磁性抗がん剤を用いた医療機器の開発

文献情報

文献番号
201408011A
報告書区分
総括
研究課題名
磁性抗がん剤を用いた医療機器の開発
課題番号
H25-医療機器-一般-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
石川 義弘(横浜市立大学 医学研究科循環制御医学)
研究分担者(所属機関)
  • 江口 晴樹(株式会社IHI 基盤技術研究所 応用理学研究部)
  • 藤内 祝(横浜市立大学 医学部 顎額面口腔機能制御学)
  • 川原 信隆(横浜市立大学 医学部 脳神経外科学)
  • 中山 智宏(日本大学 獣医放射線医学)
  • 棗田 豊(横浜市立大学大学院医学研究科 薬理学)
  • 浦野 勉(横浜市立大学大学院医学研究科 循環制御医学)
  • 平田 邦生(理化学研究所 放射光化学総合研究センター )
  • 星野雄二郎(横浜国立大学 環境情報研究院)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 医療機器開発推進研究
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
48,500,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
IHI(株)の造船業で使用されているコンピュータシミュレーション技術の医学転用により,我々は,磁性と抗がん活性をあわせもつ磁性有機化合物である Fe(Salen)を同定した。薬剤自体が磁性体(磁石にくっつく)の性質を持ちながら,かつ強い抗腫瘍効果を保持するが、本薬剤はミセル化による疑似磁性体ではない点が特徴である。磁性体という特徴により,抗腫瘍効果以外に2つの効果がある。 まずは IHクッキングヒーター原理により,交流磁場で薬物自体が発熱する。そのため,腫瘍は正常細胞より熱に弱いという特徴を生かし,臨床でも使用されている温熱療法を局所選択的に行える。つぎにMRIで薬自体が写るため,薬剤の局在や濃度の推定が期待できる。一方,脳腫瘍は全国に2万人とされ,原発性脳腫瘍の約10% (1600人)がグリオブラストーマ(GBM)であるが,予後が非常に悪く,生存率は14.6か月と報告される。特に,再発GBMに対する治療方針は手術,放射線治療,化学療法,単独,もしくは併用など一定したものはないために,新しい治療法の開発は急務である。 本研究では,磁性有機化合物Fe(Salen)を用いて,脳腫瘍のなかでも特に予後が悪いとされるグリオブラストーマ(GBM)に対する単剤での化学温熱同時療法を開発し,Fe(Salen)の臨床応用化を目指す。
研究方法
Fe(Salen)を脳内に局所投与し,交流磁場を印可し,発熱させ,グリオブラストーマ(GBM)に対する単剤での化学療法効果と温熱療法効果の同時療法を開発した。ヒト由来GBMの培養細胞を用いて抗腫瘍効果及び交流磁場下での発熱による温熱治療との相乗効果の評価を進めた。単剤での化学・温熱療法同時効果を,交流磁場の出力と発熱の関係,体内動態,従来のGBM治療薬との比較を中心に検討した。GBMの皮下腫瘍マウスモデルではFe(Salen)の局所投与に交流磁場を印可すると,Fe(Salen)単独投与より,強い治療効果が得られることが予想されているため,ヒト由来GBMの脳内腫瘍マウスモデルを用いて,Fe(Salen)を脳内に局所投与し,交流磁場を体外から印可することで,腫瘍縮小を観察することで,治療効果を評価した。免疫不全マウスの脳内に,ルシフェラーゼ発現GBM細胞を移植し,ヒト由来GBMモデル動物を用いて検討し、マウスが生きたまま,脳内腫瘍の観察が可能になった。磁場印可装置の条件検討では従来の磁場発生装置に対して,新しい磁場印可装置は様々な周波数及び出力条件に調整出来るような内容で設計した。
結果と考察
Fe(Salen)は臨床で使用されているテモダール(TMZ)やギリアデル(BCNU)といった抗がん剤と比較しても,3種類のヒト由来グリオブラストーマ細胞に対して非常に強い抗がん効果を持つことが判明した。また,免疫不全マウス(ヌードマウス)の脳内に,ルシフェラーゼ発現GBM細胞を移植し,ヒト由来GBMモデル動物有用であることを確認した。交流磁場発生装置は,旧型モデルでのデータを基盤として,現在,さらに優れた装置を設計し,新型モデルでの有用性が判明した。また,すでにマウスの皮下に移植したヒト由来GBM細胞に対し,無治療群,交流磁場印可のみ,Fe(Salen)局所投与群,Fe(Salen)局所投与+交流磁場印可群の4群で比較した際に,Fe(Salen)の局所投与に交流磁場印可を加えると投与量は不変でも抗腫瘍効果は増強することもわかった。以上より,これらのデータを基盤とし脳腫瘍動物モデルを使用したグリオブラストーマ治療へ応用する。さらに臨床試験に向けた課題として毒性および安全性試験をおこない、ラジオアイソトープ標識をした薬剤にて体内分布を検討した。
結論
本年度の研究により,従来の磁場印可装置機器に加えて,複数のコイルが脱着できる高磁場印可装置が完成したことにより, より幅広い条件検討が行え,臨床化に向けて新しい知見が得られると思われる。 動物実験においては神経膠芽腫モデル動物が確立できているため,それを用いて検討することでFe(Salen)がヒト神経膠芽腫に対して十分な薬効を持つことが示された。今後も,薬効評価のみならず,毒性評価も並行して行う必要があると思われる。 Fe(Salen)は神経膠芽腫に対し,高磁場印可装置と組み合わせることで,単剤での化学・温熱同時療法が行える可能性が示された。今後は,周波数特性及び出力設定などを詳細に検討することで臨床試験開始へ向けて大きく前進することが期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-05-13
更新日
-

収支報告書

文献番号
201408011Z