文献情報
文献番号
201329003A
報告書区分
総括
研究課題名
前向きコーホート研究に基づく先天異常,免疫アレルギーおよび小児発達障害のリスク評価と環境化学物質に対する遺伝的感受性の解明
課題番号
H23-化学-一般-003
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
岸 玲子(北海道大学 環境健康科学研究教育センター)
研究分担者(所属機関)
- 水上 尚典(北海道大学大学院医学研究科)
- 遠藤 俊明(札幌医科大学医学部)
- 千石 一雄(旭川医科大学医学部)
- 野々村 克也(北海道大学大学院医学研究科)
- 有賀 正(北海道大学大学院医学研究科)
- 梶原 淳睦(福岡県保健環境研究所保健科学部)
- 松村 徹(いであ株式会社環境創造研究所)
- 松浦 英幸(北海道大学大学院農学研究院)
- 石塚 真由美(北海道大学大学院獣医学研究科)
- 池野 多美子(北海道大学環境健康科学研究教育センター)
- 荒木 敦子(北海道大学環境健康科学研究教育センター)
- 安住 薫(北海道大学環境健康科学研究教育センター)
- 佐々木 成子(北海道大学大学院医学研究科)
- 吉岡 英治(旭川医科大学医学部)
- 宮下 ちひろ(北海道大学環境健康科学研究教育センター)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 化学物質リスク研究
研究開始年度
平成23(2011)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
54,000,000円
研究者交替、所属機関変更
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研究報告書(概要版)
研究目的
2つの前向きコーホートで妊娠中の環境化学物質曝露が胎児期および小児期に与える健康影響をリスク評価し、遺伝的感受性や後天的遺伝変異を含めて障害を予防する方策を明らかにする。
研究方法
産科施設の協力により2つの前向きコーホートを設定した。地域ベースの37病院が参加している大規模コーホート研究では、医師が記載した新生児個票から先天異常と55種マーカー奇形を調べた。1産院514人の小規模コーホートの児については、母児のPCBs・ダイオキシン類や有機フッ素化合物(PFCs)、ビスフェノールA(BPA)など化学物質曝露評価を実施した。PFCs曝露による1歳児及び2歳児アレルギーへの影響を評価した。母体血中のPFOS濃度と脂肪酸など脂質系への影響を調べた。微量血液試料中BPAを高精度で測定する生体試料分析法を開発し、母児血で測定した。臍帯血中のBPA濃度による性ホルモンへの影響を調べた。妊婦の受動喫煙と多環芳香族炭化水素(PAHs)代謝関連遺伝子多型の組合せが出生時体格に及ぼす影響、内分泌撹乱物質曝露が臍帯血DNAメチル化に及ぼす影響について解析した。フタル酸エステル類および、BPAの胎児期曝露による児の先天異常発生への影響に関する研究動向を精査した。
結果と考察
(1)平成25年度までの登録妊婦20,929名のうち、新生児個票が得られた18,333名の妊娠転帰は、生産18,083名(98.74%)、死産102名(0.56%)、自然流産92名(0.50%)、人工流産37名(0.20%)であった。先天異常総数は358件(1.95%)、そのうちマーカー奇形243件であった。一般的な地域の傾向を反映していると考えられる。(2)PFCsの胎児期曝露と1歳時のアレルギー症状との関連は認められなかった。2歳時では、女児のみにおいて母体血中PFUnDA、PFTrDA濃度が高いほどアトピー性湿疹の発症リスクが量反応的に低下した。引き続き母体血中PFCs濃度と4歳のアレルギー疾患および感染症との関連を検討し、胎児期PFCs曝露が出生後の免疫アレルギーへ及ぼす影響について解明する予定である。(3)PFCs曝露の脂肪酸へ及ぼす影響は、母体血中PFOS濃度が高くなるほど、トリグリセリド・パルミチン酸・パルミトオレイン酸・オレイン酸・リノール酸・α–リノレン酸・アラキドン酸・DHAの濃度が有意に低下した。PFOA曝露についてはパルミチン酸との間にのみ関連を認め、PFOSに比べて脂肪酸への影響は小さかった。(4)血液中BPA濃度について、母児血59検体で濃度の相関を検討した結果、有意な関連はなかったが、母と同程度であったことから胎児への移行が示唆された。男児124名、女児154名のBPAおよび性ホルモン濃度を測定した結果、男児でBPA濃度が上昇すると総テストステロン濃度が上昇したが、女児では関連が認められなかった。今後は性ホルモンが関与する生後の健康影響との関連を検討する。(5)妊婦の受動喫煙は出生時体格に影響を及ぼし、特に男児の体格で強かった。PAHs代謝に関わる遺伝子多型では、CYP1A2、CYP1B1およびXRCC1遺伝子多型に、男児でより強い影響があった。(6)環境化学物質のDNAメチル化への影響は、MEHP曝露によるH19低メチル化が示された。今後は本研究で観察されたメチル化の変化が児のアウトカムに与える影響を検討する。(7)フタル酸エステル類およびBPA 曝露による先天異常への影響に関する研究動向は、肛門性器間距離とフタル酸エステル類曝露の報告が7編(うち疫学研究2編)、BPA曝露の報告は総説2編であった。今後、胎児期曝露による性差、コーホートやコーホート内症例対照の研究デザインでの検討が必要である。
結論
今後は、地域病院ベースの先天異常の発生率をより正確に把握するとともに、PCBs・ダイオキシン類、PFOS等のPFCsおよびBPA曝露の影響について先天異常、SGA、免疫アレルギー等について出生コーホート内症例対照研究の形で検討する。さらに、先天異常、発育など次世代影響の重要な交絡要因となる母体血中葉酸濃度や葉酸サプリメント摂取、母の能動および受動喫煙の有無、代謝酵素遺伝子多型やDNAメチル化などの先天的・後天的遺伝変異を考慮して、先天異常および胎児発育や乳幼児期の発達、免疫アレルギーなど環境化学物質による次世代影響について微量分析を確実に行うことにより、世界的にも初めてヒトの疫学研究で実証的に解明することが可能となる。
公開日・更新日
公開日
2018-05-22
更新日
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