ヒトiPS由来神経前駆細胞の腫瘍形成能のメカニズムとその制御による安全性確保の検討

文献情報

文献番号
201335003A
報告書区分
総括
研究課題名
ヒトiPS由来神経前駆細胞の腫瘍形成能のメカニズムとその制御による安全性確保の検討
課題番号
H25-実用化(再生)-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
中村 雅也(慶應義塾大学医学部)
研究分担者(所属機関)
  • 岩波 明生(慶應義塾大学医学部 )
  • 神山 淳(慶應義塾大学医学部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(再生医療関係研究分野)
研究開始年度
平成25(2013)年度
研究終了予定年度
平成27(2015)年度
研究費
35,000,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
ヒトiPS細胞由来神経前駆細胞(hiPS-NPC)の腫瘍原性の実体解明はhiPS-NPCを用いた再生医療の実現化において最も重要な課題である。hiPS-NPCは造腫瘍性という観点から不均一な集団であることが推定される。そこで、hiPS-NPCをFACSにより一細胞を調整し、維持・増殖させることで単一細胞由来iPS-NPC(siPS-NPC)を樹立する。また、樹立されたsiPS-NPCを免疫不全動物へと移植し、造腫瘍性を検討することにより造腫瘍性を有する細胞群の同定が期待される。siPS-NPCにおいて造腫瘍性の有無により細胞群を分類し、遺伝子発現やエピジェネティック修飾状態を解析することにより腫瘍マーカーを見出すことが究極的な目標であり、平成25年度はその為の基礎的な基盤形成を目的とする。
研究方法
(1)FACSによる細胞分取:再生医療用iPS細胞ストックの提供時期が平成26年度後半以降であるという状況から平成25年度は本研究グループにより既に造腫瘍性を有することが明らかとなっているhiPS-NPCを用いて解析を行った。本hiPS-NPCはニューロスフェア法により樹立、維持しているものである。このhiPS-NPCをTryple Selectにより分散し、細胞浮遊液を調整したのち、FACSにより一細胞ずつ分取し、96wellプレートに播種した。
(2)siPS-NPCの樹立と維持:FACSにより調整し、96wellプレート上に播種した細胞を神経前駆細胞用培地で維持し、2日ごとに培地交換及び液性因子を添加した。
(3)単層培養系hiPS-NPCを用いたsinge cell sortingの条件検討:本研究課題で利用する単層培養系神経前駆細胞におけるsingle cell sortingの条件の最適化を行った。
結果と考察
1)浮遊系hiPS-NPCからのsiPS-NPCの樹立:浮遊系hiPS-NPCを一細胞レベルまで分散し、FACSにより96wellプレート50枚分(4800ウェル)に播種した。浮遊系hiPS-NPCから最終的に1x105以上の細胞数まで増殖するクローン数は4クローンであり、2クローンは最低限移植に必要な細胞数まで増殖することが明らかとなった。クローン間で増殖性に差があるものの、single cell sorting後、7~10回以上の継代は困難であり、拡大培養の中途段階で細胞の増殖が止まり、複数個体への移植を目的とした細胞調整が不可能であった。
2)浮遊系siPS-NPCの造腫瘍性の検討:拡大培養中のsiPS-NPCの一部をレンチウイルスにより標識し、免疫不全動物(NOGマウス)の脊髄へと移植し、IVISで非侵襲的に発光を解析したところ移植直後においては発光が観察され、移植自体は成功していることが明らかとなった。その後経時的に解析し、移植後40日の時点で免疫組織学的検討を行ったところ、個体内でヒト由来細胞の生着は認められなかった。
3)単層培養系hiPS-NPCを用いたsinge cell sortingの条件検討:単一細胞由来のクローン作成の観点から浮遊系は非常に困難であると予想されたことから単層培養系hiPS-NPCを利用し、single cell sortingの条件の最適化を行った。結果として細胞分散を行なう前に、ROCK阻害剤で処理し、細胞基質をマトリゲルにすることによりsiPS-NPCの効率が上昇し、96wellに撒いた細胞のうち8割程度のウェルにおいて細胞の増殖が見出され、siPS-NPCの樹立が可能であることが推察された。
 hiPS-NPCにおける造腫瘍性という観点から造腫瘍性における細胞の不均一性の解明は重要な課題であり、一細胞由来hiPS-NPCの樹立は非常に有用な手法であると考えられる。しかしながら本年度の研究では少なくともニューロスフェア法を介し、一細胞由来クローンを効率的に作成・維持するのは困難であり、また移植細胞用へと拡大培養する過程で増殖性が著しく減弱することが明らかとなった。免疫不全への動物移植においてsiPS-NPCの造腫瘍性は生着率の問題から解析が困難であった。しかし、本研究計画で次年度以降に解析で使用する単層培養系hiPS-NPCは比較的容易に短時間にsiPS-NPCの樹立が可能であることが予想された。
結論
hiPS-NPCにおける造腫瘍性の実体解明には単一細胞由来のNPCの樹立が必須であり、本研究では再生医療用iPS細胞ストックを利用し作製されたhiPS-NPCの造腫瘍性の実体解明に向けた基礎的な基盤が確立されたもの考えており、これらをもとに腫瘍原性を事前に検出可能な腫瘍マーカーの同定が期待される。

公開日・更新日

公開日
2015-03-11
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-01-28
更新日
-

収支報告書

文献番号
201335003Z