鍼灸の作用機序に関する科学的根拠の確立と神経内科専門医と連携した鍼灸活用ガイドラインの作成

文献情報

文献番号
201424001A
報告書区分
総括
研究課題名
鍼灸の作用機序に関する科学的根拠の確立と神経内科専門医と連携した鍼灸活用ガイドラインの作成
課題番号
H24-医療-一般-023
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 則宏(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 荒木 信夫(埼玉医科大学)
  • 山口 智(埼玉医科大学)
  • 伊藤 和憲(明治国際医療大学鍼灸学部)
  • 清水 利彦( 慶應義塾大学 医学部)
  • 柴田 護( 慶應義塾大学 医学部)
  • 鳥海 春樹(慶應義塾大学 大学院政策メディア研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
7,700,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は、頭痛を対象に鍼治療が効果をきたす作用機序を明らかにするとともに有用性を示すエビデンス集積を目的として平成24年度より検討を継続している。
頭痛のなかでも拍動性で重度の痛みを示す片頭痛は、患者の日常生活に多大な支障をきたし、その病態には皮質拡延性抑制(cortical spreading depression; CSD)と呼ばれる現象が関与することが示されている。今年度は、三叉神経以外の感覚神経がCSDの発生に及ぼす影響を検討した。さらに、咬筋に対して慢性痛モデルの作成を試みたがそのモデルが慢性モデルとして妥当か、脊髄の可塑的変化の指標であるWind-up現象の確認を行った。同時に鍼治療を活用するためのガイドライン化に必要なエビデンスの集積のためArterial Spin Labeled MRIを用いた脳血流の影響について検討した。
研究方法
1.慢性筋痛モデルに関する検討
SD系雄性ラットを虚血モデル群、運動負荷群、虚血および運動負荷をかけた群に群分けした。虚血モデルの作成として、右側の大腿動脈と静脈を部分的に結紮した。運動負荷は伸張性収縮運動を行った。コントロール群に関しては鍼通電のみ行った。
2.三叉神経以外の体性感覚神経がCSDの発生閾値に及ぼす影響
SD系雄性ラットの両側足底部に10mM capsaicinを4~6日間連日投与し2群(各5匹)に分けた(4日投与群(feet-d4群),6日投与群(feet-d6群))。また両側頬部に10mM capsaicinを4~6日間連日投与した群(4日投与群(face-d4群),6日投与群(face-d6群))ならびにコントロール群(C群;左右頬部にvehicleを4日間)を作成した。各群のラット脳表に、デンタルセメントを用いてDC電極を設置し、濃度調整したKClを10μl毎注入し、CSDの発生回数と持続時間を記録した。
3  Arterial Spin Labeled MRIによる脳血流測定
片頭痛の診断を満たした女性10名を対象に、側頭筋、咬筋、僧帽筋、板状筋上のツボに非磁性針による鍼刺激(置鍼10分)を行った。脳血流を鍼刺激前、鍼刺激中5分、10分後、鍼刺激終了直後、15分、30分後の6回、3TMRI によるpulsed ASL法により測定した。鍼治療前と鍼治療4週後のベースのラインと鍼刺激による変化について比較した。
結果と考察
1.慢性筋痛モデルに関する検討
阻血を行わずに運動負荷を行った対照群では、運動負荷前、運動負荷2日とも、1秒に1回電気刺激を行ってもWind-up現象は観察されなかったが、大腿動脈を阻血後に運動負荷を行った群では、運動負荷2日目に運動負荷側で殆どの動物でWind-up現象が認められた。また、運動負荷を行っていない側(反対側)でも、一部の動物でWind-up現象が認められた。しかしながら、運動負荷前の阻血を行っただけの状態ではWind-up現象は認められなかった。
2.三叉神経以外の体性感覚神経がCSDの発生閾値に及ぼす影響
1.0M KCl投与におけるCSDの発生回数および持続時間は,C群、 feet-d4群およびfeet-d6群と比較しface-d4群および face-d6群で有意な増加を示した(p < 0.05)。
3.  Arterial Spin Labeled MRIによる脳血流測定
4週間の鍼治療後におけるpreの脳血流は、鍼治療前と比較し、両側頭頂葉の血流は有意に低下し、左前頭葉や右後頭葉などの血流は有意に軽度増加した。一方、鍼刺激による変化は、4週間の鍼治療後の方が鍼治療前と比較し、視床や島皮質の血流の変化が有意に少なかった。
結論
本研究は,TRPV1受容体を介した末梢の感覚神経の侵害刺激がKCl 投与により誘発されるCSDの出現頻度と持続時間の増加を来たす際、三叉神経が重要な役割を担っていることを明らかにした。我々は筋に実験的トリガーポイントを作成することを行ってきたが、咬筋に作成したトリガーポイントは、慢性痛モデルとして妥当なモデルであると考えられた。また本年度の臨床研究において、片頭痛患者に対する鍼治療後の脳血流は治療前と比べると変化するが、その変化は4週後においても認められ、持続することを明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-

文献情報

文献番号
201424001B
報告書区分
総合
研究課題名
鍼灸の作用機序に関する科学的根拠の確立と神経内科専門医と連携した鍼灸活用ガイドラインの作成
課題番号
H24-医療-一般-023
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
鈴木 則宏(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 荒木 信夫(埼玉医科大学)
  • 山口 智(埼玉医科大学)
  • 伊藤 和憲(明治国際医療大学鍼灸学部)
  • 清水 利彦(慶應義塾大学 医学部)
  • 柴田 護(慶應義塾大学 医学部)
  • 鳥海 春樹(慶應義塾大学 大学院政策メディア研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究分野 【補助金】 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
本研究は神経内科の中でもっとも多い疾患の1つである頭痛を対象に、鍼治療が効果をきたす作用機序を解明することを目的として平成24年度より3年間研究を行った。片頭痛の病態には皮質拡延性抑制(cortical spreading depression; CSD)と呼ばれる現象が関与すると考えられている。このCSDに着目し鍼治療が頭痛に対し効果を示す機序を検討するための実験動物モデルを作成した。臨床研究においては、Arterial Spin Labeled MRIを用い、片頭痛患者を対象に鍼治療が脳血流におよぼす影響について検討し鍼治療を活用するためのガイドライン化に必要なエビデンスの集積を目的とした。
研究方法
1. 感覚神経に対する侵害刺激がCSDの発生閾値に及ぼす影響
Sprague-Dawleyラットの両側足底部に10mM capsaicinを4~6日間連日投与し2群(各5匹)に分けた(4日投与群(feet-d4群),6日投与群(feet-d6群))。また両側頬部に10mM capsaicinを4~6日間連日投与した群(4日投与群(face-d4群),6日投与群(face-d6群))ならびにコントロール群(C群;左右頬部にvehicleを4日間)を作成しKCl投与によるCSDの発生回数と持続時間を記録した。
2.Arterial Spin Labeled MRIによる脳血流測定
片頭痛患者と健康成人で鍼治療前後の脳血流量を比較した。さらに片頭痛の診断を満たした女性10名を対象に、側頭筋、咬筋、僧帽筋、板状筋上のツボに非磁性針による鍼刺激(置鍼10分)を行った。脳血流を鍼刺激前(pre)、鍼刺激中5分(stim1)、10分後(stim2)、鍼刺激終了直後(post1)、 15分(post2)、30分後(post3)の6回、3TMRI ( Siemens社製MAGNETOM Verio ) によるpulsed ASL法により測定した。鍼治療前と鍼治療4週後のベースのラインと鍼刺激による変化について比較した。
結果と考察
1. 感覚神経に対する侵害刺激がCSDの発生閾値に及ぼす影響
1.0M KCl投与におけるCSDの発生回数は,C群、feet-d4群およびfeet-d6群で有意な差を認めなかったが、face-d4群とface-d6群では有意な増加を示した。CSD持続時間は,1.0M KCl投与でC群、feet-d4群および feet-d6群で有意な差を認めなかったが、face-d4群およびface-d6群で有意な延長を示した。
2.Arterial Spin Labeled MRIによる脳血流測定
片頭痛患者は健康成人と比較した結果、鍼刺激中・刺激終了後で視床や視床下部および弁蓋部や帯状回、島の血流増加反応が顕著であり、頭頂葉喫前部が特異的に増加した。4週間の鍼治療後におけるpreの脳血流は、鍼治療前と比較し、両側頭頂葉の血流は有意に低下し、左前頭葉や右後頭葉などの血流は有意に軽度増加した。一方、鍼刺激による変化は、4週間の鍼治療後の方が鍼治療前と比較し、視床や島皮質の血流の変化が有意に少なかった。
結論
本研究の結果より、片頭痛のモデル動物を作成するにあたりトリガーポイントを作成する場合は、三叉神経支配領域に作成することが重要であり、これらの知見を総合することにより鍼治療の作用機序を検討する動物モデルを作成した。また臨床研究において鍼治療は高位中枢の反応性を正常化させるとともにその変化を持続させる可能性を有していると考えられた。本研究から慢性頭痛に対する鍼灸治療の効果を示す重要なエビデンスを多数得ることができた。これらの研究結果は、慢性頭痛の診療ガイドラインを改定する際のエビデンスとなるものであり、今後、頭痛診療における統合医療の領域において国民に対する医療サービスの向上に多大な貢献をきたし得るものと考えられる。

公開日・更新日

公開日
2015-05-26
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-05-13
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201424001C

収支報告書

文献番号
201424001Z