介護予防事業の進捗管理と効果評価のためのデータ整備に関する研究

文献情報

文献番号
201417005A
報告書区分
総括
研究課題名
介護予防事業の進捗管理と効果評価のためのデータ整備に関する研究
課題番号
H24-長寿-一般-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
辻 一郎(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
2,770,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は、自治体・社会環境(地域)・個人の3つの視点で、介護予防の進捗管理と効果評価を行うためのデータセットを確立し、その活用方策を提示することである。
 自治体の視点では、介護予防のサービス提供量と要介護認定率・給付費の推移との関連を解析して、介護予防の効果と費用対効果を検証する。これにより「どの事業をどの程度実施すれば、要介護発生率はどれくらい抑制できるか?」に関するエビデンスに基づいて、介護予防サービスの適切な提供量(アウトプット)とその実施体制を提案する。社会環境の視点では、地域における介護予防資源の需給バランスをGeographic Information System(GIS)分析で検討する。これは、介護予防の資源と要介護認定者の居住地との地理的関係を視覚的に表現する新技術であり、単に数量だけを比べていた従来の手法とは一線を画す。これにより、資源の地域偏在をチェックできるとともに、地域における介護予防拠点の効果を経時的に把握できる方法を提示し、介護予防資源の適正配置のあり方を提言する。個人の視点では、地域高齢者のコホート研究をもとに高齢期の生活習慣・生活行動(とくに高齢者の行動変容)が要介護認定リスクに及ぼす影響を検討する。これにより、高齢期における健康づくり・介護予防のあり方をエビデンスに基づいて提案する。
研究方法
 本研究班は、研究代表者が、所属施設(東北大学大学院医学系研究科公衆衛生学分野)の教室員と自治体(仙台市)の協力を受けて実施した。
 自治体の視点については、介護予防のサービス提供量と要介護認定率との関連について平成24年度・平成25年度に既に報告済みである。社会環境の視点ではGeographic Information System(GIS)分析によって、自宅周辺の医療機関整備状況が要介護発生に与える影響を検討した。個人の視点では、既存の高齢者コホートを用いて、第1に認知刺激活動の頻度と要介護状態発生の関連、第2に認知機能低下に対する「基本チェックリスト」の予測妥当性と予測モデル開発の検討、第3に緑茶摂取頻度と認知機能低下との関連を検討した。
 なお、すべての研究は「疫学研究に関する倫理指針」を遵守しており、所属施設の倫理委員会の承認のもとで実施された。
結果と考察
1.認知刺激活動量と要介護発生リスクに関する研究:認知刺激活動の頻度と要介護状態発生の関連を前向きコホート研究により検討したところ、認知刺激活動得点が高い者ほど要介護発生リスクは用量反応的に減少した。この結果は、日常的な認知刺激活動による介護予防効果を示唆するものであり、介護予防施策として日常的な認知刺激活動を促進する地域づくりのエビデンスとして各方面で活用されることが期待される。
2.近隣の医療機関数と新規要介護認定リスクとの関連に関する研究:社会環境として自宅周辺にある医療機関の数と新規要介護認定リスクの関連を分析したが、医療機関へのアクセスしやすい者ほど要介護発生率が低いという仮説を支持する結果は得られなかった。今後の検討課題として、要介護発生に寄与しうる他の社会環境要因の探索が挙げられる。
3.認知機能低下に対する基本チェックリストの予測妥当性の検証:従来から地域支援事業で用いられてきた基本チェックリストの認知機能低下に対する予測妥当性を前向きコホート研究により検討したところ、基本チェックリストの認知機能項目の該当者では認知機能低下リスクが有意に高かったことから、基本チェックリストの現行指標は認知機能低下の予測に有用であることが示唆された。しかし、性・年齢・基本チェックリストのその他の項目を組合せることで現行指標よりも有意に予測精度の高いモデルを作成できた。これらの結果は、今後、認知機能低下のハイリスク者の選定の方策に活用しうる知見と考えられる。
4.緑茶摂取と認知機能低下に関する前向きコホート研究:緑茶摂取頻度と認知機能低下との関連を検討したところ、緑茶摂取によって認知機能低下リスクを減少させうることが示唆された。健康寿命の延伸に資する情報として、広く周知して日常生活に活かしていただくことが重要と考える。
結論
本研究により、以下の結論を得た。
(1)認知刺激活動の頻度が多い者ほど要介護発生リスクが用量反応的に減少した。(2)自宅1km圏内にある医療機関数と要介護発生リスクとの間に有意な関連はみられなかった。(3)「基本チェックリスト‐認知機能項目」の該当者では認知機能低下リスクが有意に高く、認知機能低下を予測しうることが示唆された。しかし、性・年齢・基本チェックリストのその他の項目を組合せることで現行指標よりも有意に予測精度の高いモデルを作成できた。(4)緑茶摂取頻度が多い者では認知機能低下リスクが有意に低かった。

公開日・更新日

公開日
2015-05-12
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201417005B
報告書区分
総合
研究課題名
介護予防事業の進捗管理と効果評価のためのデータ整備に関する研究
課題番号
H24-長寿-一般-005
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
辻 一郎(東北大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 長寿科学総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 本研究の目的は、自治体・社会環境(地域)・個人の3つの視点で、介護予防の進捗管理と効果評価を行うためのデータセットを確立し、その活用方策を提示することである。
 本研究の第1の目的は、介護予防のサービス提供量と要介護認定率との関連を解析して、介護予防の効果を検証することである。
 本研究の第2の目的は、地域高齢者のコホート研究をもとに高齢期の生活習慣・生活行動(とくに高齢者の行動変容)が機能低下に及ぼす影響を検討することである。
 これらを通じて、介護予防事業の効果的な実施とアクションプランの実現、さらには健康寿命の延伸と介護保険財政の適正化を目指すものである。
研究方法
 介護予防事業の効果を検証するため、厚生労働省の公的統計データ(介護保険)を用い、 介護保険を運営する全国1,571保険者を解析対象として、平成18~20年度の特定高齢者施策の利用率の実績値と平成21、22年度の新規要介護認定率との関連を検討した。
 地域高齢者のコホート研究をもとに高齢期の生活習慣・生活行動(とくに高齢者の行動変容)が機能低下に及ぼす影響を検討するため、(1)宮城県大崎市の65歳以上住民21,730人を対象とした、残存歯数・口腔ケアの状況と全死因死亡との関連に関する研究、(2)宮城県大崎市の65歳以上住民13,817人を対象とした認知刺激活動量と要介護発生との関連に関する研究、(3)宮城県大崎市の65歳以上住民12,044人を対象とした日本食パターンと要介護発生との関連に関する研究を行った。
 なお、すべての研究は「疫学研究に関する倫理指針」を遵守しており、所属施設の倫理委員会の承認のもとで実施された。
結果と考察
1.特定高齢者施策と新規要介護認定に関する研究
 平成18~20年度の介護予防事業特定高齢者施策の利用率と新規要介護認定率との関連を検討したところ、特定高齢者施策の利用率が高い保険者ほど、軽度要介護認定率(要介護1以下)の増加度が少ないことが分かった。このことから、特定高齢者施策による軽度要介護認定率の増加を抑制する効果が示唆される。
 一方、全認定区分や要介護2以上の認定率では、特定高齢者施策の利用率との間に有意な関連を認めなった。このことは要介護状態への移行スピードを考えると合理的なものと考えられる。特定高齢者施策に長期的な効果があるとすれば、要介護2以上の要介護認定率も数年後以降に差がみられるものと考えられる。
2.口腔ケアと全死亡に関する研究
 様々な要因を調整しても、残存歯数が少ない者ほど死亡の発生のリスクは増加しており、用量反応関係を認めた。また、残存歯数が少ない者において、歯磨き、歯科通院、入れ歯の使用が死亡リスクに対して予防的に関連していた。このことから、口腔ケアが高齢者の寿命延伸に寄与しうることが示唆された。
3.認知刺激活動と要介護発生に関する研究
 「テレビを見る」「ラジオを聞く」「新聞を読む」「雑誌を読む」「本を読む」「トランプ、麻雀などのゲームをする」「美術館、博物館へ行く」の7項目から構成される認知刺激活動得点が高い者ほど要介護発生リスクは用量反応的に減少した。この結果から、日常的な認知的刺激活動による介護予防効果が示唆された。
4.日本食パターンと要介護発生に関する研究
 様々な要因を調整しても、日本食パターン得点が高い者ほど要介護発生リスクは減少しており、用量反応関係を認めた。また追跡前期2年間のイベント発生者を除外した場合も、傾向性のP値<0.001で、リスク減少を認めたままだったため、因果の逆転の可能性は低いと考えられる。この結果から、日本食パターン(魚・大豆・海草・緑茶など)の介護予防効果が示唆された。
結論
本研究により、以下の結論を得た。
(1)特定高齢者施策の利用率が高い保険者ほど、軽度要介護認定率(要介護1以下)が低かった。
(2)残存歯数の少ない高齢者ほど死亡リスクは有意に増加したが、残存歯数が20本未満であっても口腔ケア(定期的な歯科通院・歯磨き・入れ歯の使用)を実践している者の死亡リスクは低かった。
(3)認知刺激活動得点が高い者ほど新規要介護認定リスクが低かった。
(4)日本食の度合いが高い者ほど新規要介護認定リスクが低かった。

公開日・更新日

公開日
2015-05-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201417005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
社会環境の視点として、地域における介護予防資源の需給バランスを先進的な解析技術であるGeographic Information System(GIS)分析で検討し、今後の疫学研究手法への示唆を与えた。
個人の視点として、地域高齢者のコホート研究をもとに、残存歯数・口腔ケア・認知刺激活動・食事パターンなど、学術的に未だ詳細に解明されていない健康寿命の延伸に寄与しうる生活習慣・生活行動について検証できた。
臨床的観点からの成果
介護保険制度の地域支援事業では、運動・栄養・口腔・認知機能低下などの分野の施策が行われおり、これに関するエビデンスが臨床的に必要となる。本研究は、入れ歯や歯みがきといった口腔ケアが寿命に寄与すること、日本食パターンや認知刺激活動が介護予防につながること、より簡便に実施できる基本チェックリストが認知機能低下に対して予測妥当性を有することを示唆するなど、介護予防事業の効果的な実施とアクションプランの実現に寄与しうる成果を示すことができた。
ガイドライン等の開発
特になし
その他行政的観点からの成果
自治体の視点として、介護予防事業のサービス提供量と要介護認定率との関連を解析して、介護予防事業の効果を検証した。世界的に高齢化が進む中で、介護予防事業はわが国の先駆的な予防施策であり、その成果を世界に発信できた意義は極めて大きい。
また「臨床的観点」に示したとおり、栄養・口腔・認知機能低下など、地域支援事業に即し、その活動を促進させうる研究成果を提示することできた。
その他のインパクト
日本食パターンの研究成果がDeNA ライフサイエンス社の医療ニュースウェブサイト「Medエッジ」(2014年8月8日版)に掲載されるなど、研究成果が広く周知・活用された。

発表件数

原著論文(和文)
3件
原著論文(英文等)
11件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
16件
学会発表(国際学会等)
2件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Hoshi M, Hozawa A, Tsuji I, et al.
The predictive power of physical function assessed by questionnaire and physical performance measures for subsequent disability.
Aging Clinical and Experimental Research , 24 (4) , 345-353  (2012)
原著論文2
Tomata Y, Kakizaki M, Tsuji I, et al.
Green tea consumption and the risk of incident functional disability in elderly Japanese: the Ohsaki Cohort 2006 Study.
American Journal of Clinical Nutrition , 95 (3) , 732-739  (2012)
原著論文3
Niu K, Tsuji I, Nagatomi R, et al.
C-reactive protein (CRP) is a predictor of high medical-care expenditures in a community-based elderly population aged 70 years and over: The Tsurugaya project.
Archives of Gerontology and Geriatrics , 54 (3) , e392-397  (2012)
原著論文4
Nagai M, Kuriyama S, Tsuji I, et al.
Impact of obesity, overweight and underweight on life expectancy and lifetime medical expenditures: the Ohsaki Cohort Study.
BMJ Open , 2 (3) , e000940-  (2012)
原著論文5
Niu K, Tsuji I, Nagatomi R, et al.
A tomato-rich diet is related to depressive symptoms among an elderly population aged 70 years and over: A population-based, cross-sectional analysis.
Journal of Affective Disorders , 144 (1-2) , 165-170  (2013)
原著論文6
Kakizaki M, Kuriyama S, Tsuji I, et al.
Long sleep duration and cause-specific mortality according to physical function and self-rated health: the Ohsaki Cohort Study.
Journal of Sleep Research , 22 (2) , 209-216  (2013)
原著論文7
Hozawa A, Sugawara Y, Tsuji I, et al.
Relationship between serum isoflavone levels and disability-free survival among community-dwelling ederly individuals: nested case-control study of the Tsurugaya Project.
The Journals of Gerontology Series A: Biological Sciences and Medical Sciences , 68 (4) , 465-472  (2013)
原著論文8
木幡映美,寳澤 篤,辻 一郎,他.
自覚ストレスと循環器疾患死亡との関連:大崎国保コホート研究.
日本公衆衛生雑誌 , 59 (2) , 82-91  (2012)
原著論文9
Hayasaka K, Tomata Y, Tsuji I, et al.
Tooth loss and mortality in elderly Japanese adults: effect of oral care.
Journal of the American Geriatrics Society , 61 (5) , 815-820  (2013)
原著論文10
Tomata Y, Watanabe T, Tsuji I, et al.
Dietary patterns and incident functional disability in elderly Japanese: the Ohsaki cohort 2006 study.
The Journals of Gerontology Series A: Biological Sciences and Medical Sciences , 69 (7) , 843-851  (2014)
原著論文11
Chou WT, Tomata Y, Tsuji I, et al.
Relationships between changes in time spent walking since middle age and incident functional disability.
Preventive Medicine , 59 , 68-72  (2014)
原著論文12
星 玲奈,遠又靖丈,辻 一郎,他.
血清総コレステロール値と要介護認定リスクに関する前向きコホート研究:鶴ヶ谷プロジェクト.
日本公衆衛生雑誌 , 60 (8) , 435-442  (2013)
原著論文13
Tomata, Y Sone T, Tsuji I, et al.
Association between the disability prevention program “Secondary Preventive Services” and disability incidence among the elderly population: A nationwide longitudinal comparison of Japanese municipalities.
Geriatrics & Gerontology International  (2015)
DOI: 10.1111/ggi.12440

公開日・更新日

公開日
2015-05-01
更新日
-

収支報告書

文献番号
201417005Z