ヒト iPS 細胞を用いた有用な医薬品等創出のための基盤技術開発研究

文献情報

文献番号
201406037A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒト iPS 細胞を用いた有用な医薬品等創出のための基盤技術開発研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H24-iPS-指定-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
川端 健二(独立行政法人医薬基盤研究所 創薬基盤研究部幹細胞制御プロジェクト)
研究分担者(所属機関)
  • 関野祐子(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
20,580,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
新薬開発過程でしばしば問題となるのが薬物毒性であるが、医薬品の開発プロセスの早期に薬物毒性を簡便に確度良く予測することは、創薬コスト削減・期間短縮・創薬シーズのヒット率の向上をもたらし、我が国の基幹産業のひとつである製薬産業の国際競争力向上に繋がると期待される。現在ではヒト初代培養細胞が用いられているものの、安定供給、継続性の観点からその利用には限界がある為、より安定かつ容易に使用できる in vitro 毒性評価系の確立が望まれている。
そこで本研究では、1. ヒト iPS 細胞由来免疫担当細胞を用いた薬物免疫毒性評価系の構築、2. ヒト iPS 細胞から脳血管内皮細胞への分化誘導法の開発、3. 神経細胞とグリア細胞が共存するオールインワン型の新規in vitro 血液脳関門モデルの確立(ラット由来細胞による構築)を行う。
研究方法
ヒトiPS細胞から分化誘導したマスト細胞を用いた薬物毒性評価系構築に関する基礎的検討、ヒトiPS細胞から脳血管内皮細胞への分化誘導法の確立とそれを利用したin vitro 血液脳関門(BBB)モデルの構築、ヒト iPS 細胞由来神経細胞を用いたin vitro 毒性評価系の構築、を試みた。
結果と考察
ヒトiPS細胞から、脱顆粒応答能を有するマスト細胞が分化誘導可能であることが示された。今後、本手法により誘導したヒトマスト細胞を用いた、新規抗アレルギー薬の開発が期待される。ラットグリオーマ細胞株であるC6細胞の培養上清に脳血管内皮細胞への成熟化作用があることを見出し、前年度に確立したヒトiPS細胞から脳血管内皮細胞の作製法をより簡便かつ安定的なものへと改良した。脳血管内皮細胞への成熟化作用の一部がCannonical-Wntシグナルを介することが明らかとなった。In vitro BBB モデルにミクログリアを添加することで、in vitro BBB モデルの成熟がより促進し、生体内に近づくこと、病態脳(脳内炎症時)の BBB 機能も反映できるようになることが明らかとなった。
結論
ヒト iPS 細胞から免疫細胞であるマスト細胞を分化誘導できた。また、本細胞はマスト細胞の最も重要な機能である脱顆粒応答能を高く保有していた。ヒト iPS 細胞から無フィーダー細胞・無血清環境下で脳血管内皮細胞を分化誘導でき、本成果は in vitro BBB モデルを構築するための基盤技術になるものと考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201406037B
報告書区分
総合
研究課題名
ヒト iPS 細胞を用いた有用な医薬品等創出のための基盤技術開発研究
研究課題名(英字)
-
課題番号
H24-iPS-指定-001
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
川端 健二(独立行政法人医薬基盤研究所 創薬基盤研究部幹細胞制御プロジェクト)
研究分担者(所属機関)
  • 関野 祐子(国立医薬品食品衛生研究所 薬理部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 厚生科学基盤研究分野 【補助金】 再生医療実用化研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒトiPS細胞は再生医療だけでなく、創薬への応用も強く期待されている。医薬品の開発初期段階において免疫毒性や神経毒性等の薬物毒性を精度高く予測することは、創薬コスト削減・期間短縮・創薬シーズのヒット率の向上をもたらし、我が国の基幹産業のひとつである製薬産業の国際競争力向上に繋がると期待される。しかしながら、薬物毒性を in vitro で簡便にスクリーニング可能な評価系は確立されていない。そこで、ヒトiPS細胞を用いて、薬物免疫毒性評価系および薬物神経毒性評価系を新たに構築することを目的とした。
研究方法
ヒト iPS 細胞から血液前駆細胞を誘導し、次にマスト細胞を分化誘導した。得られた細胞について、マスト細胞の最も重要な機能である脱顆粒応答能を解析した。ヒト iPS 細胞から血管内皮細胞を誘導し、そこから種々の細胞と共培養することにより脳血管内皮細胞へと成熟化させた。得られた脳血管内皮細胞を利用して in vitro 血液-脳関門(BBB)モデルを構築するための基盤技術とした。
結果と考察
ヒトiPS細胞から、脱顆粒応答能を有するマスト細胞が分化誘導可能であることが示され、薬物免疫毒性を in vitro で評価するための基盤技術を確立した。ラットグリオーマ細胞株である C6 細胞およびその培養上清に脳血管内皮細胞への成熟化作用があることを見出し、ヒトiPS細胞から脳血管内皮細胞の作製法確立した。本技術は in vitro BBB モデルを構築するための基盤技術になるものと考えられた。動物細胞を用いて現行されている in vitro 神経毒性試験のヒト iPS 細胞由来神経細胞への置き換えを可能とした。実際の医薬品による有害事象に近い、神経細胞死に至らない神経機能低下の定量評価指標を確立し評価可能とした。
結論
支持細胞との共培養法あるいは胚様体形成法を介して、ヒト iPS 細胞から CD34 陽性の血液前駆細胞への分化誘導法を確立した。また、ヒト iPS 細胞由来血液前駆細胞からメチルセルロース法を用いることで、マスト細胞が分化誘導可能であることが示された。さらに、得られたヒトiPS細胞由来マスト細胞が脱顆粒能を有する機能的な細胞であることを確認した。適切なサイトカインを作用することで、ヒト iPS 細胞から CD34 やCD31、CD144 を発現する中胚葉系細胞の作製に成功した。また、安定的に血管内皮細胞を取得可能なプロトコールの確立に成功した。さらに、ラットグリオーマ細胞株である C 6細胞と共培養したヒトiPS細胞由来血管内皮細胞は、単独培養と比較し、強固なタイトジャンクションを形成することを明らかにし、C6 細胞の培養上清に脳血管内皮細胞への成熟化作用があることを見出した。脳血管内皮細胞への成熟化作用の一部が Cannonical-Wntシグナルを介することを明らかにした。In vitro 細胞毒性評価プロトコールのヒト iPS 細胞由来神経細胞への最適化、神経特異的細胞死(興奮毒性)の定量評価試行、シナプス機能障害の定量評価法の確立を行った。また、in vitro BBB モデルにミクログリアを添加することで、in vitro BBB モデルの成熟がより促進し、生体内に近づくこと、病態脳(脳内炎症時)の BBB 機能も反映できるようになることがわかった。さらに、このミクログリアの影響はそれぞれの条件において異なる組み合わせ・濃度のサイトカイン・ケモカインが関与していることが示された。従って、本モデルが、健常脳から病態脳まで網羅したモデルとなり得ることが示唆された。以上の結果は、薬物毒性スクリーニングに応用可能な細胞を作製するための基盤技術となることが期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201406037C

成果

専門的・学術的観点からの成果
ヒト iPS 細胞からマスト細胞を分化誘導する手法を確立し、免疫毒性評価系の基盤技術を構築した。ヒト iPS 細胞から脳特異的血管内皮細胞の分化誘導に成功し、脳内移行性を包括した新しい神経毒性評価系を構築するためのin vitro 血液―脳関門モデルの基盤技術を開発した。
臨床的観点からの成果
現在のところ、免疫毒性評価系については動物を利用した評価系しか存在しない。本研究で得られたiPS 細胞由来マスト細胞を用いることにより、細胞を利用した新しい免疫毒性評価系を構築できる可能性が示された。神経毒性評価系については、神経細胞に薬物を作用させた後の生死を判断するだけではなく、脳内移行性を包括した新しい評価系を構築する基盤技術となり得る。
ガイドライン等の開発
本研究成果について、多種の薬物を作用させてその毒性を評価することにより、ガイドライン案の作成へと発展させることが今後の課題である。
その他行政的観点からの成果
本研究は、iPS 細胞を利用した薬物毒性評価系の技術開発であり、これを利用して新しいガイドライン案を作成することにより、我が国の基幹産業のひとつである製薬の効率化・加速化につながるものと期待される。
その他のインパクト
本研究課題に関して、国内4件、海外2件の招待講演を行った。

発表件数

原著論文(和文)
4件
原著論文(英文等)
37件
その他論文(和文)
0件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
79件
学会発表(国際学会等)
25件
その他成果(特許の出願)
3件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

特許の名称
成熟マスト細胞の作製方法及び得られた成熟マスト細胞
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2013-103582
発明者名: 川端健二、山口朋子
権利者名: 医薬基盤研究所
出願年月日: 20130515
国内外の別: 国内
特許の名称
多能性幹細胞から脳血管内皮細胞を製造する方法
詳細情報
分類:
特許番号: 特願2014-038105
発明者名: 川端健二、田代克久
権利者名: 医薬基盤研究所
出願年月日: 20140228
国内外の別: 国内

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Minami H, Tashiro K, Okada A, et al.
Generation of brain microvascular endothelial-like cells from human induced pluripotent stem cells by co-culture with C6 glioma cells.
PLOS ONE , in press-  (2015)
原著論文2
Tashiro K, Hirata N, Okada A, et al.
Expression of coxsackievirus and adenovirus receptor separates hematopoietic and cardiac progenitor cells in Flk1-expressing mesoderm.
Stem Cells Transl. Med. , in press-  (2015)
原著論文3
Takayama K, Morisaki Y, Kuno S, et al.
Prediction of inter-individual differences in hepatic functions and drug sensitivity by using human iPS-derived hepatocytes.
Proc. Natl. Acad. Sci. USA. , 47 , 16772-16777  (2014)
原著論文4
Takayama K., Kawabata K., Inamura M.
CCAAT/enhancer binding protein-mediated regulation of TGFβ receptor 2 expression determine the hepatoblast fate decision.
Development , 141 , 91-100  (2014)
原著論文5
Yamaguchi T., Tashiro K., Tanaka S., et al.
Two-step differentiation of mast cells from induced pluripotent stem cells.
Stem Cells Dev. , 22 , 726-734  (2013)
原著論文6
Takayama K., Nagamoto Y., Mimura N, et al.
Long-Term Self-Renewal of Human ES/iPS-Derived Hepatoblast-like Cells on Human Laminin 111-Coated Dishes.
Stem Cell Reports , 1 , 322-335  (2013)

公開日・更新日

公開日
2015-06-16
更新日
2019-05-22

収支報告書

文献番号
201406037Z