慢性疼痛患者に対する統合医療的セルフケアプログラムの構築

文献情報

文献番号
201325025A
報告書区分
総括
研究課題名
慢性疼痛患者に対する統合医療的セルフケアプログラムの構築
課題番号
H24-医療-一般-026
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 和憲(明治国際医療大学 鍼灸学部 鍼灸学科 臨床鍼灸学敎室)
研究分担者(所属機関)
  • 皆川 陽一(帝京平成大学)
  • 浅井 福太郎(九州看護福祉大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究費
2,462,000円
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性的な痛みを訴えている患者の割合はとても多く、国民の愁訴の上位も痛みに関連した疾患である。その一方で、同じような原因でも早期に回復することもあれば、慢性化することで社会復帰できず、線維筋痛症やCRPSなどの慢性疼痛に移行することもあり、社会問題となっている。そのため、慢性疼痛の治療では、治療者中心の医療ではなく、患者が自ら考え行動する患者中心の医療でなくてはならない。そこで、本研究では、慢性疼痛患者が自ら行える「統合医療的セルフケアプログラム」を構築することが目的であり、最終年度は、昨年度得られた予備データを元に、①慢性痛患者へのセルフケアに関するアンケート調査、②セルフケアに対するエビデンスの構築、③セルフケアの有用性に関する大規模臨床試験の3点について研究を行った。
研究方法
今回は慢性痛患者の中でも、明確な原因がない線維筋痛症患者を対象とし、以下の調査を実施した。
①アンケート調査に関しては、550名の線維筋痛症患者を対象に病気の状態や困っている症状、セルフケアの現状などについて調査し、解析を行った。②エビデンスの検証に関しては、「線維筋痛症、統合医療」をキーワードに国内外の文献を解析し、効果的なセルフケアとは何かについて検証した。③セルフケアの大規模臨床試験に関しては、痛みの有効と考えられるセルフケア(運動・考え方・食事・アロマセラピー・森林浴・ヨガ・ツボケア・笑いの計7つ)を総合的に学習する意味について、セルフケア指導群(月1回計4回のセルフケア指導)と対照群(教材のみ配布)の2群で無作為化比較試験を行った。
結果と考察
①のアンケート調査では、セルフケアを実施しているものは全体の75%と多いが、セルフケアの方法は自己流が多く、系統的にセルフケアを学べていないことがわかった。また、実際に実施しているセルフケアや希望のセルフケアと、エビデンスの高いセルフケアは異なることが明らかとなった。一方、②のエビデンスの検証に関しては、運動や痛みに対する患者教育が行われているものが殆どで、運動と教育のエビデンスが高いことが明らかとなった。さらに③のセルフケアの検証に関しては、総合的にセルフケアを学習することで、対照群と比較して痛みの強さ、精神的要素、QOLに変化が認められた。また各セルフケアの特徴としては、痛みの強さは運動と森林浴のみ、痛みの質は運動、考え方、ヨガ、ツボケア、笑いに、ストレスは全ての項目で改善が認められ、それぞれのセルフケアに特徴があった。
 今回、線維筋痛症患者を対象にセルフケアについて検討したところ、セルフケアの実施率も高く、またエビデンスもある程度確立されているものの、どのようなセルフケアが有効で、どのように実施すればよいかの方法論に関しては疑問を感じているものが多かった。しかしながら、エビデンスの高いセルフケアを正しく指導することができれば、痛みやQOLの改善が認められる可能性が示唆された。また、セルフケアは直接指導した方が、教材で学習するよりも効果的であることが明らかとなった。
結論
 国民の23%が慢性痛患者であることから、慢性痛患者の医療費の割合は高い。特に慢性痛患者には効果的な治療法がないことから、医療機関を点々とすることで、不必要な検査や治療が行われている事実がある。しかしながら、痛みの悪化は、単に組織が損傷したことに伴う感覚的側面だけではなく、不安やストレスなどの情動的な側面が多分に関与していることから、痛みから注意をそらし、不安やストレスを解消するための方法として、セルフケアをエビデンスに従い正しく指導していくことが必要不可欠である。その意味で、セルフケアのようなセルフコントロールを正しく身につけることが医療費を削減につながるものと思われる。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

文献情報

文献番号
201325025B
報告書区分
総合
研究課題名
慢性疼痛患者に対する統合医療的セルフケアプログラムの構築
課題番号
H24-医療-一般-026
研究年度
平成25(2013)年度
研究代表者(所属機関)
伊藤 和憲(明治国際医療大学 鍼灸学部 鍼灸学科 臨床鍼灸学敎室)
研究分担者(所属機関)
  • 皆川 陽一(帝京平成大学)
  • 浅井 福太郎(九州看護福祉大学)
研究区分
厚生労働科学研究費補助金 健康安全確保総合研究 地域医療基盤開発推進研究
研究開始年度
平成24(2012)年度
研究終了予定年度
平成25(2013)年度
研究者交替、所属機関変更
-

研究報告書(概要版)

研究目的
慢性的な痛みを訴えている患者の割合はとても多く、国民の愁訴の上位も痛みに関連した疾患である。その一方で、同じような原因でも早期に回復することもあれば、慢性化することで社会復帰できず、線維筋痛症やCRPSなどの慢性疼痛に移行することもあり、社会問題となっている。そのため、慢性疼痛の治療では、治療者中心の医療ではなく、患者が自ら考え行動する患者中心の医療でなくてはならない。そこで、本研究では、慢性疼痛患者が自ら行える「統合医療的セルフケアプログラム」を構築することが目的であり、①慢性痛患者へのセルフケアに関するアンケート調査、②セルフケアに対するエビデンスの構築、③セルフケアの有用性に関する大規模臨床試験の3点について研究を行った。
研究方法
本研究は、慢性痛患者の中でも明確な原因がない線維筋痛症患者を対象とし、以下の調査を実施した。①アンケート調査に関しては、過去のアンケート調査を参考に病気の状態や困っている症状、セルフケアの現状などについて作成した質問用紙で予備調査を行うことで改良を行った後に、550名の線維筋痛症患者を対象に調査を行った。②エビデンスの検証に関しては、「線維筋痛症、セルフケア」「線維筋痛症・統合医療」をキーワードに国内外の文献を解析し、効果的なセルフケアとは何かについて検証した。③セルフケアの臨床試験に関しては、文献解析の結果から効果的と思われるセルフケアを少人数の患者で実践し、安全性や効果を確認した後に、痛みに有効と考えられるセルフケア(運動・考え方・食事・アロマセラピー・森林浴・ヨガ・ツボケア・笑いの計7つを決定し、それらを総合的に学習する意味について、セルフケア指導群と対照群(教材学習)の2群で検証を行った。
結果と考察
①のアンケート調査では、セルフケアを実施しているものは全体の75%と多いが、セルフケアの方法は自己流が多く、系統的にセルフケアを学べていないことがわかった。また、実際に実施しているセルフケアや希望のセルフケアと、エビデンスの高いセルフケアは異なる可能性があった。一方、②のエビデンスの検証に関しては、運動や痛みに対する患者教育が行われているものが殆どで、運動と教育のエビデンスが高いことが明らかとなった。さらに③のセルフケアの検証に関しては、総合的にセルフケアを学習することで、対照群と比較して痛みの強さ、精神的要素、QOLに変化が認められた。また各セルフケアの特徴としては、痛みの強さは運動と森林浴のみ、痛みの質は運動、考え方、ヨガ、ツボケア、笑いに、ストレスは全ての項目で改善が認められ、それぞれのセルフケアに特徴があった。
結論
今回、線維筋痛症患者を対象にセルフケアについて検討したところ、セルフケアの実施率も高く、またエビデンスもある程度確立されているものの、どのようなセルフケアが有効で、どのように実施すればよいかの方法論に関しては疑問を感じているものが多かった。現在、国民の23%が慢性痛患者であることから、慢性痛患者の医療費の割合は高い。特に慢性痛患者には効果的な治療法がないことから、医療機関を転々とすることで、不必要な検査や治療が行われている事実がある。しかしながら、痛みの悪化は、単に組織が損傷したことに伴う感覚的側面だけではなく、不安やストレスなどの情動的な側面が多分に関与していることから、痛みから注意をそらし、不安やストレスを解消するセルフケアを指導していくことが必要不可欠となる。今後はこれらの結果を踏まえ、患者任せになっていたセルフケアをガイドライン化することで、患者が実施可能なセルフケアマニュアルを作成し、世間に広めていくことが急務であると考えられた。

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

研究報告書(PDF)

行政効果報告

文献番号
201325025C

成果

専門的・学術的観点からの成果
慢性痛患者のアンケートや国内外のセルフケアに関する文献をまとめることで、効果の高いセルフケアをまとめると共に、エビデンスの高いセルフケアの中から日本人向けの総合プログラム作成することで、その効果を検証した。また、上記の内容を患者向けに簡単にまとめることで、本邦で初めてとなるエビデンスに基づくセルフケアテキスト「慢性痛患者のためのセルフケアガイドブック」を作成した。
臨床的観点からの成果
慢性痛患者のアンケートや文献調査の結果から、日本人向けのセルフケアマニュアルを作成し、そのマニュアルを元にセルフケアを直接指導する指導群と資料のみを配付する対照群の2群に慢性痛患者186名を無作為に割り付け、無作為化比較試験(RCT)を実施した。その結果、セルフケアの指導を受けた指導群のほうが、対照群よりも痛みやQOLの改善が高かった。
ガイドライン等の開発
セルフケアの必要性や実施方法を患者さんに広く知って頂くために、研究成果をまとめた「慢性痛患者のためのセルフケアガイドブック」を作成した。また、ガイドライン化はできていないが、国内外の文献や患者ケートの結果から、日本人向けのガイドラインの基板となるセルフケアテキストを作成した。
その他行政的観点からの成果
本研究の成果を、大規模災害のPTSDや慢性痛の患者会など複数の集まりに提供することで、患者中心にセルフケアの普及に努めている。また、セルフケアの大切さを病気になってからではなく、早期から知ってもらうために、小学校の学校教育の一部に自分の身体を知ってもらう「セルフケア学習」の構築を地域の教育委員会と共に現在勧めている。
その他のインパクト
セルフケアの必要性や有用性などの正しい知識を国民の皆様に知って頂くために、研究成果を報告する公開シンポジウムを医療者向けに2回、患者向けに1回開催し、それぞれ150名程度の参加者がみられた。また、本研究の成果を子どの立ちの健康観に役立てるためのセルフケアプロジェクトやPTSDなどに苦しむ慢性痛患者さんの集まりに提供する支援活動なども合わせて行い、その中の幾つかの活動は新聞などでも紹介された。

発表件数

原著論文(和文)
8件
患者アンケートや文献解析、臨床試験の結果をそれぞれ報告した。
原著論文(英文等)
2件
慢性痛に対する臨床試験の結果を報告した。
その他論文(和文)
6件
セルフケアの有効性に関する紹介記事を作成した。
その他論文(英文等)
0件
学会発表(国内学会)
75件
患者アンケートや文献解析、臨床試験の結果をそれぞれ報告した。
学会発表(国際学会等)
9件
患者アンケートや文献解析、臨床試験の結果をそれぞれ報告した。
その他成果(特許の出願)
0件
その他成果(特許の取得)
0件
その他成果(施策への反映)
0件
その他成果(普及・啓発活動)
3件
患者と医療者向けにセルフケアの必要性に関する公開シンポジウムを開催した。

特許

主な原著論文20編(論文に厚生労働科学研究費の補助を受けたことが明記された論文に限る)

公開日・更新日

公開日
2015-06-09
更新日
-

収支報告書

文献番号
201325025Z