文献情報
文献番号
201330009A
報告書区分
総括
研究課題名
水道システムにおける生物障害の実態把握とその低減対策に関する研究
課題番号
H24-健危-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
秋葉 道宏(国立保健医療科学院 )
研究分担者(所属機関)
- 藤本 尚志(東京農業大学応用生物科学部醸造科学科)
- 高梨 啓和(鹿児島大学工学部化学生命工学科)
- 柳橋 泰生(福岡女子大学国際文理学部環境科学科)
- 西村 修(東北大学大学院工学研究科)
- 岸田 直裕(国立保健医療科学院生活環境研究部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
5,083,000円
研究者交替、所属機関変更
-
研究報告書(概要版)
研究目的
水道システムに危害を及ぼす生物には、病原微生物のほか、飲料水の異臭味や着濁原因となる生物等(以下、障害生物という)が存在する。障害生物が水道システムに及ぼす危害は「生物障害」と呼ばれている。一部の浄水場では、生物障害の発生により薬剤・電力使用量が増加し、浄水処理コストが著しく増加することが明らかになっており、生物障害が水道システムに及ぼす影響は無視できない。しかしながら、健康に直接影響を及ぼす病原微生物等のリスクと比較して、生物障害のリスクに関しては、その実態把握やリスク低減に関する検討が遅れているのが現状である。そこで本研究では、水道システムにおける生物障害の実態把握とその低減対策手法の提案を目的とした。
研究方法
1)国内の浄水場における生物障害の発生および対策実態の把握
全国79の水道事業体および239の浄水場を対象としたアンケート調査によって、平成22年10月から24年9月までの2年間に発生した生物障害の発生および対策実態を明らかとした。
2)分子生物学的手法によるろ過漏出障害の原因生物の解明
相模湖を水源とする川崎市上下水道局長沢浄水場の各工程水を対象とし、分子生物学的手法を用いてピコプランクトンの生物相について解析した。
3)曝気循環によるアオコ・カビ臭の抑制
水道水源における障害生物の発生抑制手法として曝気循環設備に着目し、その効果を把握するため、アオコ・カビ臭による水質障害が継続して発生している9ダム貯水池にて実証実験を行った。
4)生物障害を起こさないための浄水処理技術の開発
急速撹拌強度および急速撹拌時間がピコ植物プランクトンのフロック形成に及ぼす影響を明らかにすることを目的として、実験的検討を行った。
5)生物障害に対応した持続的な水道システムの検討
昨年度実施したアンケート調査を集計し、浄水薬品の製造工場または代理店の情報を集約した。また、東日本大震災が発生した際に薬品確保に支障が生じたか否かを調査するとともに、災害時の薬品確保マニュアルの整備状況を調査した。
全国79の水道事業体および239の浄水場を対象としたアンケート調査によって、平成22年10月から24年9月までの2年間に発生した生物障害の発生および対策実態を明らかとした。
2)分子生物学的手法によるろ過漏出障害の原因生物の解明
相模湖を水源とする川崎市上下水道局長沢浄水場の各工程水を対象とし、分子生物学的手法を用いてピコプランクトンの生物相について解析した。
3)曝気循環によるアオコ・カビ臭の抑制
水道水源における障害生物の発生抑制手法として曝気循環設備に着目し、その効果を把握するため、アオコ・カビ臭による水質障害が継続して発生している9ダム貯水池にて実証実験を行った。
4)生物障害を起こさないための浄水処理技術の開発
急速撹拌強度および急速撹拌時間がピコ植物プランクトンのフロック形成に及ぼす影響を明らかにすることを目的として、実験的検討を行った。
5)生物障害に対応した持続的な水道システムの検討
昨年度実施したアンケート調査を集計し、浄水薬品の製造工場または代理店の情報を集約した。また、東日本大震災が発生した際に薬品確保に支障が生じたか否かを調査するとともに、災害時の薬品確保マニュアルの整備状況を調査した。
結果と考察
1)国内の浄水場における生物障害の発生および対策実態の把握
対象期間中に生物障害が発生したのは、対象79水道事業体のうち49事業体(62%)、239浄水場中102浄水場(43%)であった。
2)分子生物学的手法によるろ過漏出障害の原因生物の解明
ろ過水から2013年6月から9月にかけてオーストリアのモンド湖からの分離株であるSynechococcus sp. MH305に近縁なクローンが高い割合で検出され、主要なろ過漏出障害の原因生物である可能性が示唆された。
3)曝気循環によるアオコ・カビ臭の抑制
曝気循環設備増設後、藍藻綱は多くのダムで細胞密度が低下した。細胞内にガス胞を持つMicrocystisは、全貯水池で細胞密度が低下した。一方、カビ臭原因藻類であるAnabaena、PhormidiumとOscillatoriaについては、曝気循環設備を運転しても、抑制効果が見られるケースと見られないケースがあった。
4)生物障害を起こさないための浄水処理技術の開発
フロックの成長・破壊に及ぼす撹拌強度と撹拌時間の影響は、PSIとPACで同様の傾向であったが、基本的にPSIの形成するフロック径が大きいこと、一方で未凝集のSynechococcusが残存する傾向があることが明らかとなった。
5)生物障害に対応した持続的な水道システムの検討
薬品工場等を所在地の情報を基に計数した結果、151件の薬品工場を集約することができた。東日本大震災が発生した際の薬品確保に関しては、広範囲で浄水薬品の確保が問題となったことが分かった。災害時の薬品確保マニュアルの整備率が低いことも明らかとなった。
対象期間中に生物障害が発生したのは、対象79水道事業体のうち49事業体(62%)、239浄水場中102浄水場(43%)であった。
2)分子生物学的手法によるろ過漏出障害の原因生物の解明
ろ過水から2013年6月から9月にかけてオーストリアのモンド湖からの分離株であるSynechococcus sp. MH305に近縁なクローンが高い割合で検出され、主要なろ過漏出障害の原因生物である可能性が示唆された。
3)曝気循環によるアオコ・カビ臭の抑制
曝気循環設備増設後、藍藻綱は多くのダムで細胞密度が低下した。細胞内にガス胞を持つMicrocystisは、全貯水池で細胞密度が低下した。一方、カビ臭原因藻類であるAnabaena、PhormidiumとOscillatoriaについては、曝気循環設備を運転しても、抑制効果が見られるケースと見られないケースがあった。
4)生物障害を起こさないための浄水処理技術の開発
フロックの成長・破壊に及ぼす撹拌強度と撹拌時間の影響は、PSIとPACで同様の傾向であったが、基本的にPSIの形成するフロック径が大きいこと、一方で未凝集のSynechococcusが残存する傾向があることが明らかとなった。
5)生物障害に対応した持続的な水道システムの検討
薬品工場等を所在地の情報を基に計数した結果、151件の薬品工場を集約することができた。東日本大震災が発生した際の薬品確保に関しては、広範囲で浄水薬品の確保が問題となったことが分かった。災害時の薬品確保マニュアルの整備率が低いことも明らかとなった。
結論
1)多少の地域差はあるものの、全ての地域で生物障害が発生しており、国内広範囲の水道事業体が生物障害に悩まされていることが明らかとなった。
2)Synechococcus sp. MH305に近縁な微生物が主要なろ過漏出障害の原因である可能性が示唆された。
3)曝気循環設備の導入によって多くのケースでMicrocystisを抑制できることがわかった。一方、カビ臭原因藻類であるAnabaena等については、抑制効果が低いケースもあった。
4)ピコプランクトンの凝集処理性に関して、PACに比べてPSIはより少量で荷電中和を可能とするとともにフロック径の巨大化効果を有していることがわかったが、一方でフロックに取り込まれない粒子が、PACよりも多く存在する可能性も示唆された。
5)浄水薬品の製造工場または代理店の情報が集約された。また、東日本大震災時の浄水薬品の確保が広範囲で問題となったことが明らかとなった。さらに災害時の薬品確保マニュアル整備率が低いことから、その整備を推進する必要性が示された。
2)Synechococcus sp. MH305に近縁な微生物が主要なろ過漏出障害の原因である可能性が示唆された。
3)曝気循環設備の導入によって多くのケースでMicrocystisを抑制できることがわかった。一方、カビ臭原因藻類であるAnabaena等については、抑制効果が低いケースもあった。
4)ピコプランクトンの凝集処理性に関して、PACに比べてPSIはより少量で荷電中和を可能とするとともにフロック径の巨大化効果を有していることがわかったが、一方でフロックに取り込まれない粒子が、PACよりも多く存在する可能性も示唆された。
5)浄水薬品の製造工場または代理店の情報が集約された。また、東日本大震災時の浄水薬品の確保が広範囲で問題となったことが明らかとなった。さらに災害時の薬品確保マニュアル整備率が低いことから、その整備を推進する必要性が示された。
公開日・更新日
公開日
2018-06-12
更新日
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