文献情報
文献番号
201334001A
報告書区分
総括
研究課題名
「地域生活中心」を推進する、地域精神科医療モデル作りとその効果検証に関する研究
課題番号
H23-精神-実用化(精神)-001
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 順一郎(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所社会復帰研究部)
研究分担者(所属機関)
- 池淵恵美(帝京大学)
- 西尾雅明(東北福祉大学)
- 佐竹直子(独立行政法人国立国際医療研究センター国府台病院)
- 吉田光爾(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所社会復帰研究部 )
- 佐藤さやか(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所社会復帰研究部 )
- 坂田増弘(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター病院)
- 贄川信幸(日本社会事業大学社会事業研究所)
- 泉田信行(国立社会保障・人口問題研究所)
- 下平美智代(独立行政法人国立精神・神経医療研究センター 精神保健研究所社会復帰研究部 )
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康長寿社会実現のためのライフ・イノベーションプロジェクト 難病・がん等の疾患分野の医療の実用化研究(精神疾患関係研究分野)
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
87,300,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
本研究では、医療機関を中核機関とし、地域生活の充実に寄与できる、科学的根拠のある複数の支援プログラムを含む、地域精神科医療モデルを構築、「多施設共同の、対照群をおいての比較研究」を行い、臨床効果評価、医療経済的評価を実施した。
研究方法
H23年度は共通の基本プロトコルを作成し、各研究協力機関にモデルプログラムを構築、ベースライン調査を実施。H24年度は、中核4医療機関で、(1)「多職種アウトリーチチームによるケアマネジメント」と(2)「認知機能リハビリテーションと援助付き雇用」の臨床活動に対して、対照群をおき、1年間の追跡調査を開始した。他の2医療機関では、初年度に(2)のシステム構築を行い、対照群をおき(2)のみについて1年間の追跡調査を行った。(1)については介入群・対照群を利用者の居住地区によって振り分ける準実験法を、(2)については、無作為割り付けにて介入群、対照群に振り分けるランダム化比較試験(RCTデザイン)を採用した。H25年度は、追跡調査を完了し、分析を実施した。
結果と考察
多職種アウトリーチチームの研究では、1年後では介入群53名・対照群62名が分析対象になった。
効果として、1)全体として、SBS下位尺度『陽性症状に伴う行動』において交互作用が有意であった。2)支援プロセスの履行状況別にみると、◎月180分以上(介入群の上位70%)に限定した場合、『陽性症状に伴う行動』で、◎月240分以上(介入群の上位50%)に限定した場合、『陽性症状に伴う行動』およびWHO-QOL26総合得点・『心理的領域』・『全般的満足度』にて交互作用が有意・有意傾向であった。3)対象層別には、重症精神障害者層(A層)では、WHO-QOL26総合得点・『環境領域』で交互作用が有意であった。軽症層(B層)では『陽性症状に伴う行動』で交互作用が有意であった。
医療経済評価では、両群に医療・社会的コストに有意差は認められなかった。WHO-QOL26上昇における費用対効果(CER)を分析すると、CERが高い順に介入群(月240分以上コンタクト)>介入群A層>介入群全体>介入群B層>対照群B層>対照群全体>対照群A層とならんだ。
認知機能リハビリテーションと援助付き雇用の研究では、無作為割付によって認知機能リハビリテーション(CR)と援助付き雇用(SE)の組み合わせによる就労支援を受ける群(CR+SE群)と仲介型就労支援のみをうける群(仲介型群)に振り分けられた。分析対象者は両群それぞれ47名となった。
臨床関連指標では、GAF得点、BACSの言語性記憶、作業記憶、文字流暢性、符号課題および総合得点について交互作用に有意差がみられた。
就労関連指標では、就労率についてCR+SE群は仲介型群と比べて有意に多い対象者が就労した(63.8%)。加えて、就労したものの就労回数、合計就労期間、合計就労日数のいずれもCR+SE群は仲介型群と比べて多かった。離職回数では、両群間に有意差はなかった。
プロセスデータの分析では、就労者は就労前と就労中に1ヵ月当り平均で6時間の個別就労支援に関連するサービスと、1.5時間の個別生活支援に関連するサービスを受けており、未就労者と比較し有意に多かった。特に個別就労支援時間の長さは、16ヵ月間の就労の有無や就労日数の長さと関係していた。
医療経済評価としては、医療・社会的コストは、介入群の12か月間の合計コストが、対照群と比較しわずかに上回った。他方、介入群と対照群における積み上げコストの特徴は異なり、介入群では所得保障費が高く、福祉・公的サービス費やデイケア費は、CRや就労支援が活発化する中盤までに多くのコストが費やされ、終盤には減少する傾向があった。対照群においては、福祉・公的サービス費が12ヵ月継続して一定の割合占めたほか、入院医療費が全体のコストを押し上げていた。費用対効果(CER)は、介入群における就労期間(日)のCERは2万972円、対照群のCERは5万3,024円であった。
効果として、1)全体として、SBS下位尺度『陽性症状に伴う行動』において交互作用が有意であった。2)支援プロセスの履行状況別にみると、◎月180分以上(介入群の上位70%)に限定した場合、『陽性症状に伴う行動』で、◎月240分以上(介入群の上位50%)に限定した場合、『陽性症状に伴う行動』およびWHO-QOL26総合得点・『心理的領域』・『全般的満足度』にて交互作用が有意・有意傾向であった。3)対象層別には、重症精神障害者層(A層)では、WHO-QOL26総合得点・『環境領域』で交互作用が有意であった。軽症層(B層)では『陽性症状に伴う行動』で交互作用が有意であった。
医療経済評価では、両群に医療・社会的コストに有意差は認められなかった。WHO-QOL26上昇における費用対効果(CER)を分析すると、CERが高い順に介入群(月240分以上コンタクト)>介入群A層>介入群全体>介入群B層>対照群B層>対照群全体>対照群A層とならんだ。
認知機能リハビリテーションと援助付き雇用の研究では、無作為割付によって認知機能リハビリテーション(CR)と援助付き雇用(SE)の組み合わせによる就労支援を受ける群(CR+SE群)と仲介型就労支援のみをうける群(仲介型群)に振り分けられた。分析対象者は両群それぞれ47名となった。
臨床関連指標では、GAF得点、BACSの言語性記憶、作業記憶、文字流暢性、符号課題および総合得点について交互作用に有意差がみられた。
就労関連指標では、就労率についてCR+SE群は仲介型群と比べて有意に多い対象者が就労した(63.8%)。加えて、就労したものの就労回数、合計就労期間、合計就労日数のいずれもCR+SE群は仲介型群と比べて多かった。離職回数では、両群間に有意差はなかった。
プロセスデータの分析では、就労者は就労前と就労中に1ヵ月当り平均で6時間の個別就労支援に関連するサービスと、1.5時間の個別生活支援に関連するサービスを受けており、未就労者と比較し有意に多かった。特に個別就労支援時間の長さは、16ヵ月間の就労の有無や就労日数の長さと関係していた。
医療経済評価としては、医療・社会的コストは、介入群の12か月間の合計コストが、対照群と比較しわずかに上回った。他方、介入群と対照群における積み上げコストの特徴は異なり、介入群では所得保障費が高く、福祉・公的サービス費やデイケア費は、CRや就労支援が活発化する中盤までに多くのコストが費やされ、終盤には減少する傾向があった。対照群においては、福祉・公的サービス費が12ヵ月継続して一定の割合占めたほか、入院医療費が全体のコストを押し上げていた。費用対効果(CER)は、介入群における就労期間(日)のCERは2万972円、対照群のCERは5万3,024円であった。
結論
多職種アウトリーチチームによるケアマネジメントでは、支援プロセスの履行状況高い群、また、利用者の重症度が重い群を中心に、QOLを中心とした介入効果が見られた。認知機能リハビリテーションと援助付き雇用を組み合わせた就労支援では、全体として、認知機能の改善が見られ、また、就労についても成果をあげたが、個別就労支援の密度が、就労の有無や就労日数に大きく影響を与えていることが明らかになった。医療経済的には、両者とも、介入群は対照群とほぼ同等のコストの範囲で収まっており、QOLや就労日数といった指標についての費用対効果は良好と判断された。すなわち、二つの支援プログラムは、今後の普及においても実現可能性が高いと言える。
公開日・更新日
公開日
2015-05-20
更新日
-