妊娠中の化学物質による、子どもの行動・情動への影響評価に関する臨床的・基礎的・疫学的研究

文献情報

文献番号
201428003A
報告書区分
総括
研究課題名
妊娠中の化学物質による、子どもの行動・情動への影響評価に関する臨床的・基礎的・疫学的研究
課題番号
H24-化学-一般-003
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
成田 正明(三重大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 田代 朋子(青山学院大学 理工学部)
  • 成田奈緒子(文教大学教育学部)
  • 横山 和仁(順天堂大学医学部)
  • ソウケ島 茂(三重大学医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
16,616,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
化学物質が発達期にばく露されると正常な発達に悪影響を及ぼす。とりわけ妊娠中の化学物質のばく露では様々な外表奇形・内臓奇形を引き起こすことはよく知られているが、児の情動や認知行動へ及ぼす影響についてはわかっていなかった。本研究では妊娠中の化学物質が児の情動や認知行動へどのような影響を及ぼすかを明らかにし、誰にでもできる早期発見法を確立し早期支援を開始することで厚生労働行政に資することを目的とした。
研究方法
1、化学物質ばく露モデル動物の発生生物学的解析研究は主として妊娠動物で行った。妊婦の内服で四肢に奇形が生じることで知られるサリドマイドは、妊婦の内服時期によっては児に自閉症を発症させることが知られている。サリドマイドやバルプロ酸の妊娠ラットへ投与してその影響をさらに調べるとともに、他の化学物質(メチル水銀)でも共通のカスケードが存在するかを検討した。
2、ばく露の有無を知るバイオマーカー検索では、動物の神経系に特徴的な遺伝子の発現態様を網羅的、効率的に解析する手法(シナプトアレイ)を確立し、ばく露のバイオマーカー候補となる遺伝子の絞り込みを行った。
3、近赤外線酸素モニターを用いた非侵襲的脳機能評価ではヒトを対象とし非侵襲的脳機能評価法である近赤外線酸素モニターを用いた。自閉症児者では脳活性化は起こりにくいことを確かめた。 
4、疫学的アプローチ1(乳歯や毛髪からの有害物質検出)では生体試料として全国の研究協力者から乳歯・毛髪を提供して頂き、鉛・カドミュウムなどの重金属・有害物質の測定を行うとともに、詳細な発達歴と突き合わす全国大規模疫学調査計画を行ってきた。
5、疫学的アプローチ2(子どもの発達・行動異常の疫学)では、広汎性発達障害(PDD)、高機能広汎性発達障害(HFPDD)、注意欠格/多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)ならびにそれらの関連要因の疫学調査を実施した。
ヒトを対象とする研究に当たっては各施設で研究倫理委員会の承認のもとで行った。動物実験は各施設で動物実験委員会の承認のもとで行った。
結果と考察
化学物質ばく露モデル動物の発生生物学的解析では、化学物質ばく露モデル動物(=上述の自閉症モデルラット=情動認知行動異常を伴う)での、セロトニン系(=情動に深く関連する神経)の異常のほか、他の脳内物質(ドーパミン)の異常も確認した。ばく露の有無を知るバイオマーカー検索では、動物の神経系に特徴的な遺伝子の発現態様を網羅的、効率的に解析する手法(シナプトアレイ)でばく露のバイオマーカー候補となる遺伝子の絞り込みを行った。近赤外線酸素モニターを用いた非侵襲的脳機能評価ではヒトを対象とし非侵襲的脳機能評価法である近赤外線酸素モニターを用い、自閉症児者では脳活性化は起こりにくいことを確かめた。疫学研究(乳歯・毛髪分析)で有害化学物質の生体中蓄積と情動認知行動異常との関連の有無を、全国の研究協力者(約1000例)から提供された乳歯・毛髪の分析により調べた。喫煙率、子育て困難さなど、多くの因子が存在し、最終的な結論を出すには、より深い要因分析と多くのサンプル数の確保が望まれる。

結論
妊娠中の化学物質のばく露は生後の情動・認知行動に関連する脳内神経伝達物質セロトニンの正常な発生・発達に大きな影響を与えるが、それは化学物質個々に特有の事象ではなく、特有なのは妊娠中のばく露の時期であることを、様々な化学物質を用いて明らかにした。最終的な結論を出すには、より深い要因分析と多くのサンプル数の確保が望まれる。早期発見、早期支援の必要性の裏付け研究が求められる。

公開日・更新日

公開日
2015-07-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201428003B
報告書区分
総合
研究課題名
妊娠中の化学物質による、子どもの行動・情動への影響評価に関する臨床的・基礎的・疫学的研究
課題番号
H24-化学-一般-003
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
成田 正明(三重大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 田代朋子(青山学院大学理工学部)
  • 成田奈緒子(文教大学教育学部)
  • 横山和仁(順天堂大学医学部)
  • ソウケ島 茂(三重大学医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
化学物質が発達期にばく露されると正常な発達に悪影響を及ぼす。とりわけ妊娠中の化学物質のばく露では様々な外表奇形・内臓奇形を引き起こすことはよく知られているが、児の情動や認知行動へ及ぼす影響についてはわかっていなかった。本研究では妊娠中の化学物質が児の情動や認知行動へどのような影響を及ぼすかを明らかにし、誰にでもできる早期発見法を確立し早期支援を開始することで厚生労働行政に資することを目的とした。
研究方法
1、化学物質ばく露モデル動物の発生生物学的解析研究では、主として妊娠動物で行った。妊婦の内服で四肢に奇形が生じることで知られるサリドマイドは、妊婦の内服時期によっては児に自閉症を発症させることが知られている。サリドマイドやバルプロ酸の妊娠ラットへ投与してその影響をさらに調べるとともに、他の化学物質(メチル水銀)でも共通のカスケードが存在するかを検討した。
2、ばく露の有無を知るバイオマーカー検索では、動物の神経系に特徴的な遺伝子の発現態様を網羅的、効率的に解析する手法(シナプトアレイ)を確立し、ばく露のバイオマーカー候補となる遺伝子の絞り込みを行った。
3、近赤外線酸素モニターを用いた非侵襲的脳機能評価ではヒトを対象とし非侵襲的脳機能評価法である近赤外線酸素モニターを用いた。自閉症児者では脳活性化は起こりにくいことを確かめた。 
4、疫学的アプローチ1(乳歯や毛髪からの有害物質検出)では生体試料として全国の研究協力者から乳歯・毛髪を提供して頂き、鉛・カドミュウムなどの重金属・有害物質の測定を行うとともに、詳細な発達歴と突き合わす全国大規模疫学調査計画を行ってきた。
5、疫学的アプローチ2(子どもの発達・行動異常の疫学)では、広汎性発達障害(PDD)、高機能広汎性発達障害(HFPDD)、注意欠格/多動性障害(ADHD)、学習障害(LD)ならびにそれらの関連要因の疫学調査を実施した。
ヒトを対象とする研究に当たっては各施設で研究倫理委員会の承認のもとで行った。動物実験は各施設で動物実験委員会の承認のもとで行った。
結果と考察
・妊娠中の化学物質のばく露実験では流産・外表奇形のほかに、ばく露した妊娠時期によっては生後の情動・認知行動へも影響する、といった遅発性の影響も明らかにした。
・特有なのは化学物質個々でなく、妊娠中のばく露の時期であることを、様々な化学物質を用いての共通点の発見(=ばく露時期に依存的なセロトニン神経の胎生期の初期発生の異常)から明らかにした。・妊婦の魚介類摂取の許容量には国が定めた指針があるが、その科学的根拠は不明であった。私どもは有機水銀の胎生期へのばく露実験で、感情を司るセロトニン神経の発達異常を明らかにした。・発現上昇、発現低下している遺伝子群の存在を確認した。バイオマーカーとして病態解明・診断への応用が期待できる。臨床研究で、ヒトでこれまで情動・認知行動異常を客観的に評価することは困難であった。今回ヒトで、近赤外線酸素モニターを用いることで情動・認知行動の異常(アスペルガー症候群など発達障害)を客観的に鑑別しうることを明らかにした。早期診断に応用できる。疫学研究(乳歯・毛髪分析)で
・有害化学物質の生体中蓄積と情動認知行動異常との関連の有無を、全国の研究協力者(約1000例)から提供された乳歯・毛髪の分析により調べた。喫煙率、子育て困難さなど、多くの因子が存在し、最終的な結論を出すには、より深い要因分析と多くのサンプル数の確保が望まれる。


結論
1、妊娠中の化学物質のばく露は生後の情動・認知行動に関連する脳内神経伝達物質セロトニンの正常な発生・発達に大きな影響を与えるが、それは化学物質個々に特有の事象ではなく、特有なのは妊娠中のばく露の時期であることを、様々な化学物質を用いて明らかにした。

2、妊婦の魚介類摂取許容量の目安については国が定めた指針がある。これは胎児への有機水銀の経胎盤ばく露を考慮してのものであるが、私どもは有機水銀の胎生期ばく露実験で、感情を司るセロトニン神経の発達に異常が起きることを動物実験で明らかにした。

3、ばく露モデル動物における発現遺伝子網羅的検索では、発現上昇、発現低下している遺伝子群の存在が確認され、病態解明・診断への応用が期待できる。

4、情動・認知行動異常客観的評価は困難であった。今回ヒトで、近赤外線酸素モニターを用いることで情動・認知行動の異常(アスペルガー症候群など発達障害)を鑑別しうることを明らかにした。
  
5、有害化学物質の生体中蓄積と情動認知行動異常との関連を、研究協力者からの.抜けた乳歯・毛髪提供により、全国規模での調査で、関連の有無を調べてきたが、最終的な結論を出すにはより多くのサンプル数の確保が望まれる。
早期発見、早期支援の必要性の裏付け研究が求められる。

公開日・更新日

公開日
2015-07-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201428003C

収支報告書

文献番号
201428003Z