文献情報
文献番号
201412039A
報告書区分
総括
研究課題名
たばこ規制枠組み条約を踏まえたたばこ対策に係る総合的研究
課題番号
H25-循環器等(生習)-一般-010
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
中村 正和(大阪がん循環器病予防センター 予防推進部)
研究分担者(所属機関)
- 長谷川 浩二(国立病院機構京都医療センター)
- 大和 浩(産業医科大学産業生態科学研究所)
- 森 淳一郎(信州大学医学部)
- 欅田 尚樹(国立保健医療科学院)
- 曽根 智史(国立保健医療科学院)
- 田中 謙(関西大学法学部)
- 岡本 光樹(岡本総合法律事務所)
- 片山 律(萱場健一郎法律事務所)
- 谷 直樹(谷直樹法律事務所)
- 後藤 励(京都大学白眉センター)
- 五十嵐 中(東京大学大学院)
- 田淵 貴大(大阪府立成人病センターがん予防情報センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 疾病・障害対策研究分野 【補助金】 循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策総合研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
8,990,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究の目的は、国民の健康を守る観点からわが国が批准しているWHOのたばこ規制枠組条約(FCTC)の履行状況の検証、喫煙の健康被害の法的・倫理的側面からの検討、たばこ規制の行動経済・医療経済学的評価、健康格差是正の観点からのたばこ規制の効果の実証的検証を行い、今後のたばこ規制を行う上での政策課題と対策を総合的に検討し、政策提言を行うことにある。
研究方法
履行状況の検証については、締約国会議において議定書や指針が採択された第5.3条、第6条、第8~11条、第13~15条について、わが国の履行の現状と課題、規制推進にあたっての法的課題等について昨年度に引き続き検討した。今年度新たに、全国の喫煙者2,000人を対象としたインターネット調査を行い、たばこの健康影響に関する認識やたばこ規制に対する意識などについて諸外国の調査結果と比較した。喫煙の健康被害の法的・倫理的側面からの検討については、受動喫煙による他者危害について、昨年度の民法の観点からの検討に引き続き、刑法の観点から受動喫煙惹起行為への暴行罪(刑法第208条)及び傷害罪(刑法第204条)の適用について検討した。また、たばこ規制をめぐる法システムの問題点に関する検討を行った。たばこ規制の行動経済・医療経済学的評価に関する研究として、複数回の禁煙企図を再現できるDESモデルを用いた禁煙介入の経済評価モデルを構築した。健康格差是正の観点からみたたばこ規制の効果の実証的検証として、2010年10月のたばこ値上げが禁煙の実行に与えた影響を年齢や社会階層、喫煙の依存度別に分析を開始した。2016年度の診療報酬改定にむけて、禁煙治療の保険適用拡大に伴う財政影響の推計を行った。
結果と考察
FCTC第8条(受動喫煙防止)については、すべての屋内施設を全面禁煙とする立法措置の成立を促すために、政策決定者むけのファクトシート及び「喫煙室からのタバコ煙の漏れを評価する判定基準案」を作成した。第9、10条(たばこ成分の規制と情報開示)については、国内のたばこ有害成分評価に、ISO法に加えてHCI法の導入を求めると同時に、その情報開示の制度化について検討が必要であると考えられた。第14条(禁煙支援・治療)については、2014年のアメリカ公衆衛生総監報告書での喫煙関連疾患の定義を用いて、診療ガイドラインにおける禁煙推奨の位置づけを検討し、欧米に比べて記述が遅れているという結論を得た。第15条(たばこ製品の不法取引廃絶)については、わが国では不法取引の事例は表面上それほど多くなく、第15条の推進がたばこ事業法の趣旨やJT等の利益と合致する可能性を考慮する必要があると考えられた。喫煙者インターネット調査の結果、わが国の喫煙者は、たばこの健康影響に関する認識が低く、たばこ規制(受動喫煙防止、たばこ価格、たばこの警告表示)から受けているインパクトが小さいことが明らかとなり、わが国のたばこ規制の取り組みの遅れが浮き彫りとなった。受動喫煙による他者危害について、判例や学説に基づいて検討した結果、「たばこの煙をふきかける行為」は暴行に該当、受動喫煙による急性影響及びストレス関連障害には傷害罪が成立し得るとの結論が得られた。わが国におけるたばこ規制をめぐる法システムの問題点の検討については、受動喫煙防止施策、未成年者喫煙防止施策、喫煙者減少施策の3つの視点から具体的なたばこ規制を強化する必要があるという結論を得た。たばこ規制の行動経済・医療経済学的評価に関する研究として、複数回の禁煙企図を再現できるDESモデルを用いた禁煙介入の経済評価モデルを構築した。複数回の禁煙企図の再現は、喫煙者の行動を実際に近い形で補足するためには必須ともいえ、より現実に即した医療費推計・アウトカム推計が可能になったことは、今後の政策提言にむけて有用と考えられた。健康格差是正の観点からみたたばこ規制の効果の実証的検証として、2010年10月のたばこ値上げが禁煙の実行に与えた影響を年齢や社会階層、喫煙の依存度別に分析を開始した。これまでの解析では、値上げによる社会階層間の喫煙格差が減少する状況は認められず、さらなるたばこ税・価格の引き上げの必要性が示唆された。禁煙治療の保険適用拡大に伴う財政影響の推計として、①20歳代のブリンクマン指数200以上の適用条件撤廃、②急性入院患者への適用拡大、③喫煙関連歯周炎患者に対する歯科疾患管理料への禁煙指導の加算適用について試算した結果、計542億円の医療費削減効果が期待できると推計された。
結論
わが国は、2005年2月に発効したWHOのFCTCの締約国の一員として、たばこ規制を早急に推進することが国際的に約束した責務となっている。今後、関係者と幅広く意見交換をして、実行性のある政策提言をとりまとめ、政策化の実現を目指す。
公開日・更新日
公開日
2015-09-11
更新日
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