小児重症拡張型心筋症へのbridge-to-transplantation / recoveryを目指した骨格筋芽細胞シートの開発と実践

文献情報

文献番号
201415012A
報告書区分
総括
研究課題名
小児重症拡張型心筋症へのbridge-to-transplantation / recoveryを目指した骨格筋芽細胞シートの開発と実践
課題番号
H24-難治等(難)-一般-003
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
澤 芳樹(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 宮川 繁(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 松山 晃文(国立大学法人大阪大学 臨床医工学融合研究教育センター)
  • 早川 堯夫(近畿大学 薬学総合研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
71,211,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児拡張型心筋症は予後不良な難治性疾患であり、重症例に対しては心臓移植が究極の治療である。2010年に臓器移植法が改正されたものの、それ以後の小児ドナーからの臓器提供は未だに少なく、心臓移植の実施例は欧米諸国と比べると稀有である。そのため、心臓移植待機期間は長期間におよび、我が国では心臓移植に到達するまでの橋渡しとして、新たな治療法を開発する必要がある。自己由来骨格筋芽細胞シート移植治療は、当科において既に成人の心不全患者に対する再生治療として開発してきた。本治療法を小児患者に対して応用することにより、小児重症心不全に対する新たな治療戦略を確立することが可能と考えられる。本研究の目的は、小児重症拡張型心筋症に対する自己由来骨格筋芽細胞シート移植の安全性と有効性を検証し、医師主導治験・保険診療化を目指すことである。
研究方法
1)幼若動物を用いた、骨格筋芽細胞シート移植における非臨床安全性試験
幼若ミニブタ虚血性心疾患モデルを作成し、細胞シート移植前後での心室性不整脈の発生頻度を確認した。植込み型心電計を細胞シート移植前に、モデル動物の前胸部に植込み、プロトコル治療終了後に心電計を取り出し不整脈に発生状況を検証した。
2)骨格筋芽細胞シート移植による小児重症心筋症患者に対する臨床研究
平成25年に厚生労働省より実施承認を受けた、小児重症心筋症に対する細胞シート移植のヒト幹細胞臨床研究(HM1401号)を実施した。1例の被験者登録とシート移植術を施行し、6カ月のフォローアップを終了した。
3)骨格筋芽細胞シート移植による小児重症拡張型心筋症患者に対する医師主導治験
平成26年3月27日に、医師主導治験を実施するための、対面助言を行った。その結果を受け、医師主導治験実施のための準備を行った。
倫理面の配慮として、
1)動物実験においては、本学動物実験規程に従って行った。
2)臨床研究の実施に際しては、研究計画書、試験薬概要書、手順書など臨床研究に必要な文書は、「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」を遵守して作成し、院内ヒト幹細胞臨床研究審査委員会での承認を受けた。その後、厚生労働大臣の承認を受け実施を行った。本研究の対象は小児であるために、同意説明には十分に配慮を行い、容易な文章を用いて作成した補助文書(アセント)などを使用し、可能な限り患者本人への説明も十分に行ったうえで、代諾者へのinformed consentを行い、同意を得て実施した。
3)医師主導治験においては、各種法令・告示・通知に基づき実施し、研究計画書(プロトコール)に関してPMDAでの審査、院内治験審査委員会での承認を受け、再生医療新法に基づき実施を予定する。
結果と考察
1)幼若ミニブタ虚血性心筋症モデルを用いた細胞シート移植において、治療前後での心室性不整脈の発生頻度、重症度に関して、有意な変化は認められなかった。
2)小児拡張型心筋症患者1例に対して、骨格筋芽細胞シート移植術を行い、プロトコルに沿って6カ月間のフォローアップを完遂した。フォローアップ期間中、細胞シート移植治療が原因となる重篤な有害事象は認めなかった。左室収縮能は、増悪を認めず、拡張能に関しては軽度の改善を認めた。臨床症状の改善(NYHAⅢ度からⅡ度へ)と、6分間歩行において、運動耐容能の改善を認めた。
3)前年度実施した対面助言の結果を受け、プロトコルの改正等を行って、平成26年6月16日フォローアップ面談を実施した。非臨床安全性試験を追加する必要がるということで助言を受け、幼若動物を用いた、細胞シート移植前後での心室性不整脈発生頻度について検証を行った。治験文書の作成、CROとの業務契約などを行い、院内IRB申請準備と実施体制の整備を行った。非臨床安全性試験では、幼若動物においても懸念されていた細胞シート移植後の心室性不整脈の増悪は認められなかった。小児患者に対する細胞シート移植後も心室性不整脈が増悪しない可能性が示唆された。臨床研究では、1例の小児拡張型心筋症患者に対して、本治療法が適応された。細胞シート移植後の6ヵ月フォローアップ期間中、重篤な有害事象は報告されず安全性を示すことができた。本症例の経時的推移としては、心機能ならびに臨床症状の改善が認められ、有効性も示唆される所見が得られた。安全性及び有効性評価に関してはさらなる症例数の蓄積が必要である。医師主導治験実施体制の整備と安全性試験の実施を行うことができた。平成27年度以降治験審査委員会での承認、治験届の提出等、治験実施に向けての準備を継続する予定である。
結論
本研究は、自己骨格筋芽細胞シート治療による新たな小児心不全治療体系の確立を目的として実施された。今後、医師主導治験へと展開することが可能であり、保険診療化を目指した開発が進むものと思われる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

文献情報

文献番号
201415012B
報告書区分
総合
研究課題名
小児重症拡張型心筋症へのbridge-to-transplantation / recoveryを目指した骨格筋芽細胞シートの開発と実践
課題番号
H24-難治等(難)-一般-003
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
澤 芳樹(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 宮川 繁(国立大学法人大阪大学 大学院医学系研究科)
  • 松山 晃文(国立大学法人大阪大学 臨床医工学融合研究教育センター)
  • 早川 堯夫(近畿大学 薬学総合研究所)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 難治性疾患等克服研究(難治性疾患克服研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
小児拡張型心筋症は予後不良な難治性疾患であり重症例に対しては心臓移植が究極の治療である。2010年に臓器移植法が改正されたものの、それ以後の小児ドナーからの臓器提供は未だに少なく、心臓移植の実施例は欧米諸国と比べると稀有である。そのため、心臓移植待機期間は長期間におよび、我が国では心臓移植に到達するまでの橋渡しとして、新たな治療法を開発する必要がある。
自己由来骨格筋芽細胞シート移植治療は当科において既に成人の心不全患者に対する再生治療として開発してきた。本治療法を小児患者に対して応用することにより小児重症心不全に対する新たな治療戦略を確立することが可能と考えられる。本研究の目的は小児重症拡張型心筋症に対する自己由来骨格筋芽細胞シート移植の安全性と有効性を検証し医師主導治験・保険診療化を目指すことである。
研究方法
1)幼若ミニブタ虚血性心疾患モデルを作成し骨格筋芽細胞シート移植前後での心機能評価を行った。成獣動物を用いた同実験結果と比較し幼若動物での本治療法の効果について検証を行った。幼若動物から作成した細胞シートの特性を、免疫染色を用いて成獣動物のものと比較検討した。同モデルに対して、細胞シート移植前後での心室性不整脈の発生頻度を確認した。
2)「ヒト幹細胞を用いる臨床研究に関する指針」に沿って、臨床研究計画書作成を行った。
小児重症心筋症患者を対象として標準的心不全治療を行っても有症状の患者に対して骨格筋芽細胞シート移植術に基づく再生療法の安全性を評価することを目的とした。選択基準として、1)18歳以下、2)重症心筋症の診断、3)NYHAⅢ度以上の重症心不全4)左室駆出率35%以下などの項目を設定した。主要評価項目は研究期間中の有害事象の発現の有無等の観察で安全性を評価することとした。
3)各種の法令・告示・通知に基づき、医師主導治験実施の準備を行った。実施計画書、治験物概要書の作成を行った小児患者に対する適応拡大を目指して、再生医療新法に基づき、治験物をGCTP準拠で作成する準備、実施体制整備を行った。
結果と考察
1)幼若動物に対する骨格筋芽細胞シート移植では、治療前後で有意な心機能改善効果を認めた。線維化率の検討等、組織学的検討でも、有意な心機能改善効果を認めた。これらの結果は、成獣動物の結果と比べ、有意に心機能改善効果が高い結果が得られた。幼若動物から作成された細胞シートからは、成獣動物のものと比べ、HGF、VEGFなどのサイトカイン分泌が有意に多いことが分かった。また、アポトーシス抑制遺伝子の一つであるSirtuin1蛋白の発現が高率であることが分かった。筋芽細胞シート移植において、治療前後での心室性不整脈の発生頻度、重症度に関して、有意な変化は認められなかった。
2)平成25年に厚生労働省より実施承認を受けた小児重症心筋症に対する骨格筋芽細胞シート移植のヒト幹細胞臨床研究(HM1401号)を実施した。プロトコルに沿って、患者選定ならびに1例の被験者登録とシート移植術を施行し6カ月のフォローアップを終了した。フォローアップ期間中、シート移植治療が原因となる重篤な有害事象は認めなかった。左室収縮能は増悪を認めず、拡張能に関しては軽度の改善を認めた。臨床症状の改善と運動耐容能の改善を認めた。
3)非臨床試験結果をもとに、医師主導治験実施のための準備を行った。平成26年3月27日に、対面助言、平成26年6月16日フォローアップ面談を実施。治験文書の作成、CROとの業務契約締結などを行い院内IRB申請準備と実施体制の整備を行った。
幼若動物において骨格筋芽細胞シート移植治療が成獣動物のものと比べてより高い心機能改善効果が期待できる可能性が示唆された。メカニズムとしては、幼若細胞の筋芽細胞シートから分泌されるサイトカイン量が多くアポトーシスを抑制遺伝子が高率に発現していることが挙げられた。また、小児患者に対する細胞シート移植後も心室性不整脈が増悪しない可能性が示唆された。
臨床研究では、細胞シート移植後のフォローアップ期間中重篤な有害事象は報告されず治療前後で心機能ならびに臨床症状の改善が認められ有効性も示唆される所見が得られた。安全性及び有効性評価に関してはさらなる症例数の蓄積が必要である。
医師主導治験実施を予定しており実施体制の整備と必要な安全性試験の実施を行うことができた。先行する成人に対する本試験ではテルモ株式会社が企業治験の後に、平成26年11月に薬事承認申請を行っている。これを受け小児患者に対して本治療法を適応拡大する戦略が現実的となった。
結論
本研究は、自己骨格筋芽細胞シート治療による新たな小児心不全治療体系の確立を目的として実施された。今後、医師主導治験へと展開することが可能であり、保険診療化を目指した開発が進むものと思われる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-26
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201415012C

成果

専門的・学術的観点からの成果
幼若動物から作成された骨格筋芽細胞シートの特性は、成獣のものと比べサイトカイン分泌が多く、アポトーシス抑制遺伝子も高率に発現していることが分かった。本治療法が、成獣に対する治療と比べ、有意に高い心機能改善効果を示すことが示唆された。また、細胞シート移植前後での心室性不整脈の発生頻度、重症度に変化はなく、本治療法の安全性を示唆する結果も得られた。医師主導治験を実施するにあたり、必要な非臨床試験が終了した。
臨床的観点からの成果
ヒト幹細胞を用いた臨床研究として、1例の拡張型心筋症患者に対して、自己由来骨格筋芽細胞シート移植術を施行した。厚生労働省より承認を受けたプロトコルに準じて、治療およびフォローアップを実施した。フォローアップ期間中、本治療に関連する重篤な有害事象は認めず、治療前後での心機能、運動耐容能、臨床症状の改善を認めた。臨床においても本治療法の安全性および有効性を示唆する結果が得られた。医師主導治験の実施体制整備を行った。
ガイドライン等の開発
本研究成果は、ガイドライン等の開発には参考にはされていない。
その他行政的観点からの成果
本研究は、アカデミアが研究開発した自己由来筋芽細胞シート移植という我が国発のシーズを実用化、保険適応化することを目的としている。小児難病であるUnmet medical needsを満たすための研究開発であり、医師主導治験という形態で実践する準備が整った。本シーズはテルモ株式会社が引き受けた産学連携の成果のひとつである。難治性疾患実用化研究事業の目的を達成するよう開発が進行している。
その他のインパクト
ヒト幹細胞臨床研究による骨格筋芽細胞シート移植治療は、各種メディアにより取り上げられ、放送された。本治療法が小児患者に対して適応されたことは世界で初の報告であった。小児からの臓器提供が少ないという現状と共に、小児の移植医療や再生医療に関する社会の関心は高まり、この件に関する取材や問い合わせが増加した。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
18件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
1件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Shudo Y, Miyagawa S, Sawa Y et al
Addition of mesenchymal stem cells enhances the therapeutic effects of skeletal myoblast cell-sheet transplantation in a rat ischemic cardiomyopathy model
Tissue Eng PartA , 20 (3-4) , 728-739  (2014)
doi:10.1089/ten.tea.2012.0534
原著論文2
Matsuda T, Miyagawa S, Sawa Y et al
Human Cardiac Stem Cells With Reduced Notch Signaling Show Enhanced Therapeutic Potential in a Rat Acute Infarction Model
Circulation Journal , 78 (13-4) , 222-231  (2013)
doi.org/10.1253/circj.CJ-13-0534
原著論文3
Okura H, Sawa Y, Matsuyama A, et al
Intracoronary artery transplantation of cardiomyoblast-like cells from human adipose tissue-derived multi-lineage progenitor cells improve left ventricular dysfunction and survival in a swine model of chronic myocardial infarction
Biochem Biophy ResCommun , 425 (7) , 859-865  (2012)
doi:10.1016/j.bbrc.2012.08.004

公開日・更新日

公開日
2016-05-26
更新日
2019-06-11

収支報告書

文献番号
201415012Z