食品安全行政における政策立案と政策評価手法等に関する研究

文献情報

文献番号
201426041A
報告書区分
総括
研究課題名
食品安全行政における政策立案と政策評価手法等に関する研究
課題番号
H26-食品-指定-006
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
渋谷 健司(東京大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 春日 文子(国立医薬品食品衛生研究所安全情報部)
  • 宮川 昭二(国立感染症研究所国際協力室)
  • 西浦 博(東京大学大学院医学系研究科)
  • Stuart Gilmour(スチュアート ギルモー)(東京大学大学院医学系研究科)
  • Md Mizanur Rahman(エムディー ミジャヌール ラーマン)(東京大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 食品の安全確保推進研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
3,847,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究の目的は、DALYs(障害調整生存年)という概念を用いて、食品由来疾患に対する様々な対策が人口レベルで疾病負荷の軽減にどの程度影響を及ぼしているかを明らかにする評価手法を開発することであり、効率的で質の高い行政及び成果重視の行政の推進に資する研究を行うことである。具体的には、推計に必要な根拠データのデータベースを構築し、推定可能な病原因子の範囲を広げるとともに、食肉処理および食鳥処理にハサップ処理を導入した際の効果を定量化するためのDALYsを活用した政策評価モデル構築することを目的としていた。更に、福島第一原子力発電所事故後のわが国における食品安全行政体制を整理し、俯瞰することも目的とした。
研究方法
平成26年度からの3年計画の1年目として、DALYsの推計対象の食品由来疾患を拡大し、リステリア・モノサイトゲネスおよびノロウイルスによる被害実態を推計し、その手法の妥当性を検証した。また、我が国の食品由来疾患の負担を包括的に推計するために、各危険因子への暴露の現実の分布を最適な分布へ修正することによって回避可能な死亡数を推定し、それを危険因子間で比較検証の実現可能性を検討するため、食肉および食鶏肉の処理にハサップ手法(HACCP手法)を導入した際の効果をとりあげ、食肉中の病原微生物の汚染実態に関するデータを収集・整理した。更に、食品を介した内部被ばくも関連する可能性のある甲状腺がんの発生に関する詳細な検討を行った。
結果と考察
春日、スチュアート、ラハマンは食品由来のリステリア・モノサイトゲネスおよびノロウイルスによる実被害患者数および被害実態(DALYs)を推計し、課題を抽出した。その結果、リステリア・モノサイトゲネスの被害実態は、2011年は3,779DALYs (YLD: 15.5, YLL: 3,764)と2008年は2,412 (YLD: 10.6, YLL: 2,401)、ノロウイルスの被害実態は、2011年は515.3DALYs(YLD; 58.2, YLL; 457.0)と、2008年は238.7DALYs(YLD; 61.0, YLL; 177.6)と推計され、リステリア・モノサイトゲネスの被害実態では死亡者の割合が大きく影響していることから、リステリア症による死亡者のより正確な把握が重要であること、ノロウイルスによる急性胃腸炎と同様の症状を呈する他の感染性胃腸炎の病原体(ロタウイルス、アデノウイルス)との割合の把握に関する情報の収集を充実させる必要があることが示唆された。
西浦は、数理モデルを利用したHACCP導入効果の定量化のため、量反応関係に基づく数理モデルの定式化を実施した。また、特定の対策下の微生物量に関するデータ収集のため、と畜場および食鳥処理場における枝肉などの病原微生物による汚染実態調査データを収集した。その結果、食肉衛生検査所を設置する57の都道府県等(平成26年度)のうち、35(61.4%) の都道府県等から回答があった。と畜場については52施設(全国の一般と畜場の26.9%)の処理状況が回収され、牛肉の処理については43施設(回答のあった処理場の82.7%)の検査結果を、豚肉の処理については9施設(回答のあったと畜場の4.7%)の検査結果を入手した。また、食鳥処理場については59施設(全国の食鳥処理場の2.5%)の処理状況が回収され、51施設(86.4%)の検査結果を入手することができたが、これらの調査結果はと体の表面のふき取り検査による病原微生物の汚染の有無をチェックしている結果であった。
春日、宮川は、東京電力福島第一原子力発電所事故への食品安全行政の対応をまとめ、海外に情報発信するとともに、福島県甲状腺がんの発生に関する疫学検討会を開催し、福島県の小児における甲状腺がん患者の発生動向及びその発生要因に関する疫学的検討を行い、今後必要な政策を検討し、放射線被ばくの影響を把握するためには長期にわたり甲状腺検査を継続する必要があること等を抽出した。

結論
今年度は、カンピロバクター属菌、サルモネラ属菌、腸管出血性大腸菌に加え、リステリア・モノサイトゲネスおよびノロウイルスによる食品由来の被害実態の推計を試みるとともに、DALYsを用いた政策評価モデルの実効性を検証するために食肉処理工程および食鶏肉処理工程における汚染実態に関するデータの収集を試みた。また、福島第一原子力発電所事故後のわが国の食品安全行政体制について分析し、その成果を英語論文として投稿するとともに、食品などを介した内部被ばくも関連する可能性のある甲状腺がんの発生に関する詳細な疫学的検討を行った。

公開日・更新日

公開日
2015-06-04
更新日
-

収支報告書

文献番号
201426041Z