水道の浄水処理および配水過程における微生物リスク評価を用いた水質管理手法に関する研究 

文献情報

文献番号
201330002A
報告書区分
総括
研究課題名
水道の浄水処理および配水過程における微生物リスク評価を用いた水質管理手法に関する研究 
課題番号
H23-健危-一般-006
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
島崎 大(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 伊藤 禎彦(京都大学大学院 工学研究科)
  • 大瀧 雅寛(お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科)
  • 春日 郁朗(東京大学大学院 工学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
5,225,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
水道水質の安全性および快適性のさらなる向上のため、水道の浄水処理および配水過程における病原微生物等による微生物リスクの所在を定量的に明らかとすること、また、当該の微生物リスクを低減する上での適切な制御方法および水質管理手法を提案することを目的とする。
研究方法
次世代型高度浄水処理プロセスを対象とした定量的微生物感染リスク評価、水道水における腸管出血性大腸菌を対象とした微生物リスク評価、T-RFLP法の定量的検出方法の不活化評価への適用、バイオフィルムの付着強度の違いによる分類とその不活化効果の検討、及び、配水過程における再増殖微生物の塩素耐性と増殖特性解析を行った。
結果と考察
カルキ臭低減を指向した次世代浄水処理プロセスにおける微生物リスク管理の高度化を目的として、オゾン/紫外線処理で生成する OHラジカルが大腸菌の不活化効果に寄与するかの検証実験を行い、OHラジカルは不活化に寄与していないと結論づけた。C.jejuni による年間感染確率を求めたところ、処理プロセスの総合除去・不活化能は中央値18.14 log10、年間感染確率は平均値2.07×10^-11/人/年と推定され、許容感染リスク10^-4/人/年を十分に下回ったため、低残留塩素下でも微生物学的に安全な水質を安定的に確保できると評価された。さらに年間感染確率に対して感度分析を行い、原水 E.coli 濃度が最も寄与率が大きく、処理プロセスにおいては凝集・沈殿処理が重要管理点であることを指摘した。
腸管出血性大腸菌O157:H7を対象として、従来型浄水処理プロセスにおける微生物リスク評価を行った。河川原水中にはE.coliO157:H7抗体に特異的に反応する細菌が平均48.75cells/ml存在し、凝集沈殿・砂ろ過では大腸菌の除去率が0.5log除去~4.12log除去という結果が得られ、原水濁度が高い時ほど除去率が高くなる傾向が見られた。また、塩素消毒による大腸菌の不活化能力を卓上実験で行い、Chickモデルによる外挿により、接触1時間での不活化能力を推定した。これらを基に障害調整生存年数DALYを指標とした微生物リスクを行った結果、濁度によらず微生物濃度が一定である場合には、原水濁度が低い、かつ、凝集処理が不十分であるほど微生物リスクが高くなった。
従属栄養細菌(Pseudomonas菌)の処理耐性等の評価を一度に行う手法として昨年度まで検討してきた分子生物学的手法であるT-RFLP法の定量的応用手法について、塩素消毒処理における不活化に適用できるか検討したところ、配水中の残留塩素濃度レベルの処理においては遺伝子損傷には至らないことから適用は難しいことが判明した。バイオフィルムを形成した従属栄養細菌(Pseudomonas菌)に対し、3段階の異なる流速による剥離強度によってバイオフィルムを分類し、各フィルム層への消毒処理の影響を比較したところ、バイオフィルム状の細菌の不活化効果は浮遊状態より低下することがわかった。0.1m/s以下の水流によってバイオフィルムの90%程度が剥離されるが、残存するバイオフィルムの層厚は深部まで塩素が浸透しにくい状況であり、全体としての塩素耐性が最も高かった。一方、0.4 m/s以上の水流では、99~99.9%程度が剥離され、残存バイオフィルムは薄くなるが、その場合は深部まで塩素が浸透する状況であり塩素耐性が低くなっていた。
アニュラーリアクターを用いて水道配水系を模擬し、残留塩素の有無が細菌再増殖に及ぼす影響を調査した。残留塩素が0.2mg/L程度保持されていても、クーポン上の全菌数は10^4 cells/cm^2程度まで増加することが明らかになった。一方、残留塩素を中和すると、クーポン上の全菌数は10^5 cells/cm^2程度まで急激に増加した。定常状態における収支から、バルク水及びクーポン上の比増殖速度を求めたところ、それぞれ14.2 (1/day)、0.14 (1/day)と、バルク水中の比増殖速度の方が大きかった。また、全菌の分布も、バルク水中に71%、クーポン上に29%とバルク水中の細菌再増殖の寄与の方が大きいことも推察された。クーポン上に形成された細菌群集構造を解析したところ、α-Proteobacteriaやβ-Proteobacteriaが主に優占していた。
結論
水道の浄水処理および配水過程において微生物リスクを低減する上での適切な水質指標として、原水における病原微生物の存在濃度、浄水処理における懸濁物質の物理的除去と消毒効果、配水過程における微生物学的清浄度を、水質管理手法として、浄水処理における懸濁物質の除去効率および微生物不活化効率の監視、配水過程における微生物学的清浄度の監視を挙げた。

公開日・更新日

公開日
2017-06-23
更新日
-

研究報告書(PDF)

公開日・更新日

公開日
2016-08-04
更新日
-

文献情報

文献番号
201330002B
報告書区分
総合
研究課題名
水道の浄水処理および配水過程における微生物リスク評価を用いた水質管理手法に関する研究 
課題番号
H23-健危-一般-006
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
島崎 大(国立保健医療科学院 生活環境研究部)
研究分担者(所属機関)
  • 国包 章一(静岡県立大学 環境科学研究所)
  • 伊藤 禎彦(京都大学大学院 工学研究科)
  • 大瀧 雅寛(お茶の水女子大学大学院 人間文化創成科学研究科)
  • 春日 郁朗(東京大学大学院 工学系研究科)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 健康安全・危機管理対策総合研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
水道水質の安全性および快適性のさらなる向上のため、水道の浄水処理および配水過程における病原微生物等による微生物リスクの所在を定量的に明らかとすること、また、当該の微生物リスクを低減する上での適切な制御方法および水質管理手法を提案することを目的とする。
研究方法
諸外国の水道等における微生物リスク評価手法の現状調査、浄水処理プロセスにおける微生物リスク評価の適用、不活化機構を考慮した消毒による微生物再増殖の制御方法の検討、配水過程における再増殖微生物の増殖特性解析、及び、微生物リスクを低減する上での適切な水質指標および水質管理手法の検討を行った。
結果と考察
オランダ国水道を対象として、定量的微生物リスク評価実務への導入に関する現状と課題について文献調査を中心に明らかにした。世界保健機構(WHO)も微生物リスク評価を活用した水質管理ならびに意思決定の手法を推進しており、当該の微生物リスク評価手法は、水道における微生物リスクの所在やリスク低減の方策を検討する上で大いに参考になると考えられた。
カルキ臭除去を主目的とした凝集沈殿、急速砂ろ過、促進酸化(O3/UV)、陽・陰イオン交換、低濃度塩素処理から構成される次世代型浄水処理プロセスは、低濃度の残留塩素下でも微生物学的に十分に安全である水質の水道水を供給できる可能性が示された。また、通常の浄水処理において、原水濁度によらず微生物濃度が同程度である場合には、原水濁度が低いほど凝集沈殿および砂ろ過における除去性能が低下するため、感染リスクが高まる傾向が示された。濁度や微粒子の除去能力に注視して浄水運転管理を行い、かつ、塩素消毒を徹底することで、微生物リスクの面から水道水の安全性を確保できることが確認された。
大腸菌E.coliに対する塩素処理では、致死的な損傷を与えるには、同じCT値(濃度と接触時間の積)でも高濃度での接触が有効であった。紫外線処理では、同じ大腸菌でも株が異なると、照射波長ごとの不活化効果や光回復の傾向が異なっており、病原微生物への不活化において留意すべきであることが示唆された。
バイオフィルムを形成した従属栄養細菌では、深部まで塩素が浸透しにくく不活化効果が低くなること、一方、所定以上の水流によってバイオフィルムの層厚は薄くなる場合に、深部まで塩素が浸透し不活化しやすい状況に至ると考えられた。実際の給水末端において滞留水中の残留塩素が消失した場合には、細菌の再増殖が短時間に容易に生じることが明らかになった。
アニュラーリアクターを用いた模擬水道配水系において、残留塩素が消失すると数時間程度の滞留がある場合には浮遊状態での細菌再増殖も顕著に生じる可能性があることが示唆された。また、給水末端で検出される細菌群は系統的に多様なだけではなく、水道水中での再増殖特性や塩素耐性も大きく異なっていた。このことは、水質条件によって生理特性の異なる細菌群が優占する可能性を示唆しており、単に細菌群をHPCとして一括して捉えるのではなく、個別の生理・生態に応じて対策を検討することが重要と考えられた。
水道の浄水処理および配水過程において微生物リスクを低減する上での適切な水質指標として、原水における病原微生物の存在濃度、浄水処理における懸濁物質の物理的除去と消毒効果、配水過程における微生物学的清浄度を、水質管理手法として、浄水処理における懸濁物質の除去効率および微生物不活化効率の監視、配水過程における微生物学的清浄度の監視を挙げた。
結論
わが国の水道では、塩素消毒と残留塩素の保持、および、水道水中に病原生物や指標生物等をいっさい含むものでないことが義務づけられており、これにより水道水の安全性は確実に担保され、現在に至るまで水系感染症の予防に大きな役割を果たしてきた。しかしながらこれらの遵守をもってしても、微生物リスクが「ゼロ」であると科学的に判断することはできない。本研究で得られた成果は、わが国において微生物リスク制御を軸とした水道の水質管理を推進するにあたり、将来的な水質指標や水質管理手法の立案などに際して、基礎的な知見として活用できるものと期待される。

公開日・更新日

公開日
2016-08-08
更新日
-

行政効果報告

文献番号
201330002C

成果

専門的・学術的観点からの成果
本研究において用いた定量的微生物リスク評価の方法論は、わが国の水道の浄水処理および配水過程において、今後、病原微生物等による微生物リスクの所在やリスク低減の方策を検討する上での大きな参考になると考えられる。さらに、世界保健機構(WHO)や欧米各国においても同手法の推進が検討されており、わが国の水道の実情に鑑みて実施された本研究の成果は、国際的にも意義深いものとして位置づけられる。
臨床的観点からの成果
本研究の成果は必ずしも臨床的観点と直接結びつくものではないものの、水道の浄水処理および配水過程における微生物リスクの存在は水系感染症の集団発生との関連が想定されることから、今後はこのような観点より諸外国の状況を含めた情報の収集と解析を行う必要があると考えられる。
ガイドライン等の開発
水道の浄水処理および配水過程における病原微生物等による微生物リスクの所在を定量的に明らかとすること、また、当該の微生物リスクを低減する上での適切な制御方法および水質管理手法を提案することを中心課題として得られた成果は、わが国において微生物リスク制御を軸とした水道の水質管理を推進するにあたり、将来的な水質指標や水質管理手法の立案などに際して、基礎的な知見として活用できるものと期待される。
その他行政的観点からの成果
本研究により得られた成果を、わが国の水道行政や水道事業における水質管理の実務に如何に適用していくか大きな課題である。具体的には、水道原水や浄水処理の各プロセスにおいて病原微生物や代替指標の濃度、物理的除去効果や消毒効果に関する水質項目を定期的に監視し、微生物リスク評価に供するデータを蓄積することで、個々の浄水場における微生物リスクの所在の把握や、リスク低減に係る重要管理点の抽出など、本研究における成果に基づいた、より高度な水質管理手法に展開することが可能となる。
その他のインパクト
本研究にて取り扱った水道の浄水処理および配水過程における微生物リスク評価は、世界保健機構(WHO) の担当部局も注目しており、2016年7月に定量的微生物リスク評価の普及啓発を目的とした実務者向けのツールである"Use of Quantitative Microbial Risk Assessment for Water Safety Management"が公開され、同年11月に改訂された。当該ツールの開発には、本研究代表者もピア・レビュアーとして携わった。

発表件数

原著論文(和文)
2件
原著論文(英文等)
7件
その他論文(和文)
2件
その他論文(英文等)
1件
学会発表(国内学会)
22件
学会発表(国際学会等)
14件
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
0件

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限ります。

原著論文1
Sadahiko Itoh, Bruce A. Gordon, Philip Callan et al.
Regulations and perspectives on disinfection by-products: importance of estimating overall toxicity
Journal of Water Supply: Research and Technology-Aqua , 60 (5) , 261-274  (2011)
原著論文2
Yumiko Ohkouchi, Bich Thuy Ly, Suguru Ishikawa et al.
A survey on levels and seasonal changes of assimilable organic carbon (AOC) and its precursors in drinking water
Environmental Technology , 32 (14) , 1605-1613  (2011)
原著論文3
伊藤禎彦
オランダの水道事情
空気調和・衛生工学 , 85 (9) , 9-16  (2011)
原著論文4
浅田安廣,大河内由美子,伊藤禎彦
疫学調査に基づいたCampylobacter jejuni感染における感染-発症割合の推定
水環境学会誌 , 35 (9) , 135-142  (2012)
原著論文5
Yumiko Ohkouchi, Satoshi Tajima, Masahiro Nomura et al.
Comparison of inflammatory responses in human cells caused by lipopolysaccharides from Escherichia coli and from indigenous bacteria in aquatic environment
Journal of Environmental Science and Health, Part A , 47 , 1966-1974  (2012)
原著論文6
大河内由美子,矢田祐次郎,文亮太 他
ナノろ過膜処理を適用した浄水の細菌再増殖特性の評価
用水と廃水 , 54 (12) , 39-46  (2012)
原著論文7
Yumiko Ohkouchi, Bich Thuy Ly, Suguru Ishikawa et al.
Determination of an acceptable assimilable organic carbon (AOC) level for biologically stability in water distribution systems with minimized chlorine residual
Environmental Monitoring and Assessment , 185 , 1427-1436  (2013)
原著論文8
Itoh, S.
Effect of the Ratio of Illness infection of Campylobacter on the Uncertainty of DALYs in Drinking Water
Journal of Water and Environment Technology , 11 (3) , 309-324  (2013)
原著論文9
岸田直裕,島崎 大,小坂浩司 他
銅を用いた水中の微生物の不活化技術
日本公衆衛生雑誌 , 60 (9) , 1-7  (2013)
原著論文10
Kazama S. and Otaki M.
Quantitative analysis of the inactivation mechanisms of Escherichia coli by a newly developed method using propidium monoazide
J. of Water and Environment Technology , 11 (6) , 507-517  (2013)
原著論文11
Ohkouchi, Y., Yata, Y., Bun, R. et al.
Chlorine Requirement for Biologically Stable Drinking Water After Nanofiltration
Water Science and Technology-Water Supply  (2014)
doi:10.2166/ws.2013.214
原著論文12
Zhou, L., Echigo, S., Ohkouchi, Y. et al.
Quantitative Microbial Risk Assessment of Drinking Water Treated with Advanced Water Treatment Process
J. Wat. Supply: Res. Technol.-Aqua  (2014)
doi:10.2166/aqua.2013.006

公開日・更新日

公開日
2015-05-21
更新日
2018-05-22

収支報告書

文献番号
201330002Z