B型肝炎ウイルスにおける糖鎖の機能解析と医用応用技術の実用化へ

文献情報

文献番号
201423034A
報告書区分
総括
研究課題名
B型肝炎ウイルスにおける糖鎖の機能解析と医用応用技術の実用化へ
課題番号
H24-B創-肝炎-一般-007
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
成松 久(独立行政法人産業技術総合研究所 糖鎖創薬技術研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 溝上 雅史(独立行政法人国立国際医療研究センター 肝炎・免疫研究センター)
  • 是永 匡紹(独立行政法人国立国際医療研究センター 肝炎・免疫研究センター)
  • 米田 政志(学校法人愛知医科大学 医学部 内科学講座(消化器内科))
  • 伊藤 清顕(学校法人愛知医科大学 医学部 内科学講座(消化器内科))
  • 尾曲 克己(公立大学法人名古屋市立大学大学院 医学研究科 病態医科学(ウイルス学分野))
  • 田尻 和人(国立大学法人富山大学附属病院 第三内科診療部門 消化器内科)
  • 伊藤 浩美(公立大学法人福島県立医科大学 医学部 生化学講座)
  • 梶 裕之(独立行政法人産業技術総合研究所 糖鎖創薬技術研究センター )
  • 千葉 靖典(独立行政法人産業技術総合研究所 糖鎖創薬技術研究センター )
  • 久野 敦(独立行政法人産業技術総合研究所 糖鎖創薬技術研究センター )
  • 栂谷内 晶(独立行政法人産業技術総合研究所 糖鎖創薬技術研究センター )
  • 佐藤 隆(独立行政法人産業技術総合研究所 糖鎖創薬技術研究センター )
  • 舘野 浩章(独立行政法人産業技術総合研究所 幹細胞工学研究センター)
  • 安形 清彦(独立行政法人産業技術総合研究所 糖鎖創薬技術研究センター )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 肝炎等克服実用化研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成28(2016)年度
研究費
71,200,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
日本には約140万人のHBV保有者がいると考えられ、従来型の母子感染に加え水平感染によっても広がりつつある。B型肝炎患者の要望に応えるべく、IFNや核酸アナログ薬に代わる新規の治療薬が期待されている。当班ではHBV感染や複製の過程における糖鎖の役割を明らかにし、HBVの感染を阻害する薬剤のシーズ、ウイルス粒子の形成や分泌に関わる糖鎖遺伝子の同定と抗HBVの創薬化、ヒト型糖鎖HBs抗原を開発し新規ワクチンの開発を目的とする。
研究方法
本研究では、肝疾患やHBV作製・感染実験の専門家とグライコプロテオミクス技術などの糖鎖機能解析技術を開発・実用化して来た糖鎖生物学者との協力体制(医工連携体制)により、HBV感染における糖鎖の機能を解析し、HBVに対する創薬実用化を図っている。
1) 血清より得られた精製HBs抗原のグライコプロテオミクス解析を行った。HBV DNAのコピー数、genotypeの違いなど背景肝の異なるHBV感染患者の血清の調製法を検討し、開発したレクチンアレイ解析を行った。
2) ヒト肝臓キメラマウスから肝細胞を調製し、レクチンアレイによって糖鎖プロファイリングを解析した。一次培養細胞からtotal RNAを調製し、次世代シーケンサーを用いてトランスクリプトーム解析を行った。
3) HBV上の糖鎖が如何にHBV感染に関与するかを明らかにするために、患者由来の調製HBVをグリコシダーゼ処理し感染実験を行った。HuH7細胞にタグ化したNTCP cDNAを発現する安定株を作成し、Myr-PreS1との結合実験を行った。
4) HBVを産生する細胞(感染症研究所より入手)を用いsiRNAライブラリーのスクリーニングを行った。候補siRNAの細胞への影響は、MTTアッセイ、レクチンブロッティング、トランスクリプトーム解析などを実施して解析した。
5) ワクチンとして適したペプチドあるいはHBs抗原を決定するために、HBs、PreS1、PreS2をマウスに摂取し、抗体価を測定した。酵母の形質転換で得られたクローンを培養し、菌体内から超遠心や透析によりL-HBs抗原を分離精製した。
結果と考察
本年度の研究により、1) B型肝炎患者血清より調製されたHBs抗原を分析し、PreS1、PreS2領域、及び S領域における糖鎖付加部位の同定及び糖鎖構造やミリストイル化などの解析に成功した。HBs抗原を認識する抗体とHBs抗原の糖鎖を認識するレクチンの組み合わせによって、ナノグラムオーダーの微量なウイルス粒子を破壊せず解析する事に成功した。患者血清サンプルの解析によりHBV DNA量と相関性があるレクチンが明らかになった。
2) HBV感染可能細胞と非感染可能細胞について、糖鎖遺伝子定量システム(qPCR)やRNA-seq、バイオインフォマティクス解析を行い、肝細胞特異的に発現する糖鎖関連遺伝子(糖転移酵素と内在性レクチン)の発現と糖鎖構造の差を解析した。解析結果を基に、HBV感染に関与する内在性レクチンの候補分子をリストアップした。
3) HBV感染実験においてグリコシダーゼやレクチンの影響が明らかになり、HBV糖鎖が感染効率に影響する事が示唆された。NTCP発現HuH7細胞を複数株作製し、感染モデルを構築した。Myr-PreS1との結合を確認し、糖鎖及びレクチンのHBV感染の影響解析を進めた。
4) 小胞体やゴルジ体での糖鎖合成の阻害剤を用い、糖鎖が付いたHBs抗原の発現やHBVの分泌が抑制される事を確認した。糖鎖遺伝子siRNAのスクリーニングにより、HBs抗原の糖鎖修飾やHBV分泌を減少させるターゲット遺伝子をリストアップした。
5) 糖鎖付きPreS1ペプチド及びL-HBsやM-HBs免疫マウス血清を用い、各種抗原(L-HBs, S-HBs, PreS1, PreS2)に対する反応性をS-HBs抗原と比較解析し、L-HBs抗原のワクチンとしての有用性が示唆された。L-HBs抗原を発現する安定発現酵母株を樹立し、菌体内からの抽出法の確立と超遠心法による糖鎖付加型HBs抗原の調製を行い、糖鎖付きHBs抗原の精製法を確立した。
結論
以上の研究・開発は概ね計画通りに進んでおり、(1) 糖鎖を有するHBs抗原の構造解析と新規検出系による患者データの取得、(2) HBV感染に関わるレクチン分子候補の同定、(3) HBV複製・分泌を阻害する糖鎖遺伝子の解析、(4) 糖鎖付きL-HBs抗原の調製と免疫実験で成果が得られた。

公開日・更新日

公開日
2017-01-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2017-01-20
更新日
-

収支報告書

文献番号
201423034Z