輸血療法における重篤な副作用であるTRALI・TACOに対する早期診断・治療のためのガイドライン策定に関する研究

文献情報

文献番号
201427005A
報告書区分
総括
研究課題名
輸血療法における重篤な副作用であるTRALI・TACOに対する早期診断・治療のためのガイドライン策定に関する研究
課題番号
H24-医薬-一般-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
田崎 哲典(東京慈恵会医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 岡崎 仁(東京大学 医学部)
  • 稲田 英一(順天堂大学 医学部)
  • 桑野 和善(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 荒屋 潤(東京慈恵会医科大学 医学部)
  • 塩野 則次(東邦大学 医学部)
  • 藤井 康彦(山口大学 医学部)
  • 名取 一彦(東邦大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
6,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
輸血関連急性肺障害(transfusion-related acute lung injury; TRALI)と輸血関連循環負荷(transfusion-associated circulatory overload; TACO)を鑑別し、客観的な診断を可能とするガイドライン(案)を策定し、厚生労働省の合同班会議や日本輸血・細胞治療学会などで発表し、また実際の副作用症例に適用し、ブラッシュアップする。これを広く認識されるよう啓蒙活動をする。同時に、白血球抗体を含む血小板輸血が有意に副作用に関与するか、過剰輸血が真に心不全を発症させるか、などについても結論を出す。
研究方法
作成したガイドライン(案)の評価を、1)日本輸血・細胞治療学会のホームページ(HP)に掲載し、パブリックコメントを求める。2)厚生労働省の輸血関連合同班会議で発表し、意見を求める。3)日本赤十字社に報告されたTRALI疑い症例に対し、同社TACO診断基準と研究班の基準を適用し、乖離点などを検討する。4)国際基準と比較する、などから、よりよいガイドラインを目指す。啓蒙の方法としては、5)前年度に作成したポスターを学会の会場等で配布し、また学会HPのe-Newsに掲載する。6)学会タスクホース委員会と協力し、TRALI, TACO のイラストを多用したわかり易い教育資材(ガイドブック)を作成する。7)学会誌に本ガイドラインを掲載する、など、具体的に進める。白血球抗体と輸血副作用の関連の検証については、抗体陽性血小板受血者よりインフォームド・コンセントを得て、HLA typingを行い、抗体の特異性と比較し、また臨床症状・副作用は診療録で調査するなどして、できるだけ関連性を具体的にかつ科学的に明らかにする。実験としてブタから脱血し、過剰輸血で肺水腫が惹起されるかを観察する。
結果と考察
方法の1)、2)では、研究班のガイドラインは概ね受け入れられた。しかし、方法3)において、実際に2014年7月以降、日赤に報告されたTRALI疑いの75症例を対象に、日赤の診断基準と研究班のガイドラインとで評価したところ、TRALI、possible-TRALIについては、一致していた。しかし、TACOについては日赤の診断基準でTACOと評価された20例中、7例が不一致であった。例えば、循環負荷有と判定されながら、白血球抗体陽性の輸血が行われたことや、受血者の臨床症状などが評価され、最終的にはTACOとは判定されなかった例があった。これらを考慮して、最終案を学会誌などに提示したが、今後も症例を重ね、国際基準の確立とともに、修正を行う必要がある。啓蒙に関しては、5)~7)で徐々に浸透していくと考えられる。慈恵医大と東邦大で、前向きに計601例に対し、女性ドナー由来血小板輸血が行われ、70例(11.6%)が抗体陽性血小板を輸血された。しかし陽性血の受血者が陰性血の受血者に比し、輸血後、明らかにSpO2が低下するとの仮説は証明できなかった。また、抗体陽性血小板受血者において、HLAの型が判明した14例に対し、ドナーの抗体特異性との比較をペーパークロスマッチにおいて実施したところ、3例が少なくとも1座に一致を認めた。1例(HLA A26一致)は、診療録に38.6℃の発熱を認めたとの記載はあったが、他の2例は特に問題なく血小板輸血が行われた。その後、実際の患者リンパ球とドナー血清を用いてクロスマッチを行ったが、陰性と判定された。以上、これまでの検討では血液製剤中の白血球抗体が明らかに副作用に関与するとの証は得られず、また患者のHLAと抗体の特異性の一致があっても有意性は示せなかった。今回のブタを用いた実験では、最初に出血を先行させ、その後、過剰輸血で肺傷害が起こり易いかを検討した。その結果、心拍出量や呼吸機能への有意な影響は共に認められなかった。
結論
TRALI、TACOを鑑別する有用性の高いガイドラインを策定した。日赤をはじめ国際的な指針、様々な意見を参考に、出来るだけ利用価値の高いガイドラインとしたが、TACO発症に関する国際比較では、コミュニケーションエラーが関与しているとの報告もある。今後、症例を重ね、更に修正が必要と思われるが、基本は輸血前の患者状態の状態を正しく評価し、適切な輸血療法を心がけることである。その意味で、啓蒙が重要であり、この1年間、ポスターの配布、シンポジウムの開催、学会誌への投稿なども並行して行ってきた。これらの活動が、少しでも両者の鑑別診断、治療に役立ち、かつ我が国の安全で適正な輸血医療に寄与できればと願っている。

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201427005B
報告書区分
総合
研究課題名
輸血療法における重篤な副作用であるTRALI・TACOに対する早期診断・治療のためのガイドライン策定に関する研究
課題番号
H24-医薬-一般-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
田崎 哲典(東京慈恵会医科大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 岡崎 仁(東京大学 医学部)
  • 稲田 英一(順天堂大学 医学部)
  • 桑野 和善(東京慈恵会医科大学 医学部 )
  • 荒屋 潤(東京慈恵会医科大学 医学部 )
  • 塩野 則次(東邦大学 医学部)
  • 藤井 康彦(山口大学 医学部)
  • 名取 一彦(東邦大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
輸血関連急性肺障害(TRALI)と輸血関連循環負荷(TACO)を正しく鑑別し、適切で速やかな治療を可能とするガイドラインを策定する。
研究方法
1.国内外の情報を収集し、国際基準と整合性のあるガイドラインを策定する。
2.ガイドラインのブラッシュアップとして、①日赤に報告された副作用症例に適用し、また国際的な症例報告と比較し、妥当性を検証する。②日本輸血・細胞治療学会(日輸学会)ホームページ(HP)に掲載し、パブリックコメントを求める。③厚生労働省の合同班会議や日輸学会、米国輸血学会などで発表し、意見を求める。
3.ガイドラインの啓蒙のため、④稲田氏作成ポスターを学会の会場等で配布し、また日輸学会HPのe-Newsに掲載し、ダウンロードできるようにする。⑤学会タスクフォース委員会と協力し、TRALI, TACO のイラストを多用したわかり易い教育資材を作成する。⑥日輸学会誌にガイドラインを掲載する。
4.各専門家の視点で問題点を明確にする。⑦呼吸器内科医:ALI / ARDSからTRALIを考える。⑧麻酔科医:術中輸液・輸血療法とTACOを考える。⑨循環器医:TACOを考えた場合の輸血triggerと予防策を考える。
5.TRALIの一因とされる白血球抗体が真に輸血副作用に関与するかを、前向きの臨床研究として進める。
6.実験的に輸血負荷でTACOが発症するかを、ブタで検証する。
結果と考察
研究班は①~③を通し、ほほ満足のいくガイドライン、アルゴリズムを策定した。しかし、日赤に報告された症例に適用してみると、特にTACOについては評価基準が国際的に統一されていないこと、診断が臨床所見に委ねられることが多いこと、などからアルゴリズムですっきりと鑑別できない例もあった。今後、国際輸血学会のTACO診断基準が改定される予定であり、研究班の基準もそれと整合性をとりつつ、修正する必要がある。
TRALI、TACOについては、各医療機関での認識も徐々に高まっているが、④~⑥を通し、更に啓蒙できればと考えている。
ガイドラインに対する各班員からの専門的な意見として、⑦はTRALIの病態を考慮すると、血管内皮と肺胞上皮細胞の傷害を別々に反映する血液バイオマーカーが存在すれば、診断上有用である。また、TRALI診断基準は2004年のAECC(American-European Consensus Conference)の定義に基づいて作成されており、2011年のベルリン定義の概念は反映されておらず、この点が今後の検討課題とした。⑧は術中、高リスク患者の輸血では、血圧、心電図モニター、パルスオキシメータなどを用い、血行動態変化や酸素化の悪化を早期にとらえることが早期診断と治療に重要とした。⑨は高齢社会で潜在的心臓疾患患者(拡張障害性心不全など)が増えているが、輸血のトリガーが高値になる傾向があり、TACOの発生に十分注意する必要があるとした。
女性ドナー由来血小板製剤中の白血球抗体と輸血副作用の関連を前向きに検討した。抗体のスクリーニングを行った601例中、抗体陽性者は70例(11.6%)であったが、白血球抗体が呼吸障害と関連するとの明確な結果は得られなかった。抗体陽性受血者よりインフォームド・コンセントを得てHLA型が判明した14例に対し、ドナーの抗体特異性との比較をペーパークロスマッチで実施した。3例が少なくとも1座に一致を認めたが、実際の患者リンパ球とドナー血清を用いたクロスマッチでは陰性と判定され、臨床的にも有意な差はなかった。TRALIの報告例自体、少なく、抗体陽性血が副作用に関与することを前向きに証明することは困難と思われた。
ブタを用いた実験では、循環血液量の75%以上の過剰負荷で呼吸障害が生ずることが示された。しかし、最初に出血を先行させ、その後の過剰輸血で肺傷害が惹起されるかについては、心拍出量や呼吸機能への有意な影響は認められなかった。
結論
TRALIの診断基準は確立しているが、TACOは未だ世界的にもコンセンサスの得られた基準はない。TACOと判断された場合は不適切な輸血とされ、被害救済制度の適用から外れる可能性がある。従って、両者を鑑別するガイドラインが必要であり、今回、研究班がその策定を試みた。この活用には正しい患者情報の収集がカギであるが、やはり最終的な診断は医師自身が、臨床と検査結果等から、ガイドラインの結果と矛盾しないこと確認した上で行うことが必要である。今回の報告書では治療について十分とはいえず、ARDSの治療の進歩に沿った追加が必要である。今後、更に症例を重ね、世界基準との整合性も図りつつ、修正していかねばならない。研究班のガイドラインが少しでも両者の鑑別診断、治療に役立ち、我が国の適正な輸血療法に貢献できれば班員の喜びである。

公開日・更新日

公開日
2017-05-22
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201427005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
呼吸障害を主訴とする輸血副作用である輸血関連急性肺障害(TRALI)と輸血関連循環負荷(TACO)を鑑別し、適切で速やかな治療を可能とするガイドラインを策定した。作成の過程で、血液製剤中の白血球抗体と副作用の前向き臨床研究を行い、米国輸血学会等で発表した。
臨床的観点からの成果
輸血で呼吸障害が生じた場合、診断に苦慮することがある。研究班のガイドラインは、アルゴリズムで分かりやすく、客観的な診断を可能にするもので、利用価値が高いと期待する。
ガイドライン等の開発
「輸血療法における重篤な副作用であるTRALI・TACOに対する早期診断・治療のためのガイドライン」を策定した。国内外の基準を参考にしたが、今後、臨床の現場で使用される中で、ブラッシュアップが必要と考える。
その他行政的観点からの成果
呼吸障害を主訴とする輸血副作用の中でも特に、輸血関連急性肺障害(TRALI)と輸血関連循環負荷(TACO)は、治療や予防法が異なること、TACOと判断された場合は過剰負荷が原因とされ、医薬品副作用被害救済制度の適応から外れる可能性があることから、正しい鑑別が求められる。研究班の基準が評価に有用と思われるが、最近の知見では、拡張障害型心不全などが背景にあるとされ、十分な検査情報の収集のもと、臨床所見を考慮して慎重な評価が必要である。
その他のインパクト
1.ポスター「輸血をして呼吸状態が悪化したら、TRALI / TACO を疑いましょう」作成
2.日本輸血細胞治療学会(日輸学会)HP、e-NewsでTRALI / TACOを発信
3.第139回日輸学会関東甲信越支部例会で、シンポジウム「TRALI / TACOの現状と最近の知見、診断基準の提案 ―厚生労働省研究班報告―」を実施
4.第62回日輸学会総会でシンポジウム「TRALI / TACOの診断基準とリスク因子」を実施
5.教育資材(ガイドブック)を作成

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
15件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
13件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
1件
その他成果(普及・啓発活動)
5件
1.ポスター作成 2.学会HP、e-News 3.シンポ「TRALI/TACOの現状と最近の知見、診断基準の提案」 4.シンポ「TRALI/TACOの診断基準とリスク因子」

特許

特許の名称
なし
詳細情報
分類:

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
田崎哲典
TRALI・TACOの早期診断と治療ガイドライン
医学のあゆみ , 253 (8) , 619-625  (2015)
原著論文2
田崎哲典、岡崎仁、稲田英一、他
TRALI,TACO 鑑別診断のためのガイドライン
日本輸血細胞治療学会誌 , 61 (4) , 474-479  (2015)

公開日・更新日

公開日
2021-05-28
更新日
-

収支報告書

文献番号
201427005Z