多機能幹細胞を用いた自然免疫再構築による肝炎治療法の開発と臨床応用

文献情報

文献番号
201423010A
報告書区分
総括
研究課題名
多機能幹細胞を用いた自然免疫再構築による肝炎治療法の開発と臨床応用
課題番号
H25-肝炎-一般-003
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
大段 秀樹(広島大学 大学院医歯薬保健学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 今村 道雄(広島大学病院)
  • 田原 栄俊(広島大学 大学院医歯薬保健学研究院 )
  • 田中 友加(広島大学 大学院医歯薬保健学研究院 )
  • 的崎 尚(神戸大学 大学院医学研究科)
  • 加藤 宣之(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 渡辺 信和(東京大学 医科学研究所)
  • 尾上 隆司(独立行政法人国立病院機構 呉医療センター臨床研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 肝炎等克服実用化研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
34,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我々は、肝未成熟NK細胞をIL-2存在下で賦活化した場合、CD81を介した抑制機構に抵抗性を示し、強いHCV複製抑制効果を誘導し得た。さらに、多機能造血幹細胞やiPS細胞から抗HCV効果を有するNK細胞を誘導することに成功した。本研究では、これらの自然免疫リモデリング技術を応用して、HCVが免疫応答を回避し持続感染に移行する機構を断ち切る根治療法を確立するため、新たな自然免疫抗HCV制御機構の解明とそれを基盤とした臨床試験を開始することを目的とする。
研究方法
CD34+血液幹細胞からNK細胞への誘導培養上清中の代謝産物をメタボローム解析で評価し、NK細胞の効率的な分化誘導に必要な物質の検討を行った。HCV entry assayにより誘導NK細胞のHCV感染に与える影響を解析した。誘導NK細胞の肝癌細胞株に対する抗腫瘍活性を評価した。ヒト線維芽細胞由来のiPS細胞株から分化誘導したNK細胞の機能分子およびサイトカイン産生能を解析した。広島大学および米国マイアミ大学で施行中の肝癌症例に対する肝移植患者への肝由来NK細胞を用いた制癌免疫療法の第I相臨床試験の結果を解析した。HCVを感染させたヒト肝細胞移植マウスにヒト末梢血単核球を移入後、IFN-αを投与し、血中HCV RNA量、ヒトアルブミン値、およびマウス肝内のヒトリンパ球の表現型を解析した。HCV抗原タンパクに対する特異的免疫反応マウスモデルを確立し、HCVタンパクを取り込んだ類洞内皮細胞のもつHCVタンパク抗原特異的反応抑制能を検討した。NK細胞による新たな抗HCV機構を探索する目的で、ヒト不死化肝細胞においてHCVにより発現誘導する自然免疫応答関連遺伝子を解析した。
結果と考察
CD34+細胞からCD56+NK細胞への分化に伴う細胞増殖時に、グルコースと一部の必須アミノ酸が枯渇していることが判明し、これらの基質の補充が必要であることが明らかとなった。HCV entry assayでは、CD34+血液幹細胞由来の誘導細胞全体では感染抑制効果は認めなかったが、NK細胞と非NK細胞に分けて評価すると、NK細胞ではHuh7.5細胞のHCV-RNAが低下しておりHCV感染抑制能が確認された。CD34+血液幹細胞由来の誘導NK細胞には、肝癌腫瘍株に対し、TRAILおよびパーフォリンを介した抗腫瘍効果が確認された。iPS細胞からのCD34+細胞→CD56+細胞への2段階分化培養におい、IFN-γの産生能を有する誘導NK細胞にHCVの増幅抑制が確認できた。広島大学で実施した生体肝移植症例24例におけるNK療法では、グレード3以上の投与関連有害事象を認めず安全に施行し得た。Case control studyで、術後病理学的にミラノ基準外となる再発危険症例で、NK療法群の無再発生存率が有意に良好であった。さらに、NK細胞療法実施群では、IL-28B SNP TT群でTG/GG群に比べ有意に術後のHCV-RNA値が抑制されていることが確認され、レシピエントのIL-28B SNPの違いによってNK細胞療法の効果に違いがある可能性が示された。米国マイアミ大学では、脳死肝移植18症例が登録され、安全性が確認された。NS5Aタンパクをアジュバントと共に免疫したマウスでは、NS5A抗原特異的T細胞反応増殖が惹起されることを認めた。さらにこのNS5A免疫マウスの抗原特異的T細胞反応増殖はNS5Aタンパクを門脈注入したマウスから分離した類洞内皮細胞との共培養により有意に抑制されることを見出した。また、類洞内皮細胞による免疫反応抑制下ではIFN-γの分泌が有意に抑制され、IL-10の分泌が有意に促進されていることが明らかとなった。NK細胞の活性化には、III型ではなくI型インターフェロンが重要であることが確認された。NK-92細胞はDNA損傷を受けたPH5CH8細胞に細胞障害性を示した。NK-92細胞はNS5Bタンパク質を発現するPH5CH8細胞に細胞障害性を示した。NS3-4Aタンパク質がNK細胞の活性化に対する抑制やDNA損傷に対する抑制する機能を持っている可能性が示唆される。
結論
造血幹細胞から誘導したNK細胞のHCV抑制能は、ウイルス増幅抑制能のみならず感染自体を抑制した。さらに、抗HCV効果のみならず、TRAIL、CD226、パーフォリン介在性の抗HCC効果を示した。また、NK細胞療法は、臨床肝移植後細胞移入療法として、安全に施行可能であり、癌再発抑制、HCV再感染抑制、感染症発症抑制とともに生存率の向上が認められた。オプソニン化肝細胞のマクロファージによる貪食にCD47-SIRPα系が関与する可能性が強く示唆され、CD47-SIRPα結合を阻害する抗SIRPα抗体のHCV感染肝細胞排除への応用が期待された。

公開日・更新日

公開日
2017-01-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-05-13
更新日
-

収支報告書

文献番号
201423010Z