東日本大震災における精神疾患の実態についての疫学的調査と効果的な介入方法の開発についての研究

文献情報

文献番号
201419096A
報告書区分
総括
研究課題名
東日本大震災における精神疾患の実態についての疫学的調査と効果的な介入方法の開発についての研究
課題番号
H24-精神-一般(復興)-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
松岡 洋夫(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 金 吉晴(独立行政法人  国立精神•神経医療研究センター 精神保健研究所)
  • 富田 博秋(東北大学災害科学国際 研究所)
  • 酒井 明夫(岩手医科大学 医学部)
  • 丹羽 真一(福島県立医科大学 会津 医療センター)
  • 大野 裕(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
  • 松本 和紀(東北大学 大学院医学系 研究科)
  • 柿崎 真沙子(東北大学 大学院医学系 研究科)
  • 加藤 寛(ひょうご震災記念21世紀研究機構 兵庫県こころのケアセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
30,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 東日本大震災の主な被災3県で精神保健医療領域での支援を行ってきた研究者が中心となり、1)被災地での精神疾患の発生と支援の実態に関する疫学調査を行い、2)災害後の精神保健医療対応の問題点を検討して災害時に役立つ精神保健医療支援システムを構築し、3)災害と関連した精神疾患の発症メカニズムの解明と予防的介入方法の開発を目指す。
研究方法
 被災地の住民(小中生)と職域(急性期支援を行なった消防隊員、急性期から中長期の支援を継続している行政、医療機関等の職員)の支援者と、放射能汚染によるメンタルヘルスへの影響についてかかりつけ医を対象に、倫理的配慮のもと関係機関の協力を得て精神的健康の疫学調査とアンケート調査を行った。また、災害後急性期と中長期の精神保健医療領域での実態と、将来に必要な事業・人材・ネットワーク等を調査した。さらに、被災者のメンタルヘルス問題(特に亜症候性の抑うつ症状)に対する一次、二次予防のために自己学習や簡易型認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy, CBT)による支援法を開発し、人材の育成も含めて研究会・研修会などを開催し普及させ、CBTに基づく心理支援の効果を検討する。
結果と考察
 被災1年後での抑うつ症状や心的トラウマ症状は、被災地住民はもとより被災者支援を継続している職域の支援者(約3000名の調査)ではより高い値を示し、さらに2000名をこえる3年間の追跡健康調査でも同様であった。これらには家族の死を含む被災状況、居住・職場の環境変化、復興の遅れなどが複雑に関与しており、メンタルヘルスの問題に対してはさらに継続的支援が求められる。また、原発事故との関連では、近隣の一般身体科へのアンケート調査で、40%程度の医師が受診者に原発事故による精神的影響を感じており、さらに風評(“鼻出血”)への過敏さも実感していた。
 災害後急性期と中長期の精神保健医療の実態に関しては、精神疾患の患者動向を見ると、急性期はストレス関連障害や激しい急性病像が多く見られ、その後、気分障害、最近ではアルコール依存・自殺が増え特徴的な経年的変化が見られた。また、急性期において被災地とその近隣の総合病院、精神科病院、精神科診療所、福祉施設、行政機関、大学病院ではそれぞれ特有の問題があり、それらをまとめた報告書を刊行した。現在は中長期支援における被災地での支援者のメンタルヘルス問題に関する報告書と、さらにそれらを包括的にまとめた「災害時のメンタルヘルス」と題したテキストを作成中である。
 災害後のメンタルヘルス問題に関する予防と早期介入に関しては、自己学習のための啓発資料を作成し、被災地での支援活動に役立てた。さらに災害復興期の心理的支援方法であるサイコロジカル・リカバリー・スキルを導入し約100名の研修を終えて、現在被災者への介入を開始しており、GHQ得点の減少を認めている。また、被災者180名に簡易型CBTプログラムを実施し、自己効力感の向上を確認した。
結論
 以上のように、被災地での精神的健康に関する疫学調査、被災直後の急性期から中長期での精神保健医療領域の実態調査、被災地でのメンタルヘルス問題への介入を通じ、東日本大震災と原発事故の影響は精神科領域でも甚大であり、しかも3年以上経過しても被災地では未だに大きな問題となっている。今後も被災地への息の長い支援が不可欠である。

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

文献情報

文献番号
201419096B
報告書区分
総合
研究課題名
東日本大震災における精神疾患の実態についての疫学的調査と効果的な介入方法の開発についての研究
課題番号
H24-精神-一般(復興)-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
松岡 洋夫(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 金 吉晴(独立行政法人  国立精神•神経医療研究センター  精神保健研究所)
  • 富田 博秋(東北大学 災害科学国際 研究所)
  • 酒井 明夫(岩手医科大学 医学部)
  • 丹羽 真一(福島県立医科大学 会津 医療センター)
  • 大野 裕(独立行政法人 国立精神・神経医療研究センター 認知行動療法センター)
  • 松本 和紀(東北大学 大学院医学系 研究科)
  • 柿崎 真沙子(東北大学 大学院医学系 研究科)
  • 加藤 寛(ひょうご震災記念21世紀研究機構 兵庫県こころのケアセンター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 東日本大震災の主な被災3県で精神保健医療領域での支援を行ってきた研究者が中心となり、1)被災地での精神疾患の発生と支援の実態に関する疫学調査を行い、2)災害後の精神保健医療対応の問題点を検討して災害時に役立つ精神保健医療支援システムを構築し、3)災害と関連した精神疾患の発症メカニズムの解明と予防的介入方法の開発を目指す。
研究方法
 被災地の住民(小中生)と職域(急性期支援を行なった消防隊員、急性期から中長期の支援を継続している自治体などの職員)の支援者と、放射能汚染によるメンタルヘルスへの影響についてかかりつけ医を対象に、倫理的配慮のもと精神的健康の疫学調査とアンケートを行った。また、災害後急性期と中長期の精神保健医療領域での実態と、将来に必要な事業・人材・ネットワーク等を調査・検討した。さらに、被災者のメンタルヘルス問題に対する一次、二次予防のために自己学習や簡易型認知行動療法(Cognitive Behavioral Therapy, CBT)による支援法を開発し、人材の育成も含めて研究会・研修会などを開催し普及させ、CBTに基づく心理支援の効果を検討した。
結果と考察
 被災2年後と3年後での被災地の小中生約7000名を対象にストレス状態を評価したところ高い不健康状態が続き、教育現場との連携のもと継続的調査・介入が求められる。被災1年後での心理ストレス、抑うつ症状、PTSD症状は、被災地住民はもとより被災者支援を継続している職域の支援者(約3000名の調査)では住民より高い値を示し、さらに3年間の追跡健康調査(約2000名)でも同様であった。これらには家族の死を含む被災状況、居住・職場の環境変化、復興の遅れなどが複雑に関与しており、従来注目されてこなかった被災地の職場環境におけるメンタルヘルスの問題に対してさらに継続的支援が求められる。震災直後に過酷な救援活動を行なった者(約1600名の被災地消防隊員)の調査で、PTSD症状には個人的な被災状況以上に惨事ストレス自体がより強く影響することがわかった。原発事故との関連では、40%のかかりつけ医が受診者に原発事故による精神的影響や風評被害を実感していた。PTSDに対する持続エクスポージャー療法によりPTSD症状と抑うつ症状の両者が改善するが、PTSD症状の改善が抑うつ症状の改善をもたらす事が見出された。
 被災後の精神保健医療システムに関しては、急性期の専門チームや行政主体の支援から、中長期になると徐々に地域主体の住民力向上へと繋げていくような包括的な精神保健医療対策が必要で、特に、後者では自殺対策システムモデルが実効的と思われた。また、災害後の精神疾患の患者動向を見ると、急性期はストレス関連障害や激しい急性病像が多く見られ、その後、気分障害、最近ではアルコール依存、自殺が増え特徴的な経年的変化が見られた。急性期において被災地の精神保健医療には施設特有の問題があり、それらをまとめた報告書を刊行した。中長期支援におけるメンタルヘルス問題に関する報告書と、さらにそれらを包括的にまとめた「災害時のメンタルヘルス」と題したテキストを作成中である。
 災害後のメンタルヘルス問題全般に関する予防と早期介入に関しては、自己学習のための啓発資料を作成し支援活動に役立てた。災害復興期の心理的支援方法である「サイコロジカル・リカバリー・スキル」(Skills for Psychological Recovery、SPR)を導入し、トレーニングDVD開発や事例検討も加えて被災地支援者約150名の研修を終えて、被災者への介入を行ないGHQ得点の減少などを認めた。SPRが我が国においても安全かつ効果的なプログラムである可能性が示唆された。また、亜症候性の抑うつ症状に対する早期介入として、仮設住宅や災害復興公営住宅などでの支援者(地域の保健スタッフや傾聴ボランティアを含む)向けマニュアルや教育資材等を作成し、簡易型CBT教育プログラム(「こころのエクササイズ研修」と呼び、全6回の研修で、内容はCBTの基本、活動記録、行動活性化、対人スキル向上、認知再構成法、問題解決技法などで構成される)を導入し、実際に被災者180名に実施し、自己効力感の向上を確認した。
結論
 以上のように、被災地での精神的健康に関する疫学調査、被災直後の急性期から中長期での精神保健医療領域の実態調査、被災地でのメンタルヘルス問題への介入を通じ、東日本大震災と原発事故の影響は精神科領域でも甚大であり、しかも3年以上経過しても被災地では未だに様々な問題が続き、さらにアルコール問題や自殺者増加などの新たな問題も発生していることが明らかとなった。今後も被災地への息の長い調査に基づく支援が不可欠である。

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-05-13
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201419096C

成果

専門的・学術的観点からの成果
 災害後の急性期から中長期までの精神疾患の発生の特徴と各種の支援の実態を明らかにし、前方視的に小中学校や職域(支援者支援を行なう自治体、医療、社会福祉協議会の職員)での中長期まで持続するメンタルヘルスの問題も明らかにした。さらに被災地におけるうつ病やPTSDなどの精神疾患の一次、二次予防に向けたSPR、簡易型CBTなどの取り組み方法を提示し有効性を実証した。
臨床的観点からの成果
 震災後急性期から中長期にかけて精神疾患の発生は多様で、急性期はストレス関連障害や激しい急性病像が多く見られ、その後、気分障害が増加し、中長期ではアルコール依存、自殺が増え特徴的な経年的変化と、被災後4年経過しても、被災地の一般住民はもとより被災地の小中学生、被災者を支援している職員でのメンタルヘルス問題が持続していることを明らかにした。
ガイドライン等の開発
 急性期において被災地とその近隣の総合病院、精神科病院、精神科診療所、福祉施設、行政機関、大学病院ではそれぞれ特有の問題があり、それらをまとめた報告書「東日本大震災の精神医療における被災とその対応」を刊行した。さらに中長期支援における被災地での支援者のメンタルヘルス問題を包括的にまとめた「災害時のメンタルヘルス」と題したテキストを作成中である。
その他行政的観点からの成果
 災害後の急性期および中長期の精神保健医療の実態調査とその分析から、今後の地域保健医療福祉事業における地域特性を考慮した災害対策の計画立案、システム構築とそれに基づく支援の提供などに役立つ提案を行なった。さらに疫学調査から被災地でのメンタルヘルスの問題が災害後4年経過しても継続しており、今後も継続して精神保健医療の対策を講じることの要することを明らかにした。
その他のインパクト
公開シンポジウム1:平成25年7月6日、7日、「東日本大震災の精神医療における被災とその対応―宮城県の直後期から急性期を振り返る―」(16題)
公開シンポジウム2:平成26年10月18日、「大規模災害復興期の支援者のメンタルヘルスと支援-東日本大震災の経験から」(11題)

発表件数

原著論文(和文)
7件
原著論文(英文等)
2件
その他論文(和文)
22件
その他論文(英文等)
2件
学会発表(国内学会)
54件
学会発表(国際学会等)
11件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
52件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
大塚耕太郎、酒井明夫、中村光、他
東日本大震災後の岩手医科大学におけるこころのケア活動について
精神医学 , 55 (3) , 297-302  (2013)

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
-

収支報告書

文献番号
201419096Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
39,000,000円
(2)補助金確定額
39,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 6,110,828円
人件費・謝金 11,258,315円
旅費 5,076,866円
その他 7,555,250円
間接経費 9,000,000円
合計 39,001,259円

備考

備考
利息が354円発生した。また、物品費で修正があり905円超過し、自己負担金として扱う。

公開日・更新日

公開日
2015-05-29
更新日
2015-09-17