TGF-βシグナルに注目したCARASILの画期的治療方法の開発

文献情報

文献番号
201419091A
報告書区分
総括
研究課題名
TGF-βシグナルに注目したCARASILの画期的治療方法の開発
課題番号
H24-神経・筋-若手-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
野崎 洋明(新潟大学 医学部医歯学系)
研究分担者(所属機関)
  • 小野寺 理(新潟大学 脳研究所)
  • 佐藤 俊哉(北里大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
4,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
CARASILはHTRA1遺伝子の変異によって発症する脳血管性認知症である(Hara K et al. N Engl J Med 2009).病理学的には脳小血管に選択的な壁細胞変性を呈する.CARASILはHTRA1の機能低下に起因する,TGF-βシグナルの慢性的な亢進によって引き起こされることが想定されている.有効な治療方法は開発されていない.本研究は,TGF-βシグナルの抑制作用と血圧降下作用を併せ持つ,アンギオテンシンI型受容体拮抗薬candesartanがCARASILの治療薬となりうるかどうかを,HTRA1オルソログであるPrss11を欠損した,15ヵ月齢以降に脳小血管の壁細胞変性をおこすCARASILモデルマウスを用いて検討することを目的とした.
前年度までの検討により,16ヵ月齢のPrss11欠損マウスに8ヵ月間,candesartan 3mg/kg,candesartanと同等の血圧降下作用を持つamlodipine 10mg/kg,placeboのいずれかを経口投与する実験系を組んだ.また,同マウスの脳小血管において,壁細胞であるペリサイトと血管平滑筋細胞の変性を評価するための指標として,ペリサイト被覆率と平滑筋細胞面積が有用であることを明らかにした.最終年度にあたる本年度は,これらの指標を用いて薬剤の治療効果を判定することを目的とした.
研究方法
1) Prss11欠損マウスの脳小血管における壁細胞変性の解析
 16ヵ月齢のPrss11欠損マウスに対し,8ヵ月間,candesartan 3mg/kg,candesartan 3mg/kgと同等の血圧降下作用を持つamlodipine 10mg/kg,placeboのいずれかを経口投与した群を用意した(candesartan; n = 4,amlodipine; n = 4,placebo; n = 7).24ヵ月齢の同マウスから固定脳を取り出し,矢状断方向に半割して,floating切片とparaffin切片を作製した.
A) ペリサイト被覆率の定量
 ペリサイトマーカーのCD13,血管内皮細胞マーカーのlectinに対する抗体を使用し,floating切片に対して2重免疫染色を施した.共焦点顕微鏡を用いて,大脳皮質の毛細血管を撮影し,画像解析ソフトImarisで解析を行った.血管内皮細胞の体積を分母,それを取り巻く周皮細胞の体積を分子とし,その比をペリサイト被覆率として算出した.
B) 血管平滑筋細胞変性の定量
 血管平滑筋マーカーのα-smooth muscle actin,血管内皮細胞マーカーのlectinに対する抗体を使用し,paraffin切片に対して2重免疫染色を施した.蛍光顕微鏡を用いて,脳軟膜動脈を撮影し,画像解析ソフトImarisで個々の血管平滑筋細胞の面積を定量的に解析した.
結果と考察
1) Prss11欠損マウスの脳小血管における壁細胞変性の解析
A) ペリサイト被覆率
 Placebo群に比して,amlodipine内服群においてのみ,ペリサイト被覆率が優位に増加した (placebo; 0.432 ± 0.022, candesartan; 0.511 ± 0.029, p = 0.371, p = amlodipine; 0.584 ± 0.055, p < 0.01) .
B) 血管平滑筋面積
 Placebo群に比して,candesartan, amlodipine内服群ともに,血管平滑筋細胞の面積が優位に増加した (placebo; 774 ± 22 μm2, candesartan; 936 ± 42 μm2, p < 0.001, amlodipine; 938 ± 38 μm2, p < 0.001) .
 これらの結果は,Prss11欠損マウスに対するcandesartanとamlodipineの長期投与が,脳軟膜動脈における血管平滑筋細胞の変性を抑制することを示している.一方で,ペリサイト被覆率を用いた検討では,ペリサイト変性に対するcandesartan長期投与の効果は認めなかった.
結論
CandesartanはCARASILモデルマウスにおける脳小血管の変性を抑制する.

公開日・更新日

公開日
2015-08-20
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-08-20
更新日
-

文献情報

文献番号
201419091B
報告書区分
総合
研究課題名
TGF-βシグナルに注目したCARASILの画期的治療方法の開発
課題番号
H24-神経・筋-若手-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
野崎 洋明(新潟大学 医学部医歯学系)
研究分担者(所属機関)
  • 佐藤 俊哉(北里大学 実験動物学)
  • 小野寺 理(新潟大学 脳研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
CARASILはHTRA1遺伝子の変異によって発症する,常染色体劣性遺伝性の脳小血管病である.CARASILでは, HTRA1蛋白の機能低下によって生じるTGF-βの過剰分泌とTGF-βシグナルの慢性的な亢進が脳小血管の変性を引き起こすと考えられている.そのため,TGF-βシグナルを抑制する作用を持つ薬剤が治療薬になる可能性がある.すでに降圧薬として臨床応用されているAT1受容体拮抗薬はTGF-βシグナルを抑制する作用があり,TGF-βシグナルの亢進によって引き起こされるMarfan症候群に合併する大動脈瘤に奏功する(Habashi JP, et al. Science 2006).本研究では,HTRA1オルソログであるPrss11を欠損したCARASILモデルマウスを用いて,脳内移行が良好でTGF-βシグナルの阻害作用を有するAT1受容体拮抗薬candesartanの脳小血管における壁細胞である血管平滑筋細胞と周皮細胞の変性に対する治療効果を検討することを目的とした.
研究方法
1) マウスの処理
月齢16ヵ月のPrss11欠損マウスに対し,内服投与を開始した.マウスの体重を30g,1日飲水量を5mlとして,飲水にcandesartanを溶解して,3 mg/kg/dayに調節した.非内服群と,amlodipineを10mg/kg/dayで投与した群を対照にした.投与開始8ヶ月後に,マウスから固定脳を取り出し,矢状断方向に半割して,floating切片とパラフィン切片を作製した.野生型マウスについては,24ヵ月齢の固定脳を取り出し,矢状断方向に半割して,floating切片とパラフィン切片を作製した.
2) 血管平滑筋細胞面積の評価
血管平滑筋細胞マーカーのα-smooth muscle actinと血管内皮細胞マーカーのlectinを用いて,パラフィン切片に対して2重免疫染色を施した.蛍光顕微鏡を用いて,脳軟膜動脈を撮影した.画像解析ソフトImarisを用いて,個々の血管平滑筋細胞の面積を定量的に解析した.(野生型 n = 8, Prss11欠損マウス非内服群 n = 7, Prss11欠損マウスcandesartan内服群 n = 4, Prss11欠損マウスamlodipine内服群 n = 4)
3) ペリサイト被覆率の評価
ペリサイトマーカーとしてCD13,血管内皮細胞マーカーとしてlectinを使用し,floating切片に対して2重免疫染色を施した.共焦点顕微鏡で大脳皮質の毛細血管を撮影し,画像解析ソフトImarisで解析を行った.血管内皮細胞の体積を分母,それを取り巻く周皮細胞の体積を分子とし,その比をペリサイト被覆率として算出した.(野生型 n = 4, Prss11欠損マウス非内服群 n = 4, Prss11欠損マウスcandesartan内服群 n = 2, Prss11欠損マウスamlodipine内服群 n = 1)
結果と考察
1) 壁細胞変性に対する薬剤の効果
血管平滑筋細胞面積については,非内服群に比して,candesartan投与群,amlodipine投与群ともに,有意に高値であった.Candesartan投与群とamlopidine投与群の間には,平滑筋細胞面積に有意差は認めなかった.ペリサイト被覆率については,非内服群に比して,candesartan投与群,アムロジピン投与群のいずれにおいても,高値を示す傾向があった.
結論
CandesartanはCARASILモデルマウスにおける脳小血管変性を抑制する.

公開日・更新日

公開日
2015-08-20
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201419091C

収支報告書

文献番号
201419091Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
4,800,000円
(2)補助金確定額
4,800,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 3,190,454円
人件費・謝金 0円
旅費 165,184円
その他 644,362円
間接経費 800,000円
合計 4,800,000円

備考

備考
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公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-