感染症を媒介する節足動物の分布・生息域の変化、感染リスクの把握に関する研究

文献情報

文献番号
201420016A
報告書区分
総括
研究課題名
感染症を媒介する節足動物の分布・生息域の変化、感染リスクの把握に関する研究
課題番号
H24-新興-一般-007
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
澤邉 京子(国立感染症研究所 昆虫医科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 高崎 智彦(国立感染症研究所 ウイルス第一部 )
  • 林 昌宏(国立感染症研究所 ウイルス第一部 )
  • 津田 良夫(国立感染症研究所 昆虫医科学部 )
  • 林 利彦(国立感染症研究所 昆虫医科学部 )
  • 伊澤 晴彦(国立感染症研究所 昆虫医科学部 )
  • 冨田 隆史(国立感染症研究所 昆虫医科学部 )
  • 山内 健生(兵庫県立人と自然の博物館/兵庫県立大学自然・環境科学研究所)
  • 平林 公男(信州大学 繊維学部)
  • 大塚 靖(鹿児島大学 国際島嶼教育研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
38,395,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
2014年は約70年ぶりにデング熱国内感染例が発生し、合計162名の患者が報告された。ヒトスジシマカの国内分布情報は重要性を増し、ネッタイシマカの侵入監視の必要性も指摘された。既存の感染症対策に留意するとともに、新たな侵入感染症と媒介者への対策が求められた。本研究課題は、国内において外来性の感染症および媒介節足動物の国内侵入を監視するともに、国内に生息する媒介者を介した国内流行に備え、その感染リスクを調査することが目的である。
研究方法
1) デング熱推定感染地での殺虫剤散布に先立ち、8分間人囮法によりヒトスジシマカ成虫を捕集し、薬剤散布地域の優先順位の決定と散布後の効果判定を行った。2) 東北津波被災地において4年目の定期調査を行った。3) 2014年春は、合計27都道府県下の82地点において一人30分間のフランネル法でのマダニを採取した。4) 新潟・富山両県のコガタアカイエカの発生消長をもとに、NOAAの気象データ、気象庁の観測データ等を用いて国内分散を考察した。5) 蚊・マダニ乳剤は培養細胞に接種し細胞変性効果を観察した。分離されたウイルスは、次世代シークエンサーにより遺伝子解析、電子顕微鏡によるウイルス粒子の観察、乳のみマウスへの病原性を検討した。6) 東京都済生会病院との協力の下、病院に搬送された路上生活者から血液およびシラミの提供を受け、シラミ媒介性塹壕熱細菌Bartonella quintana遺伝子を検出し、培養を試みた。7) アセチルコリンエステラーゼ領域およびマイクロサテライト領域の解析により、南九州で捕集されたアカイエカ種群に対する鑑別法を検討した。8) ピレスロイド系殺虫剤に抵抗性のネッタイシマカ(SP系統:シンガポール由来)を用いて量的形質遺伝子座(QTL)解析を行い、ペルメトリン抵抗性に関する原因遺伝子を特定した。
結果と考察
宮城県南部の被災地の復興は進み、被災後4年間で蚊相は安定したと思われる一方で、被災農耕地の復旧作業が遅れている福島県南相馬では幼虫発生源が残り、蚊相は未だ安定していないと判断された。今後も調査が必要である。全国的に春のマダニ密度は高く、特にフタトゲチマダニが優占種となる地域が多かった。定点調査から節消長を明らかにし、ホットスポットの存在と今後の環境調査の必要性が示唆された。新潟県のコガタアカイエカの発生ピークに先立ち富山県でピークが見られることから、国内移動を考察し、海外からの飛来に関しても解析を進める必要がある。ハプロタイプの解析により、南九州に生息するアカイエカ種群にはネッタイイエカのハプロタイプが一定の割合で含まれていることが明らかになった。野外捕集の蚊およびマダニからUmatilla virusに近縁な新規オルビウイルスを蚊およびマダニからそれぞれ分離発見し、乳のみマウスに対して病原性を示す株を得た。遺伝子型Ⅴ型の日本脳炎ウイルスは強い病原性を維持している可能性が示唆され、現行ワクチンの中和効果はⅠ型やⅢ型株のウイルスに比べて弱いことを確認した。B. quintanaの分離は成功しなかったが、路上生活者は高率にIgGおよびIgMを有していることから、特異な環境下で塹壕熱が着実に広まっている可能性が示唆され、公衆衛生学的観点から今後もB. quintanaの感染状況を把握する必要があると結論した。SP系統ネッタイシマカのペルメトリン抵抗性に関する原因遺伝子解明のためのQTL解析の結果、SP系統におけるペルメトリンの代謝量増大に関連する遺伝子は第1染色体上にあると推察され、候補となるシトクロムP450遺伝子は8個のうちCYP6AA5v2が最有力候補であることが確認された。今後は国内に広く分布するヒトスジシマカの解析を試みる。
結論
デング熱国内感染に際し、自治体担当者に媒介蚊調査に関する助言と指導を行い、対策ガイドライン、指針作成に貢献した。ヒトスジシマカの東北地方や寒冷地での生息域の拡大と適評価には地域差を考慮し、多くの地域での調査が必要であると結論した。アカイエカ種群に対してマイクロサテライト解析を行い、ネッタイイエカの九州地方における定着の可能性を検討した。新潟・富山両県でのコガタアカイエカの発生消長および各種気象データを用いて、国内外での長距離飛翔と分散を考察した。東京都内で採取されたコロモジラミの塹壕熱バルトネラ菌遺伝子の保有状況を調査し、患者血液からの菌分離とより精度の高い抗体検査法の確立を試みた。マダニ相に関する全国調査を継続し、植生や野生動物の種々情報を加えたリスクマップを試作した。捕集マダニからのウイルス分離を継続し、新規オルビウイルスを分離した。SP系統ネッタイシマカのQTL解析を行い、ペルメトリン抵抗性に関する原因遺伝子を特定した。

公開日・更新日

公開日
2015-05-28
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

文献情報

文献番号
201420016B
報告書区分
総合
研究課題名
感染症を媒介する節足動物の分布・生息域の変化、感染リスクの把握に関する研究
課題番号
H24-新興-一般-007
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
澤邉 京子(国立感染症研究所 昆虫医科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 高崎 智彦(国立感染症研究所 昆虫医科学部 )
  • 林 昌宏(国立感染症研究所 昆虫医科学部 )
  • 津田 良夫(国立感染症研究所 昆虫医科学部 )
  • 林 利彦(国立感染症研究所 昆虫医科学部 )
  • 伊澤 晴彦(国立感染症研究所 昆虫医科学部 )
  • 冨田 隆史(国立感染症研究所 昆虫医科学部 )
  • 山内 健生(兵庫県立人と自然の博物館/兵庫県立大学自然・環境科学研究所)
  • 平林 公男(信州大学 繊維学部)
  • 大塚 靖(鹿児島大学 国際島嶼教育研究センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
近年の地球温暖化の進行や大規模自然災害による環境変化で、疾病媒介蚊の生息域が拡大、発生数が増大することで、アルボウイルス感染症の発生リスクが高まっている。既存の感染症対策に留意するとともに、新たな侵入感染症と媒介者への対策が必要とされる。国内において外来性の感染症および媒介節足動物の国内侵入を監視し、国内に生息する媒介者による国内流-行に備え、その感染リスクを調査する。これらの成果により感染症媒介節足動物に対する総合的な厚生労働行政施策を策定するための科学的基盤および情報基盤の構築に貢献することを目指している。
研究方法
1) 東北津波被災地において蚊成虫および幼虫の定期調査を行った。2) デング熱推定感染地では8分間人囮法によりヒトスジシマカ成虫を捕集し、薬剤散布地域の優先順位を決定し、散布後の効果判定を行った。3) 一人30分間のフランネル法により定期的・経時的にマダニ調査を行った。4) 新潟・富山両県のコガタアカイエカの発生消長をもとに、NOAAの気象データ、気象庁の観測データ等を用いて国内分散を考察した。5) 蚊・マダニ乳剤は培養細胞に接種し細胞変性効果を観察した後、次世代シークエンサーにより遺伝子解析、電子顕微鏡によるウイルス粒子の観察、乳のみマウスへの病原性を検討した。6) 東京都済生会病院との協力の下、路上生活者由来の血液およびシラミからシラミ媒介性塹壕熱細菌Bartonella quintana遺伝子を検出し、培養を試みた。7) アセチルコリンエステラーゼ(AChE)領域およびマイクロサテライト領域の解析により、アカイエカ種群の鑑別を試みた。8) ピレスロイド系殺虫剤に抵抗性のネッタイシマカ(シンガポール系統)を用いて量的形質遺伝子座(QTL)解析を行い、ペルメトリン抵抗性の原因遺伝子を特定した。トコジラミのピレスロイド低感受性をもたらす変異型遺伝子の検出法を開発し、抵抗性遺伝子の国内分布を調査した。
結果と考察
 東日本大震災被災地の復興が進みハエ類の大発生は収束し、蚊相は4年間でほぼ安定したた。2014年のデング熱国内発生に対して、自治体・関連機関への研修と技術講習を行い、これまでに構築した科学的基盤と情報基盤をもとに媒介蚊対策に協力し、特定感染症予防指針の策定に貢献した。SFTS対応のマダニ全国調査を秋と春に実施し、定点調査地からは詳細な季節消長を収集した。富山県・新潟県のコガタアカイエカの季節消長と各種気象データから本種の国内の長距離移動と分散を解析した。AChE領域およびマイクロサテライト領域の解析により、南九州のアカイエカにはネッタイイエカのハプロタイプが一定の割合で含まれていることを明らかにした。
 野外捕集蚊およびマダニから新規オルビウイルスをそれぞれ分離発見し、乳のみマウスに病原性を示すウイルスを得た。長崎県の定点で捕集されたコガタアカイエカからは、毎年日本脳炎ウイルス(JEV)I型が分離され、I型JEVに対する現行ワクチンの有効性も確認された。V型JEVの現行ワクチンの中和効果は弱く、強い病原性を維持している可能性が示唆された。コロモジラミからは高率に塹壕熱バルトネラ菌遺伝子が検出され、患者のIgG抗体保有率も高いことから、路上生活者の間で着実に塹壕熱が広まっていると推察された。
 ネッタイシマカのQTL解析により、ピレスロイド系殺虫剤に抵抗性個体のペルメトリン抵抗性に関与する原因遺伝子を解析し、第1染色体上にあるCYP6AA5v2がペルメトリンの代謝量増大に関連する遺伝子として最有力の候補であることを確認した。トコジラミのピレスロイド低感受性をもたらす変異型遺伝子の検出法を開発し、抵抗性遺伝子の国内分布を調査した。AChE阻害剤抵抗性個体の殺虫剤感受性低下と構造変異を解析し、分子ジェノタイピング法により全国調査を行い、現時点ではAChE阻害剤に対する作用点変異に基づく抵抗性コロニーの拡散は軽微であると推測した。
結論
東北津波被災地において、蚊・ハエ・ネズミ類の発生調査から津波被害の状況を把握し、対策立案に貢献した。2014年のデング熱国内発生に際して、自治体担当者に媒介蚊調査およひ殺虫剤使用等の助言と指導を行い、対策ガイドラインの作成、特定感染症予防指針の策定に協力した。アカイエカ種群の鑑別からネッタイイエカの生息域拡大を考察し、コガタアカイエカの国内外での長距離飛翔と分散、JEVに関する諸問題の解決を試みた。コロモジラミの塹壕熱バルトネラ菌遺伝子の保有状況を調査し、患者血液からの菌分離とより精度の高い抗体検査法の確立を試み、公衆衛生上問題であることを指摘した。マダニ相の分布と植生情報からSFTS流行のリスクマップ作成を試みた。ネッタイシマカおよびトコジラミの殺虫剤抵抗性を解析し、対策における問題点を明らかにした。

公開日・更新日

公開日
2015-05-28
更新日
2017-05-19

研究報告書(PDF)

総合研究報告書
研究成果の刊行に関する一覧表

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201420016C

収支報告書

文献番号
201420016Z