ポジトロン断層法による錘体外路系疾患におけるカテコールアミン作動性神経活性に関する研究

文献情報

文献番号
199800361A
報告書区分
総括
研究課題名
ポジトロン断層法による錘体外路系疾患におけるカテコールアミン作動性神経活性に関する研究
課題番号
-
研究年度
平成10(1998)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 健吾(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
研究分担者(所属機関)
  • 籏野健太郎(国立療養所中部病院長寿医療研究センター)
  • 加知輝彦(国立療養所中部病院)
  • 丸山哲弘(鹿教湯病院)
研究区分
厚生科学研究費補助金 先端的厚生科学研究分野 脳科学研究事業
研究開始年度
平成10(1998)年度
研究終了予定年度
-
研究費
56,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ポジトロン断層法(PET)より錐体外路系疾患におけるカテコールアミン作動性神経活性の画像解析を行い、その機能障害を明らかにするとともに、錐体外路系疾患に伴って生じる脳機能障害との関連を脳内メカニズムの観点から検討する。この様な検討により、錐体外路系疾患の病態を詳細に明らかにして治療法の選択、改良に寄与する。
研究方法
各分担研究者が以下のような項目を検討した。
1)PETによるカテコールアミン作動性神経活性の画像解析のための方法論的開発とその臨床応用による錐体外路系疾患の病態解析(伊藤)
F-18-DOPA (FDOPA) PETの機能画像(Ki map)の解析に脳の賦活試験で用いられているPET画像の解剖学的標準化法を適用してパーキンソン病とレビー小体型痴呆における脳内カテコールアミン作動性神経の機能障害を解析した。疾患群としてパーキンソン病10例、レビー小体型痴呆10例を対象とし、10例の正常群を対照とした。正常群と疾患群との間の群間比較は、SPM(statistical parametric mapping)95による画像ベースの解析(voxel-by-voxel analysis)と通常の関心領域(ROI)の設定による解析(ROI analysis)の2種類を行った。
2)脳内ノルアドレナリン(NA)作動性神経活性測定のための新規放射性薬剤の開発(籏野)
1.新規放射性薬剤の開発
Luiらの方法に従い、β-hydroxylase (DBH)によりfluoroDOPAをフッ素-18標識L-threo-DOPSアナローグ(dihydroxyfluoro-phenyl-L-serine)に変換する実験を行った。
2.ドーパミンD1およびD2受容体の加齢変化
雄性 F344 ラット 6 ヶ月齢及び 24 ヶ月齢に対し、C-11-SCH23390およびC-11-Racloprideと動物用 PET カメラを用いてダイナミックスキャンを行った。2-compartment model に基づき、結合定数 k3及び解離定数k4を算出し、結合能BP(k3/k4)を求めた。
3)錐体外路系疾患のおける高次脳機能障害の神経心理学的評価と画像解析
1.パーキンソン病における脳高次機能障害の神経心理学的検査および脳血流画像による解析(加知)
神経心理学的検査の対象は痴呆を合併していないパーキンソン病35例と痴呆を合併しているパーキンソン病12例で、アルツハイマー病17例、健常コントロール23例を比較対照とした。これら4群の年齢差はなく、全例にMMSEとRCPMを施行した。
脳血流画像の対象は痴呆を合併していないパーキンソン病28例で、年齢を近似させた健常成人17例を比較対照とした。脳血流画像はI-123-IMPを静注し、autoradio- graphy(ARG)法により定量画像を作成した。画像解析はSPM 96 を用いて行った。
2.パーキンソン病における脳高次機能障害の神経心理学的評価ーセット機能の解析ー(丸山)
対象は痴呆のないPD患者20例と正常対照群20例である。セット機能検査としてWCSTとOMOTを施行した。統計学的処理は、2群間の比較にはノンパラメトリック検定であるMann-Whitney検定を用いた。
結果と考察
1)PETによるカテコールアミン作動性神経活性の画像解析のための方法論的開発とその臨床応用による錐体外路系疾患の病態解析
レビー小体型痴呆ではパーキンソン病に比べて線状体・黒質でのKi値の低下がより高度であり、さらに前部帯状回、左側坐核など広い範囲でKi値の低下を検出した。これらの部位は従来より病理学的検討で報告されているレビー小体の発現の強い部位に一致している。われわれの開発したFDOPA PETの解析法はカテコールアミン作動性神経の機能障害を検出するのに鋭敏かつ信頼性の高い方法であることがわかった。
2)脳内ノルアドレナリン(NA)作動性神経活性測定のための新規放射性薬剤の開発(籏野)
1.新規放射性薬剤の開発
ノルアドレナリン作動性神経活性測定剤開発としてフッ素-18標識L-threo-DOPSアナローグの酵素合成を試みたが、成功しなかった。
2.ドーパミンD1およびD2受容体の加齢変化
動物PETによって老化 F344 ラット脳のドーパミンD1およびD2受容体の結合能の低下が確認されたが、このデータは新規NA受容体測定剤の開発段階で動物実験により基礎評価を行う際にも貴重な参照データである。
3)錐体外路系疾患のおける高次脳機能障害の神経心理学的評価と画像解析
1.パーキンソン病における脳高次機能障害の神経心理学的検査および脳血流画像による解析
RCPMでは有意にパーキンソン病群で成績が悪いことが見い出され、パーキンソン病では視覚認知、非言語性理論に関係する認知機能障害の存在が示唆された。RCPMスコアの低下と相関して、右視覚連合野と右頭頂葉後部での脳血流低下がみられ、パーキンソン病におけるRCPMの成績低下の要因として、視覚認知障害が強く関与している可能性が画像解析からも示唆された。
2.パーキンソン病における脳高次機能障害の神経心理学的評価ーセット機能の解析ー
WCSTによりPD発症初期のセット機能障害が明らかにされ、進行するに従いOMOTにおいても異常が生じていた。即ち、本疾患ではセット変換機能は早期から障害されやすく、病期の進展により注意機能に異常が生じた結果としてセット保持機能にも障害が出現すると考えられた。
結論
今年度の研究では画像解析によりドーパミン作動性神経を含むカテコールアミン作動性神経の機能障害を明らかにして、臨床的にも病理学的にも重複の多いこれらの疾病を画像所見から再分類できる可能性を示した。われわれの開発した画像解析法は今後、開発と臨床応用が予定されているノルアドレナリン作動性神経活性測定のための新規放射性薬剤の解析にも適用可能である。新規放射性薬剤の開発自体の進展はなかったが、関連する基礎的なデータを動物実験により得た。また、パーキンソン病の高次脳機能障害を神経心理学的に評価して画像所見との関連を明らかにすることで病態生理を検討した。今後、今年度の成果を踏まえて研究を進めることにより、錐体外路系疾患の詳細な病態すなわちPETで評価するカテコールアミン作動性神経活性の異常と脳機能障害発生の間のメカニズムが明らかとなり、薬物治療の選択など治療計画にも有用な情報を与えると思われる。

公開日・更新日

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