文献情報
文献番号
201419021A
報告書区分
総括
研究課題名
自殺対策のための効果的な介入手法の普及に関する研究
課題番号
H24-精神-一般-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
山田 光彦(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所精神薬理研究部)
研究分担者(所属機関)
- 平安 良雄(横浜市立大学附属市民総合医療センター病院/横浜市立大学大学院医学研究科)
- 河西 千秋(札幌医科大学大学院医学研究科)
- 大野 裕(国立精神・神経医療研究センター認知行動療法センター)
- 酒井 明夫(岩手医科大学神経精神科学講座)
- 大塚耕太郎(岩手医科大学神経精神科学講座)
- 稲垣 正俊(岡山大学病院精神科神経科)
- 黒澤 美枝(岩手県精神保健福祉センター)
- 米本 直裕(国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所精神薬理研究部)
- 池下 克実(奈良県立医科大学 精神医学講座)
- 衞藤 暢明(福岡大学医学部精神医学教室)
- 太刀川 弘和(筑波大学医学医療系臨床医学域)
- 古野 拓(横浜市立大学大学院医学研究科・精神医学(国立病院機構横浜医療センター))
- 杉本 達哉(都立松沢病院精神科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 障害者対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
6,154,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者 河西 千秋
横浜市立大学医学群( 平成26年4月1日~26年12月31日)→ 札幌医科大学大学院医学研究科(平成27年1月1日以降)
研究報告書(概要版)
研究目的
厚生労働省が平成17年度より「自殺対策のための戦略研究」として開始した2つの大型多施設共同研究「自殺企図の再発防止に対する複合的ケース・マネージメントの効果:多施設共同による無作為化比較研究(ACTION-J)」、「複合的自殺対策プログラムの自殺企図予防効果に関する地域介入研究(NOCOMIT-J)」の成果を一般化し、全国に普及するための検討を平成24年度、平成25年度に引き続き行った。
研究方法
平成26年度は、①ACTION-Jの背景と成果・展望、②一般救急における自殺未遂者に対するケース・マネージメント実施のためのケース・マネージャー養成プログラムの開発、③地域介入プログラムの普及均てん化研究:包括的自殺対策のアプローチおよび自殺企図者に関する基礎的調査を実施した。本研究では、疫学研究に関する倫理指針および臨床研究に関する倫理指針を遵守した。
結果と考察
①ACTION-Jの成果
多施設共同による無作為化比較試験ACTION-Jにより収集されたデータ(914名の自殺未遂患者が試験介入群と通常介入群に割付け)を詳細に解析した結果、1か月の時点での通常介入群における自殺再企図発生率を1とした場合の試験介入群にける再企図発生率(リスク比)は0.19(95% CI 0.06-0.64, p=0.0075)、 3か月の時点では0.22(95% CI 0.10-0.50, p=0.003)、6か月の時点では0.50(95% CI 0.32-0.80, p=0.003)、12カ月の時点では0.72(95% CI 0.50-1.04, p=0.079)そして18か月の時点では0.79(95% CI 0.57-1.08, p=0.141)であった。サブグループ解析については、女性、40歳未満、そして過去の自殺企図の既往を持つ対象者群の方が、有意に自殺再企図の発生率が低かった。
②自殺未遂者を支援するケース・マネージャー養成プログラムの開発
ACTION-Jに参加した研究者及びケース・マネージャーを分担研究者・協力研究者として、ケース・マネージャー養成プログラムの開発研究が行われた。ACTION-Jのプライマリ・アウトカムの解析結果が平成26年度に原著論文として公表されたことから、養成プログラムではケース・マネージメント介入の有効性に関する事前学習資料が作成され、講義が追加された。プログラム参加者の職種は、精神保健福祉士、社会福祉士、臨床心理士、看護師であった。受講前後で効果を比較した結果、参加者の79%においてプログラム後に「自殺予防に対する否定的態度」が軽減した。また、「自殺に対する態度」の各因子に変化が認められた。「自殺対策に対する自信」は受講者の88%で向上し、「自殺の危機介入スキル」は参加者の67%で向上した。
③地域介入プログラムの普及均てん化研究
NOCOMIT-Jが実践した自殺対策プログラムの介入効果は、性別・世代、地域の特性によって異なることが明らかとなった。岩手県においても戦略研究の骨子をもとにした自殺対策が全県的に取り組まれてきたが、今回の調査から、岩手県の各医療圏において包括的な自殺対策を実施していることが確認された。また、都市部では介入効果が不明確であったが、都市部におけるプログラム実施の困難、人的資源や地域ネットワークの不足などが影響しているものと考えられた。この点を克服していくためには、都市部においては、詳細な自殺関連情報を収集解析した上で、ポイントを絞ったハイリスクアプローチによる支援(例えば障害者支援など)を積み重ねる必要があると考えられた。特に、精神科救急サービスにおける自殺関連行動への対応状況としては、身体合併症としての対応が求められ、入院率も高く、連携や地域ケアの導入においてケース・マネジメントを要する状況が明らかとなった。
多施設共同による無作為化比較試験ACTION-Jにより収集されたデータ(914名の自殺未遂患者が試験介入群と通常介入群に割付け)を詳細に解析した結果、1か月の時点での通常介入群における自殺再企図発生率を1とした場合の試験介入群にける再企図発生率(リスク比)は0.19(95% CI 0.06-0.64, p=0.0075)、 3か月の時点では0.22(95% CI 0.10-0.50, p=0.003)、6か月の時点では0.50(95% CI 0.32-0.80, p=0.003)、12カ月の時点では0.72(95% CI 0.50-1.04, p=0.079)そして18か月の時点では0.79(95% CI 0.57-1.08, p=0.141)であった。サブグループ解析については、女性、40歳未満、そして過去の自殺企図の既往を持つ対象者群の方が、有意に自殺再企図の発生率が低かった。
②自殺未遂者を支援するケース・マネージャー養成プログラムの開発
ACTION-Jに参加した研究者及びケース・マネージャーを分担研究者・協力研究者として、ケース・マネージャー養成プログラムの開発研究が行われた。ACTION-Jのプライマリ・アウトカムの解析結果が平成26年度に原著論文として公表されたことから、養成プログラムではケース・マネージメント介入の有効性に関する事前学習資料が作成され、講義が追加された。プログラム参加者の職種は、精神保健福祉士、社会福祉士、臨床心理士、看護師であった。受講前後で効果を比較した結果、参加者の79%においてプログラム後に「自殺予防に対する否定的態度」が軽減した。また、「自殺に対する態度」の各因子に変化が認められた。「自殺対策に対する自信」は受講者の88%で向上し、「自殺の危機介入スキル」は参加者の67%で向上した。
③地域介入プログラムの普及均てん化研究
NOCOMIT-Jが実践した自殺対策プログラムの介入効果は、性別・世代、地域の特性によって異なることが明らかとなった。岩手県においても戦略研究の骨子をもとにした自殺対策が全県的に取り組まれてきたが、今回の調査から、岩手県の各医療圏において包括的な自殺対策を実施していることが確認された。また、都市部では介入効果が不明確であったが、都市部におけるプログラム実施の困難、人的資源や地域ネットワークの不足などが影響しているものと考えられた。この点を克服していくためには、都市部においては、詳細な自殺関連情報を収集解析した上で、ポイントを絞ったハイリスクアプローチによる支援(例えば障害者支援など)を積み重ねる必要があると考えられた。特に、精神科救急サービスにおける自殺関連行動への対応状況としては、身体合併症としての対応が求められ、入院率も高く、連携や地域ケアの導入においてケース・マネジメントを要する状況が明らかとなった。
結論
ACTION-Jの成果を全国へ普及させるための検討は、過量服薬等が国民の注目を集める中、救急医療の現場をフィールドとする現実的検討として大変貴重である。平成20年の診療報酬改定で自殺未遂者に対する救急・精神科医療の評価が盛り込まれ、平成24年には精神科リエゾンチームに対する評価が新設された。これらの取り組みは、本研究で検証した救急医療施設退院後のケース・マネージメントを施策化するための基盤となる。一方、NOCOMIT-Jの成果を全国へ普及させるための検討は、日本でまだ数少ない「行政サービスの事業化に直結する研究」としての特色と高い独創性を有する。今後、本研究で得られた知見及び今後の詳細な解析をもとに、厚生労働省において、自殺対策事業の施策を推進することが期待される。
公開日・更新日
公開日
2015-06-03
更新日
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