血液・尿中バイオマーカーの非臨床・臨床適用に関する評価要件の確立研究

文献情報

文献番号
201328038A
報告書区分
総括
研究課題名
血液・尿中バイオマーカーの非臨床・臨床適用に関する評価要件の確立研究
課題番号
H24-医薬-指定-028
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
斎藤 嘉朗(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部)
研究分担者(所属機関)
  • 熊谷 雄治(北里大学医学部 附属臨床研究センター)
  • 鈴木 孝昌(国立医薬品食品衛生研究所 遺伝子細胞医薬部)
  • 前川 京子(国立医薬品食品衛生研究所 医薬安全科学部)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス総合研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成26(2014)年度
研究費
24,250,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
バイオマーカーの医薬品開発における利用を促進するための評価要件案作成の一環として、血液・尿中バイオマーカーに関し、特に問題となる測定用試料の採取要件、および非臨床動物で見出されたバイオマーカーのヒトへの外挿に関する評価要件案の作成を最終目標として、平成25年度は、ラットおよびヒト試料を用いた各種試料要件に関する検討、ヒト副作用試料・情報の収集、および外挿性に関する実践的検証・検討のための対象副作用の決定を行った。
研究方法
1)メタボローム解析
イオン性代謝物測定は、抽出後、液体クロマトグラフ-リニアイオントラップ型質量分析計及びガスクロマトグラフ-四重極リニアイオントラップ型質量分析計にて行った。疎水性代謝物測定は、抽出後、下層(有機層)及び上層(水層)を分取し、下層は、超高性能液体クロマトグラフ-飛行時間型質量分析計を用いて、リン脂質等一般脂質代謝物を網羅的に測定した。一方、酸化脂肪酸を含む上層は、さらに固相抽出を行い、超高速液体クロマトグラフ-三連四重極リニアイオントラップ型質量分析計を用いての多重反応モニタリング法にて測定した。

2) プロテオーム解析
尿から抽出した蛋白質をトリプシン消化し、精製後、液体クロマトグラフー四重極/FT型タンデム質量分析計での解析に供した。MS/MS測定から得られたフラグメントイオンパターンより、データベースを検索して蛋白質の同定を行った。
結果と考察
1) 内在性代謝物に関する解析
血液を主たる対象に検討した。イオン性代謝物に関しては、314種の代謝物(アミノ酸・糖・核酸・等)を定量した。また疎水性(脂質)代謝物に関しては、269種を定量した。試料背景間の差異に関しては、有意な性差を示す代謝物数が年齢差の場合より多く、特に老齢において性差を示す代謝物数は、測定可能代謝物数の約半数に及んだ。ラットにおける試料背景差を昨年度明らかにしたヒトにおける結果と比較したところ、イオン性代謝物では、測定可能代謝物の約1/3である100以上の代謝物がヒト・ラットのいずれかのみで検出され、共通して測定された代謝物数は187であった。また脂質代謝物では、ヒトとラットで共通して見いだされた代謝物は91種であった。一方で、ヒト・ラット間で共通して性差または年齢差が認められた代謝物は、少ないものであった。さらに、食餌条件・採血時間に関しては、食餌の有無により有意な差を示す代謝物数が最も多く、次いで採血時間による差異であり、絶食時間による差異はほとんど認められなかった。

2) 内在性蛋白質に関する解析
内在性蛋白質に関しては、尿を主たる対象とした。昨年度に遂行が遅れたラット尿の解析では、主成分分析で、老齢の雌が他の6群(若齢と老齢の雄、若齢の雌、若齢雄での絶食の有無と採血時間または絶食時間の差)とは異なる分布を示した。即ち、絶食の有無、採血時間、若齢での性差は蛋白質レベルに大きく影響しないと考えられた。一方ヒト尿に関して検討を行った結果、ラットに比べて各蛋白質レベルの個体差が大きく、明瞭な性差・年齢差は認められなかったが、少数は差異を示した。

3) ヒト副作用試料・情報の収集とバンク化
消化器内科を始めとする臨床各科の協力の下、北里大学にて薬物性肝障害患者の血液・尿試料(急性期と回復期)の収集を開始し、これまでに5例の試料を収集した。

4) 動物モデルおよびヒトバンク試料を用いた外挿性に関する実践的検証
ラット副作用モデルおよびヒト副作用患者試料を用いた外挿性に関する検討につき、現行マーカーの不十分さ等から、対象副作用として薬物性肝障害を選択した。
結論
血液中の内在性代謝物に関し、ラット等を対象とする非臨床試験においてバイオマーカーとして探索する際には、1)ヒトと同様に性差や年齢差等の試料背景間差が交絡因子となりうること、2)ヒトにおいて検出可能な代謝物を選択すること、3)ラットにおける性差・年齢差は、一部の分子種を除き、ヒトへ外挿する場合に考慮する必要性が低いこと、4)食餌の有無や採血時間を考慮し、可能な限り統一すべきこと、が示唆された。

尿中の内在性蛋白質については、1)ラットとヒトでは、同様に性差や年齢差等の試料背景間差が交絡因子となりうるが、影響される蛋白質は代謝物に比して少数であること、2)ヒトにおいて検出可能な蛋白質を選択すること、3)ラットにおける性差・年齢差は、ヒトへ外挿する場合に考慮する必要性が低いこと、4)食餌の有無や採血時間も考慮する必要性が小さいこと、が示唆された。

以上、非臨床試験から臨床試験へのバイオマーカーの外挿性に関する評価要件作成に直接利用可能な成果を得ることができた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-29
更新日
-

研究報告書(PDF)

収支報告書

文献番号
201328038Z