HIV-1の薬剤・免疫耐性変異獲得機序の解明と新規治療法を目指した基盤的研究

文献情報

文献番号
201421007A
報告書区分
総括
研究課題名
HIV-1の薬剤・免疫耐性変異獲得機序の解明と新規治療法を目指した基盤的研究
課題番号
H24-エイズ-一般-007
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
滝口 雅文(国立大学法人熊本大学 エイズ学研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 潟永 博之(国立国際医療研究センター・エイズ治療・研究開発センター)
  • 馬場 昌範(鹿児島大学・大学院医歯学総合研究科)
  • 松岡 雅雄(京都大学ウイルス研究所)
  • 松下 修三(熊本大学・エイズ学研究センター)
  • 中田 浩智(熊本大学医学部附属病院感染免疫診療部)
  • 前仲 勝実(北海道大学・大学院薬学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
37,198,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HAART療法に抵抗する難治性HIV感染症患者の治療の課題、免疫から逃避する変異をもったHIV-1の蓄積等、ワクチンや治療の確立の困難なこれらの課題を解決するための基盤的研究を行う。具体的には、未知のCTLや中和抗体の逃避変異の同定、その変異による免疫抵抗性の機序の解明を行う。また、免疫により獲得した変異が薬剤の効果に及ぼす効果、あるいは薬剤が選択した変異が免疫に与える効果を明らかにする。更に、新規プロテアーゼ阻害剤およびHIVの遺伝子発現機構に関与する分子を標的とする新規抗HIV薬の候補を同定する。
研究方法
柱1のグループでは、変異獲得の機序と変異による免疫および薬剤抵抗性獲得機序の解明のため、1) 免疫系による変異獲得の機序と免疫抵抗性、2) 薬剤による変異性獲得の機序と薬剤抵抗性、3) 免疫系が獲得する変異による薬剤抵抗性の研究及び薬剤耐性変異が免疫認識に与える影響について実験・解析を行う。また。柱2のグループでは、耐性ウイルスに対する新たな治療法・予防法を開発するための基盤的研究のため、1) 耐性ウイルスに対する新規薬剤の開発と、2) 抗体と薬剤を組み合わせた治療法の開発を行う。
結果と考察
・430人のHIV-1感染日本人のGag, Pol, Nef遺伝子を解析しHLAと相関する284種類の変異を同定し、更にPol領域のHLA-APと患者のウイルス量との間に負の相関がみられ、Pol領域の変異獲得あるいはCTLの抗ウイルス効果により、HIVの増殖が抑制されている可能性が示唆された。HLA-B*52:01に相関するHLA-APの効果が大きかった。これらのHLA-APが、HLA-B*52:01-C*12:02 haplotypeのいずれかのHLAアリールに拘束するエピトープ内にあることを明らかにした。CTLによる選択の影響が考えられる。
・新規の非核酸逆転写酵素阻害薬RPVの主要な耐性変異であるRTの138番目のEがKへ置換する変異E138Kが、HLA-B*18拘束性CTLの逃避変異であることを確認した。これらの逃避変異がそれぞれRPV耐性をもたらすことを確認し、免疫により選択される変異が薬剤治療に影響を与えることを明らかにした。
・NNRTI 耐性変異であるRT Y181C/V/I がCTLへの認識に与える影響を解析した。これらの変異は3つの異なったエピトープを認識するCTLの認識を低下させ、特にsubtype B感染患者での低下が、subtype A/E感染患者より認識の低下が大きかった。この変異の蓄積がハノイのコホートで見られたことより、薬剤の適切な治療が十分に行えない国での免疫能の低下に影響を与える可能性がある事を示した。
・cyclohexyl-bis-THFという新たな構造を有し、野生株および高度多剤耐性株に対して強力な抗HIV活性を発揮する新規PI, GRL-0739を米国研究グループと共同開発、結晶構造解析を含めた同化合物の詳細な検討を行った。polycycle構造を有し、複数の高度多剤耐性臨床分離株に対しても抗ウイルス活性を完全に維持している強力な新規PIであるGRL-09510を同定、同化合物へのHIVの耐性誘導を含めた評価検討を行った。TatとTAR RNAの相互作用を阻害するペプチドに関する共同研究を実施し、いくつかの新規ペプチドに選択的な抗HIV-1効果を認めた。
・CVC耐性と中和抗体感受性にかかわる変異を詳細に検討、これらの変異のうちG324Rは1C10と4E9Cの両方の逃避で観察されたことから、中和抗体からの逃避とCVCへの感受性回復に重要な変異であると考えられた。
結論
日本における細胞性免疫が獲得する変異の全体像を明らかにし、特にHLA-B*52:01に相関したPol領域の変異の病態進行における重要性を解明、更にCTLにより獲得した変異と薬剤耐性変異の相乗効果を証明できた。また4種類の臨床試験への導出可能な薬剤候補を開発した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201421007B
報告書区分
総合
研究課題名
HIV-1の薬剤・免疫耐性変異獲得機序の解明と新規治療法を目指した基盤的研究
課題番号
H24-エイズ-一般-007
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
滝口 雅文(国立大学法人熊本大学 エイズ学研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 潟永 博之(国立国際医療研究センター・エイズ治療・研究開発センター)
  • 馬場 昌範(鹿児島大学・大学院医歯学総合研究科)
  • 松岡 雅雄(京都大学ウイルス研究所)
  • 松下 修三(国立大学法人熊本大学 エイズ学研究センター )
  • 中田 浩智(熊本大学医学部附属病院感染免疫診療部)
  • 前仲 勝実(北海道大学・大学院薬学研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 エイズ対策研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
HAART療法に抵抗する難治性HIV感染症患者の治療の課題、免疫から逃避する変異をもったHIV-1の蓄積等、ワクチンや治療の確立の困難なこれらの課題を解決するための基盤的研究を行う。具体的には、未知のCTLや中和抗体の逃避変異の同定、その変異による免疫抵抗性の機序の解明を行う。また、免疫により獲得した変異が薬剤の効果に及ぼす効果、あるいは薬剤が選択した変異が免疫に与える効果を明らかにする。更に、新規プロテアーゼ阻害剤およびHIVの遺伝子発現機構に関与する分子を標的とする新規抗HIV薬の候補を同定する。
研究方法
柱1のグループでは、変異獲得の機序と変異による免疫および薬剤抵抗性獲得機序の解明のため、1) 免疫系による変異獲得の機序と免疫抵抗性、2) 薬剤による変異性獲得の機序と薬剤抵抗性、3) 免疫系が獲得する変異による薬剤抵抗性の研究及び薬剤耐性変異が免疫認識に与える影響について実験・解析を行う。また。柱2のグループでは、耐性ウイルスに対する新たな治療法・予防法を開発するための基盤的研究のため、1) 耐性ウイルスに対する新規薬剤の開発と、2) 抗体と薬剤を組み合わせた治療法の開発を行う。
結果と考察
・430人のHIV-1感染日本人のGag, Pol, Nef遺伝子を解析しHLAと相関する284種類の変異を同定し、更にPol領域のHLA-APと患者のウイルス量との間に負の相関がみられ、Pol領域の変異獲得あるいはCTLの抗ウイルス効果により、HIVの増殖が抑制されている可能性が示唆された。HLA-B*52:01に相関するHLA-APの効果が大きかった。これらのHLA-APが、HLA-B*52:01-C*12:02 haplotypeのいずれかのHLAアリールに拘束するエピトープ内にあることを明らかにした。CTLによる選択の影響が考えられ、
・新規の非核酸逆転写酵素阻害薬RPVの主要な耐性変異であるRTの138番目のEがKへ置換する変異E138Kが、HLA-B*18拘束性CTLの逃避変異であることを確認した。これらの逃避変異がそれぞれRPV耐性をもたらすことを確認し、免疫により選択される変異が薬剤治療に影響を与えることを明らかにした。さらに、日本人に多いHLA-B51に選択されるI135TやI135Lなどと共存すると高度なrilpivirine耐性をもたらことを明らかにし、臨床的な治療失敗につながる可能性があると考えられた。
・NNRTI 耐性変異であるRT Y181C/V/I がCTLへの認識に与える影響を解析した。これらの変異は3つの異なったエピトープを認識するCTLの認識を低下させ、特にsubtype B感染患者での低下が、subtype A/E感染患者より認識の低下が大きかった。この変異の蓄積がハノイのコホートで見られたことより、薬剤の適切な治療が十分に行えない国での免疫能の低下に影響を与える可能性がある事を示した。
・野生株および高度多剤耐性株に対して強力な抗HIV活性を発揮する新規PI, GRL-0739を米国研究グループと共同開発、結晶構造解析を含めた同化合物の詳細な検討を行った。polycycle構造を有し、複数の高度多剤耐性臨床分離株に対しても抗ウイルス活性を完全に維持している強力な新規PIであるGRL-09510を同定、同化合物へのHIVの耐性誘導を含めた評価検討を行った。Tat/TAR RNAとcyclin T1/CDK9の相互作用を標的と強い抗HIV-1活性を有するリード化合物を3つ同定した。そのうち1つの化合物(C3)がHIV-1 Tatによって誘導される遺伝子発現を強力に抑制すること、また宿主細胞のRNA polymerase IIのリン酸化を抑制すること,さらにTatとcyclin T1の相互作用を阻害することを明らかにした。さらにTatとTAR RNAの相互作用を阻害するペプチドに関する共同研究を実施し、いくつかの新規ペプチドに選択的な抗HIV-1効果を認めた。
・CVC耐性と中和抗体感受性にかかわる変異を詳細に検討、これらの変異のうちG324Rは1C10と4E9Cの両方の逃避で観察されたことから、中和抗体からの逃避とCVCへの感受性回復に重要な変異であると考えられた。
結論
日本における細胞性免疫が獲得する変異の全体像を明らかにし、特にHLA-B*52:01に相関したPol領域の変異の病態進行における重要性を解明した。CTLにより獲得した変異と薬剤耐性変異の相乗効果を証明した。4種類の臨床試験への導出可能な薬剤候補を開発し、さらなる治療薬の目途をつけた。更にCCR5阻害薬CVCと中和抗体との併用療法の可能性を示す成果を得られた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201421007C

収支報告書

文献番号
201421007Z