文献情報
文献番号
201420010A
報告書区分
総括
研究課題名
重症のインフルエンザによる肺炎・脳症の診断・治療に関する研究:新規診断・治療に関する提案と検証
課題番号
H24-新興-一般-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
木戸 博(徳島大学 疾患酵素学研究センター(全国共同利用・共同研究酵素学研究拠点))
研究分担者(所属機関)
- 久保田 雅也(国立成育医療研究センター 神経内科)
- 林 日出喜(長崎大学大学院医歯薬学総合研究科 感染防御因子解析学)
- 佐々木 信一(順天堂大学医学部附属浦安病院 環境医学研究所)
- 高橋 悦久(徳島大学 疾患酵素学研究センター)
- 西村 匡司(徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 )
- 山口 清次(島根大学医学部 小児科)
- 西村 秀一(国立病院機構 仙台医療センター臨床研究部 ウイルスセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
20,778,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
重症インフルエンザによる肺炎・脳症・心筋炎の主要病因は、血管内皮細胞障害による透過性亢進である。上記エビデンスを背景に、1) 重症化に先立つ生体側のSOSシグナルをFlu Alarminと仮称して、モデル動物と臨床検体で検証する。2) 血管内皮細胞障害の機序を解明して重症化の治療法を開発する。
研究方法
マウス重症化モデル動物実験と培養細胞実験系で“インフルエンザ―サイトカイン―プロテアーゼ”サイクルの検証、重症化の発症機序解析、急性脳症における血管内皮細胞のアドヘレンスジャンクションの崩壊機序の解析を実施した。臨床試験グループでは、インフルエンザ脳症患者、ICU入室患者、呼吸器内科入院患者の臨床検体を用いたFlu Alarmin解析を実施した。また脂質代謝異常患者Fibroblast培養細胞を用いたin vitro probe assayで、β酸化能と重症化の関係を解明した。
結果と考察
インフルエンザ重症化発症機序の解析が行われ、全容が解明されると共に創薬ターゲット分子が明らかになった。1)重症化機序:ウイルスの体内増殖は、「インフルエンザ─サイトカイン─プロテアーゼ」サイクルによるが、このサイクルに「体内代謝障害―サイトカイン」サイクルが共役した時に重症化が発症することを確認した。特にエネルギー代謝(糖代謝と脂質代謝)障害の中でも、PDK4による糖代謝障害、CPT IIの活性低下による脂質代謝障害が治療標的分子になることを明らかにした。さらに「インフルエンザ─サイトカイン─プロテアーゼ」サイクルの中で、感染で増加するEnterokinaseの関与が明らかになった。血管内皮細胞のAdherens junctionの崩壊に、GSK-3の活性化による-Catenin分解が中心的に関与していることが解明された。また、これまでインフルエンザ脳症の発症リスク因子として、熱不安定性CPT II遺伝子多型を見出してきたが、日本人種以外にも広く東アジア人種で確認され国際的に注目されている。2)インフルエンザ感染重症化に伴うFlu Alarminとして、重症化を的確に示す指標として乳酸/ATP比の重要性が確認された。3)重症化治療薬では、PDK4阻害剤のDADAとCPT IIの転写を促進するBezafibrateの治療効果が確認された。
結論
インフルエンザ感染重症化は、“インフルエンザ―サイトカイン―プロテアーゼ”サイクルに “サイトカインー代謝不全”サイクルが共役した病態であることが解明された。感染下に代謝不全を誘導する体内分子として糖代謝のPDK4、脂質代謝のCPT IIが明らかになり、それぞれDADAとBezabibrateが治療薬として提案された。インフルエンザ感染の重症化をモニターする予後予測因子として、ミトコンドリアの機能不全と深く関連する乳酸/ATP比が明らかになった。
公開日・更新日
公開日
2015-06-03
更新日
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