アポC3をターゲットとした高中性脂肪血症、動脈硬化症に対する革新的核酸医薬の開発

文献情報

文献番号
201407004A
報告書区分
総括
研究課題名
アポC3をターゲットとした高中性脂肪血症、動脈硬化症に対する革新的核酸医薬の開発
課題番号
H23-政策探索-一般-004
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
斯波 真理子(独立行政法人国立循環器病研究センター 病態代謝部)
研究分担者(所属機関)
  • 小比賀 聡(大阪大学大学院薬学研究科)
  • 柴田 雅朗(大阪保健医療大学大学院保健医療学研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 創薬基盤推進研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
58,800,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
我が国の死因の4分の1は心および脳血管疾患で占められており、これらの疾患の予防法や治療法を開発することは超高齢化社会における喫緊の課題である。強力なLDL-C低下作用を有するスタチンが臨床の場で使用される現在、心血管疾患の残りのリスクである食後高TG血症などのリスクに対して、分子を標的とした特異的な治療法の開発が待望されている。また、リポタンパクリパーゼ欠損症やアポC2欠損症は、遺伝的に顕著な高TG血症を示し、急性膵炎を繰り返す。現在のところ、ウィルスベクターを用いた遺伝子導入のみが有効な治療法であるとされている。
本研究においては、薬剤抵抗性の顕著な高TG血症を対象疾患として、アポC3をターゲットとした新規核酸医薬の開発を行う。アポC3は、RLPの代謝に関わり血清TG値上昇作用を有すること、血管壁において慢性炎症を引き起こし、動脈硬化の発症や進展に直接関わっていることが明らかにされてきた。
本研究で用いる架橋型人工核酸(BNA)は、分担研究者の小比賀らのオリジナルな創薬基盤技術である。核酸の糖部分に架橋を導入することにより、RNAとの結合が天然のものの十万倍以上に向上することから治療への応用が期待されている。本研究では、アポC3分子を標的として、顕著な高TG血症および動脈硬化症の予防および治療を目的とした新しい核酸医薬を開発することを狙いとしている。
研究方法
本年度は、新たな架橋型人工核酸AmNAを合成し、マウスに皮下投与して、肝臓、腎臓、脂肪を摘出し、アポC3 mRNA発現量、蛋白量の定量、血中リポ蛋白分析にてスクリーニングを行い、血清AST、ALT、クレアチニン、BUNを測定して、毒性を生化学的および病理学的に評価するとともに、肝臓や腎臓へのASの蓄積量を定量した。リポタンパクリパーゼは、ヘパリン投与10分後に採血を行い、血漿を10倍希釈して、LPL活性測定キットを用いて測定した。血清リポタンパクは、HPLCによる分画後に血清脂質値の測定を行った。マウスの内臓脂肪、肝臓内の蓄積脂肪測定、大動脈石灰化の定量には、小動物用X線CT装置を用いた。
結果と考察
 2’,4’-BNA, 2’,4’-BNANC, 2’,4’-BNAAMそれぞれについてin vivo実験に使用可能な大量スケールでの合成を行った。14塩基長同士で比較した場合には、2’,4’-BNAと2’,4’-BNAAMにて有意なアンチセンス効果を見出したが、2’,4’-BNANCでは全く効果は認められなかった。2’,4’-BNANCが最も効果を発揮したのは17塩基長であり、同配列の2’,4’-BNAと2’,4’-BNAAMを上回る活性を見出した。同様に、2’,4’-BNAAMについては14塩基長に加え、19塩基長でも活性の極大が見出され、構造活性相関を明らかにした。ヒトの配列に対する35種類のASOの作成を行い、最終年度の候補配列選定に備えた。アポC3に対するASOによるTG低下効果の機序について検討を行い、saline投与に比べてASO投与によりLPLの活性が20%増加していた。本検討により、ASOのTG低下作用の一部がApoC3の減少に伴うLPLの直接的な活性化によるものであることが示された。高TG血症に対して現在広く使用されているフェノフィブラート(FF)との比較を行い、標的分子であるアポC3が、FF投与により60%、新規ASOにより95%の低下を認め、新規ASOの優位性を確認することができた。新規ASOの投与治療実験モデルとしてApoE-KOマウスを用いるための基礎的解析を分子レベルで行った。高脂肪食を負荷したApoE-KOマウスに誘発された動脈硬化は、CTにおいてヒトと同様の石灰化を認め、同様の分子が関与していることが明らかになり、ヒトへの外挿モデルとして、極めて有用であることが示された。本年度の成果より、最終年度のヒトに対する最終配列候補の選定のための準備は整ったと言える。
結論
本年度の研究により、ケミストリーが異なると最大活性が得られる鎖長や最適なギャップサイズが異なる事を見出した。これらの実験事実を元に、ヒトアポC3ASのスクリーニング計画を立案した。ApoC3を高効率で阻害することでLPL活性を上昇させ、TG値への影響のみならず、HDLコレステールの大幅な上昇が認められたことで、動脈硬化症の予防薬としてApoC3阻害薬がさらに期待されるものとなった。ApoE-KOマウスに高脂肪食を負荷して誘発した動脈硬化病変は、ヒトと類似の進展形態と同様の分子を発現し、ヒトの動脈硬化モデルとしての有用性が示され、治療実験や発症機序解析に相応しい病態モデルであることが示された。

公開日・更新日

公開日
2015-05-25
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
-

収支報告書

文献番号
201407004Z