化学物質の臨界期曝露による生殖内分泌機能の遅発影響に視床下部キスペプチンニューロンの部位特異的変化が果たす役割と閾値に関する研究

文献情報

文献番号
201428007A
報告書区分
総括
研究課題名
化学物質の臨界期曝露による生殖内分泌機能の遅発影響に視床下部キスペプチンニューロンの部位特異的変化が果たす役割と閾値に関する研究
課題番号
H25-化学-一般-003
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
吉田 緑(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター病理部)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋美和(国立医薬品食品衛生研究所 安全性生物試験研究センター病理部)
  • 代田眞理子(麻布大学 獣医学部)
  • 渡辺 元(東京農工大学 農学部)
  • 横須賀 誠(日本獣医生命科学大学 獣医学部)
  • 川口真以子(明治大学 農学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
25,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現行の生殖発生毒性試験では新生時期曝露後性成熟後に顕在化する遅発影響は検出できない。本研究では遅発影響標的として期待される視床下部前方の性周期のLHサージ制御中枢(AVPV)、後方の卵胞発育等パルス制御部位(ARC)に存在するキスペプチンニューロンに着目し、その部位特異的変化を解析し遅発影響機序を解明する。また遅発影響発現の閾値も明らかにする。
研究方法
遅発影響発現量のethynyl estradiol(EE)新生児期に投与したyoung adult までのラットおよびマウスを用いて視床下部前方AVPVおよび後方ARCのキスペプチンニューロンや関連遺伝子、神経核の変化あるいはARCに支配される卵胞への影響を検索した。また遅発影響発現閾値について発現量と曝露時期閾値についてEE曝露ラットを用いて検索した。
結果と考察
1. 遅発影響発現と部位特異的キスペプチンニューロンの変化
AVPVへの影響として、新生児期に遅発影響量EE曝露雌ラットでは、遅発影響長期指標の性周期異常発現に先行しAVPVのkiss1 mRNA発現低下とキスペプチンニューロン数の低下、これらに支配されるLHサージの低下が認められた。またAVPVキスペプチンニューロンのエストロゲン(ER)α受容体数も減少した。このAVPVのkiss1遺伝子発現低下は、性成熟前に感受性が高く、成長とともに軽減し、性成熟後はLHサージ期以外では差は検出されなかった。これらのAVPVのkiss1 mRNA発現低下やLHサージ低下は雌加齢性変化に類似していた。
ARCへの影響として、新生児期EE曝露雌ラットでは、発達期からyoung adultまで ARCのkiss1 mRNA発現やキスペプチンニューロン数は変化しなかった。しかし卵巣摘出下でのパルス状LH分泌のamplitude増加よりARCのkindyニューロンへの影響が示唆された。
遅発影響発現量EE新生児期単回曝露マウスは、GABA受容体には変化が認められなかったものの視束前野カルビンジン(CB)の変化が認められたことから、CB等の産生量変化を介して Kisspeptin動態への影響が示唆された。また遅発影響発現量EE新生児期曝露ラットの受動回避学習行動試験における学習成績低下、大脳皮質と海馬のERα発現量低下から遅発影響の行動への影響を示唆していた。
また遅発影響はERαを介した変化が主だが、ERβも関連する可能性が示唆された。
2. 遅発影響と閾値の関連性
曝露量的閾値について、遅発影響発現量EE新生児期5日間経口曝露ラットにおいて、最高用量の0.08 μg/kgで不安定な性周期を示したことから、閾値はこの近傍に存在するものと推測された。
EE曝露時期の閾値について視床下部AVPVとARCのキスペプチンの変化と、性周期観察を指標に検索し、遅発影響は性周期を指標に生後10日まで持続し、生後14日曝露では観察されず閾値は14日近傍に存在すると考えられた。
3. 中枢以外の遅発影響標的部位
遅発影響発現量EE新生児期曝露ラットを用いた詳細な検討により、性周期異常に先行して性成熟前の幼若期から卵巣の初回排卵数低下や嚢胞状卵胞増加等の形態学的変化、LH受容体や卵胞アポトーシス関連遺伝子の変化等も認められた。
結論
平成26年度の本研究成果より
結論1:遅発影響は視床下部前方性周期制御中枢キスペプチンニューロン低下が主因。
結論2:遅発影響は曝露量および曝露時期とともに閾値が存在する。
と結論した。
最終年である平成27年度は、これまでの研究成果で得られた確立した遅発影響指標と機序と閾値を総合解析し、遅発影響の懸念化学物質のリスク評価手法について提言する予定である。

公開日・更新日

公開日
2015-07-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-07-01
更新日
-

収支報告書

文献番号
201428007Z