在宅高齢者の生活環境、地域環境および介護予防プログラム・介護サービスと高齢者の健康に関する疫学研究

文献情報

文献番号
201417016A
報告書区分
総括
研究課題名
在宅高齢者の生活環境、地域環境および介護予防プログラム・介護サービスと高齢者の健康に関する疫学研究
課題番号
H24-長寿-若手-009
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
相田 潤(東北大学 大学院歯学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 小坂 健(東北大学 大学院歯学研究科 )
  • 近藤 克則(千葉大学予防医学センター 環境健康学研究部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
808,000円
研究者交替、所属機関変更
研究分担者 近藤克則 日本福祉大学健康社会研究センター(平成24年4月1日~平成26年3月31日)→千葉大学予防医学センター環境健康学研究部門(平成26年4月1日以降)

研究報告書(概要版)

研究目的
高齢化社会において、在宅介護サービスは地域包括ケアの構築の上で欠かせない。サービス利用には健康状態だけでなく、高齢者をとりまく多様な社会的決定要因が影響すると考えられるが、これらを考慮して在宅要介護高齢者の介護サービスの利用に影響を与える要因を調べた研究は少ない。本研究は前向きコホート研究で在宅要介護高齢者の介護サービスの利用に影響する要因を調べることを目的とした。
研究方法
本研究は、日本老年学的評価研究プロジェクト(JAGESプロジェクト)の2010年10月のI市における調査データを用いたコホート研究である。I市では65歳以上高齢者の郵送法による全数調査を実施しており、この回答者の内2010年10月時点で在宅介護サービスを利用している者を追跡し、2013年10月時点の介護サービスの利用状況を把握した。その上で、2010年時点のどのような要因がサービス利用状況に関連しているのかを検討した。在宅サービスの利用状況としては、2013年10月1か月間の在宅サービスの利用にかかった費用の総額を用いた。2010年の家族構成、ソーシャルサポート(手段的、情緒的サポート)、ソーシャルネットワーク(友人の有無)、社会経済的状況(所得、学歴)、既往歴(脳卒中、関節痛、骨折、精神疾患)、うつ傾向が、2013年10月1か月間の在宅サービス利用費用総額に影響しているかを重回帰分析で検討した
結果と考察
8576人の対象者の内、5058人が調査に参加をした(回収率=59.0%)。2010年10月時点で要介護認定を受けている者は323人、要支援認定を受けている者は175人であった。2013年10月時点では446人が要介護認定を、186人が要支援認定を受けていた。2010年と13年の2時点とも要支援または要介護認定を受けていた者は310人であった。2013年時点で在宅サービスを利用していた者は548人であった。548人の平均年齢は80.5歳(SD=6.4)在宅サービス費用総額の平均は103,615.7円(SD=85,051.7)であった。年齢が高い、配偶者はおらず子と同居、ソーシャルネットワークが無いほど利用が高い傾向にあった。多変量解析の結果、男性に比べて女性で15508.9円、脳卒中の既往が無い人に比べてある人で25262.1円、1か月あたりの在宅介護サービス費用総額が有意に高かった。一方で、一人暮らしの人に比べて配偶者および子と同居している場合に23021.5円、年間等価所得が250万円以上の人に比べて150-249万円の人で16825.5円、1か月あたりの在宅介護サービス費用総額が有意に低かった。支給限度額は高いほど有意に費用総額が高かった。
結論
女性、脳卒中既往のある者で在宅サービスの利用が多い一方、家族による介護がある者、所得が低い者で利用が少ない傾向にあった。脳卒中の予防が介護サービス費用額を低下させることが示唆された。また、家族介護による負担や、低所得者のサービス利用抑制による負担が存在することが示唆され、これらに関しては今後の研究や施策の検討が望まれる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-

文献情報

文献番号
201417016B
報告書区分
総合
研究課題名
在宅高齢者の生活環境、地域環境および介護予防プログラム・介護サービスと高齢者の健康に関する疫学研究
課題番号
H24-長寿-若手-009
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
相田 潤(東北大学 大学院歯学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 小坂 健(東北大学 大学院歯学研究科 )
  • 近藤 克則(千葉大学予防医学センター 環境健康学研究部門)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
要介護者の割合、閉じこもりの割合、健康寿命などの高齢者の健康と疾病には地域差が存在する。この事は、健康状態が悪い地域には改善の余地が存在することを意味し、不平等である点からも健康格差は解消すべき課題であると考えられる。そして地域差を解消することで要介護状態になる高齢者の増加を抑制できる可能性が存在する。これまでの高齢者の研究においては、個人の保健行動や健康状態といった要因に注目した研究が大多数である。しかしながら、健康格差の最大の原因は「健康の社会的決定要因」であることが世界保健機関(WHO)や多くの研究から指摘されており、これを考慮した研究の充実が望まれる。また、高齢化に伴い増加している在宅介護サービスの利用状況にも差が存在するが、これにも高齢者本人の健康状態だけでなく、様々な社会的決定要因が影響していると考えられる。そこで本研究では、高齢者をとりまく生活環境の地域差と健康状態の地域格差を把握し、どのような要因が高齢者の健康や在宅介護サービス利用状況に影響を及ぼすか検討を行った。
研究方法
高齢者の健康状態や保健行動の地域格差に関しては日常生活動作(ADL)、手段的日常生活動作(IADL)、口腔の健康、介護予防教室の参加状況や喫煙行動について、地域格差の状況を把握し、地域格差に寄与する健康の社会的決定要因や健康状態、保健行動などの多様な要因の検討を行った。さらに、より詳細に健康の社会的決定要因の寄与を調べるため、ソーシャル・キャピタルや社会参加、および社会的機能を有する口腔の健康が、健康や保健行動に与える影響を検討した。また、在宅介護サービス利用状況をアウトカムとして、寄与する要因を明らかにする解析も実施した。
研究には全国の複数の自治体で調査を実施している日本老年学的評価研究プロジェクト(JAGESプロジェクト)のデータを用いた。この調査は複数の自治体で調査を実施しているため、地域による社会環境の違いも考慮することが可能である。また、2003年から複数回の調査を実施しているため、横断研究だけでなくコホート研究としての分析も可能である。このデータを研究課題に応じて適宜利用し、解析を行った。さらに、2013年に新規の調査を実施し、全国30自治体で10万人以上のデータを用いて、多地域の健康格差の状況とその要因の解明のための分析を行った。本研究の実施にあたっては、東北大学大学院歯学研究科および日本福祉大学の研究倫理審査委員会で承認を得た上で実施された。
結果と考察
本研究により、介護予防教室を含む社会参加しやすい環境の実現や保健行動の改善に向けた介入、社会的機能を有する口腔の健康向上などが、高齢者の健康の地域差の解消や健康の改善、閉じこもりの予防などに寄与する可能性示唆された。一方で介入による解消が困難な年齢構成の違いや、社会経済的状況よって生じている地域差や健康状態の低下が一定割合存在することも明らかとなった。これらの要因は、地域における介護予防ニーズの推計や地域格差がどの程度まで改善が現実的に行えるかの推計に用いることができるであろう。また、ハイリスク者の特定にも今回の研究で明らかになったソーシャル・キャピタルなどの社会的決定要因や健康状態、保健行動の要因を用いることができる。
結論
高齢者の健康状態に大きな地域格差が存在し、その原因としてソーシャル・キャピタルや社会参加、社会経済的状況などの社会的決定要因が寄与している部分と、介護予防教室参加や口腔の健康状態などを含めた保健行動や、その他の健康状態が寄与している部分が存在することが明らかとなった。介護予防教室を含む社会参加しやすい環境の実現や保健行動の改善に向けた介入、社会的機能を有する口腔の健康向上などが、高齢者の健康の地域差の解消や健康の改善、閉じこもりの予防などに寄与する可能性示唆された。また、在宅介護サービスの利用に関して、家族介護による負担や、低所得者のサービス利用抑制による負担が存在することが示唆された。今回明らかになった要因を考慮した、高齢者の健康の地域格差を縮小する施策の実現が望まれる

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201417016C

成果

専門的・学術的観点からの成果
多地域の大規模調査のマルチレベル分析により、個人および地域の所得という社会的決定要因が、高齢者の歯の残存に関連することを示した。また、前向きコホート研究により、会話などの社会的機能も有する口腔の状態が後の閉じこもりを予測することを示した。要介護高齢者の前向きコホート研究により、脳卒中の予防が介護サービス費用を低下させることが示唆された。また、家族介護による負担や、低所得者のサービス利用抑制による負担が存在することが示唆された。
臨床的観点からの成果
介護予防教室を含む社会参加しやすい環境の実現や保健行動の改善に向けた介入、社会的機能を有する口腔の健康向上などが、高齢者の健康の地域差の解消や健康の改善、閉じこもりの予防などに寄与する可能性示唆された。一方で介入による解消が困難な年齢構成の違いや、社会経済的状況よって生じている地域差や健康状態の低下が一定割合存在することも明らかとなった。これらの要因は、地域における介護予防ニーズの推計や地域格差がどの程度まで改善が現実的に行えるかの推計に用いることができるであろう。
ガイドライン等の開発
なし
その他行政的観点からの成果
なし
その他のインパクト
なし

発表件数

原著論文(和文)
0件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
0件
学会発表(国際学会等)
0件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Ito K, Aida J, Yamamoto T, et al.
Individual- and community-level social gradients of edentulousness.
BMC Oral Health , 15 (1) , 34-  (2015)
10.1186/s12903-015-0020-z
原著論文2
Koyama S, Aida J, Kondo K, et al.
Does poor dental health predict becoming homebound among older Japanese?
BMC oral health , 16 (51)  (2016)
10.1186/s12903-016-0209-9
原著論文3
Koyama S, Aida J, Saito M, et al.
Community social capital and tooth loss in Japanese older people: a longitudinal cohort study.
BMJ Open , 6 (e010768)  (2016)
10.1136/bmjopen-2015-010768
原著論文4
Hikichi H, Aida J, Tsuboya T, et al.
Can Community Social Cohesion Prevent Posttraumatic Stress Disorder in the Aftermath of a Disaster? A Natural Experiment From the 2011 Tohoku Earthquake and Tsunami.
American Journal of Epidemiology , 183 (10) , 902-910  (2016)
10.1093/aje/kwv335
原著論文5
Tsuboya T, Aida J, Hikichi H, et al.
Predictors of depressive symptoms following the Great East Japan earthquake: A prospective study.
Social Science & Medicine , 161 , 47-54  (2016)
10.1016/j.socscimed.2016.05.026
原著論文6
Aida J, Hikichi H, Matsuyama Y, Sato, et al.
Risk of mortality during and after the 2011 great east japan earthquake and tsunami among older coastal residents.
Scientific Reports , 7 (16591)  (2017)
10.1038/s41598-017-16636-3
原著論文7
Matsuyama Y, Aida J, Tsuboya T, Hikichi H, et al.
Are lowered socioeconomic circumstances causally related to tooth loss? A natural experiment involving the 2011 great east japan earthquake.
Am J Epidemiol , 186 , 54-62  (2017)
10.1093/aje/kwx059
原著論文8
Matsuyama Y, Aida J, Watt RG, Tsuboya T,et al.
Dental status and compression of life expectancy with disability.
J Dent Res , 96 , 1006-1013  (2017)
10.1177/0022034517713166
原著論文9
Tsuboya T, Aida J, Hikichi H, Subramanian SV, et al.
Predictors of decline in iadl functioning among older survivors following the great east japan earthquake: A prospective study.
Soc Sci Med , 176 , 34-41  (2017)
10.1016/j.socscimed.2017.01.022
原著論文10
Yamamoto T, Aida J, Kondo K, Fuchida S.et.al.
Oral health and incident depressive symptoms: Jages project longitudinal study in older japanese.
J Am Geriatr Soc , 65 , 1079-1084  (2017)
10.1111/jgs.14777

公開日・更新日

公開日
2015-06-08
更新日
2023-05-01

収支報告書

文献番号
201417016Z