ツパイ全ゲノム解析に基づくB型肝炎ウイルス感染感受性小動物モデルの開発に関する研究

文献情報

文献番号
201423041A
報告書区分
総括
研究課題名
ツパイ全ゲノム解析に基づくB型肝炎ウイルス感染感受性小動物モデルの開発に関する研究
課題番号
H24-B創-肝炎-一般-014
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
小原 道法(公益財団法人東京都医学総合研究所 ゲノム医科学研究分野)
研究分担者(所属機関)
  • 保富 康宏(独立行政法人医薬基盤研究所・霊長類医科学研究センター)
  • 小原 恭子(鹿児島大学共同獣医学部•越境性動物疾病制御研究センター)
  • 石井 健(独立行政法人 医薬基盤研究所・免疫学、ワクチン学)
  • 押海 裕之(北海道大学大学院・医学研究科)
  • 村上 周子(公立大学法人名古屋市立大学院医学研究科)
  • 櫻井 遊(北海道大学大学院薬学研究院)
  • 日浅 陽一(愛媛大学大学院医学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 肝炎等克服実用化研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
90,909,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HBV感染を防ぐワクチンや治療薬の開発には有効な実験動物モデルが必要であるが、これまでに感染感受性が報告された動物モデルはチンパンジーのみである。しかしチンパンジーは、動物愛護の観点から、実験動物としての使用が制限されており、安楽殺が禁止されているため実験終了後も飼育が必要である。以上の点から、チンパンジーに代わる実験動物モデルの確立が急務となっている。本研究では、感染感受性があることが知れているツパイをHBV感染症のモデル動物として確立するとともに、本動物系を免疫賦活化による治療法開発および新規治療薬開発へ応用することを目的とする。
研究方法
ツパイは、B型肝炎ウイルス(HBV)に感染感受性を示し、肝炎も発症することから、チンパンジーに変わるB型肝炎のモデル動物となることが期待される。ツパイは肝炎ウイルス感染動物実験モデルの候補として優れているものの、これまでその免疫応答を解析するツールは殆ど存在していない。治療薬の効果を評価するにはツパイの免疫応答機構を解析するツールの作製が必須である。そこで、①HBV高感受性ツパイ個体を選択し、治療や病態解析実験動物モデルとして使用可能な系統化する。②ツパイ高感染性HBV株と、HBV高感受性ツパイ系統を各々樹立し、両者を組み合わせることで、慢性肝炎や肝がんをより高頻度に発症する条件を確立する。③治療薬の効果を評価するにはツパイの免疫応答機構を解析するツールの作製が必須である。そこで、ツパイの全ゲノム解析データ情報を基に免疫機構解析ツールを確立する。④抗ウイルス活性を持つ化合物や治療ワクチンなどの効果を検証する。
結果と考察
HBVはツパイの肝細胞においてヒトと同程度の増殖性を有していることが示された。またHBVをツパイに感染させることで、肝炎を呈することが確認され、ツパイはヒトにおけるHBV感染病態を模したモデル動物として有用であることが示された。
また今回HBV感染ツパイでは、感染後1日目より炎症性サイトカインなどの惹起がみられ、また病理学的にも所見が認められ、感染のごく初期から肝炎を呈していることがわかった。このような知見は、従来のチンパンジーを用いた感染系では動物が貴重であるため、得られていない知見であり、ツパイを用いることで得られたまったく新しい知見であるといえる。
ツパイの妊娠期間は40日程度であり、離乳までの期間が60日程度である。年間3-4回の繁殖が可能である。これから計算すると、1匹あたり、年間10-15匹の産子が得られる。調べた全てのHBV株に感染感受性を示したが、持続感染を成立させるためには、A2かJ株の皮下接種が良いと考えられた。また、ツパイのHBV感染感受性系統を今後確立していく必要がある。さらに、ツパイ新生児感染実験から、母親や父親に水平感染が成立し、感染経路の解析にも使用できる可能性が明らかとなった。
HBV感染実験では血中から高頻度でウイルスゲノムが検出されている個体も確認できている。これらのF1個体からF2個体の作出も試みており、HBV高感受性ツパイ系統の樹立が大きく期待できる。
 さらに、現在、ヒトにおいて臨床治験が行われている治療ワクチンに関して、本研究ではツパイを用いて、誘導される免疫応答を評価することができた。今後はウイルス感染個体などを用いて、ウイルス排除の効果を評価するなどして最適なプロトコールを検討・構築するとともにウイルス排除機構の解明にも応用する予定である。
結論
ツパイの肝細胞はHBVに対してヒト肝細胞と同程度の感染増殖性を示した。またHBVがツパイに感染すると感染の初期より肝炎を引き起こし、また持続的に感染することが明らかとなり、ツパイがヒトにおけるHBV感染モデル動物として有用であることが明らかとなった。持続感染を示したツパイに関してはウイルスの詳細な検討も必要と考えられる。加えて宿主側因子の解明の必要性もある。

公開日・更新日

公開日
2017-01-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-05-13
更新日
-

収支報告書

文献番号
201423041Z