新規創薬を目指した生活習慣病・難治性疾患モデル遺伝子変異ラットの開発と解析

文献情報

文献番号
201407013A
報告書区分
総括
研究課題名
新規創薬を目指した生活習慣病・難治性疾患モデル遺伝子変異ラットの開発と解析
課題番号
H24-創薬総合-一般-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
中尾 一和(京都大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 海老原健(京都大学 大学院医学研究科)
  • 桑原宏一郎(京都大学 大学院医学研究科)
  • 横井秀基(京都大学 大学院医学研究科)
  • 冨田努(京都大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
9,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
最近京都大学大学院医学研究科動物実験施設の真下らがENUミュータジェネシスに、新規DNAスクリーニング法(MuT-power)、凍結精子アーカイブからの個体復元技術(ICSI)という一連の新規技術を組み合わせることにより、標的遺伝子変異ラットの効率的な作成システム構築に成功した。また加えて、Zinc Finger Nuclease技術を用いて、任意の遺伝子に変異を有する遺伝子変異ラットを作製することも可能になった。本研究課題では、これらのシステムを用いて生活習慣病関連・難治性疾患遺伝子変異ラットモデルを開発し、その詳細な解析を通して病態解明、新規治療標的同定を行なうと共に、このモデルを用いた新規創薬開発を加速させる基盤を樹立することを目的とする。
研究方法
本年度は、我々が現在までに同定、樹立した生活習慣病・難治性疾患関連遺伝子変異ラットの解析をおこなった。これら実験動物を用いる研究に際しては「動物の愛護および管理に関する法律」(平成17年6月改正法)、「京都大学における動物実験の実施に関する規程」および「京都大学大学院医学研究科・医学部における動物実験の実施に関する規程」(いずれも平成19年4月改訂)を遵守して実施し、動物に与える苦痛を最小限にとどめるように最善の配慮を尽くしている。
結果と考察
結果:本年度は既に得られた遺伝子変異ラットの解析を行った。
 まずレプチン遺伝子ナンセンス変異ラットでは血中のレプチン濃度が検出感度以下に低下しており、明らかな肥満を認めた。また、耐糖能異常、インスリン抵抗性を認め、血中中性脂肪、コレステロール値の上昇などの脂質異常が見出され、脂肪肝を呈していることも認められた。これらのことから本ラットが、肥満およびその合併症に関わる種を超えて保存されている病態の解明に有用なモデルであることが示された。
 脂肪委縮症の原因遺伝子であるseipin遺伝子の変異ラットでは、脂肪の減少と耐糖能異常、インスリン抵抗性が認められ、また顕著な脂肪肝が見られ、ヒト脂肪委縮症と類似の表現系が得られ、本セイピン変異ラットがヒトの脂肪委縮症のよいモデル動物である可能性が見いだされた。
 また、Zinc Finger Nuclease技術を用いて、BNP遺伝子に変異を入れた数系統のラットから、BNP遺伝子の2nd exonの大部分を結失した系統を樹立した。本BNPノックアウトラットに、大動脈縮窄による圧負荷モデルを作製しその表現形を解析した。
 ラミンA/Cの遺伝子はその変異がヒトにおいて拡張型心筋症の原因となることが知られている。我々はラミンA/Cの遺伝子にミスセンス変異を持つ変異ラットも同定し、系統樹立に成功した。本ラットは正常に生まれるが、生後12週前後で死亡することを見出した。心エコーでは心拡大及び、心機能低下が確認され、ヒトラミン心筋症と類似した表現型を示していることが確認されつつある。
 CNPは骨形成に重要であり、その受容体の機能喪失型変異がヒトにおいて低身長をきたすマロトー型遠位中間肢異形成症の原因であることが示されている。我々はZinc Finger Nuclease技術を用いてCNPを欠失するラットの樹立に成功した。CNPノックアウトラットは予想通り短躯であったが、CNPノックアウトマウスはそのほとんどが生後数週間以内に死亡するのに対して、CNPノックアウトラットは死亡することなく、成獣まで生存可能であることが明らかとなり、CNPの骨形成をはじめ様々な臓器における役割の成獣における解析が可能となった。
さらに上記ラットに加えて、PPARgamma遺伝子に変異を有するラットの同定、系統樹立にも成功し、本年度は解析を行った。本変異ラットはホモ接合体ではノックアウトマウスと同様に胎生致死であった。そこでPPARgamma遺伝子変異ヘテロ接合体ラットの表現型解析を解析したところ、マウスでのPPARgammaノックアウトとは一部異なる表現型を観察しつつある。
考察:本年度に行った遺伝子変異ラットの表現系解析から、これらラットが、ヒト生活習慣病関連疾患・難治性疾患モデル動物として有用な可能性が確認された。今後上記遺伝子変異ラットの表現系の詳細を引き続き解析し、これら疾患のモデルラットの意義を確立することにより、共同研究なども通じて、病態解明・新規治療標的同定および新規創薬開発への応用を目指したい。
結論
生活習慣病・難治性疾患関連遺伝子に関して、複数の関連遺伝子変異ラットの同定、系統樹立に成功し、その表現系を開始した。今後、本年度に得られた遺伝子変異ラットの表現系をさらに詳細に解析し、疾患モデルラットとしての意義を確立し、病態解明・新規治療標的同定と新規創薬開発への応用を目指したい。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

文献情報

文献番号
201407013B
報告書区分
総合
研究課題名
新規創薬を目指した生活習慣病・難治性疾患モデル遺伝子変異ラットの開発と解析
課題番号
H24-創薬総合-一般-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
中尾 一和(京都大学 大学院医学研究科)
研究分担者(所属機関)
  • 海老原 健(京都大学 大学院医学研究科)
  • 桑原 宏一郎(京都大学 大学院医学研究科)
  • 横井 秀基(京都大学 大学院医学研究科)
  • 冨田 努(京都大学 大学院医学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
現在生活習慣病関連疾患である心筋梗塞、心不全、糖尿病、脳卒中、慢性腎臓病(CKD)などの病態解明、新規治療標的同定に基づく新規治療薬、治療法開発が強く望まれている。現時点において、これら疾患の病態解析、創薬開発、再生医療研究には遺伝子改変技術が確立されているマウスがモデル動物として多く用いられているが、マウスはその小ささゆえに採血や組織採取(膵臓、中枢神経系)が困難であること、生理学的解析や移植実験が行ないにくいなどの問題がある。さらに、最近では代謝面においてヒトと大きく異なる生理的特徴が明らかとなった。最近京都大学大学院医学研究科動物実験施設の真下らがENUミュータジェネシスに、新規DNAスクリーニング法(MuT-power)、凍結精子アーカイブからの個体復元技術(ICSI)という一連の新規技術を組み合わせることにより、標的遺伝子変異ラットの効率的な作成システム構築に成功した。また加えて、Zinc Finger Nuclease技術を用いて、任意の遺伝子に変異を有する遺伝子変異ラットを作製することも可能になった。本研究課題では、これらのシステムを用いて生活習慣病関連・難治性疾患遺伝子変異ラットを作成し、その表現系を解析することにより心筋梗塞、心不全、糖尿病、肥満、脳卒中、CKDなどの新規生活習慣病や脂肪萎縮性糖尿病などの難知性疾患のモデルラットを開発し、その詳細な解析を通して病態解明、新規治療標的同定を行なうと共に、このモデルを用いた新規創薬開発を加速させる基盤を樹立することを目的とする。
研究方法
生活習慣病・難治性疾患関連遺伝子変異をENUミュータジェネシスを行なったラットの遺伝子アーカイブから新規変異DNAスクリーニング法(MuT-POWER法)を用いてスクリーニングし、変異遺伝子が見つかった場合は新規開発した個体復元技術ICSIを用いて標的遺伝子変異ラットを樹立した。またこの方法にて変異が見つからなかった重要な遺伝子に関しては、近年開発されたZinc Finger Nuclease技術を用いて、対象の遺伝子に変異を有する遺伝子変異ラットを作製した。こうして樹立した複数の遺伝子変異ラットの解析を行った。
結果と考察
まず我々は、レプチン遺伝子ナンセンス変異ラットを得て、系統樹立し解析を行った。本レプチン遺伝子変異ラットでは血中のレプチン濃度が検出感度以下に低下しており、食事摂取量の増加、エネルギー消費の低下と共に、明らかな肥満を認めた。また、耐糖能異常、インスリン抵抗性を認め、血中中性脂肪、コレステロール値の上昇などの脂質異常、脂肪肝を呈していた。これらのことから本レプチン変異ラットが、ヒトの肥満およびその合併症に関わる種を超えて保存されている病態の解明に有用なモデルであることが示された。
 次に、脂肪委縮症の原因遺伝子であるセイピン遺伝子の変異ラットを得、解析を行い、脂肪の減少と耐糖能異常、インスリン抵抗性、顕著な脂肪肝が見られ、本セイピン変異ラットがヒト脂肪委縮症のよいモデル動物であることが示された。
 ヒトにおいて拡張型心筋症の原因となるラミンA/C遺伝子にミスセンス変異を持つ変異ラットを同定し、系統樹立に成功した。本ラットは心拡大及び、心機能低下が確認され、ヒトラミン心筋症と類似した表現型を示していることが確認された。
 加えて、我々はPPARgamma遺伝子に変異を有するラットの同定、系統樹立にも成功した。本変異ラットはホモ接合体ではノックアウトマウスと同様に胎生致死であった。そこでPPARgamma遺伝子変異ヘテロ接合体ラットの表現型解析を解析したところ、マウスでのPPARgammaノックアウトとは一部異なる表現型を観察しえた。
さらに我々はZinc Finger Nuclease技術を用いて、BNPノックアウトラットおよびCNPノックアウトラットの系統樹立にも成功した。なかでもCNPノックアウトラットは予想通り短躯であったが、CNPノックアウトマウスはそのほとんどが生後数週間以内に死亡するのに対して、CNPノックアウトラットは死亡することなく、成獣まで生存可能であることが明らかとなり、CNPの骨形成をはじめ様々な臓器における役割の成獣における解析が初めて可能となった。現在その解析を継続している。
考察:本研究において得られた遺伝子変異ラットが、ヒト生活習慣病関連疾患・難治性疾患モデル動物として有用であることが確認された。
結論
複数の関連遺伝子変異ラットの同定、系統樹立に成功し、その表現系を解析し、そのモデル動物としての意義を示した。今後、本研究において得られた遺伝子変異ラットの表現系をさらに詳細に解析し、疾患モデルラットとしての意義の確立と、病態解明・新規治療標的同定研究と新規創薬開発研究へのさらなる応用を目指したい。

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2015-06-03
更新日
-

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-05-13
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201407013C

収支報告書

文献番号
201407013Z