文献情報
文献番号
201428004A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒトへの外挿を目指したナノマテリアルの健康影響評価手法の開発
課題番号
H24-化学-一般-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
武田 健(東京理科大学 総合研究機構)
研究分担者(所属機関)
- 梅澤 雅和(東京理科大学 総合研究機構)
- 新海 雄介(東京理科大学 総合研究機構)
- 立花 研(日本薬科大学 薬学科)
- 菅又 昌雄(栃木臨床病理研究所)
- 井原 智美(栃木臨床病理研究所)
- 光永 総子(NPOプライメイト・アゴラ)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
14,462,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究課題は、ナノマテリアルの健康影響について特に、1)低用量曝露による次世代雄性生殖系への影響、2)次世代の免疫系・中枢神経系への影響、3)霊長類免疫系・中枢神経系に対する影響を明らかにしようとしたものである。まず、妊娠期におけるナノマテリアルの低用量曝露が次世代に及ぼす影響について、次世代の雄性生殖系機能をマーカーとしたげっ歯類の影響評価系の確立を目指した。そして、ナノマテリアルが免疫系に及ぼす影響について、ヒトに外挿できる評価系の確立を目指した。
研究方法
1)次世代雄性生殖器への影響は、母体に投与したナノ粒子の移行・蓄積ならびに精子・精巣の超微小形態の観察により評価した。2)次世代免疫系への影響は、フローサイトメトリーを用いたリンパ球組成の解析と遺伝子発現解析(機能的トランスクリプトミクスならびに定量的RT-PCR)により評価した。併せて、産仔の免疫系組織及び血液中miRNAの網羅的解析を行った。さらに、二酸化チタンナノ粒子の次世代影響標的として有力な脳において、影響発現メカニズムをエピジェネティクスの観点から明らかにするために、脳組織におけるDNAメチル化プロファイルを網羅的に解析した。3)アカゲザルを用いた研究では、新生仔の背部皮内にナノ材料としてディーゼル排気ナノ粒子(DEP)、非金属ナノ粒子(カーボンブラック:CB)、酸化金属ナノ粒子(二酸化チタン:TiO2)、蛍光ナノポリスチレン(PS)のいずれかをそれぞれ投与し、1ヶ月~3年後に投与部位、リンパ節、主要組織の試料を採取した。試料からRNAを抽出した後、遺伝子の発現変動をマイクロアレイ及び定量的RT-PCRにより解析し、その機能的特徴を明らかにした。
結果と考察
実験(1):銀ナノ粒子の妊娠期飲水投与が次世代雄性生殖系に及ぼす影響を検証した。まず、懸濁液中の銀ナノ粒子を低濃度の塩により凝集させ、二次粒子径を大きくした(>200 nm)場合でも、次世代雄性生殖系に及ぶ影響は消失しなかった。
実験(2):次世代免疫系(脾臓リンパ球phenotype)に対する影響発現は、一般急性毒性(気管支肺胞洗浄 BALF中細胞数増加)の生じるレベルであっても低用量で消失することが明らかになった。一方で、同用量カーボンブラックナノ粒子の妊娠後期投与は、次世代免疫系(脾臓)に対しT細胞等の細胞数を著しく増加させることが明らかになった。次世代中枢神経系に生じる影響について、ナノマテリアルのハザード分類・リスク評価に資する鋭敏かつ定量的なマーカーが得られた。ナノ粒子(カーボンブラック、二酸化チタン)を妊娠期に経気道投与すると、次世代個体の脳血管周囲の細胞(血管周囲マクロファージPVMならびにアストロサイト)が鋭敏に反応することが明らかになった。その作用の程度は、二次粒子径を同程度にしたナノマテリアルで比較した場合、カーボンブラックの方が二酸化チタンナノ粒子に比して大きかった。また、この影響は大脳皮質前頭野のGFAPタンパク質発現解析(ウェスタン・ブロット法)により定量的に分析することが可能になり、ナノマテリアルの妊娠期経気道投与が次世代中枢神経系に及ぼす影響についての用量依存性も確認することができた。ナノマテリアルの曝露によるヒト健康影響に関して、とくに次世代影響・発達毒性の考慮は、免疫系以上に中枢神経系に及ぶ影響について考慮する必要があるようである。また、ナノマテリアルの妊娠期経気道投与により次世代中枢神経系に及ぶ影響を、遺伝子発現を制御するDNAメチル化プロファイルから検証した。その結果、Pcdh9などの複数の遺伝子を標的として、プロモーター領域のDNA脱メチル化に伴う遺伝子発現亢進が認められた。
実験(3):前述のげっ歯類のデータを踏まえ、ナノマテリアル投与がリンパ節だけでなく中枢神経系(大脳皮質前頭野、小脳、海馬)に及ぼす影響を遺伝子発現変動プロファイリングにより検証した。その結果、中枢神経系において複数のナノマテリアル・複数の脳領域に共通する変動パスウェイとして、ヘモグロビン代謝経路が見出された。
実験(2):次世代免疫系(脾臓リンパ球phenotype)に対する影響発現は、一般急性毒性(気管支肺胞洗浄 BALF中細胞数増加)の生じるレベルであっても低用量で消失することが明らかになった。一方で、同用量カーボンブラックナノ粒子の妊娠後期投与は、次世代免疫系(脾臓)に対しT細胞等の細胞数を著しく増加させることが明らかになった。次世代中枢神経系に生じる影響について、ナノマテリアルのハザード分類・リスク評価に資する鋭敏かつ定量的なマーカーが得られた。ナノ粒子(カーボンブラック、二酸化チタン)を妊娠期に経気道投与すると、次世代個体の脳血管周囲の細胞(血管周囲マクロファージPVMならびにアストロサイト)が鋭敏に反応することが明らかになった。その作用の程度は、二次粒子径を同程度にしたナノマテリアルで比較した場合、カーボンブラックの方が二酸化チタンナノ粒子に比して大きかった。また、この影響は大脳皮質前頭野のGFAPタンパク質発現解析(ウェスタン・ブロット法)により定量的に分析することが可能になり、ナノマテリアルの妊娠期経気道投与が次世代中枢神経系に及ぼす影響についての用量依存性も確認することができた。ナノマテリアルの曝露によるヒト健康影響に関して、とくに次世代影響・発達毒性の考慮は、免疫系以上に中枢神経系に及ぶ影響について考慮する必要があるようである。また、ナノマテリアルの妊娠期経気道投与により次世代中枢神経系に及ぶ影響を、遺伝子発現を制御するDNAメチル化プロファイルから検証した。その結果、Pcdh9などの複数の遺伝子を標的として、プロモーター領域のDNA脱メチル化に伴う遺伝子発現亢進が認められた。
実験(3):前述のげっ歯類のデータを踏まえ、ナノマテリアル投与がリンパ節だけでなく中枢神経系(大脳皮質前頭野、小脳、海馬)に及ぼす影響を遺伝子発現変動プロファイリングにより検証した。その結果、中枢神経系において複数のナノマテリアル・複数の脳領域に共通する変動パスウェイとして、ヘモグロビン代謝経路が見出された。
結論
本研究では、次世代中枢神経系、免疫系、雄性生殖系への影響について鋭敏かつ定量的なin vivo毒性マーカーを各々見出すことができた。一方で、発達精巣毒性をはじめとするナノマテリアルの次世代影響は、細胞への取り込みを介した直接的な細胞毒性以外によらない間接的なメカニズムが大きいようである。次には例えば、ナノマテリアルにより生じるタンパク質の高次構造変化と、それに起因する間接的生体影響評価系の構築を指向した研究が、培養細胞系もしくはcell-free systemでのナノマテリアル健康影響評価系の構築に力を発揮するであろう。
公開日・更新日
公開日
2015-07-01
更新日
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