SFTSの制圧に向けた総合的研究

文献情報

文献番号
201420051A
報告書区分
総括
研究課題名
SFTSの制圧に向けた総合的研究
課題番号
H25-新興-指定-009
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
倉田 毅(国立感染症研究所(国際医療福祉大学塩谷病院) 感染病理部(中央検査部))
研究分担者(所属機関)
  • 西條 政幸(国立感染症研究所 ウイルス第一部)
  • 森田 公一(長崎大学熱帯医学研究所)
  • 森川 茂(国立感染症研究所 獣医科学部)
  • 有川 二郎(北海道大学大学院 医学研究科)
  • 加藤 康幸(独)国立国際医療研究センター)
  • 調 恒明(山口県環境保健センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
50,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は2011年に報告されたダニ媒介性新興ブニヤウイルス(SFTSウイルス,SFTSV)による新興ウイルス感染症である.SFTSは致死率が高く,重篤な新興ウイルス感染症である.SFTSが国内に存在することが明らかにされた.日本において生活している限りSFTSVに感染する危険性から逃れることはできない.そこで,日本におけるSFTSの疫学,SFTSVへの感染リスクを明らかにすることは,重要でかつ緊急を要する課題である.早急なSFTS対策の整備・構築が求められる.
研究方法
SFTSVに対する中和抗体測定法の開発,SFTS剖検症例の病理学的解析,SFTSVの分子系統学的特徴の解析,SFTSV抗原検出法の開発,SFTS報告症例の臨床像と感染リスク因子の解析,日本の自然界におけるSFTSVの存在様式の解明,特定地域における動物のSFTSVの疫学とリスク評価,国内外において採集したダニを対象としたSFTSVゲノムの検出,SFTS流行地における感染リスクの解明と感染予防のあり方,SFTSVの感染機構・増殖機構・病原性の解明,リアルタイムPCRによるSFTS診断法の開発,SFTSの臨床対応とガイドラインの作成,等,SFTSの基礎,疫学,臨床に関わる多様な研究を実施した.
結果と考察
疫学的研究:SFTS患者の後方視的調査研究によりSFTSの臨床的・疫学的特徴を明らかにした.SFTSV日本株の遺伝子塩基配列を決定し,分子疫学的解析により中国株および日本株の多くはそれぞれ独立していることが明らかにされた.ただし,一部の日本株は中国株グループに分類され,その逆も認められたことからSFTSVの進化の過程は単純ではない.医療関係者向け「重症熱性血小板減少症候群(SFTS)診療の手引き第3版」を作成し,英語版も作成した.宮﨑県の医療関係者および本研究班との症例検討会を開催した(H27年3月,宮﨑市).
臨床的研究:SFTS患者の血液・脳脊髄液・尿中のSFTSゲノム量を解析し,ウイルス量と予後との関連を明らかにした. SFTS患者の病理学的解析により,その特徴(壊死性リンパ節炎と血球貪食像)を明らかにした.
診断法の開発:SFTSVに対する抗体検出システム(ELISA,蛍光抗体,中和抗体),SFTSV抗原検出ELISA法を開発した.簡単なウイルス定量と中和抗体測定法が開発された.大腸菌発現SFTSVのN蛋白質を用いた血清診断法(ELISA)を確立した.高感度SFTSV遺伝子検出システム(遺伝子増幅法)を開発した.
予防・治療に関する研究:マウスと霊長類におけるSFTSV感染モデルを作成した.ワクチン候補組換えワクチニアウイルスを作製した.膜蛋白質に対するモノクローナル抗体を作製した.S1P阻害剤(PF-429242)がSFTSVに対する抗ウイルス作用を示した.マウス個体を用いてリバビリンの効果を検討した(抗ウイルス効果は確認されていない).
自然界におけるSFTSV存在様式の解明に関する研究:SFTS抗体陽性動物は全国的に分布した.しかし,野生のニホンジカの血清疫学ではSFTS患者発生地域と非発生地域では 抗体陽性率に有意な差が認められた.動物からのウイルス分離も行った.タカサゴキララマダニと複数種のチマダニがSFTSVを保有し,全国的に分布する.経卵的垂直感染することも分かった.ダニ体内からのSFTSV検出PCRの系を確立し,日本(1,352例),台湾(222例)及びザンビア(7検体)で得られたダニについて検討した.日本で得られたダニの一例からSFTSV genome陽性シグナルを検出した.イノシシや飼い犬にSFTS抗体陽性例が確認された.患者周辺のハイリスクグループでの抗体陽性率を調べ,SFTSの不顕性感染は稀であることは分かった.
公衆衛生対応に関する研究:患者血清中のSFTSV検出用のリアルタイムPCR法について4カ所の地方衛生研究所においてその有用性について検証を行い,その結果に基づき感染研において改良がなされた.改良された検出法について,5カ所の地方衛生研究所において臨床検体を用いて感度,特異度の検証を行い良好な結果を得た.リスクコミュニケーションの手段として,テレビ,新聞,インターネットが重要であることが示された.
結論
本研究班の研究により日本におけるSFTS流行状況,SFTSVの人への感染経路,予後等の詳しい情報・特徴が明らかにされつつある.2013年には40名の,2014年の1年間には約60人のSFTS患者が発生し,その致命率は約30%である.SFTSに関する知見は得られ始めたばかりであり,予後改善,患者発生のリスク低減にむけた研究の継続と成果が期待される.

公開日・更新日

公開日
2015-05-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
201420051Z