSP-C(surfactant protein C)抗体陽性を示す2型肺胞上皮よりも多く存在し、クララ細胞にT-CNTが刺入している像も見られた。正常B6雌マウスにT-CNTを吸入暴露することによる免疫システムへの影響の検討では、吸入後1ヶ月では、肺組織において気管支上皮の軽度の変性及び肺胞マクロファージの集簇が見られた。またマクロファージ関連の遺伝子発現が高濃度群で上昇していたが、M1あるいはM2マクロファージの明瞭な分化が確認できなかった。初期の変化として未熟な単球、マクロファージが集簇していたものと考えられ、今後暴露後長期での観察が必要である。
また、ラットにMWCNTを2.0、0.2mg/m3で全身吸入暴露を行った研究では、肺組織内のMWCNT沈着量が暴露回数とともに増加した。MWCNT2mg/m3の3回暴露から穏やかな肺重量の増加が認められたことから、MWCNTの暴露で生じる弱い肺毒性が8-OHdG形成の微増と関係する可能性が示唆された。
また、13週および26週の全身暴露投与実験による肺組織評価の検討では、13週および26週のいずれも、肺組織内の多数のT-CNTをについて、通常の光学顕微鏡で観察が可能であった。さらに偏光顕微鏡を併用することでより詳細な観察が可能となることが明らかになった。T-CNT全身暴露後13週では肺に腫瘍性変化は見られなかったが、終末気管支もしくは終末気管支近傍の気管支細胞にT-CNTが刺入していることが観察された。免疫染色による評価では、CD68抗体陽性のマクロファージがT-CNTを貪食している像が認められた。終末気管支近傍の気管支上皮ではCC-10抗体陽性を示すクララ細胞に相当する細胞がSP-C(surfactant protein C)抗体陽性を示す2型肺胞上皮よりも多く存在し、クララ細胞にT-CNTが刺入している像も見られた。正常B6雌マウスにT-CNTを吸入暴露することによる免疫システムへの影響の検討では、吸入後1ヶ月では、肺組織において気管支上皮の軽度の変性及び肺胞マクロファージの集簇が見られた。またマクロファージ関連の遺伝子発現が高濃度群で上昇していたが、M1あるいはM2マクロファージの明瞭な分化が確認できなかった。初期の変化として未熟な単球、マクロファージが集簇していたものと考えられ、今後暴露後長期での観察が必要である。
また、ラットにMWCNTを2.0、0.2mg/m3で全身吸入暴露を行った研究では、肺組織内のMWCNT沈着量が暴露回数とともに増加した。MWCNT2mg/m3の3回暴露から穏やかな肺重量の増加が認められたことから、MWCNTの暴露で生じる弱い肺毒性が8-OHdG形成の微増と関係する可能性が示唆された。
結論
全身暴露投与により、26週後でも肺内にMWCNTが残存することが示された。今回の実験ではMWCNTと腫瘍発生の因果関係までは明らかにすることはできなかったが、MWCNTの呼吸器系への毒性評価を行っていく予定である。また検体を暴露したマウスの経時的な組織沈着量の推移を明らかにし、病変との関係を明らかにする計画である。また、MWCNTの暴露で8-OHdGの形成が増加することや細胞増殖活性の検討、電子顕微鏡用いた体内動態の研究等を効果的に推進する。さらに、MWCNT投与がおよぼす免疫系への影響も考慮し、全身暴露吸入による肺組織への毒性評価研究を進めていく予定である。
公開日・更新日
公開日
2015-05-12
更新日
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