滑膜幹細胞による半月板・関節軟骨の治癒促進・再生

文献情報

文献番号

201406010A

報告書区分

総括

研究課題名

滑膜幹細胞による半月板・関節軟骨の治癒促進・再生

課題番号

H25-再生-一般-006

研究年度

平成26(2014)年度

研究代表者(所属機関)

関矢　一郎(東京医科歯科大学　再生医療研究センター)

研究分担者(所属機関)

宗田　大(東京医科歯科大学　大学院医歯学総合研究科　運動器外科学)
森尾　友宏(東京医科歯科大学　大学院医歯学総合研究科　発生発達病態学)
清水　則夫(東京医科歯科大学　再生医療研究センター)
赤澤　智宏(東京医科歯科大学　大学院保健衛生学研究科　分子生命情報解析学　　)

研究区分

厚生労働科学研究費補助金厚生科学基盤研究分野【補助金】再生医療実用化研究

研究開始年度

平成25(2013)年度

研究終了予定年度

平成27(2015)年度

研究費

53,733,000円

研究者交替、所属機関変更

-

研究報告書（概要版）

研究目的

臨床研究「半月板縫合後の滑膜幹細胞による治癒促進」では、半月板損傷部の状態が悪く現状では縫合術の適応にならない半月板損傷患者を対象とし、縫合術後に滑膜幹細胞を移植することにより、半月板の治癒促進を図る再生医療の安全性を評価することを目的としている。また、治験開始までに必要な滑膜幹細胞の安全性を確認するGLP準拠の非臨床試験も実施する。

研究方法

臨床研究「半月板縫合後の滑膜幹細胞による治癒促進」は、自己血清の細胞増殖性を他家の滑膜幹細胞を用いて予め確認してから滑膜を採取するプロトコールに変更し再開した。有害事象の有無、重症度、重篤性、発現頻度から安全性を総合的に評価することを主要評価項目とした。本研究は非対照試験のため有効性の評価は目的としていないが、将来的には治験に進むことを目標としており、有効性の評価項目の探索として患者の主観評価（Knee Injury and Osteoarthritis Outcome Score, Numerical Rating Scale)、MRI画像診断、膝関節Ｘ線検査も実施した。MRIに関しては、2次元のMRI画像から3次元の組織像を構築する3次元解析を行った。平成26年度は、交付申請時の予定通り、5例の半月板損傷患者に縫合術と滑膜幹細胞移植を実施した。

結果と考察

平成26年度は、予定症例数の5例に滑膜幹細胞移植を終了し、平成27年4月に全例の術後観察を終了した。平成25年度に半月板縫合術まで実施し中止症例となった1例も加え6例の有害事象を収集したが、細胞移植を完遂した5例で自家滑膜幹細胞を半月板縫合部に移植する再生医療の安全性を評価した。研究期間中、有害事象は39件（6/6例）発現したが、重篤なものは発現しなかった。発現例数が最も多かったのは半月板縫合部の痛みで、これは滑膜幹細胞というよりは縫合術の手技に起因する有害事象であったが、本臨床研究ではこの影響が最も大きかったと考える。縫合2週後の関節鏡操作に起因する鏡視下操作後の膝痛、関節水腫も5例中4例と発現例数としては多かった。関節水腫が最も長引いた症例では、水腫が残っているにもかかわらず膝に負担のかかる労働に復帰せざるを得ない背景があったことが要因の一つと考えられた。滑膜幹細胞の適用と有害事象発現の時間的な前後関係から細胞との関連性を完全には否定できない有害事象は3件発現したが、無処置で研究継続が可能な軽度のものであった。プロトコールに定めた安全性の判定基準に従い、「きわめて安全」が3例、「安全」が2例と評価した。MRIの3次元解析は予想していたよりも良く半月板損傷の病態を捉えることができ、侵襲を伴わずに半月板の状態を評価するのに有用と思われた。副次評価項目として滑膜幹細胞の安全性を評価したが、品質管理基準書に定めたすべての工程内管理試験の規格・判定基準に適合する滑膜幹細胞を供給することができた。モニタリング項目として実施した、培養後の細胞の染色体検査では5例中3例に核型異常が検出されたが、軟寒天コロニー形成試験で造腫瘍性の有無を検討したところコロニーは検出されず、核型異常が検出された滑膜幹細胞が腫瘍形成の原因となる可能性は低いと判断した。核型異常や増殖性の変化を予め評価する工程評価の重要性を考察した。

結論

臨床研究「半月板縫合後の滑膜幹細胞による治癒促進」の安全性をプロトコールに定めた安全性の判定基準に従い総合的に評価した結果、「きわめて安全」が3例、「安全」が2例であったため、自家滑膜幹細胞を半月板縫合部に移植する再生医療は安全であると評価した。