食品中の放射性物質濃度の基準値に対する影響に関する研究

文献情報

文献番号
201426044A
報告書区分
総括
研究課題名
食品中の放射性物質濃度の基準値に対する影響に関する研究
課題番号
H24-食品-指定(復興)-003
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
明石 真言(国立研究開発法人放射線医学総合研究所 食品放射性物質等研究チーム)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋 知之(京都大学原子炉実験所)
  • 塚田 祥文(福島大学)
  • 青野 辰雄(国立研究開発法人放射線医学総合研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
23,077,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成23年の東京電力(株)福島第一原子力発電所(FDNPS)事故により食品の摂取による内部被ばくが懸念された。厚生労働省は平成24年4月以降、年間1mSvとして導出された新たな基準値を適用した。新たな基準値の導出においては、放射性セシウム(Cs)濃度について基準値を設定し、その他の核種については、ストロンチウム-90(Sr-90)、ルテニウム-106(Ru-106)、プルトニウム-238(Pu-238)、プルトニウム-239(Pu-239)、プルトニウム-240(Pu-240)及びプルトニウム-241(Pu-241)を評価対象核種として、放射性Csとの濃度比を推定することにより、その線量への寄与を考慮している。内部被ばく線量に対する放射性Cs及びその他の核種の寄与率は、環境モニタリングによる土壌や放出が予測された放射性核種と環境移行パラメータによって推定されており、食品中濃度を測定した結果に基づくものではない。本研究では食品(農畜水産物等)中の放射性Cs及びその他の長半減期放射性核種濃度及び調理加工に伴う濃度変化について調査を行い、基準値策定に用いられた濃度比との比較や食品の摂取に起因する内部被ばく線量を求め、年間線量を1mSvとした食品中の放射性Cs濃度基準値の妥当性の検証を行うことを目的とした。
研究方法
食品加工や調理に伴う食品中の放射性物質の濃度変化に関する研究では、FDNPS から30km圏内の海域の魚介類可食部中の放射性核種濃について検討した。 農畜産物中放射性核種の測定及び低減化に関する研究では、福島県産で市場流通している農作物を大量に処理し、放射性核種濃度を、基準値導出に用いられた濃度比や、過去の大気圏内核実験によるフォールアウトに起因する農作物中放射性核種の濃度レベルと比較検討した。放射性Cs濃度と調理加工による低減割合についても求めた。食品中放射性Cs濃度基準値の妥当性検証では、平成24-25年度の食品試料中安定カリウム(K)及び安定カルシウム(Ca)濃度を用いて、農畜産物の経口摂取による放射性Cs及びSr-90に起因する内部被ばく線量を評価し、Sr-90を考慮した内部被ばく線量と介入線量レベルを比較検討した。
結果と考察
調査した魚介類では基準値を超えた試料はなく、Sr-90及びPu-239+240濃度は検出下限値以下で、基準値導出における推定方法が妥当であることが示唆された。水産物の調理加工に伴い、可食部の放射性Cs濃度とカリウム-40(K-40)が50-90%程低下することが明らかとなった。9種類の農作物中Sr-90濃度は、0.0047-0.30 Bq/kg-生重量の範囲であった。Sr-90について、FDNPS事故の影響が明確に見られた試料はなく、基準値導出における推定方法が妥当であることが示唆された。山菜は、その種類や調理加工方法によって放射性Csの低減割合は異なった。また、イノシシ肉の血抜きでは、放射性Cs濃度が約5分の1に低減した。帰還困難区域内にある大熊町の試験圃場で栽培された農作物中のSr-90/ Cs-137濃度の比は、基準値策定時に用いられたSr-90/ Cs-137比より低かった。また、事故由来のPuは認められなかった。調理加工により山菜や野獣肉中放射性Cs濃度は減少し、特にイノシシ肉は血抜きによって大きく減少した。安定Cs濃度と安定K濃度から年間内部被ばく線量推定値を男女別、年齢階層別に評価した結果、年間内部被ばく線量は放射性Cs、Sr-90ともに1×10-3のオーダーであり、合計しても年間1 mSvを大幅に下回っていた。Sr-90の推定結果には不確実性が大きく、より精度の高い推定を行うためには、試料数を増やすなどのより詳細な検討が必要と考えられる。
結論
魚介類可食部に基準値を超えた試料はなく、Sr-90及びPu-239+240は検出されなかった。農作物は、過去のCs-137及びSr-90の濃度範囲で、また食品中放射性Cs基準値の導出の際に評価した核種濃度比と比較した結果、基準値導出における推定方法が妥当であることが示唆された。また大熊町の試験圃場の農作物でも、Sr-90/Cs-137濃度比は想定値よりも低い値であった。採取試料の濃度から推定した内部被ばく線量の評価結果は、フォールアウトによるSr-90の寄与を含めても、介入線量レベルである年間1 mSvを大幅に下回っていた。また、事故に起因する放射性Cs以外の核種の影響は極めて小さく、放射性Csに対する基準値の算定値は、妥当であったと考えられた。

公開日・更新日

公開日
2016-07-04
更新日
-

文献情報

文献番号
201426044B
報告書区分
総合
研究課題名
食品中の放射性物質濃度の基準値に対する影響に関する研究
課題番号
H24-食品-指定(復興)-003
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
明石 真言(国立研究開発法人放射線医学総合研究所 食品放射性物質等研究チーム)
研究分担者(所属機関)
  • 高橋 知之(京都大学原子炉実験所)
  • 塚田 祥文(福島大学)
  • 青野 辰雄(国立研究開発法人放射線医学総合研究所 食品放射性物質等研究チーム )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
平成23年福島第一原子力発電所(FDNPS)事故により食品の摂取による内部被ばくが懸念された。厚生労働省は平成24年4月以降、年間1mSvとして導出された新たな基準値を適用した。この基準値の導出には、放射性セシウム(Cs)濃度について基準値を設定し、その他の核種については、半減期が1年以上であるストロンチウム-90(Sr-90)、ルテニウム-106(Ru-106)、プルトニウム-238(Pu-238)、プルトニウム-239(Pu-239)、プルトニウム-240(Pu-240)及びプルトニウム-241(Pu-241)を評価対象核種として、放射性Csとの濃度比を推定することにより、その線量への寄与を考慮している。内部被ばく線量に対する放射性Cs及びその他の核種の寄与率は、環境モニタリングによる土壌中放射性核種濃度や、これまでの環境移行パラメータによって推定されており、実際に食品中濃度を測定した結果に基づくものではない。本研究では食品(農畜水産物等)中の放射性Cs及びその他の長半減期放射性核種の濃度変化について調査を行い、基準値作成に用いられた濃度比との比較や食品の摂取に起因する内部被ばく線量に対する放射性Csの寄与率の推定から、介入線量を年間1mSvとした食品中の放射性Cs濃度基準値の妥当性の検証を行うことを目的とした。
研究方法
食品(農畜水産物等)中の放射性Csとその他の長半減期放射性核種濃度及び調理加工に伴う濃度変化について調査を行い、基準値作成に用いられた濃度比との比較や食品の摂取に起因する内部被ばく線量に対する放射性Csの寄与率の推定から、食品中の放射性Cs濃度基準値の妥当性の検証を行うこととした。そこで食品中の放射性物質濃度の基準値に対する影響に関する研究を行うために、食品加工や調理に伴う食品中の放射性物質の濃度変化に関する研究及び環境中における放射性物質動態の実態把握に関する研究を実施した。
結果と考察
市場に流通する福島産水産物及び水産加工物及びFD1NPSから30km圏内の海域の魚介類の可食部の放射性核種の測定を行ったところ、食品中の基準値を超えた試料は、平成25年に楢葉町沖合で採取したコモンカスベのみであった。平成25年度に比べて平成26年度の魚介類中の放射性Cs濃度は約1割までに減少する傾向にあった。平成26年度の魚介類中のSr-90及びPu-239+240濃度は検出下限値未満であった。また水産加工物については、生試料を乾燥して干物にしてもカリウム-40 (K-40)濃度は増加したが放射性Csは検出されなかった。生試料を煮だし実験を行った結果、放射性CsとK-40濃度が調理加工前に比べ調理加工後では25-77%に低減した。つまり水産物については基準値導出における推定方法が妥当であることが示唆された。また試験栽培のシイタケを用いた実験室レベルで乾燥キノコの加工実験では放射性Csが9倍ほど高くなった。福島県産品の食品(農畜産物)の放射性Cs濃度は、平成24年度に7.2 (<0.1~40)Bq/kg-生重量、平成25年度に2.0 (<0.1~14) Bq/kg-生重量と経時的に減少し、一般食品の基準値である100 Bq/kgを超えた試料はなかった。また、Sr-90濃度は、事故の影響が明確に見られた試料はなく、基準値の導出の考え方によるSr-90 /Cs-137濃度比よりも低いか、大気圏内核実験由来の濃度レベルにあり、基準値導出における推定方法が妥当であることが示唆された。事故由来のPuは検出しなかった。安定元素濃度を利用して放射性Cs及びSr-90による内部線量評価を試みた結果、いずれについても介入線量レベルとして設定された年間1mSvよりも極めて低い値であり、本基準値による規制が十分妥当であることが示された。
結論
福島沖で採取した魚介類の放射性Cs濃度は年々減少し、魚類可食部に本事故由来のSr-90及びPu-239+240は検出されなかった。つまり本事故による影響は確認できなかった。福島県産農畜産物に限定し、一部帰還困難区域内の試験圃場で栽培された作物についても測定を行うことにより、基準値策定時の妥当性や大熊町の試験圃場の土壌で栽培された農作物中90Sr/137Cs濃度比は評価値よりも低く、その妥当性について検証した。調理加工により放射性Cs濃度が低減化するため、それら食品中濃度を直接測定した結果より調理加工後の値は、低くなる。そのため、食品中濃度から評価される被ばく線量より、調理加工された食品を摂取することによる被ばく線量は小さな値になると考えられる。事故に起因する放射性Cs以外の核種の影響は極めて小さく、90Sr等の他の放射性核種の寄与を安全側に考慮した放射性Csに対する基準値の算定値は、妥当であったと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2016-11-25
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201426044C

成果

専門的・学術的観点からの成果
厚生労働省は平成24年4月以降、介入線量を年間1mSvとして、新たな基準値を適用した。濃度基準値の妥当性を評価するためには、食品について、内部被ばくに対する核種の寄与率の状況を把握する必要があり、放射性Cs以外の核種や安定元素を用いて、基準値導出における推定方法が妥当であることを検証した。また内部線量評価を試み、介入線量レベルとして設定された年間1mSvよりも極めて低く、規制が十分妥当であることを示した。
臨床的観点からの成果
特になし
ガイドライン等の開発
食品中の放射性物質の基準値の妥当性を評価するために必要なデータを示しかつ検出された放射性核種の起源を加味しながらながら、福島県産品の食品に着目し、基準値の導出における推定法を検証する方法を明らかにすることができた。さらに、放射性核種濃度が検出できない場合でも安定元素濃度を利用し内部線量評価を行う方法を明らかにすることができた。今後、福島において新たに農畜水産業等が再開した場合においても適用が可能である。
その他行政的観点からの成果
食品中の放射性物質の基準値は介入線量レベルとして設定された年間1mSvとして設定され、マーケットバスケット方式や陰膳方式で食品摂取に伴う内部被ばく線量が年間1mSvよりも極めて低いことが報告されているが福島県産の食品に関して風評被害は根強いものがある。この風評被害を払拭するために、すべて福島県産のものを用いて研究を行い、放射性Cs以外の核種についても測定を行い、その起源についても考察を行った。生産者や地域の方と話をすることで地元で消費される食品についても調査を行うことができた。
その他のインパクト
食品中の放射性物質濃度のモニタリングでは、検出下限値以下の場合、真の濃度はわからず、線量評価も保守的な結果を示す場合が多い。今回の研究手法と得られた結果は、事故前のバックグラウンド濃度まで検出下限値を下げ、かつCs以外の核種についても調査を行い、食品中の放射性物質の基準値の妥当性を評価することができた。そのため講演会等においても、数値を示しながら説明ができ、食品中の放射性物質の基準値に関する安心安全を理解を促進させることができた。

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
0件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2018-06-21
更新日
-

収支報告書

文献番号
201426044Z