リンパ脈管筋腫症に対するシロリムスの安全性確立のための医師主導治験

文献情報

文献番号
201415019A
報告書区分
総括
研究課題名
リンパ脈管筋腫症に対するシロリムスの安全性確立のための医師主導治験
課題番号
H24-難治等(難)-一般-010
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
中田 光(新潟大学 医歯学総合病院)
研究分担者(所属機関)
  • 三嶋 理晃(京都大学大学院 医学研究科)
  • 赤澤 宏平(新潟大学 医歯学総合病院)
  • 井上 義一(国立病院機構近畿中央胸部疾患センター )
  • 瀬山 邦明(順天堂大学大学院 医学研究科)
  • 田澤 立之(新潟大学 医歯学総合病院)
  • 高田 俊範(新潟大学 医歯学総合病院)
  • 三上 礼子(東海大学 医学部)
  • 中山 秀章(東京医科大学病院 )
  • 鈴木 雅(北海道大学病院)
  • 海老名 雅仁(東北薬科大学病院)
  • 花岡 正幸(信州大学 医学部)
  • 服部 登(広島大学大学院)
  • 渡辺憲太朗(福岡大学 医学部)
  • 玉田 勉(東北大学病院 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
113,392,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
リンパ脈管筋腫症(LAM)は妊娠可能な女性が罹患し、LAM細胞と呼ばれる由来不明の細胞が肺や腎臓に転移して、肺が破壊される難病である。70%が気胸を経験し、36%が在宅酸素療法を受けている。シロリムスが治療薬として有望視され、2006年から2010年に日米加3カ国共同のMILES試験で有効性と安全性が検証された。しかし、製造販売元の米国ファイザー社では、同薬の物質特許有効期間がほとんど残されていないことから、LAMに対するシロリムスの適用拡大をFDAに申請しなかった。MILES試験の日本人データで薬事承認を取るという可能性も話しあわれたが、日本人の実薬患者が13名と少なかったため、PMDAは安全性を主要評価項目とする医師主導治験の実施を勧め、我々は、ファイザー株式会社より治験薬の供与を受け、ライセンスアウト先企業のノーベルファーマ社と協力し、医師主導治験を実施した。本治験の目的は、1.LAMに対するシロリムスの薬事承認を得ること2.安全性を確認すること3.全国のLAM化学療法の拠点病院創り行うことである。
研究方法
LAM患者を対象として2年間シロリムスを1日2mg投与し、安全性を確認する第ⅠⅠ相オープン試験である。平成25年10月にノーベルファーマ社より薬事承認申請がなされ、平成26年2月にPMDAによるGCP適合性調査が新潟大学と近畿中央胸部疾患センターに対して行われた。12ヶ月中間報告書を平成26年3月にPMDAに提出した。5月26日に厚生労働省医薬品第二部会で承認、同7月4日に薬事承認となった。薬事法より、治験は臨床研究と読み替えて、2014年12月30日まで継続し、2015年1月データ固定、現在解析中である。2年間の研究結果は、平成27年5月末までに24ヶ月総括報告書としてPMDAに提出する。
結果と考察
平成26年7月4日に薬事承認された後、治験参加者に再同意を得て、参加を依頼し、同年12月31日まで臨床研究として継続した。52例が24ヶ月の服薬を完遂した。24ヶ月で1526件発の有害事象があり、臓器別では、279件の口内炎を含む胃腸障害が509件、次いで、感染症249件、頭痛93件、ざそう様皮膚炎をふくむ皮膚障害152件と続いた。主な有害事象の推移をみると、口内炎は最初の1ヶ月でピークに達し、常に半数の患者が罹患していた。次いで多かったのが、ざそう様皮膚炎であったが、最初の6ヶ月間でピークに達し、約3分の1の症例が罹患していた。頭痛は、最初の1年間ゆっくりと増え続け、約4分の1の患者さんが訴えた。重篤有害事象は、6ヶ月まで12件、6~12ヶ月11件、12~18ヶ月4件、18~24ヶ月2件、合計29件発生した。シロリムス肺臓炎は3件発生した。うち、一例はステロイド治療を要し、中止となった。残り2例はシロリムス中断後、1mgから再開した。いづれも障害を残すことなく、回復している。24ヶ月で4例の気胸をみとめた。肺1秒量、努力性肺活量ともに、ベースライン値に対し、12ヶ月、24ヶ月ともに有意差はなかった。同症の患者は自然経過で呼吸機能の低下が観られることを考えると、シロリムスは同症に対し呼吸機能の低下を阻止したといえる。ベースラインの肺1秒量に対し、15%以上増加した患者は、9例あり、うち、治験中GnRH療法を併用していた患者が8例、ベースライン時乳び胸を合併していたか既往があった患者が5例あった。これに対し、10%以上悪化していた9例では、どちらも見られなかった。
結論
LAMに対する長期のシロリムス療法は、口内炎、ざそう様皮膚炎、頭痛などの有害事象を惹起したが重篤有害事象の頻度は、経過とともに減少し、忍容性の増大が認められた。長期のシロリムス投与は、大部分の患者にとって耐えられる治療であり、一部の患者では、肺機能の改善が見られた。

公開日・更新日

公開日
2017-03-31
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-05-13
更新日
-

文献情報

文献番号
201415019B
報告書区分
総合
研究課題名
リンパ脈管筋腫症に対するシロリムスの安全性確立のための医師主導治験
課題番号
H24-難治等(難)-一般-010
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
中田 光(新潟大学 医歯学総合病院)
研究分担者(所属機関)
  • 三嶋 理晃(京都大学大学院)
  • 赤澤 宏平(新潟大学 医歯学総合病院 )
  • 井上 義一(国立病院機構 近畿中央胸部疾患センター)
  • 瀬山 邦明(順天堂大学大学院)
  • 田澤 立之(新潟大学 医歯学総合病院 )
  • 三上 礼子(東海大学 医学部)
  • 高田 俊範(新潟大学 医歯学総合病院 )
  • 中山 秀章(東京医科大学病院)
  • 鈴木 雅(北海道大学病院)
  • 海老名 雅仁(東北薬科大学病院)
  • 花岡 正幸(信州大学 医学部)
  • 服部 登(広島大学大学院)
  • 渡辺憲太朗(福岡大学 医学部)
  • 玉田 勉(東北大学病院)
  • 久保 惠嗣(信州大学 医学部)
  • 西村 正治(北海道大学大学院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
リンパ脈管筋腫症は若年女性が罹患し呼吸不全が進行する難病である。70%が気胸を経験し36%が在宅酸素療法を受けている。90年代後半に発症機序が解明されて以来シロリムスが治療薬として有望視され米国でI/II相試験が行われ呼吸機能の改善が示唆された。2006年から2010年まで第ⅠⅠⅠ相試験として行われたMILES試験ではシロリムスはLAMの進行を防ぎ、病勢を安定させることが確認された。しかし米国ファイザー社では同薬の物質特許有効期間がほとんど残されていないことからLAMに対する適用拡大をFDAに申請しなかった。そのため我々は医師主導治験を実施しこのデータとMILES試験の結果をもとにファイザー株式会社とライセンスアウト先企業のノーベルファーマ社と協力し薬事承認を目指した。またシロリムスは副作用が多く報告されているので本治験でシロリムスのLAM患者への長期投与の影響を明らかにし同時に全国のLAM化学療法の拠点病院創りを目指した。
研究方法
本治験は中等~重症のLAM患者60例以上を対象に2年間シロリムスを1日2mg投与し2年間の安全性を確認する第ⅠⅠ相オープン試験である。安全性監視委員会をLAM専門家で組織した。治験は二期に分け第一期は、新潟大、近畿中央胸部疾患センター、順天堂大の3施設で、2012年5月末までにIRB承認を得て6月29日に治験届をPMDAに提出し同7月1日に新潟大学医歯学総合病院に治験調整事務局を開設し同医療情報部がEDCシステムを立ち上げた。9月5日に患者登録を開始した。第2期は北大、東北大、信州大、京大、広島大、福岡大の6施設で2012年9月末までにIRB承認を得て、同年10月10日に実施計画書の変更届をPMDAに提出し翌日より開始した。同年12月31日までに全施設で63例を登録した。一方、同年9月までにノーベルファーマ社はオーファン申請し承認を得た。2013年10月に同社が薬事承認申請、12ヶ月の中間報告書を2014年3月にPMDAに提出する。2014年2月にPMDAによるGCP適合調査を受け5月に厚生労働省医薬品第二部会で承認同7月4日に薬事承認となった。治験は臨床研究と読み替えて2014年12月30日まで継続し2015年1月データ固定2年間の研究結果をまとめ2015年5月末までに総括報告書としてPMDAに提出する。
結果と考察
本治験は中等~重症のLAM患者60例以上を対象に2年間シロリムスを1日2mg投与し2年間の安全性を確認する第ⅠⅠ相オープン試験である。安全性監視委員会をLAM専門家で組織した。治験は二期に分け第一期は、新潟大、近畿中央胸部疾患センター、順天堂大の3施設で、2012年5月末までにIRB承認を得て6月29日に治験届をPMDAに提出し同7月1日に新潟大学医歯学総合病院に治験調整事務局を開設し同医療情報部がEDCシステムを立ち上げた。9月5日に患者登録を開始した。第2期は北大、東北大、信州大、京大、広島大、福岡大の6施設で2012年9月末までにIRB承認を得て、同年10月10日に実施計画書の変更届をPMDAに提出し翌日より開始した。同年12月31日までに全施設で63例を登録した。一方、同年9月までにノーベルファーマ社はオーファン申請し承認を得た。2013年10月に同社が薬事承認申請、12ヶ月の中間報告書を2014年3月にPMDAに提出する。2014年2月にPMDAによるGCP適合調査を受け5月に厚生労働省医薬品第二部会で承認同7月4日に薬事承認となった。治験は臨床研究と読み替えて2014年12月30日まで継続し2015年1月データ固定2年間の研究結果をまとめ2015年5月末までに総括報告書としてPMDAに提出する。
結論
LAMに対する長期のシロリムス療法は1年以上呼吸機能の低下を阻止しうると考えられた。乳び胸の既往のある患者に対し肺1秒量を改善させる効果があると思われた。口内炎、ざそう様皮膚炎、頭痛などの頻度は一定であった。しかし重篤有害事象の頻度は経過とともに減少した。長期のシロリムス投与は大部分の患者にとって耐えられる治療であり一部の患者では肺機能の改善が見られた。


公開日・更新日

公開日
2017-03-31
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-05-13
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201415019C

成果

専門的・学術的観点からの成果
リンパ脈管筋腫症(LAM)とは、若年女性が罹患する稀少嚢胞性肺疾患である。 日米加三カ国の国際共同臨床試験により分子標的医薬であるシロリムスがLAMの進行を抑制することが確認されたが、我が国では未承認薬であったため、2012年より厚生労働科学研究費難治性疾患等克服研究事業の中で医師主導治験を実施し、実用化をめざした。その結果、シロリムス投与の有効性と安全性が確認され、2014年7月に薬事承認された。また、今回の治験で軽症者の呼吸機能低下にもシロリムスが抑制的に働くことが示唆された。
臨床的観点からの成果
これまで、LAMに対して科学的に有効性・安全性が実証されている化学療法剤が存在しなかった。今回の医師主導治験において、それらが証明され、LAMに対する化学療法の時代が始まることとなった。今回の治験の中で、乳び胸水の既往がある患者は肺1秒量が劇的に改善することもわかった。一部の患者の予後が飛躍的に延びると予想される。また、MILES試験では、報告されなかった体重減少や血圧の上昇などの副作用が示唆された。
ガイドライン等の開発
厚生労働科学研究費難治性疾患等克服研究事業『呼吸不全に関する研究班』が担当するガイドライン作成において、シロリムス治療についての記載が検討されている。また、シロリムスを2014年12月に発売したノベルファーマ社がラパリムス(シロリムス)適正使用ガイドの中で本治療について詳述している。このガイドは、本治験で得られたデータに基づき書かれたものである。また、本研究班や難病財団のホームページの中で、本治療法が紹介されている。
その他行政的観点からの成果
健康医療戦略室の公開会議における難治性疾患実用化研究事業の平成26年度成果発表会の席上で、本研究成果が発表された。同事業の中で、薬事承認となった第一号の成果であった。また、LAMに対する化学療法剤として世界初の薬事承認であったことも意義深い。本事業は、国の難病対策の今後を占う重要な試金石であった。医師と患者と企業が長年準備を進めてきた結果であり、難病対策のロールモデルとして国の政策や製薬企業による新薬開発に貢献するであろう。
その他のインパクト
国、患者会、医師、企業が応分に負担を背負うことで、稀少なるが故に遅れて来た難病の新薬実用化に新たな展開をもたらすことが期待される。具体的には、1、稀少難病の新薬開発を行う企業をどのように優遇するか?2、患者団体と医師はどのように連携していけばよいか?3、医師主導治験に際して知財をどのように確保するか?4、治験の実施に際して企業と研究者がどのように協力していくか?5、製造販売後に患者、医師、企業がどのように連携するか?などの課題が、今回の医師主導治験によってより明確になったと思われる。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
1件
その他論文(和文)
1件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
2件
1.2015年4月:「リンパ脈管筋腫症に対するシロリムス療法の実用化時代を迎えて」会場:東京国際フォーラム 2.2013年4月:「稀少肺難病の克服に向けて」会場:東京国際フォーラム
学会発表(国際学会等)
1件
ATS2015/05/17 Colorado Convention Center, CO, USA.(American Thoracic Society: ATS)
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
2件
①難病に対する新薬の医師主導治験では初めて薬事承認に至った。②日本医療研究開発機構予算、リンパ脈管筋腫症に対するラパマイシン長期内服の効果と安全性評価のためのコホート調査の採択に繋がった。
その他成果(普及・啓発活動)
2件
①健康医療戦略室の公開会議における難治性疾患実用化研究事業の成果発表会で研究成果が発表された。②第55回日本呼吸器病学会、リンパ脈管筋腫症に対するシロリムス療法の実用化時代を迎えてを公表した。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Takada T, Nakata K, et al.
Efficacy and safety of long-term sirolimus therapy in Asian patients with lymphangioleiomyomatosis.
Annals of the American Thoracic Society. , 13 ((11)) , 1912-1922  (2016)
10.1513/AnnalsATS.201605-335OC
原著論文2
Kitamura N, Nakata K, et al.
Risk factors for stomatitis in patients with lymphangioleiomyomatosis during treatment with sirolimus: A multicenter investigator-initiated prospective study.
Pharmacoepidemiol Drug Saf. , 26 ((10)) , 1182-1189  (2017)
10.1002/pds.4259.

公開日・更新日

公開日
2016-05-26
更新日
2019-06-10

収支報告書

文献番号
201415019Z
報告年月日

収入

(1)補助金交付額
195,429,000円
(2)補助金確定額
195,438,487円
差引額 [(1)-(2)]
-9,487円

支出

研究費 (内訳) 直接研究費 物品費 41,177,339円
人件費・謝金 44,447,540円
旅費 5,661,722円
その他 78,661,886円
間接経費 25,490,000円
合計 195,438,487円

備考

備考
-

公開日・更新日

公開日
2018-06-07
更新日
-