筋骨格系慢性疼痛の疫学および病態に関する包括的研究

文献情報

文献番号
201416002A
報告書区分
総括
研究課題名
筋骨格系慢性疼痛の疫学および病態に関する包括的研究
課題番号
H25-痛み-指定-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
戸山 芳昭(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 雅也(慶應義塾大学 医学部 )
  • 小杉 志都子(慶應義塾大学 医学部 )
  • 橋口 さおり(慶應義塾大学 医学部 )
  • 岩波 明生(慶應義塾大学 医学部 )
  • 西脇 祐司(東京大学 医学部)
  • 住谷 昌彦(東邦大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 慢性の痛み対策研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
13,100,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)①慢性疼痛が将来のADL低下や要介護認定に及ぼす影響を定量的に明らかにする。②全国を代表するサンプルに調査を行い、筋骨格系慢性疼痛に係る理解度、また受診行動を規定する因子等の情報を得る。2)脊髄腫瘍術後患者の疼痛を定量的に評価することにより、脊髄障害性疼痛の生じるメカニズムを解明する。3)術後遷延痛に影響する因子を解明する。4)慢性疼痛患者の介護負担を定量化し、介護者の精神的健康を害するような慢性疼痛患者の特徴を探索する。
研究方法
1)平成22、23年度に調査協力のあった6119名に再度郵送調査を実施し、平成25年度までの3年間の縦断解析を実施した。曝露変数は、ベースライン時点の慢性疼痛の有無とした。アウトカムは、平成26年時点でのADL低下とした。2)脊髄髄内腫瘍患者(105例)に対して、アンケート調査(painDETECT,SF-36,NPSI,マクギル疼痛スコア)、fMRIによる評価を行った。3)脊髄髄内腫瘍症例105例にアンケート調査(神経障害性疼痛重症度スコアJOAスコア)を行い、各種パラメーター(手術時間、術前後のJOAの変化、術中の血糖値、Hbの変化、術中の血圧低下、術中・術後の使用薬剤など)が術後の疼痛に及ぼす影響を調査した。さらに、乳房部分切除患者に対して、術前不安抑うつ評価(HADS)、術前24時間蓄尿中のコルチゾール測定を行い、術後に簡易型マクギル疼痛質問票(以下SF-MPQ)による疼痛の評価を行った。4)慢性疼痛を主訴に当科を受診した患者46人とその患者の受診に同伴した介護者46人を対象にした。介護負担はZarit介護負担尺度日本語版を用いて評価し、その値から既知の変換式を用いて抑うつ尺度GDS-15を計算し、GDS-15≧8を抑うつ症状ありと評価した。疼痛患者に各種質問票による評価を行った。
結果と考察
1)①慢性疼痛有症者では無症者に比べて、3年間にADL低下するオッズが50%程度上昇していた。疼痛の慢性化を防止することが、将来のADL低下予防に重要であることが示唆された。疼痛の部位別の検討では腰痛が将来のADL低下と最も関連が強かった。②5000名を対象に筋骨格系慢性疼痛に関する意識調査を行った。受診先として、整形外科を選択する者が最多であったが、受診にあたり最も重視する項目として、「専門性」とほぼ同程度に「通いやすさ」を挙げていた。2)脊髄髄内腫瘍術後患者において一次ニューロンのダメージの差は手術を行った際の脊髄後角におけるダメージの違いと考えられ、At the levelとBelow the levelの脊髄障害性疼痛の発生には異なるメカニズムが関わっていることが示唆された。fMRIでは疼痛部位の感覚鈍麻を呈している患者においても、疼痛部位への温度刺激によりpain matrixの過剰な賦活が起きていることが確認された。3)髄内腫瘍の術後遷延痛の発生には、腫瘍高位や、術前の痛みのような症例固有の原因ばかりでなく、術中の血圧低下、手術時間、コルチコステロイドやグリセオール投与等の外的要因も危険因子として関与していることが明らかとなった。乳癌術後遷延痛の危険因子として、術前尿中コルチゾール分泌の低下が明らかになった。ストレスによる視床下部・下垂体・副腎系への修飾が、慢性痛形成に関与していることが示唆された。4)簡易疼痛質問票で評価した患者のADLが低いと、介護者が抑うつ症状を示した。ADL評価項目の中でも、特に歩行能力・日常の仕事・対人関係が、介護者が抑うつを示す患者では悪化していた。このことに加えて、患者の疼痛による行動の障害を評価する疼痛行動障害尺度でも介護者が抑うつ症状を示す患者では顕著に悪化しており、疼痛患者が社会参加に制約があるような活動性の低下があると介護者の身体的介護負担が増強し、介護者の心的負担感に繋がる可能性がある。
結論
1)筋骨格系慢性疼痛が将来のADL低下と関連することを示唆していた。また、筋骨格系慢性疼痛に関する意識などの調査からは、今後の対策立案に向けての重要な資料となる知見を得た。2)脊髄腫瘍術後患者の脊髄障害性疼痛の発生には神経伝導路において伝達の過剰や下行抑制系の機能低下が起こっていることが推測された。3)高位頚髄、術前の痛み、術前NSAIDSの使用、術中グリセオール投与、術中低血圧、手術時間、周術期ステロイド投与、術後のジクロフェナクの使用が、術後遷延痛発生を有意に増大する。術前の心理的ストレスおよびストレスホルモンの変調は、乳癌術後遷延痛の発生率を増大する。4)慢性疼痛患者を介護する者は、患者の身体活動の低下から介護者の身体的介護負担が増加し、その結果、介護者が抑うつ的になることが示された。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

文献情報

文献番号
201416002B
報告書区分
総合
研究課題名
筋骨格系慢性疼痛の疫学および病態に関する包括的研究
課題番号
H25-痛み-指定-002
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
戸山 芳昭(慶應義塾大学 医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 中村 雅也(慶應義塾大学 医学部 )
  • 小杉 志都子(慶應義塾大学 医学部 )
  • 橋口 さおり(慶應義塾大学 医学部 )
  • 岩波 明生(慶應義塾大学 医学部 )
  • 西脇 祐司(東京大学 医学部)
  • 住谷 昌彦(東邦大学 医学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 慢性の痛み対策研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
1)①慢性疼痛が将来のADL低下や要介護認定に及ぼす影響を定量的に明らかにする。②全国を代表するサンプルに調査を行い、筋骨格系慢性疼痛に係る理解度、また受診行動を規定する因子等の情報を得る。2)脊髄腫瘍術後患者の疼痛を定量的に評価することにより、脊髄障害性疼痛の生じるメカニズムを解明する。3)術後遷延痛に影響する因子を解明する。4)①高齢者に多い四肢骨折後に、痛みが慢性化するCRPS発症に寄与する医学的因子を解明する。②慢性疾患患者の介護者の介護負担を定量化し、介護者の精神的健康を害するような慢性疼痛患者の特徴を探索した。5)マウスfMRIによる神経障害性疼痛の新たな評価法の構築を試みた。
研究方法
1)平成22、23年度に調査協力のあった6119名に再度郵送調査を実施し、3年間の縦断解析を実施した。曝露変数は慢性疼痛の有無とした。アウトカムは平成26年時点でのADL低下とした。2)脊髄髄内腫瘍患者に対して、アンケート調査、fMRIによる評価を行った。3)脊髄髄内腫瘍症例にアンケート調査を行い、各種パラメーター(手術時間、術前後の麻痺の程度、術中の血糖値・血圧変動、周術期の使用薬剤など)が術後の疼痛に及ぼす影響を調査した。さらに、乳房部分切除患者に対して術前不安抑うつの評価、術前24時間蓄尿中のコルチゾールを測定し、術後に簡易型マクギル疼痛質問票による疼痛の評価を行った。4)①2007年~2010年319万人分のDPCデータベースから四肢骨折に対し観血的整復固定術を受けた入院患者を抽出しCRPSの発症に関連する因子を多変量ロジスティック回帰解析で分析した。②慢性疼痛を主訴に当科を受診した患者46人とその患者の受診に同伴した介護者46人を対象にした。介護負担から介護者の抑うつを推定し、患者要因を比較した。5)マウス神経障害性モデルを作製し、経時的にアロディニアを評価し、fMRIの信号変化と比較検討した。
結果と考察
1) ①慢性疼痛有症者では無症者に比べて、3年間にADL低下するオッズが50%程度上昇していた。疼痛慢性化を防止することが、将来のADL低下予防に重要であることが示唆された。疼痛の部位別の検討では腰痛が将来のADL低下と最も関連が強かった。②5運動器慢性疼痛の受診先として整形外科が最多であったが、受診にあたり最も重視する項目として、「専門性」とほぼ同程度に「通いやすさ」を挙げていた。2)脊髄髄内腫瘍術後患者における脊髄障害性疼痛の発生にはAt the levelとBelow the levelで異なるメカニズムが関わっていることが示唆された。fMRIでは疼痛部位への温度刺激によりpain matrixの過剰な賦活が起きていた。3)髄内腫瘍の術後遷延痛の発生には、術中の血圧低下、手術時間、ステロイドやグリセオール投与等の外的要因も危険因子として関与していることが明らかとなった。乳癌術後遷延痛の危険因子として、術前尿中コルチゾール分泌の低下が明らかになった。4)①ORIFを受けた185378人のうち39人(0.021%)が入院中にCRPSと診断された。骨折部位では上肢が多く、前腕で顕著であった。長い麻酔時間は長い手術時間とタニケットによる駆血時間が長かったことを示唆し、CRPSの発症には虚血再潅流傷害が関連する可能性が考えられた。②21人が介護負担尺度から抑うつを示した。痛みによる行動障害やADLとQOLの低下があると介護者が抑うつ的になることが示された。慢性疼痛患者の介護者に対する支援の方策として、慢性疼痛患者の運動機能を支援する社会福祉は介護の身体的負担が軽減し介護者の健康維持に寄与することが示唆された。5)マウス神経障害性モデルのfMRIによる評価で、前帯状回と視床の賦活化を捕らえることに成功した。さらに、神経障害性疼痛に対する抗IL6受容体抗体の有効性を捉えることにも成功した。
結論
1)筋骨格系慢性疼痛が将来のADL低下と関連することを示唆していた。また、筋骨格系慢性疼痛に関する意識などの調査からは、今後の対策立案に向けての重要な資料となる知見を得た。2)脊髄腫瘍術後患者の脊髄障害性疼痛の発生には神経伝導路において伝達の過剰や下行抑制系の機能低下が起こっていることが推測された。3)術前の痛み、術中のグリセオール投与・低血圧、手術時間、周術期ステロイド投与が、術後遷延痛発生を有意に増大する。術前の心理的ストレスおよびストレスホルモンの変調は、乳癌術後遷延痛の発生率を増大する。4)慢性疼痛患者を介護する者は、患者の身体活動の低下から介護者の身体的介護負担が増加し、その結果、介護者が抑うつ的になることが示された。5)マウス神経障害性モデルのfMRIによりACCと視床の賦活化を捕らえることに成功した。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201416002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
運動器の慢性疼痛の縦断的疫学調査により慢性疼痛有症者に治療効果が十分得られなかった要因の一つは、神経障害性疼痛や心因性疼痛が関与する病態の把握が十分でなく、適切な治療が行われていなかったためと考えられた。本邦の慢性疼痛患者において肥満が疼痛強度に対して悪影響を与えていること、その機序としてメタボリック症候群関連サイトカインによる全身慢性炎症が関連していることを遺伝子多型調査から明らかにした。
臨床的観点からの成果
運動器慢性疼痛患者に対し、Pain detectや神経障害性疼痛重症度判定スコアにより神経障害性疼痛関与を治療前に把握することが重要である。さらにHospital Anxiety and Depression scaleやPain Catastrophizing Scaleより心因性疼痛の関与を明らかにしその病態に応じた治療を行うことで疼痛の程度を軽減したり持続期間を短くできる可能性がある。慢性疼痛治療の一環として肥満治療が必要であることが慢性疼痛治療予防に繋がる可能性を示した。
ガイドライン等の開発
日本整形外科学会が作成した『運動器慢性疼痛診療の手引き』に本研究成果が引用された。
その他行政的観点からの成果
慢性疼痛患者の介護負担とその寄与要因を明らかにした。運動器の慢性疼痛が国民のADL、QOLに大きく影響することを縦断研究により明らかにした。特に慢性の腰痛、膝関節痛がADL低下、特に要支援・要介護に至る可能性のodds比が約2倍になることを明らかにした点は極めて重要な知見である。超高齢化社会を迎えた日本における健康寿命延伸に向けた今後の施策において重要な研究結果と考えている。
その他のインパクト
該当なし

発表件数

原著論文(和文)
1件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
39件
その他論文(英文等)
9件
学会発表(国内学会)
50件
学会発表(国際学会等)
14件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Nakamura M, Nishiwaki Y, Ushida T, et al
Prevalence and characteristics of chronic musculoskeletal pain in Japan: a second survey of people with or without chronic pain
J Orthop Sci , 19 , 339-350  (2014)
原著論文2
Nakamura M, Nishiwaki Y, Ushida T, et al
Investigation of chronic musculoskeletal pain (third report): with special reference to the importance of neuropathic pain and psychogenic pain
J Orthop Sci , 19 , 667-675  (2014)
原著論文3
Sugai K, Tsuji O, Matsumoto M, Nishiwaki Y, Nakamura M
Chronic musculoskeletal pain in Japan (the final report of the 3-year longitudinal study): Association with a future decline in activities of daily living
J Orthop Sci , 25 , 1-6  (2017)
原著論文4
菅井桂子, 辻収彦, 松本守雄, 西脇裕司, 中村雅也
筋骨格系慢性疼痛に対する理解度と治療機関選定についての国民意識調査
臨床整形外科 , 52 , 881-889  (2017)

公開日・更新日

公開日
2015-06-25
更新日
2019-06-07

収支報告書

文献番号
201416002Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
17,000,000円
(2)補助金確定額
17,000,000円
差引額 [(1)-(2)]
0円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 4,709,278円
人件費・謝金 5,185,851円
旅費 25,700円
その他 3,179,348円
間接経費 3,900,000円
合計 17,000,177円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-