文献情報
文献番号
201427036A
報告書区分
総括
研究課題名
大量出血症例に対する最適輸血療法の確立に関する研究
課題番号
H24-医薬-指定-036
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
宮田 茂樹(独立行政法人国立循環器病研究センター 輸血管理室)
研究分担者(所属機関)
- 上田 裕一(奈良県立病院機構 奈良県総合医療センター)
- 大北 裕(神戸大学 医学部 心臓血管外科)
- 碓氷 章彦(名古屋大学大学院医学系研究科)
- 志水 秀行(慶應義塾大学 医学部 心臓血管外科)
- 佐々木 啓明(独立行政法人国立循環器病研究センター 心臓血管外科)
- 西脇 公俊(名古屋大学大学院医学系研究科)
- 香取 信之(慶應義塾大学 医学部 麻酔科)
- 大西 佳彦(独立行政法人国立循環器病研究センター 麻酔科)
- 前田 平生(埼玉医科大学総合医療センター 輸血・細胞治療部)
- 松下 正(名古屋大学医学部附属病院 輸血部)
- 紀野 修一(日本赤十字社北海道ブロック血液センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
6,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
大量出血やそれに伴う赤血球製剤(RCC)などの大量輸血が患者予後を悪化させる。大量出血症例に対して、早期止血を図り、輸血量を最小化できる最適輸血療法を確立することは、患者予後改善、血液製剤の有効利用につながる。本研究では、大量出血症例における、最適なフィブリノゲン製剤の使用戦略を検討し、最終的に大量出血症例に対する血液製剤の適正な使用ガイドラインの策定につなげることで、患者予後改善、血液製剤の効果的有効利用を図る。
研究方法
大量輸血症例の実態を把握するため、全国医療機関へのアンケート調査である厚生労働省委託事業平成25 年血液製剤使用実態詳細調査(300 床以上)にて、2013年1年間に実施された大量輸血症例(1日にRCC10単位以上輸血された症例)について解析した。
フィブリノゲン濃縮製剤は本邦で薬事承認されていないため、これまでの研究結果を参考にし、人工心肺使用大動脈置換術症例を対象とした治験の実施可能性を検討した。本研究班が核となって、関連企業と連携し、医薬品医療機器総合機構などの関連部局とも相談しながら、治験実施体制を構築した。加えて、大量出血症例おける凝固止血障害の実態を把握するために、大血管外科手術症例での、周術期患者血漿フィブリノゲン濃度などの測定値と、術中出血量との関連を検討するための多施設共同前向き観察研究を開始した。
フィブリノゲン濃縮製剤は本邦で薬事承認されていないため、これまでの研究結果を参考にし、人工心肺使用大動脈置換術症例を対象とした治験の実施可能性を検討した。本研究班が核となって、関連企業と連携し、医薬品医療機器総合機構などの関連部局とも相談しながら、治験実施体制を構築した。加えて、大量出血症例おける凝固止血障害の実態を把握するために、大血管外科手術症例での、周術期患者血漿フィブリノゲン濃度などの測定値と、術中出血量との関連を検討するための多施設共同前向き観察研究を開始した。
結果と考察
「平成25 年血液製剤使用実態詳細調査」の解析結果では、大量輸血症例(1日にRCC10単位以上輸血された症例)は、年間2.8万症例あると推定され、全輸血症例の4.1%を占めた。一方、総RCC、新鮮凍結血漿(FFP)輸血量に占める割合はそれぞれ約17%、32%であった。また、大量出血症例の47%は心臓血管外科症例であった。大量輸血症例で、年間、RCCを約47万単位、FFPを約38万単位使用していると推計され、心臓血管外科手術の大量出血症例において、早期に止血を図り、輸血量を削減できる輸血療法が確立されれば、大幅な血液製剤の使用量削減につながる可能性が示唆された。
昨年度から実施している多施設共同後向き観察研究にて、フィブリノゲン製剤投与が、術後血栓症および感染症発症の独立したリスク因子とはならないことを明らかにし、安全性を確認した。過去に主任研究者、分担研究者が中心となり実施した胸部、胸腹部大動脈瘤手術における輸血療法に対するランダム化比較試験の再解析の結果では、フィブリノゲン製剤の、フィブリノゲンの急速な補充に対する有効性が示唆された。そこで、フィブリノゲン濃縮製剤の薬事承認を得る目的で、これまでの研究結果に基づいて検討した結果、ドイツからの報告(Anesthesiology 2013; 118: 40-50)とほぼ同様のプロトコールを用いた国際共同多施設共同二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験を実施することとし、治験実施体制を構築した。本邦では2013年10月から症例登録が開始され、ほぼ計画通りに患者登録が行われ、2014年9月に海外を含め、試験が終了している。現在、フィブリノゲン濃縮製剤の有効性、安全性について、解析が行われている。
従来、フィブリノゲン製剤投与の血漿フィブリノゲントリガー値は100mg/dLとされてきたが、この根拠、エビデンスは明確ではない。また、このトリガー値を採用した場合に、測定から投与までのタイムラグ(20-30分程度)により止血機能が悪化する懸念がある。近年、より高いトリガー値(200mg/dL)が有効ではないかと報告され(Anesth Analg 2013;117:14-22)、我々の検討でも、術中フィブリノゲン最低値が、術中出血量もしくは術後24時間出血量と相関する傾向があった。現在、実施している多施設共同前向き観察研究にて、止血凝固障害の実態や、フィブリノゲン濃度、血小板数などの検査結果と出血量との関係について検討することで、止血基準をより明確化できる可能性が高いと考えており、各血液製剤の使用基準値、目標値の設定に重要なデータとなる。測定の迅速さも大量出血症例への対応として重要な要因となるため、全血凝固能検査トロンボエラストメトリーやドライヘマトロジーによる血液凝固分析装置をはじめとするPOCT(臨床現場即時検査)機器の利点、欠点についても検討を行っている。
昨年度から実施している多施設共同後向き観察研究にて、フィブリノゲン製剤投与が、術後血栓症および感染症発症の独立したリスク因子とはならないことを明らかにし、安全性を確認した。過去に主任研究者、分担研究者が中心となり実施した胸部、胸腹部大動脈瘤手術における輸血療法に対するランダム化比較試験の再解析の結果では、フィブリノゲン製剤の、フィブリノゲンの急速な補充に対する有効性が示唆された。そこで、フィブリノゲン濃縮製剤の薬事承認を得る目的で、これまでの研究結果に基づいて検討した結果、ドイツからの報告(Anesthesiology 2013; 118: 40-50)とほぼ同様のプロトコールを用いた国際共同多施設共同二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験を実施することとし、治験実施体制を構築した。本邦では2013年10月から症例登録が開始され、ほぼ計画通りに患者登録が行われ、2014年9月に海外を含め、試験が終了している。現在、フィブリノゲン濃縮製剤の有効性、安全性について、解析が行われている。
従来、フィブリノゲン製剤投与の血漿フィブリノゲントリガー値は100mg/dLとされてきたが、この根拠、エビデンスは明確ではない。また、このトリガー値を採用した場合に、測定から投与までのタイムラグ(20-30分程度)により止血機能が悪化する懸念がある。近年、より高いトリガー値(200mg/dL)が有効ではないかと報告され(Anesth Analg 2013;117:14-22)、我々の検討でも、術中フィブリノゲン最低値が、術中出血量もしくは術後24時間出血量と相関する傾向があった。現在、実施している多施設共同前向き観察研究にて、止血凝固障害の実態や、フィブリノゲン濃度、血小板数などの検査結果と出血量との関係について検討することで、止血基準をより明確化できる可能性が高いと考えており、各血液製剤の使用基準値、目標値の設定に重要なデータとなる。測定の迅速さも大量出血症例への対応として重要な要因となるため、全血凝固能検査トロンボエラストメトリーやドライヘマトロジーによる血液凝固分析装置をはじめとするPOCT(臨床現場即時検査)機器の利点、欠点についても検討を行っている。
結論
フィブリノゲン濃縮製剤の有効性、安全性を検討し、薬事承認を目指した、国際共同多施設共同二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験を実施する体制を構築し、予定通り治験を終了した。また、大量出血における凝固障害の実態を検討する前向き観察研究を実施している。これらのデータ解析結果をもとに、関連学会とも連携しながら、本邦でのエビデンスにも配慮した大量出血症例に対する血液製剤の適正な使用ガイドラインの策定を目指す。
公開日・更新日
公開日
2017-05-22
更新日
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