文献情報
文献番号
201420011A
報告書区分
総括
研究課題名
重症のインフルエンザによる肺炎・脳症の病態解析・診断・治療に関する研究
課題番号
H24-新興-一般-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
森島 恒雄(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
研究分担者(所属機関)
- 多屋 馨子(国立感染症研究所 感染症疫学センター)
- 河岡 義裕(東京大学 医科学研究所)
- 長谷川 俊史(山口大学 大学院医学系研究科)
- 長谷川 秀樹(国立感染症研究所 感染病理部)
- 奥村 彰久(愛知医科大学 医学部)
- 伊藤 嘉規(名古屋大学 医学部)
- 河島 尚志(東京医科大学 小児科学)
- 塚原 宏一(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
- 莚田 泰誠(理化学研究所 統合生命医科学研究センター)
- 竹田 晋浩(日本医科大学付属病院 外科系集中治療科)
- 中川 聡(国立成育医療研究センター 集中治療科)
- 池松 秀之(九州大学 大学院医学研究院)
- 松川 昭博(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
- 岡部 信彦(川崎市健康安全研究所)
- 宮入 烈(国立成育医療研究センター 生体防御系内科部 感染症科)
- 清水 直樹(東京都立小児総合医療センター 救命・集中治療科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
36,866,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
新型インフルエンザに備えて、肺炎・脳症・多臓器不全など重症例の海外動向・臨床像・病態を解析する。又、これら病態解析に基づく重症インフルエンザに対する新規治療薬を開発する。
各分野研究者の共同研究を通じて、高病原性インフルエンザに速やかに対応する「既存の治療薬」を用いた治療法を検討し、また関連学会と連携し、「診療ガイドライン」の作成・改訂を進める。従来の抗インフルエンザ薬が無効の場合を想定し、抗炎症・抗酸化作用を有する重症インフルエンザ治療薬を開発する。
各分野研究者の共同研究を通じて、高病原性インフルエンザに速やかに対応する「既存の治療薬」を用いた治療法を検討し、また関連学会と連携し、「診療ガイドライン」の作成・改訂を進める。従来の抗インフルエンザ薬が無効の場合を想定し、抗炎症・抗酸化作用を有する重症インフルエンザ治療薬を開発する。
研究方法
本研究組織の特徴として、疫学・基礎ウイルス学・病理学・免疫学・小児および成人感染症学・小児神経学・小児尾および成人集中治療学の専門家が集まり、包括的な研究を進めることにある。平成26年度は2009pdmにおける小児重症肺炎の発症機序の解析及び、それに対する新規治療薬の開発を優先課題として研究を進めた。また、これら重症肺炎の治療及び診療体制整備のためのガイドラインの設定を進めた。
結果と考察
平成26年度は2009年パンデミックにおける小児の重症肺炎の解析が進んだ。具体的には、喘息マウスモデルにインフルエンザウイルスAH1pdmを感染させ、季節性ウイルスに比較して、局所の炎症性サイトカイン/ケモカインの増加や肺炎の重症化が確認された。一方、病理学的にはARDSを発症している場合、肺局所以外に全身のSIRSの病態が肺障害に関与する可能性も示唆され、必ずしも肺でのウイルスの増殖だけが肺障害を起こすわけではなかった。一方、インフルエンザ脳症については、毎年小児を中心とした発症が報告されている。2015年第8週までに93人が報告されており、9歳以下の小児が約6割を占めている。本症の中で、近年サイトカインストームを伴わない痙れん重積型脳症(二相性脳症)で、ガイドライン治療に抵抗する例が多いが、ホスフェニトインが有効かつ安全であることが示された。この他、小児重症ウイルス感染症における多因子解析からインフルエンザ呼吸器関連の重症化予測因子として、血清総蛋白低値とLDH高値が重要であるとの結果が得られた。
「新型インフルエンザ」特にAH7N9の広がりが危惧される中、診療体制の整備のためWHOおよび諸外国での連携が進んだ。具体的には、WHO主催研修コースに研究分担者を派遣し、重症肺炎診療における国内の体制整備に役立てることができた。また、小児・成人ともECMOなどによる重症例の診療体制整備のための研究も進んだ。
エピジェネティクス解析からインフルエンザウイルス感染により産生されるtype-Ⅰ Interferonによって、誘導されるSETDB2はインフルエンザウイルス感染後の二次性細菌性肺炎のターゲットと考えられた。
新規治療薬の開発においては、すでに重症インフルエンザ肺炎などにおいて病態悪化に関与することが本研究班で明らかにされているHMGB1に対するモノクローナル抗体がマウスの致死性インフルエンザ肺炎に対して単独で致死率を著明に改善することを示すことができた。マウスとヒトにおいて、HMGB1はほぼ組成が一致しており、この抗体による重症例の治療は、今後ヒトで大きく前進するものと期待される。
「新型インフルエンザ」特にAH7N9の広がりが危惧される中、診療体制の整備のためWHOおよび諸外国での連携が進んだ。具体的には、WHO主催研修コースに研究分担者を派遣し、重症肺炎診療における国内の体制整備に役立てることができた。また、小児・成人ともECMOなどによる重症例の診療体制整備のための研究も進んだ。
エピジェネティクス解析からインフルエンザウイルス感染により産生されるtype-Ⅰ Interferonによって、誘導されるSETDB2はインフルエンザウイルス感染後の二次性細菌性肺炎のターゲットと考えられた。
新規治療薬の開発においては、すでに重症インフルエンザ肺炎などにおいて病態悪化に関与することが本研究班で明らかにされているHMGB1に対するモノクローナル抗体がマウスの致死性インフルエンザ肺炎に対して単独で致死率を著明に改善することを示すことができた。マウスとヒトにおいて、HMGB1はほぼ組成が一致しており、この抗体による重症例の治療は、今後ヒトで大きく前進するものと期待される。
結論
1. AH7N9、AH5N1などを含む高病原性インフルエンザの臨床像・病態を明らかにし速やかに有効な治療法を確立し、「診療ガイドライン」作成による一般診療への普及を目指した。これは「新型インフルンザ」による国民の健康被害(重症化阻止)を最小限にすることができると思われる。
2. 1の円滑の実施のために、関連学会など協力組織を作り「新型インフルエンザ」に対する連携を強化することで、「新型インフルエンザ」侵入時における治療法の確立と普及を速やかに実施できる体制を整えた。これによりインフルエンザ以外の重症感染症の国内侵入が起きていた時にも応用が可能となる診療基盤を作ることができる。
3. 「新型インフルエンザ」において、抗インフルエンザ治療薬の効果が低いと推定される時、重症化を防ぎうる新規治療薬(抗炎症・抗酸化・抗サイトカインなどの効果を示すチオレドキシン・抗HMGB1抗体などの臨床応用を検討中)によりインフルエンザ重症化による致命率を低下させる可能性を示した。
4. 上記の抗炎症・抗酸化・抗サイトカインの治療薬の開発は、従来使われているステロイド(脳症のガイドラインでも使用中)に代わるものとして、現在有効な抗ウイルス薬がなく、「サイトカインストーム」の病態が重症化に関与すると考えられるインフルエンザ以外の重症ウイルス感染症(MERSやSFTSなど)の治療にも効果を上げることが期待できる。
2. 1の円滑の実施のために、関連学会など協力組織を作り「新型インフルエンザ」に対する連携を強化することで、「新型インフルエンザ」侵入時における治療法の確立と普及を速やかに実施できる体制を整えた。これによりインフルエンザ以外の重症感染症の国内侵入が起きていた時にも応用が可能となる診療基盤を作ることができる。
3. 「新型インフルエンザ」において、抗インフルエンザ治療薬の効果が低いと推定される時、重症化を防ぎうる新規治療薬(抗炎症・抗酸化・抗サイトカインなどの効果を示すチオレドキシン・抗HMGB1抗体などの臨床応用を検討中)によりインフルエンザ重症化による致命率を低下させる可能性を示した。
4. 上記の抗炎症・抗酸化・抗サイトカインの治療薬の開発は、従来使われているステロイド(脳症のガイドラインでも使用中)に代わるものとして、現在有効な抗ウイルス薬がなく、「サイトカインストーム」の病態が重症化に関与すると考えられるインフルエンザ以外の重症ウイルス感染症(MERSやSFTSなど)の治療にも効果を上げることが期待できる。
公開日・更新日
公開日
2015-05-20
更新日
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