リスクアセスメントを核とした諸外国の労働安全衛生制度の背景・特徴・効果とわが国への適応可能性に関する調査研究

文献情報

文献番号
201425017A
報告書区分
総括
研究課題名
リスクアセスメントを核とした諸外国の労働安全衛生制度の背景・特徴・効果とわが国への適応可能性に関する調査研究
課題番号
H26-労働-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
三柴 丈典(近畿大学 法学部政策法学科)
研究分担者(所属機関)
  • 水島 郁子(大阪大学大学院 高等司法研究科)
  • 井村 真己(沖縄国際大学 法学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 労働安全衛生総合研究
研究開始年度
平成26(2014)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
2,380,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 わが国の安衛法令は、その制定から40年を経て、①法令全体での条文数が肥大化し、特に中小企業者にとって確認及び遵守が困難、②適時の適切な見直しが困難、③企業ごとの合理的な判断に基づく自主的取り組みへの制約等の問題を生じている。
 そこで、英米及びEUの関連法制度について調査研究を行ったうえで、既存の法規制の整理統合を図りつつ、労働安全衛生水準の維持向上を図り得る法体系のありようを検討する。
研究方法
 先ず、厚生労働省担当課との協議を踏まえて研究代表者がフォーマットを作成し、分担研究者と研究協力者に示した。
 その後、厚生労働省担当課と当研究班との連絡会議で、本研究プロジェクトの趣旨目的について理解の共有を図ると共に、研究分担体制及び国ごとの重点的な調査課題の抽出等を行った。これを踏まえ、各分担研究者が、第一次資料のレビューに基づいて、フォーマットの項目について調査を実施した。ただし、研究目的に資する限り、国情に応じた項目の変更を認めることとした。
結果と考察
 イギリスの法制度調査からは、日本の安衛法の体系的見直しと、微調整の双方に関わる包括的な示唆が得られた。即ち、ローベンス報告を基礎とする彼国の安衛法は、雇用者など安全衛生上のリスクをもたらす者に、合理的に可能な限り、罰則付きで安全から快適職場形成までの確保を求める一般条項と、その具体化や補足を図る規則、法目的への誘導を図る行為準則を骨格とし、安全衛生にかかる専門性の高い監督官に一定の裁量と権限を与えて履行確保を図っている。各事業場での自律的な安全衛生活動を保障された安全代表制度や、雇用者のリスク管理活動などを監視する安全衛生委員会も重要な役割を果たしており、既にリスク管理的要素を内包していたが、EC・EUのリスク管理政策を規則レベルで受け入れ、その原則に応じた国内システムの見直しと調整がなされた。
 EU・ECの安全衛生枠組み指令に関する調査からは、リスク管理のエッセンスが明らかにされた。即ち被用者と外部者双方を射程に入れた、現場実態に応じ、幅広く、根本原因に遡ったリスクの洗い出し、グレー・リスクへの適切な対応の必要性、当事者意識を持って安全衛生に関わる人づくりと相互作用、連携の誘い(労働者教育と諸種の情報提供、労働者との協議、安全衛生に精通した担当者の選任と活動保障、一般知識と現場応用能力、連携能力を持つ人材の担当者への選任)、リスク管理の目的を結果より仕組みづくりに置くべきこと、リスク管理では、コンプライアンスと安全衛生の実効性の両者が目的とされるべきこと等が示されている。
 EUのOiRA(Online interactive Risk Assessment)に関する調査からは、中小企業やバックランナー対策に有効性を発揮する可能性のある要素が明らかにされた。即ち、業種や組織の個別事情との適合性、単純明快性、労力と費用の節約性、職場の内在リスクについての学びの可能性、コンプライアンス誘導効果、匿名性の高さなどが重視されていることが窺われた。但し、その有効性の普遍性については更に検証が必要と解された。
 アメリカの法制度調査からは、行政資源の有効活用とリスク管理への動機づけのための取組の要素が明らかにされた。即ち、1982年に導入されたVPP制度がその取組の中心であり、従前の労災発生率やOSHA違反の有無等の結果と共に、リスク管理体制の整備を含め、結果へ向けたアウトプットを参加のための認証評価基準としている。
結論
 初年度の調査結果のうち、法政策的に最も反映し易いのは、中小企業やバックランナーへの有効性が期待されるEUのOiRAだと思われるが、多様な職場リスクの管理を促進する上では、英米の法制度を参考に、安全衛生法体系の簡素化を基礎とした対話型の安全衛生行政と、それらを通じた安全衛生人材の育成、組織の安全衛生文化の進展の促進などを測る必要が示唆される。
 短期展望としては、企業における安全衛生担当役員選任の促進、中小企業対策における社会保険労務士の活用、労災発生率の高い組織の労災防止団体への強制加入等の施策、中長期的展望としては、対話型安全衛生行政の推進のための法体系の簡素化と実効性の強化が検討されるべきように思われる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-22
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

収支報告書

文献番号
201425017Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
2,800,000円
(2)補助金確定額
2,593,000円
差引額 [(1)-(2)]
207,000円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 185,742円
人件費・謝金 1,173,139円
旅費 362,282円
その他 452,100円
間接経費 420,000円
合計 2,593,263円

備考

備考
千円未満の端数263円を切り捨てて自己負担としたため。

公開日・更新日

公開日
2015-06-22
更新日
2016-01-19