B型肝炎ウイルスe抗体陽性無症候性キャリアの長期予後に関する検討

文献情報

文献番号
201423006A
報告書区分
総括
研究課題名
B型肝炎ウイルスe抗体陽性無症候性キャリアの長期予後に関する検討
課題番号
H24-肝炎-一般-007
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
横須賀 收(千葉大学 大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
  • 白澤 浩(千葉大学 大学院医学研究院 )
  • 髭 修平(JA北海道厚生連 札幌厚生病院 )
  • 上野 義之(山形大学 医学部)
  • 岡本 宏明(自治医科大学 医学部)
  • 田中 榮司(信州大学 医学部)
  • 新海 登(名古屋市立大学 大学院医学研究科)
  • 柘植 雅貴(広島大学 自然科学研究支援開発センター)
  • 吉岡 健太郎(藤田保健衛生大学)
  • 八橋 弘(国立病院機構長崎医療センター 臨床研究センター)
  • 井戸 章雄(鹿児島大学 大学院医歯学総合研究科)
  • 阿部 雅則(愛媛大学 大学院医学系研究科)
  • 佐田 通夫(久留米大学 先端癌治療研究センター)
  • 中本 安成(福井大学 医学部)
  • 西口 修平(兵庫医科大学)
  • 泉 並木(武蔵野赤十字病院)
  • 今関 文夫(千葉大学 総合安全衛生管理機構)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 肝炎等克服実用化研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
20,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2013年に日本肝臓学会は、HBeAg陰性の非活動キャリア(IC)の定義を新たに提唱した。また、HBVキャリアの長期的な治療目標を、HBs抗原の消失とした。非活動性キャリアは、以前は臨床的治癒とも考えられていた。しかし、発癌のリスクや肝炎の再燃のリスクがあることから、実際の臨床の現場では、非活動性キャリアであっても、定期的な血液検査や画像検査を行っていることが多く、これらの患者のフォローアップの方法に対しての明確な指標はない。欧米と本邦では、その背景因子は大きく異なり、本邦における予後調査は必要なものであるが、これまで、非活動性キャリアに対する全国的な大規模な検討はなされたことはなく、本邦における調査が必要であり、研究目的とする。
研究方法
(1)全国14施設および千葉大学関連施設に現在通院中のHBeAb陽性HBVキャリアのうち、2011年の時点で2年連続してALT30 IU/L以下の症例は880 例登録されている。このうち、日本肝臓学会ガイドラインのICの診断基準(HBe 抗原陰性の非活動キャリアは、1年以上の観察期間うち 3回以上の血液検査において、HBe 抗原陰性、ALT値 30 IU/l 以下、HBV DNA 4 log copies/ml未満の 3条件すべてを満たす症例)を満たした358例を前向き研究の対象とした。主解析項目は、ALT、HBVDNA値の基準逸脱とした。副評価項目を、死亡、発癌、核酸アナログの使用の有無とした。
(2)千葉大学関連施設である地域医療の基幹病院と肝疾患診療拠点病院におけるHBVキャリアに差異があるかについて比較検討した。
(3)HBeAb陽性かつ肝機能正常例では、一般的にはその予後は良好とされている。一方で、肝細胞癌がみられた症例では、その背景肝機能は様々である。2000-2014年にかけて千葉大学附属病院で初めて治療を受け、かつ発癌時に核酸アナログ使用例を除いたHBV関連発癌症例78例の背景肝機能とその特徴について明らかにした。
結果と考察
 前向き研究:日本肝臓学会ガイドラインのICの診断基準を満たした358例を前向き研究の対象とした。主解析項目は、ALT、HBVDNA値の基準逸脱とした。副評価項目を、死亡、発癌、核酸アナログの使用の有無とした。平均観察期間 1,025±235日、平均年齢 57.1±13.3 歳。死亡、発癌、核酸アナログの使用はいずれも0例(0%)であった。ALT基準逸脱35例(9.8%)、HBV DNA基準逸脱34例(9.5%)、両方の基準を逸脱する例は1例(0.3%)のみであった。ALT基準逸脱、HBV DNA基準逸脱、いずれかの基準逸脱の累積を示す。平均観察期間1000日間で、約20%が基準逸脱がみられた。ALT、HBVDNA値の推移を図2a 2bに示す。ALT値は基準逸脱例は多くみられるが、その変動は限定的である。いずれかの基準逸脱が起こる予測因子について、COXの比例ハザードモデルによる解析を行った。多変量解析では、ALT値、HBV DNA値、g-GTP値がその予測因子として挙げられた。単変量解析で因子としてあがった、HBsAg量はLog rank検定で有意差を示した。
 HBeAb陽性肝機能正常例を対象とし、本研究班に参加した分担研究者のなかで関東、東海地区の4施設に通院中の症例と、同じく関東、東海地区の地域基幹病院に通院中の症例について、その背景について比較検討した。肝疾患診療拠点連携病院症例314例(4施設、平均年齢54.6歳)、基幹病院症例165症例(8施設、59.7歳)。結果として、基幹病例での症例は、Genotype Bが有意に多くみられた。また、HBsAg量についても、基幹病院症例の方が、拠点病院症例より、有意にHBsAg量が少ないことが示された。
 2000-2014年 千葉大学附属病院で初めて治療を受け、かつ発癌時に核酸アナログ使用していた例を除いた発癌症例78例の内、20例(25.6%)で、ALT, HBVDNA正常であった。この20例の半数以上は、血小板数が15万/μLであることから、その多くは、肝線維化進行例であった。また、HBVキャリアとしてフォローされていない症例が37%にみられた。
結論
 肝臓学会が定めるHBeAg陰性非活動性キャリアの予後は概ね良好であった。しかし、観察期間が平均1000日程度と短いため、さらなる長期的な評価が必要と考えられる。また、これまで国内のHBVキャリア診療の中心を担ってきた肝疾患診療連携拠点病院と地域の基幹病院に通院中のHBVキャリアでは、HBVマーカーの観点から有意な差を認めた。今回は検討しなかったが、さらに中小の医療機関では、その差異は大きくなると思われる。発がんについては、肝線維化に留意した評価が必要であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2016-07-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

文献情報

文献番号
201423006B
報告書区分
総合
研究課題名
B型肝炎ウイルスe抗体陽性無症候性キャリアの長期予後に関する検討
課題番号
H24-肝炎-一般-007
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
横須賀 收(千葉大学 大学院医学研究院)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 肝炎等克服実用化研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年、落ち着いたHBeAb 陽性無症候性キャリアの状態から再度活動性を有するHBeAb慢性肝炎に再燃する症例があることが欧米では報告されているが、本邦における実態は明らかでない。2013年に日本肝臓学会は、HBeAg陰性の非活動キャリア(IC)の定義を新たに提唱した。本研究では、(1)本邦におけるHBe抗体陽性無症候性キャリア(ASC)の実態の把握、(2)肝臓学会ガイドラインのICの基準に合致するHBVキャリアの予後、(3)肝疾患拠点病院と市中病院でのHBVキャリア診療の差異、(4)基礎研究では、安定したと考えられる非活動性キャリアからの肝炎の再燃のメカニズムの解明を目的とした。
研究方法
(1) 1991年から2011年までに通院歴があり、期間中のいずれかにおいて、HBeAb陽性かつ2年間連続してALT 30 IU/Lであった症例を後向き研究として無症候性キャリアの長期予後予測を検討した。
(2) 日本肝臓学会ガイドラインのICの診断基準を満たした358例を前向き研究の対象とした。主解析項目は、ALT、HBVDNA値の基準逸脱とした。
(3)千葉大学関連施設である地域医療の基幹病院と肝疾患診療拠点病院におけるHBVキャリアに差異があるかについて比較検討した。
(4)2000-2014年にかけて千葉大学附属病院で初めて治療を受け、かつ発癌時に核酸アナログ使用例を除いたHBV関連発癌症例78例の背景肝機能とその特徴について明らかにした。
結果と考察
(1)2011年の時点で通院中で、10年以上の経過観察が可能であり、かつ発癌例を除いた327例を対象とし、ALTの推移別に分類し、その傾向を検討した。観察期間中ALTが正常値を維持した群と、最近10年間、5年間はALT正常値が維持できている群、さらにALTが正常化が維持できない4群に分類した。ALTが長期にわたり正常化を維持できた群では、維持できなかった群と比較して、有意にGenotype Bが多くみられた(40% vs 27%)。
(2)日本肝臓学会ガイドラインのICの診断基準を満たした358例を前向き研究の対象とした。主解析項目は、ALT、HBVDNA値の基準逸脱とした。平均観察期間 1,025±235日、平均年齢 57.1±13.3 歳。死亡、発癌、核酸アナログの使用はいずれも0例(0%)であった。ALT基準逸脱35例(9.8%)、HBV DNA基準逸脱34例(9.5%)、両方の基準を逸脱する例は1例(0.3%)のみであった。
いずれかの基準逸脱が起こる予測因子について、COXの比例ハザードモデルによる解析を行った。多変量解析では、ALT値、HBV DNA値、γ-GTP値がその予測因子として挙げられた。
(3)肝疾患診療拠点連携病院症例314例(4施設、平均年齢54.6歳)、基幹病院症例165症例(8施設、59.7歳)。結果として、基幹病院の症例は、Genotype Cが少なく、またHBsAg量が少なかった。
(4)2000-2014年 千葉大学附属病院で初めて治療を受け、かつ発癌時に核酸アナログ使用していた例を除いた発癌症例78例のうち、20例(25.6%)は、ALT, HBVDNA正常であった。この20例の半数以上は、血小板数が15万/μL以下であることから、その多くは、肝線維化進行例と考えられた。
結論
HBe抗体陽性無症候性キャリアは、概ね予後良好な患者群といえる。特に、肝臓学会が策定したガイドラインの定義に基づいたHBe抗原陰性非活動性キャリア(IC)の予後は良好であった。しかし、経過観察中にICの基準を逸脱する例が少なからず認めること、肝線維化の評価がなされていないことなどの問題点もみられ、本当に予後が良好な患者群の絞り込みについては、さらなる検討が必要である。また、いわゆるHigh Volume Centerでの診療に基づく臨床研究は、一般病院での実態とは大きく異なる可能性も示唆され、HBVキャリアに対する国の施策の決定には、さらに広範囲にかつ長い期間、HBVキャリアを把握した研究によるデータも基にしてなされるべきである。肝機能、HBVマーカーのみならず、肝線維化も評価に加えた、新しい診療アルゴリズムの作成が必要であろう。

公開日・更新日

公開日
2016-07-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

行政効果報告

文献番号
201423006C

収支報告書

文献番号
201423006Z