健康の社会的決定要因に関する研究

文献情報

文献番号
201403005A
報告書区分
総括
研究課題名
健康の社会的決定要因に関する研究
課題番号
H24-地球規模-一般-009
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
尾島 俊之(浜松医科大学 医学部健康社会医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 近藤 克則(千葉大学 予防医学センター)
  • 近藤 尚己(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 橋本 英樹(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 高尾 総司(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 藤原 佳典(東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム)
  • 稲葉 陽二(日本大学 法学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 【補助金】 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,708,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 健康の社会的決定要因(SDH)について、国内外の情報を集約するとともに、新たな知見、実践例などを収集・創出・試行・発信することにより、国内外におけるSDHへの対応を促進し、人々の健康を向上させることが本研究の目的である。
研究方法
 研究方法として、最終年度である平成26年度は、①SDHに対応できる人材育成方策の創出及び情報発信、②WHOが開発した健康格差の評価及び対応ツールであるUrban HEART (Health Equity Assessment and Response Tool)の活用に力を入れた。(1) 国内外の情報収集:国際的レポート、学術研究、実践例等の収集、(2) 個人・地域データの調査・分析:対象市町村の住民への新規調査、既存データを用いた分析、(3) 新たな対応・人材育成方策の創出:種々の専門分野の研究者・行政担当者等を含めて、多様な立場間のディスカッション等による日本の制度や文化と調和した対応方策の創出、人材育成指針の策定及びSDHセミナーの開催、(4) 対策の試行:高齢者の就労等有償活動コーディネート窓口事業に関するアクション・リサーチ、(5) 情報の国内外への発信:ホームページ、学会発表・論文等による情報の発信の5本柱で研究を実施した。
結果と考察
 研究の5本柱に沿って、平成26年度の研究結果と考察を述べる。(1) 国内外の情報収集:SDHに関する会議等の結果、Universal Health Coverageなどの議論において、医療介入とその分配・財政措置に重きが置かれすぎ、機会や権力・教育などの社会的公正の視点を十分に含める必要があることが共有された。ブラジルの取組に関するヒアリングの結果、教育歴など社会経済的階層別に保健統計をモニタリングするシステムが稼働開始していた。日本においても同様の体制を確保する必要がある。ソーシャル・キャピタルなどに着目したSDHへの介入実践例の検討の結果、全高齢者を対象とした声かけ訪問について、社会参加の少ない高齢者への働きかけの機会があったものの、結果的に互酬性、社会参加が低い高齢者は十分に訪問を受けていない傾向が認められた。(2) 個人・地域データの調査・分析:格差の是正及びソーシャル・キャピタルと健康の関連分析の結果、主観的健康観に対して、個人レベルの社会関係資本は総じて有意な関係がみられるが、コミュニティレベルの社会関係資本は、特定化信頼と特定化互酬性にのみ有意な関係がみられた。抑うつの所得間格差に関連する地域要因に関する研究の結果、低所得者ほど抑うつの割合が高かった。相関分析の結果、全体として社会参加が多く、社会サポートの授受や友人との交流が多く、地域の社会経済的環境が改善していると思う人の割合が高いほど、抑うつの所得間格差が小さい傾向がみられた。地域の社会環境の影響を反映している可能性(脈絡効果)に加えて、単に構成する一人ひとりの特性も反映している可能性がある(構成効果)。自治体内での地域環境の整備が、抑うつ状態の所得間格差を軽減する可能性があると考えられる。(3) 新たな対応・人材育成方策の創出:WHO Urban HEARTを用いた日本での分析及び対応方策の検討として、指標群を開発し、算定を行い、その結果を閲覧できる英語版のサイトを作成した。人材育成の促進のために、「健康の社会的決定要因への対応を行う人材育成指針(2015)」を策定した。一般教育目標を知識、態度、技能の3本柱とし、それぞれの資質向上のための方法や、扱うべき知識の内容などを検討してまとめた。また、健康と社会(SDH)セミナーを、ハーバード大学のカワチ教授による基調講演の他、6名の演者による講演により実施した。(4) 対策の試行:高齢者の就労支援事業に関するアクション・リサーチを行った結果、高齢求職者には、生きがい就労を求めている人から、生活のための収入とする逼迫した人まで存在する事が明らかとなった。特にホワイトカラー層に対しては求職環境についての情報を早期に提供し、早期の就職とその後の自己実現に期待するよう方針転換を促す介入が考えられるとともに、雇用企業側にもこうした層を有効活用するような職種や、就業後の業績と連動した評価制度の構築が期待される。(5) 情報の国内外への発信を行った。
結論
 健康の社会的決定要因に関する総合的な研究として、(1) 国内外の情報収集、(2) 個人・地域データの調査・分析、(3) 新たな対応・人材育成方策の創出、(4) 対策の試行、(5) 情報の国内外への発信の5本柱で実施した。この研究により収集した情報及び研究成果について、研究班ホームページによる情報発信、学術論文及び学会での発表、社会と健康(SDH)セミナーによるSDH対策の人材育成と本研究班の成果の紹介を行った。

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201403005B
報告書区分
総合
研究課題名
健康の社会的決定要因に関する研究
課題番号
H24-地球規模-一般-009
研究年度
平成26(2014)年度
研究代表者(所属機関)
尾島 俊之(浜松医科大学 医学部健康社会医学講座)
研究分担者(所属機関)
  • 近藤 克則(千葉大学 予防医学センター)
  • 近藤 尚己(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 橋本 英樹(東京大学 大学院医学系研究科)
  • 高尾 総司(岡山大学 大学院医歯薬学総合研究科)
  • 藤原 佳典(東京都健康長寿医療センター研究所 社会参加と地域保健研究チーム)
  • 稲葉 陽二(日本大学 法学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 行政政策研究分野 【補助金】 地球規模保健課題推進研究(地球規模保健課題推進研究)
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
 健康の社会的決定要因(SDH)は、所得、教育、就業、生活環境、社会環境等が含まれる。WHOに設置された健康の社会的決定要因に関する委員会による最終報告書で重要性が強調され、2011年にSDH国際会議が開催され対応が本格化している。SDHは日本においても健康日本21(第二次)に記載されるなど、注目されつつある。社会全体へSDHの認知を広げ、状況をモニターし、具体的な対応方策を明らかにし、また日本から国際社会への情報発信を強化する必要がある。そこで、SDHについて、国内外の情報を集約するとともに、新たな知見、実践例などを収集・創出・試行・発信することにより、国内外におけるSDHへの対応を促進し、人々の健康を向上させることが本研究の目的である。
研究方法
 (1) 国内外の情報収集:国際的レポート、学術研究、実践例等の収集、(2) 個人・地域データの調査・分析:対象市町村の住民への新規調査、既存データを用いた分析、(3) 新たな対応・人材育成方策の創出:種々の専門分野の研究者・行政担当者等を含めて、多様な立場間のディスカッション等による日本の制度や文化と調和した対応方策の創出、人材育成指針の策定及びSDHセミナーの開催、(4) 対策の試行:高齢者の就労等有償活動コーディネート窓口事業に関するアクション・リサーチ、(5) 情報の国内外への発信:ホームページ、学会発表・論文等による情報の発信の5本柱で研究を実施した。
結果と考察
 研究を実施した5本の柱について、それぞれ以下の結果が得られた。(1) 国内外の情報収集:SDHの主要文献に関する研究として、SDHに関するWHOの報告書等についてWHO神戸センターの監修を受けて翻訳を行った。SDH政策への取り組みの国際共同の動向に関する研究として、WHOのSDHに関する委員会の議長を務めたMarmot教授と直接情報交換し、またSDH研究者連絡会議に参加する等、情報収集・交換を行った。社会的排除が根底にある国内における孤立死事件について、またそれに関連した対応を行っている米国での事例について調査を行った。ブラジルにおいてSDHに関するモニタリングシステムが稼働開始しており、日本においてもそのような体制が必要であると考えられた。ソーシャル・キャピタル等に着目したSDHへの介入実践例について、全国の自治体への郵送調査を行った。また、把握された事例の中から、主要な事例についてヒアリングを含む詳細な調査・分析を行った。(2) 個人・地域データの調査・分析:格差の是正及びソーシャル・キャピタルと健康の関連として、市町村別のデータ分析により、高齢者就業率が高いほど、またジニ係数が低いほど老人医療費が有意に低い等の結果が得られた。健康格差の継続モニタリングのための指標に関する研究として、大規模データを用いて妥当性・信頼性・実用性の観点から、比・差・格差勾配指数・格差相対指数等の各種格差指標の特徴について検討した。(3) 新たな対応・人材育成方策の創出:WHO Urban HEARTの枠組みに沿った評価及び対応方策の検討を行い、その日本における取り組みについて英語版ホームページによる発信を行った。そのワークショップにより、住宅・自転車・給食等の施策を健康の向上に結びつけること、高齢者が働けるような新しい起業、政策形成における3E(公平性、経済性、選挙での得票)の重要性等が上げられた。WHOの主催するUrban HEART改訂のための専門家会議に参画した。SDHへの対応を行う人材育成の指針を作成し、またSDHセミナーを企画開催した。(4) 対策の試行:高齢者の就労支援事業に関するアクション・リサーチとして、アクティブシニア就業支援センターについて利用者への継続的な調査を行った結果、男性利用者では精神的健康状態が悪く社会的孤立傾向の高い層が存在し福祉的援助が必要であること、一方で女性では経済的に苦しくても社会的活動が活発で比較的短期間に就職に至る例が多いことなどが明らかとなった。この事業は、SDH対策として重要な役割を担っていると考えられた。(5) 情報の国内外への発信:研究班ホームページ及びその他の方法によって、国内向けにSDHに関する重要文書、取り組み事例等の情報発信をするとともに、国内でのSDH対策についての取り組みや、Urban HEARTを活用した評価及び対応などについて海外への英語による情報発信を行った。
結論
 健康の社会的決定要因に関する総合的な研究として、5本柱で実施した。国内及び国際的にさまざまな取組が行われており、一定の成果をあげているものもみられた。しかしながら、非常に困難な課題であるため、人材育成等にも力を入れながら、さらなる対策の強化が必要である。

公開日・更新日

公開日
2015-06-01
更新日
-

研究報告書(PDF)

研究報告書(紙媒体)

公開日・更新日

公開日
2016-05-13
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201403005C

成果

専門的・学術的観点からの成果
健康・医療資源の公平性に関するモニタリング・ツールの開発を進め、比、差、格差勾配指数など10種類の格差指標について実証的に検討した。格差の是正及びソーシャル・キャピタルと健康の関連として、自治体単位でのジニ係数やソーシャル・キャピタルと健康指標の関連を明らかにした。WHO Urban HEARTの枠組みを用いて、日本における介護予防のための指標について地域格差等の見える化を行った。これらの研究について、それぞれ学術論文等で成果を公表した。
臨床的観点からの成果
ソーシャル・キャピタルなどに着目した健康の社会的決定要因(SDH)への介入実践例について全国調査を行い、また特徴的な事例についてヒアリングにより詳細をまとめた。SDH政策への取り組みの国際共同の動向に関して、WHOのSDH委員会議長を務めたマーモット教授を始めとして情報収集し取りまとめた。地域保健従事者や研究者によるワークショップを開催しSDHへの新しい対応方策についてアイディアを取りまとめた。高齢者の就労支援事業に関して、参加者の特性や、事業の意義を明らかにした。
ガイドライン等の開発
最終年度に「健康の社会的決定要因への対応を行う人材育成指針」を策定した。一般教育目標として、知識(SDHの基礎知識、評価方法、対応方法など)、態度(SDH対策に積極的に取り組む態度)、技能(SDHの評価、企画・調整技能、実践技能)の3本柱でまとめた。それぞれの資質向上のための方法や、扱うべき知識の内容などを検討してまとめた。2015年にWHOが発行したガイドライン:Measuring the Age-Friendliness of Cities の作成に研究成果が活用されている。
その他行政的観点からの成果
WHOが主催したUrban HEART(都市における健康格差の評価・対応ツール)の改訂作業会議に参画した。国民皆保険、高齢化、非感染性疾患、環境保全、危機管理に関する指標などについて、また各都市による優先順位の設定と対応への支援として、良い事例について電子的なデータベースで参照できるようにする、質問紙調査・フォーカスグループ・その他の質的方法で地域の意見を収集することなどについて検討され、当研究班での成果をふまえて議論に参画した。
その他のインパクト
WHO等によるSDHに関する主要論文を日本語訳し公開した。2014年11月に東京にて健康と社会(SDH)セミナーを開催した。ハーバード大学のカワチ教授による基調講演の他、6名の演者による講演を行った。合計参加者は374名であり、アンケート調査結果による参加者の満足度は高かった。その他、日本語及び英語による研究班ホームページの開設、学術論文や学会発表、その他研修会などの機会を活用して、研究成果の公表及び啓発を行った。その後、WHOとの共同研究に発展している。

発表件数

原著論文(和文)
5件
原著論文(英文等)
3件
その他論文(和文)
4件
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
4件
学会発表(国際学会等)
1件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
4件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Naoki Kondo, Mikael Rostila, Monica Åberg Yngwe
Rising inequality in mortality among working-age men and women in Sweden: a national registry-based repeated cohort study, 1990–2007.
J Epidemiol Community Health , 68 , 1145-1150  (2014)
10.1136/jech-2013-203619

公開日・更新日

公開日
2015-06-10
更新日
2018-07-05

収支報告書

文献番号
201403005Z