B型肝癌における自然免疫の機能解明とその制御による発癌抑止法開発

文献情報

文献番号
201423035A
報告書区分
総括
研究課題名
B型肝癌における自然免疫の機能解明とその制御による発癌抑止法開発
課題番号
H24-B創-肝炎-一般-008
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
加藤 直也(東京大学 医科学研究所)
研究分担者(所属機関)
  • 横須賀 收(千葉大学 大学院 医学研究院 消化器・腎臓内科学 )
  • 小池 和彦(東京大学医学部附属病院 消化器内科)
  • 松田 浩一(東京大学 医科学研究所)
  • 地主 将久(慶應義塾大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 肝炎等克服実用化研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
84,616,000円
研究者交替、所属機関変更
所属機関異動 研究分担者:地主将久 北海道大学(平成26年4月1日~平成26年12月31日)→慶應義塾大学(平成27年1月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
肝炎ウイルスによる肝発癌抑止は肝臓学の最重要課題である。我々はGWASを行い、C型肝炎において、NK細胞の標的分子であるMICAのSNPが肝癌と関連していることを明らかにした(Nat Genet 2011)。MICA SNPはB型肝癌とも関連、すなわち、ウイルス感染肝細胞とNK細胞を中心とした自然免疫系との攻防がB型肝炎における肝発癌に関わっている。そこで、HBVによる発癌における自然免疫系の役割を明らかにし、自然免疫系の制御による肝発癌抑止法を開発することを目的とする。
研究方法
1. B型肝癌関連遺伝子MICAの発現調節機構の解明
MICAプロモーター上のSNPにより血中MICA濃度が異なる。そこで、責任SNPの同定を試みた。
2. B型肝癌感受性遺伝子MICA発現誘導剤のNK細胞抗腫瘍効果
スクリーニングにより最も強力なMICA誘導効果を示したHDAC阻害薬であるSAHAを用いてNK細胞傷害性試験を行った。
3. 新規B型肝癌関連遺伝因子の探索
HBV陽性肝癌患者237名、非癌コントロール15,060名を用いて、約60万か所のSNPタイピングを行なった。
4. MICAの翻訳後修飾(特にsheddingによる分泌)を制御する化合物の探索
N端にnano-lucを有するMICA発現コンストラクトを作製、HepG2.2.15細胞に恒常的に発現させたうえで化合物を作用させ、細胞上清中のルシフェラーゼ活性によりスクリーニングを行った。
5. HBV感染による自然免疫関連分子発現の解析
ヒト肝細胞キメラマウスから分離されたPXB細胞にHBVを感染させ、HBV DNAおよびHBsAgを測定した。Day 7/27/62/90にMICA発現を検討した。
6. 腫瘍内マクロファージのB型肝発癌におよぼすインパクトについての検討
マウス・ヒト腫瘍マクロファージを対象に、自然免疫分子(NKG2D、TIM-3、TIM-4等)発現やその腫瘍制御能を検討した。
結果と考察
1. プロモーター上の2 SNPはともにルシフェラーゼ活性を3~4倍変化させ、責任SNPと考えられた。2 SNPともに血中MICA濃度と関連した。2 SNPに結合する転写因子はB型肝癌抑止法の開発において魅力的なターゲットとなり得る。
2. SAHAによりMICA発現を誘導した肝癌細胞と、NK細胞株を共培養した結果、NK細胞傷害性は上昇した。SAHAは抗癌剤であるため、肝癌治療にも応用される可能性が期待される。
3. B型肝癌ともっとも強い関連を示したのはHLA-DP領域であったが、癌化よりむしろHBV感染の慢性化に関与すると考えられた。さらに様々な悪性腫瘍と関連するSNPについて検討したところ、CDKN2AやPHLDB1がB型肝癌と強い関連を示した。
4. 商業的に入手した1,280種の化合物についてスクリーニングを行い、Molsidomine、Metergolineによって、細胞内MICAが増える一方で、細胞外に分泌されるMICAは減少し、sheddingが抑制されていることが示された。実際に細胞表面のMICA量を確認したところ、ADAM阻害剤、MMP阻害剤と同程度に細胞表面のMICA発現量を増やしていた。
5. PXB細胞にHBVを感染させたところ、上清中HBV DNAはday 62まで陽性であった。MICAはday 27で感染HBV量依存的に発現が増加、day 62では発現が減少した。
6. NKG2Dは正常マクロファージと比して腫瘍内マクロファージに高発現しており、NKG2D陽性マクロファージはIFN-α/βを介して抗がん剤による抗腫瘍効果を高める効果を発揮した。また、ヒト化マウスの系を用いて、SAHAによる抗腫瘍効果がNKG2D系免疫応答に依存することを、ヒト化マウスを対象にした前臨床試験の系で証明した。
結論
・MICAの転写活性を規定するプロモーター上の2つのSNPが同定した。
・SAHAに関して、MICA発現誘導を介した抗腫瘍効果を、肝癌細胞株を標的としたNK細胞との共培養系にて実証した。
・B型肝癌の疾患関連遺伝子を網羅的に解析した結果、HLA領域が強い関連を示した。
・MICAのshedding制御法の開発を開始した。本法はこれまでの知見と合わせることによって効果的な免疫学的治療法につながると期待される。
・ヒト肝細胞キメラマウスから分離された初代新鮮肝細胞では少なくとも90日間のHBV感染状態の観察が可能であった。MICAはHBV感染とともに発現が増強し、HBsAgの排除前から減弱した。
・腫瘍マクロファージによるHBV発癌制御の一旦を明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2017-01-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-01-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201423035Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
110,000,000円
(2)補助金確定額
110,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 69,399,556円
人件費・謝金 8,248,513円
旅費 2,964,257円
その他 4,005,119円
間接経費 25,384,000円
合計 110,001,445円

備考

備考
消耗品費用が予定の金額を超過した為。

公開日・更新日

公開日
2016-05-23
更新日
-